
遺産相続で揉めやすいのは、マイナスの財産がある、家族構成が複雑である、家族関係が良くない、介護の負担の偏りがある、被相続人による生前贈与に偏りがある、被相続人が認知症である、等のケースです。
遺産相続は「財産が多いほど揉める」と思われがちですが、実際には一般家庭でも多くのトラブルが発生しています。
本記事では、相続トラブルに精通した弁護士の視点から、揉めるケースと揉めないケースの決定的な違いを解説するとともに、トラブルを未然に防ぐための具体策や対処法をわかりやすく紹介します。
遺産相続で揉める人と揉めない人の差とは?
遺産相続で揉める人と揉めない人の差は、①遺産の内容、②家族構成・家族関係、③遺言書の有無・内容という3つの観点から分析することができます。
以下ではそれぞれについて具体的に解説します。
遺産の内容
遺産の分割しやすさ
遺産が分けやすいかどうかは、トラブルの発生可能性に大きく影響します。
例えば、預貯金や上場株式・投資信託などの有価証券は金額で細かく分けられるため、比較的トラブルになりにくい傾向があります。
これに対して、不動産や非上場株式などは簡単に分割できません。
このようなケースで遺産を公平に分割するためには、「長男が1億円相当の土地を取得する代わりに、長女や次男に対して3000万円ずつを支払う」などの調整が必要になることがあります。
その際には、
- 不動産等(分割しにくい財産)をいくらと評価するべきか
- 誰が不動産等を取得するか
- 不動産等を売却して現金化するか(現物分割・換価分割・代償分割)
などの点で意見が対立し、紛争に発展することがあります。
特に、遺産の中心が自宅(実家)である場合には、それだけで揉めるリスクが高まります。
各相続人の自宅に対する思い入れに差がある場合、売却をめぐって意見が対立しやすい傾向にあります。
また、被相続人(亡くなって遺産を残す人です。)と自宅で同居していた相続人がいる場合には、その相続人が自宅に住み続けられるかどうかをめぐって意見が対立するケースがあります。
マイナスの財産の有無
被相続人に借金や連帯保証債務(連帯保証人として借金を返済する義務)等のマイナスの財産がある場合、原則としてこれらのマイナスの財産は相続人に引き継がれます。
このようなケースでは、相続人が相続放棄(プラスの財産・マイナスの財産を問わず一切の財産を引き継がないことをいいます。)をするかどうか、相続人の誰が返済するか、等をめぐってトラブルになることがあります。
特に、財産状況が不透明な場合には相続人間で不信感が生じやすく、紛争に発展するリスクが高まります。
被相続人の事業承継の有無
被相続人が会社経営者や個人事業主であった場合、その事業をどのように引き継ぐのか(事業承継)をめぐってトラブルが発生するリスクが高まります。
より具体的には、
- 誰が事業を引き継ぐか
- 後継者にどのように株式や事業用資産を集中させるか
- 後継者と他の相続人との公平性をどう確保するか
といった点をめぐって意見が対立するケースが見られます。
事業承継が絡む場合には、通常の相続よりも高度な調整が必要となります。
家族構成・家族関係
家族構成の複雑さ
家族構成が複雑な場合には、相続で揉めやすくなります。
特に、以下のようなケースでは利害関係が対立してトラブルになりやすい傾向にあります。
- 再婚家庭(前妻・後妻の子がいる)
- 認知された婚外子がいる
- 被相続人の内縁の配偶者がいる
家族関係が良好か
家族(相続人)同士の関係性も紛争に発展する可能性があります。
日頃の関係性が疎遠であったり険悪であったりする場合には、遺産相続の場面でも感情的な対立が生じ、揉めやすい傾向にあります。
一方で、関係性が良好でスムーズなコミュニケーションが取れている場合には、多少の不公平があっても話し合いで解決できるケースが多く見られます。
介護の負担の偏り
特定の相続人だけが被相続人の介護を担っていた場合、その負担を遺産分割においてどのように評価すべきか、という点をめぐって対立が生まれます。
民法は、被相続人の財産の維持や増加に貢献した相続人について、他の相続人よりもより多くの財産を取得させることを認めています(「寄与分(きよぶん)」の制度)。
特定の相続人が被相続人の介護をしていた場合、その負担を寄与分として認めるべきかどうか、認めるとしてどのように金額的に評価するべきか、といった点が問題となります。
