解決事例
更新日2021年1月21日

交通事故での保険会社の治療費打ち切り【弁護士が対処法を事例解説】

執筆者:弁護士 鈴木啓太 (弁護士法人デイライト法律事務所 パートナー弁護士)

治療が必要であるにも関わらず、保険会社から治療費を打ち切られることがあります。

ここでは、保険会社が治療中に治療費の対応を打ち切った事例をもとに、治療打ち切りの対処法について解説します。


※実際の事例を題材としておりますが、事件の特定ができないようにイニシャル及び内容を編集しております。
なお、あくまで参考例であり、事案によって解決内容は異なります。

ご相談者Aさん

受傷部位頚椎捻挫,腰椎捻挫,右肩関節捻挫
等級14級9号
ご依頼後取得した金額
375万円

内訳
損害項目 保険会社提示額 弁護士介入後
休業損害 事故から5か月間 事故から10か月間
傷害慰謝料 5か月分の慰謝料 95万円
後遺障害慰謝料 なし 110万円(裁判基準)
後遺障害逸失利益 115万円(裁判基準 5年間 5%)
結果 375万円(休業損害含む)

事例を踏まえた解説

事故の状況

Aさんは、福岡県古賀市にて通勤途中に赤信号停止中に後続車に追突される玉突き事故にあいました。

4台の玉突き事故でAさんは前から2番目でした。

車の修理費は 55万円に上りました。

治療の経過

Aさんは、事故の当日救急病院を受診し、頚椎捻挫、腰椎捻挫、右肩関節捻挫と診断されました。

Aさんはその後、仕事の都合もあって、整骨院で施術を受けていましたが、右肩痛が改善しないため、月に1回は最初に行った病院を受診し、右肩に注射を打っていました。

MRI検査の結果、腱板損傷はなかったものの、関節唇に高信号反応があり、炎症が見られるとの診断でした。

 

治療の打ち切り

その後も、整骨院への通院を中心に治療を継続していましたが、交通事故から5か月経過したところで、保険会社から治療の打ち切りにあいました。

今回のケースでは、ここからの対応が非常に大切な事案となりました。

打ち切り後も自費で通院Aさんは打ち切りにあい、治療を継続しようか迷ったものの、一番の優先順位は、体を治すことであると考え、治療費の打ち切り後も自費で治療を継続しました。

打ち切り後は健康保険を使用して整形外科と月に1回最初の病院での治療を継続しました。

Aさんのこの決断が、後の後遺障害の認定や賠償金の金額に大きく影響することになります。

 

後遺障害の認定

弁護士は、Aさんが自費で治療していた期間の診断書、診療報酬明細書の作成を医師にお願いするとともに、後遺障害診断書の作成を弁護士より文書でお願いして、資料一式まとめて後遺障害の申請をしました。

その結果、打ち切り後の治療も考慮され、右肩痛につき、14級9号の認定を受けることができました。

仮に、Aさんが、保険会社から治療費を打ち切られた時点で治療をやめていれば、後遺障害には認定されていなかった可能性が高いです。

 

示談交渉

示談交渉において、弁護士は、打ち切り後の自費での治療費はもちろん、慰謝料や交通費、休業損害も自費で治療していた期間分を請求しました。

その結果、保険会社も弁護士の主張を認め、打ち切り後の治療費等も補償する方向で交渉が進みました。

最終的には、傷害慰謝料については譲歩したものの、自費で通院していた治療費の支払いを認めてもらい、その他の損害項目についても裁判基準で解決することができました。

 

 

補足

Aさんのケースでは、打ち切り後も自費で治療を継続していたことが何よりも重要でした。

仮に、治療を止めていれば、5か月間の慰謝料や休業損害だけで終わっていました。

おそらく後遺障害の認定を受けることもできなかったでしょう。

今回のケースでは、事故から5ヶ月で治療費の対応を打ち切られた時の「自費で治療を継続する」というAさんの決断が最終的な賠償内容に大きく影響した事案といえるでしょう。

保険会社が治療費打ち切りの連絡をしてきたら

打ち切りについて安易に承諾しない

症状固定までは、保険会社には治療費を支払う義務があります。

したがって、体が痛む、などの自覚症状があれば、安易に打ち切りに承諾すべきではありません

また、治療の必要性について迷ったら、「主治医に相談します。」などと伝えるとよいでしょう。

 

示談書にサインしない

治療費対応の打ち切り後、一定期間、治療を続けていると、保険会社は示談金を提示してくることがあります。

事故の内容や怪我の程度にもよりますが、示談金は高額に感じることがあります。

交通事故被害に遭われた方は、会社を休むなどして経済的に困窮されている方もいるため、目の前に高額な示談金を提示されると、焦ってサインをしてしまうことがあります。

しかし、保険会社が提示してくる示談金は、いわゆる裁判基準(裁判となった場合に受け取ることができる賠償金の基準)を下回っていることがほとんどです。

また、一度、示談書にサインをしてしまうと、後から、撤回したいと思っても、撤回はほぼ不可能です。

したがって、適切な賠償金を得るために、焦って示談書にサインをしないようにしましょう。

 

専門家に相談する

事故後の治療は、身体的な被害を回復するために重要です。

十分治療していないと、後々、体に痛みが生じるかもしれません。

また、治療期間によって、慰謝料等の賠償額が増減するため、適切な賠償金を得るためにも治療は重要となります。

したがって、保険会社から治療の打ち切りを提示されたら、弁護士に相談されてアドバイスを受けることをお勧めします。

 

 


なぜ交通事故は弁護士選びが重要なのか

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