示談書とは

示談書とは、当事者間の合意(示談)の内容を記載した書面のことをいいます。

 

合意書など他の書面との違い

示談書の他に、似た言葉として、合意書、和解書、同意書、誓約書、承諾書、念書などがあります。

これらのうち、合意書や和解書は、内容的には示談書と同じと考えてよいでしょう。

厳密には、「和解書」は裁判所の手続で用いられることが多く、「示談書」や「合意書」という言葉は裁判所を通さない場合に用いられています。

また、「示談書」は交通事故、不倫、刑事事件などの損害賠償義務が問題となる場合に用いられることが多く、「合意書」はそれ以外の様々な権利義務について合意する場合に用いられています。

同意書・承諾書・誓約書・念書は、示談書等と異なり、当事者間(複数名)で合意する文書ではなく、単独で何らかの意思を表示する書面です。

これらのうち、同意書と承諾書は、何らかの事項について単に認める場合に使用されることが多いです。

これに対し、誓約書や念書は、何か問題を起こしたりしたときに、一定の行為を行うこと、または、行わないこと等を約束する場合に使用されます。

具体例

不倫の事案で、加害者が被害者に慰謝料を支払うと約束する場合は通常、誓約書や念書を使います。

同じ状況で、被害者と加害者が慰謝料の金額について合意する場合は、通常、示談書を使います。

 

権利関係に関する書面の違いのまとめ

【複数名で作成するもの】

項目 示談書  合意書  和解書
裁判所の利用 なし あり
用途 交通事故、不倫、刑事事件など 特に限定されない

【単独名で作成するもの】

項目 示談書 合意書 和解書 念書
用途 何らかの事項について単に認める場合 何か問題を起したときなど

 

示談書の効力

示談をした後に、もし、相手がその義務を果たしてくれなかったらどうなのでしょうか。

具体例

例えば、損害賠償が問題となっている事案で、加害者Aが被害者Bに100万円を支払うという内容の示談書を交わしたとします。

その後、Aが開き直って、100万円を支払わないと言い出したとき、Bはこれを法的に強制することができるのかが問題となります。

示談は法律上、「和解契約」に位置づけられます(民法697条)。

後述する示談の注意事項をきちんとクリアーしていれば、基本的に和解契約は有効に成立し、相手にその義務を強制することが可能となります。

参考:民法 | e-Gov法令検索

すなわち、相手が「払いたくない」と言っても、法的な根拠をもって「払え」と主張することができ、相手が任意に支払ってくれない場合、裁判を起こして、判決をもらうことが可能となります。

また、判決が確定したにもかかわらず、それでも相手が支払ってくれない場合、強制執行が可能となります。

強制執行というのは、例えば、相手の財産や給与を差し押さえて、金銭を回収する手続きのことを言います。

なお、強制執行は自分で行うことはできず、必ず裁判所に申し立てを行い、裁判所に実施してもらわなければなりません。

 

公正証書との違い

公正証書とは、公証人が公証人法・民法などの法律に従って作成する公文書のことです。

公証人というのは、法務大臣が任命する公務員であり、全国各地の公証役場において、ある事実の存在等について、証明・認証することを業務としている人達です。

示談書に記載されている合意内容(上記の例では、加害者Aが被害者Bに100万円を支払うという内容)を公証人に作成してもらえば、その文書は公正証書となります。

すなわち、上記の例では、示談書でも公正証書でもその中身自体は変わりません。

では、わざわざ公証役場に行って、公正証書にするメリットはあるのでしょうか。

上記の例では、Aが支払ってくれない場合、Bは強制執行する前に、裁判を起こして判決を取得しなければなりませんでした。

公正証書を作成しておくと、Aが任意に支払ってくれない場合、Bはわざわざ裁判を起こすことなく、直接強制執行の手続きを行うことが可能となります(民事執行法22条5号)。

参考:民事執行法 | e-Gov法令検索

 

公正証書はこのような効力を持つため、相手が支払ってくれない可能性がある場合は利用を検討する価値があります。

しかし、公正証書を作るためにはわざわざ公証役場に行かなければなりませんし、公証人に支払うための費用を要します。

あわせて読みたい
公正証書の費用とは?

また、示談しているのに、相手が支払ってくれないというケースはそれほど多くありません。

特に、弁護士がサポートをして示談書を交わすケースでは、相手が支払わない可能性は低いと思われます。

そのため、当事務所では、公正証書は養育費の支払いや長期的な分割払いのケースなどに限って利用することが多いです。

 

 

示談書の簡単な作成方法

ここでは、示談書を簡単に作成するための方法をご紹介します。

 

示談書のテンプレート

素人の方が示談書を一から作成するのは大変です。

以下、示談書が問題となりやすい事案のテンプレートを掲載していますので、参考にしながら作成されると良いでしょう。

交通事故の示談書の書き方・テンプレート

示 談 書

●●●●(以下「甲」という。)と●●●●(以下「乙」という。)は、下記の事故(以下「本件」とする。)による甲の乙に対する損害賠償請求について次のとおり示談する。

(事故の表示)

日時:●●年●●月●●日 ●時●分

場所:●●県●●市●町●丁目●番地先路上

(示談の内容)

第1条 乙は、甲に対し、損賠賠償として、金●●万円の支払い義務があることを認め、これを●年●月末日限り、甲の指定する口座に振り込む方法によって支払う。
なお、振込手数料は乙の負担とする。

第2条 本示談成立後、甲に本件と相当因果関係があり、かつ自賠法施行令による認定を受けた後遺障害が発生した場合は、それに関する損害賠償請求権を留保し、別途協議する。

