高次脳機能障害は障害者手帳をとれる?認定基準と申請方法

結論からお伝えすると、高次脳機能障害を負った場合、障害者手帳を取得できる可能性があります。
高次脳機能障害とは、交通事故による頭部外傷や、脳梗塞・くも膜下出血といった脳血管障害などによって脳が部分的に損傷を受けた結果、言語・記憶・注意・情緒といった認知機能が低下してしまう症状です。
障害者手帳には「精神障害者保健福祉手帳」、「身体障害者手帳」、「療育手帳」の3種類が存在しますが、高次脳機能障害による症状を理由に申請を行う場合、基本的には「精神障害者保健福祉手帳」の対象となることが一般的です。
精神障害者保健福祉手帳を申請する場合、その障害の程度に応じて「1級」から「3級」までの3段階の等級が設けられています。
この記事では、高次脳機能障害で取得できる障害者手帳の種類や障害者手帳の等級の認定基準、障害者手帳の申請手順などについて、弁護士がわかりやすく解説していきます。
目次
高次脳機能障害で障害者手帳は取得可能です
高次脳機能障害を負った場合、障害者手帳を取得することは十分に可能です。
高次脳機能障害を発症されたご本人やそのご家族は、「これから元の生活に戻れるのだろうか」、「仕事や家事は続けられるのか」といった、目に見えない障害に大きな不安を抱えられていることと思います。
高次脳機能障害は、交通事故による頭部外傷や、脳梗塞・くも膜下出血といった脳血管障害などによって脳が部分的に損傷を受けた結果、言語・記憶・注意・情緒といった認知機能が低下してしまう症状です。
高次脳機能障害の主な症状は、以下のとおりです。
- 新しいことが覚えられない(記憶障害)
- 物事に集中できない、ミスが増えた(注意障害)
- 計画を立てて物事を進められない(遂行機能障害)
- 感情のコントロールがきかず怒りっぽくなった(社会的行動障害)
このように、外見からは障害があることが分かりにくいため、周囲の理解を得られず一人で悩みを抱え込んでしまうケースが少なくありません。
しかし、これらの症状によって日常生活や仕事、社会生活に支障が出ているのであれば、公的な支援を受ける正当な権利があります。
障害者手帳を取得すれば、各種税金の減免、公共交通機関や公共施設の利用料割引、医療費の助成、さらには障害者雇用枠での就労など、経済的・社会的な負担を軽減するための様々なサポート(優遇措置)を受けられるようになります。
また、2025(令和7)年に成立・公布された「高次脳機能障害者支援法(令和8年4月1日施行)」に基づき、各都道府県に設置されている高次脳機能障害者支援センターなどを通じた専門的な相談・リハビリ支援体制もより強固なものとなっています。
これからの生活基盤を安定させ、安心して療養やリハビリに専念するためにも、まずは障害者手帳の取得を検討することが大切な一歩となります。
以下では、どのような手帳が対象になるのか、その基準や申請手続きについて詳しく解説していきます。
高次脳機能障害で取得できる障害者手帳の種類

障害者手帳には「精神障害者保健福祉手帳」、「身体障害者手帳」、「療育手帳」の3種類が存在しますが、高次脳機能障害を理由として申請する場合、どの手帳が対象になるかは症状の現れ方や発症した年齢によって異なります。
ここでは、高次脳機能障害において基本となる手帳の種類と、その他の手帳が対象となる具体的なケースについて詳しく解説します。
基本は「精神障害者保健福祉手帳」
高次脳機能障害による症状を理由に申請を行う場合、基本的には「精神障害者保健福祉手帳」の対象となります。
精神保健及び精神障害者福祉に関する法律に基づき、精神障害者保健福祉手帳は「何らかの精神疾患により、長期にわたって日常生活や社会生活への制約がある方」に交付されるものです。
高次脳機能障害によって生じる記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害(感情コントロールの低下など)は、脳の器質的変化(物理的な損傷)に伴う精神心理症状であるため、「器質性精神障害」という区分で認定対象となっています。
なお、この手帳を取得するためには、精神障害の原因となった疾患の「初診日」から、リハビリや治療を継続した状態で6か月以上経過していることが要件となります。
手帳を取得することで受けられる優遇措置や支援サービスなどのメリットとして、以下のようなものがあります。
| メリット | 具体的な内容 |