介護を担当していた相続人は「外部の介護サービスを使わなくて済んだのだから、自分は多くもらって当然」という意識が生まれやすくなります。
他方で、他の相続人が介護の実情を十分に理解していない場合、「それほどの負担はしていないから、遺産を多く与える必要はない」などと反発してトラブルになる可能性があります。
被相続人による援助・生前贈与の偏り
被相続人の生前に特定の相続人だけが学費や住宅購入資金などの援助を受けていた場合、他の相続人からは「すでに多くもらっているのだから、その分遺産の取り分を少なくすべきではないか」という不満が生じます。
婚姻・養子縁組のため、または生活の資本として被相続人から生前贈与を受けていた場合、その生前贈与は「特別受益(とくべつじゅえき)」にあたります。
「特別受益」にあたる財産は、遺産分割の際に相続財産に足し戻され(持ち戻し)、特別受益を受けた相続人の遺産の取り分から差し引かれることになります。
特定の相続人のみが高額な金銭的援助・生前贈与を受けていた場合、それが特別受益にあたるのかどうかをめぐって意見が対立し、紛争に発展することがあります。
特定の相続人が遺産を管理しているか
被相続人の生前から特定の相続人が財産管理を任されていた場合、「財産を使い込んでいたのではないか」、「遺産の内容を正確に開示しているのか」といった不信感が生まれてトラブルになりやすい傾向にあります。
実際に遺産の使い込みが発覚し、その返還をめぐって紛争になる(不当利得返還請求)ケースもあります。
被相続人が認知症
被相続人が生前に認知症を発症していた場合には、被相続人による生前贈与や遺言書の有効性をめぐって相続人間で意見が対立し、トラブルになりやすい傾向にあります。
生前贈与や遺言書の作成を有効に行うためには、遺言書の内容やこれによってもたらされる結果を理解し判断する能力(意思能力)が必要とされます。
被相続人が認知症を発症している場合、「意思能力」の有無が問題となります。
その結果、遺言書の有効性をめぐって争いになるケースが多く見られます。
また、意思能力が問題となる場面では法的な判断が必要となり、紛争が複雑化しやすいという特徴があります。
遺言書の有無・内容
遺言書の有無
遺言書が作成されているかどうかは、遺産相続トラブルの発生に大きく影響します。
遺言書がない場合は、相続人全員で遺産分割協議を行う必要があるため、その際に相続人間で意見が対立して紛争に発展するケースが少なくありません。
これに対して、適切に作成された遺言書がある場合は、基本的に遺言書の内容に従って相続手続きが行われるため、トラブルのリスクが低減します。
遺言内容の公平性
遺言書が作成されていても内容が不公平な場合には、遺留分(いりゅうぶん)の請求や遺言書の有効・無効をめぐって揉めることがあります。
被相続人の配偶者・子ども・両親・祖父母等が相続人となる場合、これらの相続人には法律によって遺産の最低限の取り分(これを「遺留分」といいます。)が保障されています。
遺留分は遺言書によっても奪うことはできず、遺留分を侵害された相続人は、侵害の原因となっている遺贈を受けた人に対して金銭の支払いを請求することができます(遺留分侵害額請求)。
また、不公平な遺言書に納得できない相続人が「この遺言書は無効である」と主張してトラブルになるケースもあります。
遺産相続で揉めないためのポイント

適切な遺言書を作成する
すでに解説したように、遺言書が作成されているかどうかはトラブルの発生確率に大きく影響します。
遺言書を作成しておくことは遺産相続トラブルの防止に有効です。
ただし、遺言書は法律で定められた要件(方式)を満たす必要があり、これを満たしていないと無効になるリスクがあります。
遺言書の無効リスクを避けるためには、公証人によって作成され、無効になりにくい公正証書遺言の作成を検討することをおすすめします。
また、遺言書の内容によってはかえって相続人間の争いを招く原因となる可能性があります。
特に、特定の相続人の取り分を少なくする場合や、反対に特定の相続人の取り分を多く指定する場合には、特にトラブルになりやすい傾向にあります。
このような場合には、なぜそのように分けるのかという理由をできるだけ具体的に記載しておくことが大切です。
生前に家族間で話し合いをしておく
遺言書だけでは真意を伝えられず、トラブル防止の対策として不十分な場合もあります。
