一括対応を拒否され、被害者請求をすることに。どうしたらいい?

執筆者:弁護士 鈴木啓太 (弁護士法人デイライト法律事務所 パートナー弁護士)

この記事でわかること

  • 一括対応の内容
  • 一括対応してもらえないケース
  • 一括対応してもらえない場合の対処法
  • 被害者請求の内容

 

被害者請求についての質問です。

加害者の任意保険会社から、任意保険での対応ができないので、被害者請求をしてくれと言われました。

どういうことでしょうか?

けがをした被害者の方が事故の過失が大きいと考えられる場合などの、交通事故の事故態様に争いがある場合、任意保険会社の判断により、被害者の治療費などの立替払いをしないことがあります。

このような一括対応を拒否された場合には、人身傷害保険で対応するか、加害者の自賠責保険に被害者が直接支払いを請求しなければなりません。

自賠責保険に被害者の方が請求することを被害者請求と一般的に呼んでいます。

 

保険会社による一括対応とは

一括対応とは、加害者の自動車保険会社が被害者の治療費などをその都度、直接病院に支払うなどして対応することです。

このような一括対応により、被害者はもちろん、加害者自身も自分のお金を出して、病院の治療費などを負担せずにすむようになり、保険会社間で自賠責保険の処理も行えるようになりました。

一括対応制度の導入により、保険会社が加害者に代わって示談代行を行うというサービスが可能となりました。

もっとも、一括対応制度はあくまで保険会社が始めたサービスにすぎず、法律で定められているわけではありません。

したがって、交通事故にあっても、相手方の保険会社が対応してくれないということはありうるのです。

このことをしっかり理解しておく必要があります。

 

 

任意保険会社が一括対応をしないケース

任意保険会社が一括払いによる対応をしない場合としては、以下のようなケースがあります。

①事故との因果関係が問題となる場合

整骨院や心療内科での治療、事故後通院期間が空いてしまった場合の再度の治療費などは、そもそも加害者に賠償義務があるのかどうかが争点になることが多く、保険会社としても一括対応により支払を拒否するケースがあります。

 

②被害者の過失割合が大きい場合

被害者の過失割合が大きい場合、保険会社が一括対応をすると賠償金が過払いになる可能性があります。

例えば、被害者に過失が50%あるケースで、治療費100万円、慰謝料70万円の場合、被害者が賠償してもらえるのは、(100万円+70万円)☓50%=85万円にとどまります。

仮に、保険会社が一括対応をして先に治療費100万円を支払っていた場合、15万円の過払いとなってしまうのです。

したがって、被害者の過失割合が大きい場合には、保険会社は一括対応を行わないことが多いです。

 

③免責事故の場合

任意保険会社と被保険者との間の関係で、保険が使用できない場合にも一括対応はしません。

例えば、任意保険の契約に運転者の年齢が21歳以上の場合のみに使用できる条件あり、18歳の者が運転者した場合は免責事故(保険会社は支払責任を負わない)となります。

 

④加害者側(被保険者)が保険会社による示談代行に同意しない場合

保険会社は、被保険者が示談代行を行う事に同意する場合には、被保険者に委任状(示談代行を保険会社に任せることの意思表示)を保険会社に提出します。

被保険者が任意保険会社に委任状を提出しない場合は、任意保険会社は、示談代行ができません。

例えば、加害者が自分は悪くないと考えている場合や、等級が下がるので保険を使用したくないといった場合が考えられます。

 

⑤自賠責保険無保険車の場合

加害者車両に自賠責保険の加入がない場合、保険会社が示談交渉をおこなっても、自賠責保険相当額につき、加害者が支払うことが確定的でないために、被害者に対しての未加入の自賠責部分についての補償金額の支払を任意保険会社として確約できないためです。

 

 

一括対応しない場合の対処法

自賠責保険に被害者請求

相手方の任意保険会社が一括対応しない場合の対処法としては自賠責保険に被害者請求する方法があります。

被害者請求とは、自賠責保険は加害者が契約している保険です。

通常の保険金は、保険加入者側の請求にもとづき、加害者側に対して保険金を支払いますが、自賠責保険は、加害者側の保険であるにもかかわらず、被害者である他人が請求することができます。