|---|---|
| 税金面の控除・減免 | 所得税や住民税、相続税の障害者控除が受けられるほか、等級によっては自動車税の軽減などが適用されます。 |
| 公共料金・交通機関の割引 | NHK受信料の減免のほか、鉄道、バス、タクシーなどの運賃割引、携帯電話料金や上下水道料金の割引が受けられます(割引内容や対象等級は自治体や運行会社により異なります)。 |
| 障害者雇用枠での就労 | 障害者雇用促進法に基づく「障害者雇用枠」での求人に応募できるようになります。企業に対して障害特性への配慮(勤務時間の調整や業務負担の軽減など)を求める合理的配慮の義務化が進んでいるため、無理のない形での社会復帰・就労継続が目指しやすくなります。 |
| 公共・文化施設の優待 | 国公立の博物館や美術館、テーマパークなどの入場料割引が受けられます。 |
身体障害者手帳や療育手帳が対象となるケース
身体障害者福祉法に定められた身体上の障害がある場合に交付される手帳です。
高次脳機能障害によって、「音声・言語・そしゃく機能の障害」や「肢体不自由」といった症状が残った場合は身体障害者手帳の申請対象となります。
- 音声・言語・そしゃく機能の障害:高次脳機能障害の主要症状の一つである「失語症」の症状が重く、意思疎通に著しい困難がある場合です。
- 肢体不自由:脳の損傷によって、手足の麻痺(片麻痺や四肢麻痺)や、運動機能の障害が残った場合。
身体症状と精神症状の双方が認められる場合は、「精神障害者保健福祉手帳」と「身体障害者手帳」の両方を取得することも可能です。
両方を持つことで、医療費助成や補装具(車椅子や装具など)の購入費助成、住宅改装費の給付など、双方の制度からより手厚いサポートを受けることができます。
療育手帳が対象となるケース
療育手帳(東京都では「愛の手帳」など、自治体により名称が異なります)は、主に18歳未満の「発達期」に受傷・発症し、知的障害があると判定された場合に対象となる手帳です。
先天的な要因だけでなく、18歳未満の時期に交通事故や脳血管障害によって脳を損傷し、その後に知的な遅れや日常生活の支障が認められた(後天的要因による)場合にも交付されるケースがあります。
児童相談所や知的障害者更生相談所といった専門の指定機関で判定を受け、基準を満たす(知能指数がおおむね70〜75以下など)ことで取得が可能です。
このように、高次脳機能障害は多角的な症状が現れやすいため、ご自身の状態がどの手帳の基準に該当するのかを正確に見極めることが重要です。
障害者手帳の等級は1級〜3級の3段階
高次脳機能障害で精神障害者保健福祉手帳を申請する場合、その障害の程度に応じて「1級」から「3級」までの3段階の等級が設けられています。
実際に「何級に認定されるか」については、脳の機能障害そのものの重さだけでなく、記憶障害や注意障害、社会的行動障害といった症状によって、「日常生活や社会生活にどれほどの支障をきたしているか」という活動制限の度合いに基づき、総合的に判定されます。
以下では、それぞれの等級における認定基準と、高次脳機能障害に特有な具体的な症状の目安を解説します。
1級の認定基準|日常生活が著しく困難
精神障害者保健福祉手帳の「1級」は、高度の認知障害や高度の人格変化、その他の精神神経症状が著しく現れており、「人の援助を受けなければ、ほとんど自分の用を弁ずることができない程度」を指します。
いわゆる常時介助や見守りを必要とするレベルです。
高次脳機能障害における具体的な症状の例としては、以下のようなケースが該当します。
| 1級 | 障害の状態 |
|---|---|
| 精神障害であって、日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度のもの | ・調和のとれた適切な食事摂取ができない。
|
このように、1級は医療機関や自宅内という限られた空間であっても、他者の常時援助なしには安全かつ健康的な生活を維持できない非常に重篤な状態です。
2級の認定基準|日常生活に著しい制限がある
「2級」は、1級のように必ずしも常時の援助が必要なわけではないものの、認知障害や人格変化によって「必ずしも他人の助けを借りる必要はないが、日常生活は困難」な状態を指します。
家族などの部分的なサポートや助言があれば簡単な自活は可能ですが、社会復帰や就労に関しては著しい制限がかかります。
高次脳機能障害における具体的な症状の例としては、以下のようなケースが該当します。
