解決事例
更新日2021年10月22日

脳脊髄液減少症のブラッドパッチ治療が認められ、補償も得られた事例

執筆者:弁護士 木曽賢也 (弁護士法人デイライト法律事務所 パートナー弁護士)


※実際の事例を題材としておりますが、事件の特定ができないようにイニシャル及び内容を編集しております。
なお、あくまで参考例であり、事案によって解決内容は異なります。

ご相談者Lさん

受傷部位頭部・首(脳脊髄液減少症、頚椎捻挫)、腰(腰椎捻挫)、右肘(右肘打撲)、右膝(右膝打撲)、右足(右足挫傷)
等級併合14級
ご依頼後取得した金額
775万円(治療費、自賠責保険を含む)

内訳
損害項目 弁護士によるサポート結果
治療費 約300万円(2回のブラッドパッチ治療を含む)
傷害慰謝料 120万円
休業損害 165万円
後遺障害慰謝料 110万円(14級 裁判基準)
後遺障害逸失利益 80万円(賃金センサス×5%×5年)
結果 775万円(治療費、自賠責保険を含む)

 

MRI検査で、脳脊髄液減少症の疑いの診断を受けたLさん

事故解説Lさんは、友達の運転する車の助手席に乗っていました。

Lさんの乗っていた車が福岡の片側2車線の国道の右車線を走っていたところ、真横から突然路肩に止まっていた自動車がUターンしようとしたため、衝突する交通事故にあいました。

Lさんが乗っていた助手席側からの突然の衝撃に大きく体を揺さぶられ、交通事故のその日に救急車で搬送されて、レントゲンやCT検査などを受けて、頚椎捻挫、腰椎捻挫、右肘打撲、右膝の打撲、右足挫傷といった診断を受けました。

Lさんはしばらく全身が痛くて起き上がるのすら困難で、病院に通院する以外はずっと家で寝ているという生活をしばらく送っていました。

その後、まもなく頭痛やめまいを強く感じるようになり、特に立ったときにものすごい頭痛に襲われるということが出てきました。

Lさんは交通事故から2か月ほどは整形外科のみにかかっていましたが、あまりに頭痛がひどいので、整形外科の医師に相談して、脳神経外科を受診することになりました。

脳神経外科で頭部のMRI検査を受けたところ、髄液の漏れを指摘され、脳脊髄液減少症の疑いが強いと診断されました。

こうした状況で、Lさんはこれからの治療のことや交通事故により生活が一変してしまったことから補償の問題も含めて、交通事故の専門家に相談した方がよいと考え、弁護士に相談することにしました。

Lさんに乗っていた車には弁護士費用特約が付いていなかったものの、Lさんのご主人が普段使用していた車の保険に弁護士費用特約が付いている状態でした。

 

弁護士がブラッドパッチ治療を勧め、治療費用も補償

弁護士は、Lさんから交通事故の状況とけがの状況のお話をうかがい、起きたときに頭痛がひどくなるというLさんのお話と髄液漏れの可能性が画像所見で指摘されているということから、Lさんには脳脊髄液減少症の症状が出ているのではないかと判断し、弁護士に依頼する必要性が高い案件であることを説明し、すぐにご依頼をしていただきました。

そして、Lさんには保険会社とのやりとりを弁護士に任せてもらい、治療に専念できる状況を作りました。

また、弁護士からLさんに脳脊髄液減少症の治療法として有効なブラッドパッチ治療を受けることを勧め、保険会社にもその費用を支払うように交渉をしました。

Lさんのケースでは、幸い交通事故から2か月ほどで脳脊髄液減少症の疑いを指摘され、画像所見でも髄液漏れの可能性を専門の医師が診断していたこともあり、保険会社がブラッドパッチ治療の治療費も支払ってくれるということでまとまりました。

その後、1度目のブラッドパッチ治療のためにLさんは入院し、退院後も月に1回程度の割合でMRI検査を受けて、髄液漏れが止まっているかどうかの検査を行いました。

それと合わせて、首の痛みや腰の痛みなどの整形外科の領域の治療についても、通院していた整形外科で電気治療などを継続していました。

経過観察をして様子を見ていましたが、完全には髄液漏れが止まっていないと主治医から指摘されたため、2度目のブラッドパッチ治療を行う必要性が出てきました。

この時点で、交通事故から半年ほどが経過していたため、保険会社としても治療の終了時期の話を弁護士にしてきましたが、現時点でも症状が継続していること、主治医が2回目のブラッドパッチ治療を検討している状態であるため、症状固定には至っておらず引き続き治療費を支払ってもらう必要があることを説明し、交渉をしました。

