弁護士コラム

高次脳機能障害で5級2号に認定され、将来介護費用が認められた事例

執筆者:弁護士 鈴木啓太 (弁護士法人デイライト法律事務所 パートナー弁護士)

弁護士東京地裁平成27年3月25日判決

事案の概要

バイクのイメージ画像幹線道路と側道の合流地点で、側道から本線に進入した加害車両と、道路の本線上を同一方向に進行してきた被害者の原付バイクとが衝突した事故です。

この事故により被害者は、脳挫傷、急性硬膜下血腫、側頭骨骨折などの傷害を負いました。

これらの傷害により、被害者は、後遺障害等級5級2号の高次脳機能障害が認定されています。

主な争点

将来介護費用の賠償など

 

判示の概要

裁判所は、将来介護費用の請求について、以下のように判断しています。(判示の中で出てくる「原告Ⅹ1」とは、被害者のことです。)

六法全書「原告X1(症状固定時35歳)は、神経心理学的検査の結果は良好であり、IQの低下も認められないが、軽度の記銘力障害、コミュニケーション障害があり、食事動作、更衣動作については、時々声かけが必要であり、些細なことですぐ感情的になり、人混み等で過剰に反応することなどから、バスや電車に乗って一人で出かけることもあるが、一人で行動できる範囲にはなお制限があり、このような症状が将来回復する蓋然性を現時点では認めることはできない。

以上によれば、原告X1の日常生活においては、平均余命51.69年にわたり、近親者による随時の声かけ、見守り等の介護の必要があるものと認められるが、原告X1の後遺障害の内容・程度、症状の推移及び日常生活状況に鑑みると、将来介護費用として、803万2482円(日額1200円×365日×18.3390(平均余命51年のライプニッツ係数)=803万2482円)を認めるのが相当である。」

 

 

弁護士の解説

高次脳機能障害とは

悩む男女高次脳機能障害とは、交通事故により、脳に損傷を受けたことで、事故前と比較して人格や性格に変化が生じたり、記憶力が低下するなどの症状がでる障害です。

高次脳機能障害は、外見上は回復していると考えられるにもかかわらず、認知障害や行動障害、人格変化といった症状が生じ、社会生活を正常に営むことが困難な状態になってしまうという特徴があります。

高次脳機能障害についての詳細はこちらをご覧ください。

 

将来介護費用とは

介護交通事故により、身体や脳に障害を負った場合には、自立して日常生活を送ることができなくなることがあります。

そうした場合には、家族や親族あるいは介護ヘルパーなどの介護が必要になります。

こうした費用に関する賠償のことを一般に将来介護費用の賠償と呼びます。

裁判実務の考え方としては、医師の指示又は症状の程度により必要があれば賠償を認めています。金額としては、介護ヘルパー等の職業付添人を利用する場合には、その実費、近親者付添人(家族や親族の付添い)の場合は1日8000円とされています。

計算しかし、この金額は当然に認められるわけではありませんので注意が必要です。

被害者の症状の程度によって認容される金額は大きく変わってきます。本事案においても、日額1200円に限定して認められています。

 

本事案について

本事案の被害者は、5級2号の高次脳機能障害に認定されています。

5級2号の高次脳機能障害が認定されるのは、「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの」に該当する場合です。

ポイントもう少しわかりやすく言うと、「単純作業の繰り返しに限定すれば一般就労も可能でだが、環境が変わると作業を継続することができなくなったりする問題が生じる。このため、一般人に比較して作業能力が著しく制限されており、就労の維持には、職場の理解と援助を欠かすことができないもの」に該当する場合です。

5級2号の高次脳機能障害では、このような症状が残存すると考えられるため、ケースによっては、将来において自立して日常生活を送ることができない可能性があります。本事案では、まさにこの点が問題となっています。

本事案の被害者は、IQの低下はないものの、軽度の記銘力障害、コミュニケーション障害があり、食事動作、更衣動作については、時々声かけが必要であり、些細なことですぐ感情的になり、人混み等で過剰に反応することなどから、バスや電車に乗って一人で出かけることもあるが、一人で行動できる範囲にはなお制限があることを理由として、将来介護費用として日額1200円が認められています。

示談交渉において、将来介護費用については、被害者側から積極的に主張しなければ、そもそも賠償の対象とされない可能性もあります。

保険会社からの示談の提案の中で、将来介護費用の賠償については一切言及がないこともあるのです。

したがって、被害者の方の症状の程度や生活状況を十分に踏まえて、被害者側から具体的に将来介護の必要性を主張することが大切です。

弁護士鈴木啓太高次脳機能障害で、自立しての生活が難しいのに一切将来介護費用が認められず、お困りの被害者の方やご家族はお気軽に弊所までご相談ください。

交通事故案件に注力した弁護士が、対応させて頂きます。


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