| 2級 | 障害の状態 |
|---|---|
| 精神障害であって、日常生活が著しい制限を受けるか、又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のもの |
|
2級の場合、周囲の手助けを受けながら自宅で過ごすことはできても、一般社会の中で自立して生計を立てたり、他者と円滑に共同生活を送ったりすることには強いブレーキがかかってしまいます。
3級の認定基準|日常生活や社会生活に制限がある
「3級」は、日常生活の基本的な動作は概ね自力でこなせるものの、認知障害などの影響によって「精神障害の状態が、日常生活又は社会生活に制限を受けるか、日常生活・社会生活に制限を加えることを必要とする」状態を指します。
一見すると障害がないように見える「ひきこもりがちではない」状態であっても、新しい環境への適応や、複雑な作業を求められる場面で障害が顕在化します。
高次脳機能障害における具体的な症状の例としては、以下のようなケースが該当します。
| 3級 | 障害の状態 |
|---|---|
| 精神障害であって、日常生活若しくは社会生活が制限を受けるか、又は日常生活若しくは社会生活に制限を加えることを必要とする程度のもの |
|
3級は、身の回りの自立度は高いものの、持続的な労働や社会参加を維持しようとした際に、高次脳機能障害特有の生きづらさや制約がはっきりと現れるレベルといえます。
高次脳機能障害による障害者手帳の申請手順
申請に必要な書類と流れ
高次脳機能障害で障害者手帳(主に精神障害者保健福祉手帳)を申請する際は、正しい手順を踏み、必要な書類を漏れなく揃えることが大切です。
精神障害者保健福祉手帳を取得するための基本的なプロセスは、以下のフロー図のとおりです。

①市区町村の窓口で申請書・診断書用紙をもらう
お住まいの市区町村の障害福祉担当窓口へ赴き、手帳申請用の「障害者手帳交付申請書」と、医師に書いてもらうための「診断書(精神障害者保健福祉手帳用)の白紙用紙」を事前に入手します。
②指定医に診断書を作成してもらう
入手した診断書用紙を、高次脳機能障害の治療やリハビリを行っている主治医(リハビリテーション科、神経内科、脳神経外科、精神科など)に提出し、記入を依頼します。
診断書には、傷病名(器質性精神障害など)のほか、治療経過や現在の病態、日常生活の能力障害の状態などが細かく記載されます。
③窓口へ提出
医師から完成した診断書を受け取ったら、必要書類をすべて揃えて、再び市区町村の窓口へ提出します。
申請に必要なものは、①障害者手帳交付申請書、②医師の診断書、③本人の顔写真(縦4cm×横3cm、脱帽・正面・背景なし)、④マイナンバー(個人番号)が確認できる書類および本人確認書類(運転免許証やパスポートなど)の4点です。
なお、障害者手帳(精神障害者保健福祉手帳)の申請に用いる診断書は、その障害の原因となった病気や怪我で初めて医師の診察を受けた「初診日」から6か月以上が経過した日以降に作成されたものでなければなりません。
また、医師が診断書を作成した日から3か月以内に自治体窓口へ提出して申請を行わなければ、期限切れで無効になってしまうため、診断書を受け取ったら速やかに手続きを行いましょう。
各自治体による制度の違いに注意
障害者手帳の障害等級や基本的な認定基準は厚生労働省がガイドラインを定めているため全国で共通ですが、実務における具体的な運用や窓口の名称、そして手帳の交付によって受けられる支援制度の「中身」は、お住まいの自治体(都道府県や市区町村)によって異なる部分が少なくありません。
まず、申請窓口の名称ひとつをとっても、「障害福祉課」、「福祉事務所」、「高齢障害支援課」など自治体ごとに様々です。
また、療育手帳においては、国の法律ではなく厚生省通知を根拠とした制度であるため、東京都の「愛の手帳」のように独自の名称や判定基準を設けている自治体もあります。
さらに、手帳取得後に利用できる割引や助成といった支援サービス(福祉施策)には、自治体独自の予算で実施されているものが多数含まれています。
手続きをスムーズに進め、お住まいの地域でどのような独自の恩恵を受けられるかを正確に把握するためにも、診断書を医師に依頼する前の段階で、一度地元の市区町村の障害福祉窓口に相談し、詳細を確認しておくことがおすすめです。
交通事故や労災が原因なら弁護士へご相談を!