残された家族にとって遺言書に書かれている内容が唐突に感じられ、「本当に遺言者本人の意思で書かれたものなのか」といった不信感が生まれるケースや、一部の相続人が「遺言書の内容に納得できない」などと主張して対立が発生するケースも多く見られます。
可能であれば生前のうちに、家族に対して以下のような事項を説明しておくことが大切です。
- 遺産の内容
- 遺産の分け方に関する方針
- 特定の相続人への配慮がある場合はその理由
完全な合意を得ることができない場合でも、「事前に聞いていた」という事実があるだけで紛争リスクは大きく低減されます。
財産の把握・整理をしておく
相続開始後のトラブルを防ぐためには、遺産の全体像を把握し、財産目録等の形で整理しておくことが大切です。
遺産の全体像がわからない場合には、「一部の相続人が遺産を隠しているのではないか」などといった不信感が生まれ、揉める原因となることがあります。
また、借金等のマイナスの財産がある場合には、相続人が相続開始後にその内容を把握できていないことにより、その返済や相続放棄等をめぐってトラブルになることがあります。
そのため、相続開始前に遺産の全体像を把握し、整理しておくことが大切です。
不動産対策をしておく
トラブルにつながりやすい財産があれば、事前に対策を講じておくことも重要です。
特に、不動産は分割しにくく評価額にも幅があるため、相続トラブルの原因になりやすい財産です。
具体的な対策としては、例えば以下のようなものが考えられます。
- 生前に売却して現金化しておく
- 分け方の方針を家族に説明しておく
- 特定の相続人に取得させる場合は代わりに代償金を用意する
- 生前に不動産の客観的な評価を専門家に依頼する
特別受益・寄与分に関する証拠を残しておく
特別受益や寄与分に関する証拠を残しておくことで、トラブルの回避に役立つ場合があります。
特定の相続人に対する生前贈与や金銭的援助を行った場合には、贈与契約書を作成し、あるいは送金記録を残すなどの対策が考えられます。
これによって、特別受益を受けた相続人がその事実を隠し、または他の相続人が「本当はもっと多くの援助を受けていたのではないか」などと疑心暗鬼になるなどの事態を防ぐことができます。
また、相続人が被相続人の介護を負担する場合には、自分で介護日誌などの記録を残しておく(あるいは被相続人の側でどのような介護を受けたかの記録を残しておく)ことで、他の相続人の納得感を醸成しやすくなります。
相続対策を専門家に相談する
遺産相続トラブルの発生を防止するためには、相続対策を弁護士等の専門家に相談することが有効です。
専門家に相談することで、有効かつ適切な内容の遺言書の作成方法や将来の紛争リスクの洗い出し、リスクへの対処方法などについて、具体的なアドバイスをもらうことができます。
また、万一トラブルが発生した場合にもスムーズに対応してもらうことができます。
相続は高度の専門知識と経験が必要とされる分野であるため、専門家の中でも相続に強い弁護士に相談するのがおすすめです。
遺産相続で揉めてしまったときの対処法
まずは話し合いによる解決を目指す
遺産相続で揉めてしまった場合、まずは相続人同士での話し合いによる解決を目指すことが大切です。
裁判所の調停や審判・訴訟などを通じて解決することもできますが、この場合には解決までに半年から数年程度の時間を要するのが一般的です。
そのため、まずは話し合いによる解決を試みることをおすすめします。
話し合いの際には、できるだけ感情的にならず冷静な対応を心がけることが重要です。
感情的な対立が深まると、話し合いによる解決が難しくなってしまいます。
冷静な話し合いをするためのポイントとしては、次のような点をあげることができます。
- 法律上の論点に絞って話し合いをする
- 事実ベースでの話し合いをする
- 第三者を交えて話し合いをする
相続人だけでの話し合いが難しい場合には、相続に詳しい弁護士に交渉の代理や話し合いの進行を依頼することも検討しましょう。
専門家が当事者の間に入ることによって、解決が早まるケースもあります。
家庭裁判所の調停等を利用する
当事者間の話し合いで解決できない場合には、家庭裁判所の調停等を利用して解決することができます。
調停は、中立の立場である調停委員が当事者の間に入って論点を整理し、当事者同士の話し合い・合意による解決を目指す手続きです。
