示談成立後に交通事故の当事者が死亡した場合、損害賠償はどうなる?

執筆者:弁護士 北御門晋作 (弁護士法人デイライト法律事務所 弁護士)

交通事故の当事者である被害者、加害者が死亡しても損害賠償請求権は消滅しません。

損害賠償請求権は原則被害者の相続人に相続されます。

加害者が死亡した場合

加害者の任意保険の適用がある場合

この場合には、任意保険会社は依然として支払義務を負っていますので、被害者は任意保険会社からの賠償を受けることができます。

 

加害者の保険の適用がない場合

この場合には、基本的に加害者の相続人に請求していくことになります。

なお、この場合でも、自賠責の範囲では賠償を受けることができます。

損害賠償義務も相続される

人が死亡したときに相続が開始します(民法882条)。
相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産を承継します(民法896条)。
財産について、預貯金や株券、不動産などのプラスの財産だけではなく、借金などの債務もマイナスの財産として相続の対象となります。
そのため、加害者が死亡した場合には、損害賠償債務も相続されることになります。

相続人 相続する割合
①配偶者のみ 配偶者が全財産を承継
②配偶者と子 配偶者1/2
子の全員で1/2 承継、子が複数人いる場合には、人数によって分割
③配偶者と父母 配偶者2/3
父母の全員で1/3、父母共に生存している場合には、父母それぞれ1/6ずつ
④配偶者と兄弟姉妹 配偶者3/4
兄弟姉妹の全員で1/4、兄弟姉妹が複数人いる場合には、人数によって分割

 

相続人の一部が相続放棄した場合

相続を放棄した人の分を除外して法定相続分を計算します。

具体例 相続人の一部が相続放棄した場合の相続割合

死亡した加害者に相続人として配偶者と子2人がおり、子の1人( 相続した子をA、放棄した子をBとします)が相続を放棄した場合の相続割合


相続割合は以下となります。

  • 配偶者:1/2
  • 子A :1/2
  • 子B: 0

 

相続人の全員が相続放棄した場合

この場合には、相続人はいませんので、相続人に請求するということはできないことになります。

そして、この場合では、加害者自身の財産の範囲で賠償金を受け取ることになります。

 

 

被害者が死亡した場合

では、交通事故の被害者が死亡した場合、損害賠償はどのなるのでしょうか。

被害者が持っている交通事故による損害賠償請求権は、被害者本人の死亡によって消滅することはありません。

こちらも相続人へ相続財産として承継されます。

相続される損害賠償請求権の内容

死亡事故が発生した場合損害賠償できる内容は、以下のようになります。

積極損害
治療関係費、通院交通費、付添え看護費、入院雑費、弁護士費用、装具等の購入費、将来の治療費、家屋改造費、葬祭関係費など
消極損害
死亡による逸失利益、休業損害
慰謝料
傷害慰謝料、死亡慰謝料
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相続する割合について

被害者の損害賠償請求権の相続割合(法定相続分)は民法で決まっています。

上記の相続する割合の表をご覧ください。

また、相続人が複数いる場合、各相続人間で示談の方針が違い、示談が進まないことがあります。

このとき、相続人は、訴訟を提起して自己の相続分のみを加害者へ請求することができます。

具体例 相続人として配偶者と子2人がいる場合の相続割合

死亡した被害者に相続人として配偶者と子2人がいる場合


以下のように、子Bが損害賠償請求する場合には、交通事故で生じた損害の1/4の範囲で請求できるということになります。

  • 配偶者:1/2
  • 子A :1/4
  • 子B: 1/4

近親者固有の慰謝料請求

交通事故の被害者の父母、配偶者、子、これらに準じる人は、交通事故の加害者に対して慰謝料請求ができます(民法711条)。

この請求は、近親者が被害者を失ったことについての精神的損害に対するものです。

そのため、近親者固有の慰謝料請求は相続財産ではありません。

 

 

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