交通事故で全損した自動車の修理代はどのくらいもらえますか?

執筆者:弁護士 鈴木啓太 (弁護士法人デイライト法律事務所 パートナー弁護士)


自動車事故で車が壊れた場合、どのくらいの修理代を請求できるかは、車の損傷具合によって異なってきます。

 

自動車が事故で壊れたら

電卓のイラスト

自動車が交通事故で損傷したとき、その車両が修理可能なときは、原則として必要かつ相当な修理費を請求することができます。

また、修理が未了の場合でも、損害は既に発生しているとして修理費相当額を損害として認めた裁判例もあります(大阪地判平成10年2月24日)。

逆に、修理が必要ではない部分にまで修理を加えた場合や、事故前から壊れていた部分を併せて修理した場合等は、修理費として実費全額は認められないこともあります。

 

経済的全損とは

経済的全損とは、修理費が、事故時の車両価格及び買替諸費用の合計を上回る場合をいいます。

経済的全損の場合は、損害として買替差額が認められます(最判昭和49年4月15日)。

 

買替差額とは

説明する男性のイラスト買替差額は、事故直前の車両時価額+買替諸費用-事故車両の下取り価額のことです。

したがって、経済的全損と判断された場合、新車に買替えることはできますが、買替差額分しか損害として認められないため、新車取得金額全額は賠償されません。

新車の引き渡しの20分後に追突された事例でも、「既に、一般の車両と同様に公道において通常の運転利用に供されている状態であった以上、新車の買替えを肯認すべき特段の事情とまでいえ」ないとして新車の買換えを否定しました(東京地裁平成12年3月29日)。

 

 

車両時価額判断基準

本のイラスト

車両の時価は、原則として同一の車種・年式・型、同程度の使用状態・走行距離等の自動車を中古車市場において取得するのに必要な価額で算出されます。

この価額を判断するのに実務で用いられているのは、「オートガイド自動車価格月報」(レットブック)という本です。

その他にも、中古車専門雑誌、インターネットの中古車関連サイト上の販売価格情報、実際の取引事例等の資料を参考に判断しています。

 

 

買替諸費用

車両の買替諸費用は、事故車両と同一の車種、年式、型の車両を取得に購入する際に通常必要とされる範囲において、交通事故による損害と認められます。

諸費用の内容
  1. 登録費用
  2. 車庫証明費用
  3. 事故車両の廃車費用
  4. 登録手続代行費用、車庫証明手続代行費用、納車費用等自動車販売店の報酬部分のうち相当分
  5. 自動車取得税
  6. 事故車両の自動車重量税の未経過分(還付される分を除く)
  7. 購入車両の消費税相当分
  8. リサイクル料金

事故車両を廃車とした場合、自動車税、自賠責保険・共済は還付されるので請求できません。

 

 

時価評価額0円の場合

裁判のイラスト低年式の車両の場合、時価評価額が0円ということがあります。

このような場合、損害賠償額が認められないとすると、車両現実に利用していた利益を無視することになり、公平性を欠くことになります。

裁判例は以下のようになっています。

判例 大阪地判H14.5.7

購入時の価格をもとに、事故までの年数につき定率法による減価償却行い残額を求めました。


判例 大阪地判H2.12.20

登録から14年あまり使用していた小型乗用車に1日あたりの2,000円の使用価値に車検までの日数を乗じました。

 

 

改造車の場合

改造車の場合、原則として改造部分も含めた修理費用が損害として認められます。

もっとも、改造の内容や程度によっては、車両の効用を高めるものではないとして、その損害の負担を一定程度減額させられることがあります(東京高裁平成2年8月27日)。

 

 

評価損

修理しても外観や機能に欠陥が生じたり、事故歴により商品価値の下落が見込まれる場合(例えば、縁起が悪いなどの評価)に、中古車取引市場での価格が低下することがあります。

このような、事故による車両の価値の低下を評価損といいます。

評価損が認められるかどうかは、事案によって異なりますが、概ね高級車で、登録してから新しい場合は認められる傾向にあります。

逆に、大衆車で登録してから何年も経過している場合は、認められない傾向にあります。

評価損が認められる場合の具体的な算定にあたっては、事故車両の車種、走行距離、損傷の部位・程度、事故当時の同一車種の時価等を総合考慮して判断されます。

 

 

積極損害


 
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