多くの相続トラブルは調停の成立によって解決に至りますが、調停が成立しない場合は、さらに裁判所の審判や訴訟によって解決することになります。
審判や訴訟では、当事者の主張や提出された証拠をもとに裁判所が最終的な判断を下します。
相続に強い弁護士に相談する
紛争が深刻化している場合や当事者間での解決が困難な場合には、早期に相続に強い弁護士に相談することを強くおすすめします。
特に相続問題は高度の専門性が必要とされる分野であり、対応を誤ると不利な結果を招くおそれがあります。
早期のうちに相続に強い弁護士に相談することによって、紛争を避けるための対策について適切なアドバイスが受けられることが期待できます。
また、交渉や調停・審判・訴訟の代理を依頼することもできます。
相続で揉めているケースの弁護士費用
弁護士費用は一律に定められているものではなく、各弁護士が自由に決めることができます。
ほとんどのケースにおいて、弁護士費用は①法律相談料(正式な依頼前の相談の際に支払う費用)、②着手金(正式な依頼をする際に前金として支払う費用)、③報酬金(案件終了時に成果に応じて支払う費用)によって構成されています。
相続トラブルにおけるそれぞれの費用相場は次のとおりです。
| 法律相談料 | 1時間1万円程度 (初回無料も多い) |
|---|---|
| 着手金 | 20万円〜50万円程度 |
| 報酬金 | 得られた利益の5%〜20%程度 (得られた金額によって異なる) |
得られた利益の5%〜20%程度(得られた金額によって異なる)
※事案の難易度や遺産額等によって金額は上下します。
※事前に見積もりをもらって金額を確認するようにしましょう。
遺産相続のトラブルについてのQ&A
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遺産相続で揉める家族の特徴は?
まず挙げられるのは、家族間のコミュニケーションが不足していることです。
特に、家族関係が複雑なケースや家族仲が良好でないケースでは、相続人それぞれが自分に有利な解釈を主張して対立が生じやすい傾向にあります。
次に、家族間の不公平感が強いことがあげられます。
例えば、特定の相続人だけが可愛がられていた、生前贈与や金銭的援助を受けていた、特定の相続人だけが介護を負担していた、などの事情がある場合には、相続の場面でも紛争の火種になります。
さらに、相続人以外の者(相続人の配偶者など)が口出しをするケースでは、話し合いが複雑化し対立が激化する傾向にあります。
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遺産相続で一番揉める金額はいくらですか?
最高裁判所の発表したデータによると、令和6年中に全国の裁判所が扱った遺産分割事件で請求が認められ、あるいは調停が成立した事件全体において、その77%が遺産額5000万円以下のケースでした。
このデータからは、いわゆる資産家の家庭よりも一般家庭の方が揉めやすい傾向にあることがわかります。
まとめ
- 遺産相続で揉めるケースと揉めないケースの違いは、大きく①遺産の内容、②家族構成・家族関係、③遺言書の有無・内容という3つの観点から分析することができます。
- 遺産の内容の観点では、遺産が分割しやすいか、マイナスの財産があるか、被相続人の事業承継があるか、等の差が影響します。
- 家族構成・家族関係の観点では、家族構成が複雑か(再婚家庭・婚外子・内縁の配偶者など)、家族同士の関係が良好か、等の差が影響します。
- また、遺言書が作成されているかどうか、遺言書の内容が公平か、といった点も影響を及ぼします。
- 遺産相続のトラブルを未然に防ぐためには生前の対策が非常に重要です。
どのような対策が効果的かは具体的なケースによって異なるため、相続に強い弁護士に相談するのがおすすめです。
当事務所では、相続に強い弁護士で構成する相続対策専門チームを設置しており、相続対策や万が一トラブルが発生した場合の解決に至るまで、安心してご相談いただくことができます。
そのほかにも、遺言書の作成、相続放棄、遺産分割協議、相続登記、相続税の申告・節税対策など、相続全般に関するご相談に対応していますので、ぜひお気軽にご相談ください。
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