その上で、交通事故から7か月経過した段階で2回目のブラッドパッチ治療を実施することが決定し、保険会社にもその旨を伝え、1回目と同様に治療費の支払を保険会社に行ってもらうことで弁護士が調整しました。

2回目のブラッドパッチ治療の後も経過観察を継続しました。

主治医からは、ブラッドパッチ治療から1年間ほどは経過を見る必要があると説明があっていたため、弁護士はその旨を保険会社に伝え、経過観察の期間中の治療費は補償するように要求しました。

保険会社としても、主治医がそのような意見をもっていることを弁護士から確認していたため、むやみに打ち切りをしたりせず、交通事故から1年半以上経過するまで整形外科の治療も含め、治療費の支払いは継続してくれました。

最終的に、頭痛は少し収まったものの、完全にはなくなりませんでした。

そして、首の痛みや腰の痛み、右肘や右足の痛みも残っていたので、後遺障害の申請を行うことにしました。

そこで、弁護士は、整形外科と脳神経外科のそれぞれの医師に診断書を作成してもらうべく、医師に宛てた手紙を準備し、後遺障害診断書を2通作成してもらいました。

そして、髄液漏れがわかる検査画像も病院から取得して、後遺障害の被害者請求を弁護士がLさんに代わって行いました。

その結果、Lさんの頭痛の症状、首の痛み、腰の痛み、右肘や右足の痛みについて、それぞれ14級9号の後遺障害が認められるとして、併合14級の認定が出されました。

この結果を踏まえて、弁護士は、最終的な示談交渉を保険会社と開始しました。

Lさんは事故から1年半以上の治療で生活環境が一変していたため、治療中の生活状況を保険会社に細かく伝えるべく、弁護士がサポートをしてLさんに陳述書を作成してもらい、それを保険会社に提出しました。

そうした資料を提出したこともあって、保険会社は交渉の当初から弁護士の請求をベースにした賠償案の提案をしてくれましたが、「少しでも賠償金が得られるようにしたい」というLさんの強い思いを踏まえて、当初の保険会社の請求からさらに30万円ほどの増額を引き出すことに成功しました。

結果、Lさんは2回のブラッドパッチ治療の費用を含めて、治療費として総額約300万円の負担を保険会社にしてもらい、休業損害も主婦の休業損害で160万円、後遺障害慰謝料も裁判基準満額の110万円、後遺症の逸失利益も5年間、5%という裁判基準ラインの補償を示談で得ることができました。

トータルの補償額は治療費も含めると775万円に上ります。

 

解説

主婦の休業損害について

休業損害とは、交通事故による傷害のため、休業又は不十分な就労を余儀なくされ、減収した場合、その減収額を損害とするものです。

そうすると、現実収入のない専業主婦は、休業損害がそもそも生じていないとも考えられます。

しかし、裁判例上、専業主婦でも女性の平均賃金(賃金センサス)をもとに、休業損害を認めています。

 

脳脊髄液減少症について

交通事故で強い衝撃を受けた場合、Lさんのように脳にある髄液が漏れだすということがあります。

こうした傷病を脳脊髄液減少症といいます。

脳脊髄液が減少すると、脳内の髄圧が低下し、頭痛やめまいなどの症状が出ますが、この病気の特徴として、起きているときに頭痛が顕著に出るという起立性頭痛が挙げられます。

治療法としては、主にブラットパッチ療法(髄液漏出部分に自家血を注入して漏出を止めるもの)が用いられています。

この脳脊髄液減少症は、交通事故では非常に難しい傷病の一つとされており、保険会社と治療費の支払いを含めて、因果関係が問題となるケースが多く、高い専門性が要求されます。

因果関係とは、簡単に申し上げると、交通事故によって脳脊髄液減少症が発症したかどうかという問題です。

実際、現在の交通事故をめぐる裁判では、この脳脊髄液減少症の治療費を認めないという裁判例が多く出されています。

今回の事例でも、仮にむやみに裁判をしてしまえば、保険会社の弁護士が脳脊髄液減少症の補償を正面から争ってくる可能性の高い事案でした。

そこで、早期の段階で、主治医の意見を適切に保険会社に伝えて、補償を任意に認めてもらうことが重要でした。

その役割をLさんから依頼を受けた弁護士が担い、適切なタイミングで保険会社とのやりとりを行っていた結果、2度のブラッドパッチ治療の治療費を補償してもらえ、主婦の休業損害もしっかりと獲得することができました。

今回のLさんのように、事案によっては裁判を提起することが適切ではない事案もあります。

事案の内容に即した検討をし、適切な方針を立てることが重要だと考えております。

 

 


なぜ交通事故は弁護士選びが重要なのか

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