被害者を救済することを目的として、自賠法16条に「……保有者の損害賠償の責任が発生したときは、政令で定めるところにより、保険会社に対し、保険金の限度において、損害賠償額の支払をなすことができる。」と規定されているからです。

ただし、自賠責保険は限度額が決まっています。

傷害であれば、限度額は120万円(減額がある場合の限度額は96万円)であるために、治療費・休業損害について、公的保険(健康保険・労災保険)が使用できるのであれば、これらを使用しながら、自賠責保険の限度額を最大限活用することが必要となります。

 

被害者請求に必要な書類

被害者請求に当たって、必要となる書類は下図のとおりです。

図 被害者請求で必要な主な書類
必要書類 取得方法
保険金請求書類 被害者が作成
交通事故証明書 自動車安全運転センターから取得
事故状況発生報告書 被害者が作成
診断書、診療報酬明細書 受診した医療機関すべてから取得
調剤明細書 薬局で薬を処方してもらった場合
施術証明書 整骨院受診がある場合
休業損害証明書 勤務先で作成してもらう
保険金請求書類 被害者が作成
交通事故証明書 自動車安全運転センターから取得
事故状況発生報告書 被害者が作成
診断書、診療報酬明細書 受診した医療機関すべてから取得
調剤明細書 薬局で薬を処方してもらった場合

ここからもわかるとおり、被害者請求を被害者が行うのは書類の収集に非常に労力を要することになります。

したがって、普段から被害者請求を業務としている交通事故専門の弁護士に依頼して、手続を進めるべきでしょう。

 

 

その他の対処法

人身傷害保険を利用する

被害者が人身傷害保険に加入している場合には、人身傷害保険を利用して被害者の保険会社から治療費を支払ってもらうことができます。

人身傷害保険を使用しても保険等級は変動せず、保険料も変わらないので、人身傷害保険に加入している場合には利用すべきでしょう。

 

労災保険等の公的保険を利用する

業務中の事故である場合には、労災保険を利用して治療費の支払いを受けることができます。

業務中の交通事故の場合は会社に相談されるべきでしょう。

また、労災事故でない場合には、健康保険が使用できます。

 

加害者本人に直接請求する

人身傷害保険に加入しておらず、相手方の任意保険会社が一括対応しない場合でも、加害者本人と協議し、治療費をその都度、支払ってもらうことはできます。

もっとも、被害者に過失割合が大きい場合や、加害者にお金がない場合には、スムーズに支払いを受けることは難しいでしょう。

 

 

弁護士のアドバイスの必要性

任意保険会社が一括対応を拒否しているような場合には、弁護士に依頼するか、あるいは、相談されながら対応することをお勧めします。

例えば、労災事故(通勤災害も含みます。)について、労働基準監督署は、基本的に自賠責保険を優先して使用するよう指導をしてきます。

しかし、「申立書」(労災先行)にて、理由を明らかにして監督署の了承を得た上で、治療費・休業損害を労災保険より先行して支払を受けることもできるのです。

また、労災保険が適用できない場合、保険者(協会けんぽ・組合健保・国保等)に、第三者行為傷病届を提出することで、健康保険を利用することができます。

実務上、病院によっては、健康保険を使用した場合には、自賠責保険請求に際して必要となる「診断書・診療報酬明細書(自賠責保険請求書式)」を記載してくれないことがありますので、注意しなければいけません。

このように、任意保険会社が対応しない場合は、自賠責保険とともに公的保険と併用しながら請求することが必要ですが、その選択は専門的な知識が必要なため、弁護士のアドバイスを受けながら進めていかれたほうがいいでしょう。

 

 

まとめ

任意保険会社が一括対応をしてくれない場合には、以下の対処法を検討すべきでしょう。

  1. 自賠責保険に被害者請求する
  2. 人身傷害保険を利用する
  3. 労災保険等の公的保険を利用する
  4. 加害者本人に直接請求する

いずれを選択すべきか迷った場合には、交通事故専門の弁護士に相談されることをお勧めします。

 

 

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