加害者が複数いる交通事故は誰に対して損害賠償請求をすればよい?

執筆者:弁護士 木曽賢也 (弁護士法人デイライト法律事務所 パートナー弁護士)

被害者が複数誰に賠償請求すればいい

損害賠償請求についての質問です。

交通事故の加害者が複数いる交通事故の被害者になりました。

誰に対して交通事故の損害賠償請求をすればよいのですか?

加害者が複数いる場合、被害者としては、一人の加害者に損害のすべてを請求することができます。

原則として、加害者はそれぞれ他の加害者の不法行為への関与に関係なく、被害者に対して、因果関係のある損害の全額を賠償する責任を負うからです。

なお、過失割合は、全加害者の加害行為を一体ととらえ、加害者側の過失と被害者側の過失の割合を決定します。

具体的なケースについて、弁護士が解説します。

事故概要

自転車との事故被害者は、信号機のない交差点の付近の歩道を歩いていました。

その際、加害者Aと加害者Bがそれぞれ運転する自動車が交差点内で出会い頭で衝突し、その反動で加害者Aの自動車が被害者の方にぶつかることで、被害者が受傷したというケースを考えます。

 

 

共同不法行為責任

上記の交通事故のように、複数の当事者の故意、過失によって、事故を発生させること共同不法行為(民法719条1項)といいます。

引用元:民法|電子政府の窓口

ただし、加害者同士に損害の発生についての共謀や認識までは要求されていません。

共同不法行為が成立する場合、各加害者は被害者に対して他の加害者の不法行為への関与に関係なく、複数の加害行為と相当因果関係のある損害の全部について賠償責任を負います。

この関係を不真正連帯債務と法的には説明されています。

 

被害者から加害者への損害賠償請求

賠償金イメージ交通事故の被害者は、複数いるどの加害者に対しても事故と相当因果関係のある損害全部を請求できます

しかしながら、各加害者からそれぞれ被害損害総額を受け取れるわけではありません。

つまり、交通事故による被害者の損害額が300万円の場合、あくまで受け取ることができるのは300万円であって、A、B両方から300万円ずつ受け取ることができるわけではありません。

もっとも、損害の全額を片方の当事者のみに請求できることは、被害者にとって有利なこともあります。

例えば、Aが任意保険に加入していて、Bが無保険で資力がない場合、被害者はAにのみ損害の全額を請求するという手段も取ることができます。

なお、自賠責保険からの保険金について、保険金の上限は加害者の人数分になります。

例えば、加害者が1名の場合、自賠責保険の傷害保険金は限度額120万円ですが、加害者が2名いる場合は240万円になります。

このような特殊性を適切に把握しておく必要があります。

 

 

過失割合

事故の過失割合は、すべての加害者の加害行為を一つの行為と捉え、加害者側の過失と被害者側の過失の割合を決定します。

 

 

被害者への賠償後の加害者同士の関係

被害者へ損害賠償金を支払った加害者は、賠償金を支払っていない加害者に対して、賠償金を支払っていない加害者の負担分の金額を請求できます。

この関係を求償関係といいますが、求償の話は被害者への賠償を終えた後の話ですので、被害者の方には本来関係のない話になります。

被害者が加害者の1人に免除した場合

上記の事例で、偶然にも被害者とAは親しい友人であり、被害者とBは全く面識がなかった場合を想定します。

この場合、理論的には被害者からAに対して損害賠償請求権は発生します。

もっとも、被害者はAとの関係から、Aに対する損害賠償を免除することが考えられます。

Aに対して免除した場合、被害者のBに対する損害賠償請求権はどうなるのかという問題があります。

結論としては、原則的には、被害者がAに対して免除したとしても、被害者のBに対する損害賠償請求権には影響せず、被害者はB対して、事故の損害を請求できます。

ただし、例外的に、被害者がBの損害賠償請求権も含めて免除したといえるような事情(例えば、被害者とAの合意書のなかで、Bにも請求しないことがうかがえる文言が記載されているなど)があれば、Bにも免除の効果が及ぶ可能性があります。

 

 

まとめ

共同不法行為の場合には、加害者が一人の交通事故の場合と異なり、当事者の関係が複雑になり、加えてそれぞれに保険会社がいるため、非常に分かりづらくなります。

したがって、交通事故専門の弁護士にご相談することをお勧めします。

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