「障害者手帳」と「後遺障害等級」は全く別の制度
結論からお伝えすると、「障害者手帳」と「後遺障害等級」は根拠となる法律も目的も全く異なる別の制度です。
まず、障害者手帳制度の目的は「福祉サービスの提供」です。
自治体や公共機関から税金の減免、交通機関の割引、医療費の助成といった日々の生活支援を受けるための公的証明書であり、これを持っているからといって事故の相手方から賠償金が支払われるわけではありません。
次に、後遺障害等級制度の目的は「適切な賠償金(慰謝料等)の獲得」です。
自賠責保険や労災保険の基準に基づき、事故によって労働能力をどの程度喪失したかを客観的に評価する制度です。
この等級が認定されて初めて、後遺障害慰謝料や、将来得られるはずだった利益の補償である「逸失利益」を相手方に請求できるようになります。
したがって、「障害者手帳を取得できても、適切な後遺障害等級の認定を受けていなければ、十分な賠償金や補償金が受け取れるとは限らない」という点には注意が必要です。
弁護士に依頼するメリット
高次脳機能障害における後遺障害等級の認定手続きを弁護士に依頼することには、賠償額の面でも精神的な負担軽減の面でも、非常に大きなメリットがあります。
まず、高次脳機能障害は「外見からは分かりにくい」という特性があるため、後遺障害の審査において非常に厳格かつ専門的な立証が求められます。
主治医が作成する診断書だけでなく、事故前後の性格の変化を客観的に示す「日常生活報告書」や、知能検査や記憶検査などの追加検査が必要となる場合もあります。
交通事故や労災に注力する弁護士であれば、どのような検査や書類が認定に有利に働くかを熟知しているため、漏れのない「被害者請求(被害者側主導での申請手続き)」を行うことができます。
さらに、弁護士が介入することで、獲得できる賠償金が大幅に増額する可能性が高まります。
保険会社が提示してくる賠償額は、自社の支払いを抑えるための「任意保険会社基準」であることがほとんどですが、弁護士は過去の裁判例に基づいた最も高額な「弁護士基準(裁判所基準)」で交渉を行うからです。
高次脳機能障害と障害者手帳についてのQ&A

高次脳機能障害は障害者何級?
高次脳機能障害による障害者手帳(精神障害者保健福祉手帳)の等級は、障害の程度や日常生活・社会生活における制限の度合いに応じて、1級から3級までの3段階に分類されます。| 等級 | 障害の状態 | 日常生活の支障の程度 |
|---|---|---|
| 1級 | 精神障害であって、日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度のもの |
|
| 2級 | 精神障害であって、日常生活が著しい制限を受けるか、又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のもの |
|
| 3級 | 精神障害であって、日常生活若しくは社会生活が制限を受けるか、又は日常生活若しくは社会生活に制限を加えることを必要とする程度のもの |
|

障害者手帳で毎月いくらもらえる?
障害者手帳の交付を受けることだけで、毎月、お金の支給を受けることができるわけではありません。もっとも、障害者手帳の交付を受けるほどの障害状態にある方は、公的年金制度に基づく「障害年金」や、国・自治体が支給する「各種福祉手当」を別途申請することで、定期的な現金給付(所得補償)を受けられる可能性があります。
例えば、手帳の等級とおおむね連動する「障害基礎年金」が認められた場合、日常生活に著しい制限がある2級であれば年額約83万円(月額換算で約7万円)が支給されます。
さらに障害が重く、全面的な常時介護を要する1級相当と認められれば、年額約104万円(月額換算で約8万6000円)を受給することが可能です。
これらに加え、生計を維持している18歳到達年度末までの子どもがいる場合には「子の加算」が上乗せされます。
また、初診日に会社員などとして厚生年金に加入していた方であれば「障害厚生年金」が対象となり、上記の基礎年金に加えて現役時代の給与に応じた報酬比例部分がさらに上乗せされるため、月々の受給額はより高額になります。
比較的軽度な3級相当であっても、障害厚生年金であれば最低保証額(年額約63万円)が設定された年金を受け取ることができます。
さらに、低所得の障害基礎年金受給者には「障害年金生活者支援給付金」として月額数千円が上乗せされる仕組みや、常時特別な介護を必要とする在宅の重度障害者向けの「特別障害者手当」などの福祉手当も存在します。
まとめ
高次脳機能障害を抱えながらの生活や社会復帰には、公的なサポートが欠かせません。
まずは精神障害者保健福祉手帳などの取得を検討し、各種税金の減免や福祉サービスを活用して生活の負担を軽減させることが大切です。
ただし、手帳の等級はあくまで福祉サービス利用の指標であり、交通事故や労災における「後遺障害等級」とは全く異なる制度である点に注意が必要です。
外見からは伝わりにくい高次脳機能障害で適正な賠償金や補償金を獲得するためには、医療機関と連携した厳格な法的立証が求められます。
書類の準備や保険会社との交渉に不安がある方は、まずは交通事故や労災問題に強い弁護士に相談されることをおすすめします。
当法律事務所の人身障害部は、交通事故や労災に精通した弁護士のみで構成されており、被害に遭われた方を強力にサポートしています。
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