意識を失った相手が事故を覚えていなくても損害賠償請求できる?

執筆者:弁護士 鈴木啓太 (弁護士法人デイライト法律事務所 パートナー弁護士)

弁護士鈴木啓太イラスト意識を失った運転手との事故の場合、人身事故では自賠責保険の補償、物損事故では民法713条ただし書の過失が意識を失った運転手に認められれば、事故による損害賠償請求をすることができます。

 

 

人身事故の責任

運転中意識を失った運転手であっても、「自己のために自動車の運行の用に供するもの」(自賠法3条)として運行供用責任があります。

そして、自賠法4条には「自己のために自動車を運行の用に供する者の損害賠償の責任については、前条の規定によるほか、民法の規定による」とされています。

民法713条本文には、「精神上の障害により自己の行為の責任を弁識する能力を欠く状態にある間に他人に損害を加えた者は、その賠償の責任を負わない」とあり、この条文から運転中意識を失った運転手は交通事故の損害賠償責任を負わないことになりそうです。

六法全書のイメージ画像しかし、自賠法3条は被害者保護の目的から、被害者の立証責任を軽減した民法の特則です。このような趣旨から、自賠責法3条は713条の適用を否定して運行供用者責任が認めています(東京地判H25.3.7)。

したがって、人身事故に関しては自賠責保険からの保険金の支払いはあります。

 

 

物損事故の責任

ポイントを解説する男性のイメージイラスト物損事故は自賠法の適用がありません。したがって民法709条責任の有無が問題となります。

この責任の有無については民法713条ただし書「故意又は過失によって一時的にその状態を招いたときは、この限りでない」の規定から、この故意または過失が認められれば運転中意識を失った運転手は物損事故について損害賠償責任を負うことになります。

 

 

713条ただし書の過失が認められた事例

Ⅰ型糖尿病に罹患し意識障害に陥った事案

Ⅰ型糖尿病に罹患した者が事故時無自覚性低血糖に起因する意識障害に陥った事案において、頻繁に低血糖状態になることを知っており、低血糖状態に陥ることを回避するよう血糖値を管理するべき義務があるのに、事故前インシュリンを自己注射後、スポーツクラブで運動をし、低血糖を招きやすい状況であったにもかかわらず血糖値も測定せず、糖分補給もしないまま血糖値管理を怠ったとして713条ただし書の過失を認めました(東京地判H25。3.7)。

てんかんに罹患し発作によって意識を喪失した事案

運転手がてんかんに罹患し事故時発作によって意識を喪失した事案において、以前にも、てんかんの発作により意識を失って事故を起こしたことがあり、医師から抗てんかん薬の処方を受けていたにもかかわらず、事故前に指示通りの服薬をしていなかったことから、運転手に民法 713条ただし書の過失を認めました(宇都宮地判H25 4.24、横浜地判H23.10.18)。

 

裁判のイラストこのように、
・意識を喪失した運転手が疾患の影響により意識喪失の発作を起こすことを予見できたこと
・運転手が意識喪失の原因となる疾患について医師の診察、治療を受けており、服薬することにより、意識喪失の発作を抑えることができたにもかかわらず、それをしなかった場合

運転手の過失により運転手自身の意識障害を招いたといえ、713条ただし書の過失が認められ、物損事故の損害賠償責任を負います。

 

 

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