第3条 甲と乙との間には、本件に関し、本示談書に定めるほか、何らの債権債務がないことを相互に確認する。

以上の示談成立を証するため、本書2通を作成し、甲乙が署名捺印の上、各自1通を保有する。

●年●月●日

甲  住所

氏名                  印

乙  住所

氏名                  印

なお、当事務所は、交通事故の示談書をスマホやパソコンで簡単に制作できる自動作成機をウェブ上に掲載しています。

ぜひ、ご活用ください。

 

不倫の誓約書や示談書の書き方・テンプレート

示 談 書

●●●●(以下「甲」という。)と●●●●(以下「乙」という。)は、乙が甲の配偶者と不倫をした件(以下「本件」とする。)による甲の乙に対する損害賠償請求について次のとおり示談する。

第1条 乙は、甲に対し、慰謝料として、金●●万円の支払い義務があることを認め、これを●年●月末日限り、甲の指定する口座に振り込む方法によって支払う。
なお、振込手数料は乙の負担とする。

第2条 甲と乙との間には、本件に関し、本示談書に定めるほか、何らの債権債務がないことを相互に確認する。

以上の示談成立を証するため、本書2通を作成し、甲乙が署名捺印の上、各自1通を保有する。

●年●月●日

甲  住所

氏名                  印

乙  住所

氏名                  印

なお、当事務所は、交通事故の示談書をスマホやパソコンで簡単に制作できる自動作成機をウェブ上に掲載しています。
ぜひ、ご活用ください。

刑事事件の示談書の書き方・テンプレート

示 談 書

●●●●(以下「甲」という。)と●●●●(以下「乙」という。)は、下記の事件(以下「本件」とする。)による甲の乙に対する損害賠償請求について次のとおり示談する。

(事件の表示)

日時:●●年●●月●●日 ●時●分

場所:●●県●●市●町●丁目●番地先路上

犯行内容:乙は甲に対して●●●●をした。

(示談の内容)

第1条 乙は、甲に対し、真摯に謝罪するとともに、解決金として、金●●万円の支払い義務があることを認め、これを●年●月末日限り、甲の指定する口座に振り込む方法によって支払う。
なお、振込手数料は乙の負担とする。

第2条 甲は、乙の謝罪を受け入れ、今回に限り乙を許すものとし、被害届を取り下げ、一切の刑事処罰を求めない。

第3条 甲及び乙は、今後一切相互に接触しない。

第4条 甲及び乙は、本件について、正当な理由なく第三者に口外しないことを誓約する。

第5条 乙の保管する本書面は,甲の住所及び氏名を黒塗りにしたものとする。

第6条 甲と乙との間には、本件に関し、本示談書に定めるほか、何らの債権債務がないことを相互に確認する。

以上の示談成立を証するため、本書2通を作成し、甲乙が署名捺印の上、各自1通を保有する。

●年●月●日

甲  住所

氏名                  印

乙  住所

氏名                  印

なお、当事務所は、刑事事件の示談書をスマホやパソコンで簡単に制作できる自動作成機をウェブ上に掲載しています。
ぜひ、ご活用ください。

損害賠償の示談書の書き方・テンプレート

示 談 書

●●●●(以下「甲」という。)と●●●●(以下「乙」という。)は、下記の事件(以下「本件」とする。)による甲の乙に対する損害賠償請求について次のとおり示談する。

(事件の表示)

日時:●●年●●月●●日 ●時●分

場所:●●県●●市●町●丁目●番地先路上

行為:乙は甲に対して●●●●をした。

(示談の内容)

第1条 乙は、甲に対し、解決金として、金●●万円の支払い義務があることを認め、これを●年●月末日限り、甲の指定する口座に振り込む方法によって支払う。
なお、振込手数料は乙の負担とする。

第2条 甲と乙との間には、本件に関し、本示談書に定めるほか、何らの債権債務がないことを相互に確認する。

以上の示談成立を証するため、本書2通を作成し、甲乙が署名捺印の上、各自1通を保有する。

●年●月●日

甲  住所

氏名                  印

乙  住所

氏名                  印

上記は、交通事故、不倫、刑事事件以外のケースの損害賠償請求事案のサンプルとなります。

事案の状況で記載内容を修正する必要がありますが、基本的には刑事事件と似たパターンになります。

 

 

示談書作成の5つの注意点

示談書は適切に作成すれば、法的な根拠がある書面として、とても有益なものとなります。

しかし、不適切な内容のものだと無効となってしまうので注意が必要です。

示談書を作成する際に注意すべきことを紹介するので、ご参考にされてください。

 

①当事者を確定する

示談は、契約の一種であるため、契約の相手方を確定しなければなりません。

当事者の確定は、基本的には氏名や住所で行います。

したがって、示談書には氏名や住所を記載するようにしましょう。

刑事事件など、例外的に被害者の住所等を秘匿するケースがあります。

このような例外的な場合については、専門の弁護士に助言を受けるようにされてください。

あわせて読みたい
刑事事件の示談書一覧

 

②日時、場所等で事案を特定する

示談の対象となった事案をできるだけ特定しましょう。

事案の特定は、通常、その事案が発生した日時、場所、行為態様等で特定します。

ただ、不倫などの事案では、具体的な日時等が不明なことも多いです。

このような場合、期間(例:●年●月ころ〜●年●月ころまで)などを示すことである程度の特定が可能になります。

 

③金額やその支払い方法を明示する

示談で合意した金額については当然、明記します。

また、その名目についても、できるだけ記載しましょう。名目としては、「慰謝料」「損害賠償」「解決金」などが考えられます。

金額に関しては、支払い方法も重要となります。

すなわち、いつ、どのようにして支払うか、という問題です。

支払い方法 いつ 一括払い? それとも 分割払い?
どのようにして 銀行振込? それとも 手渡し?

 

一括払いか分割払いか

一括払いの場合、期限を明示しましょう。

例 ●年●月●日限り

「限り」というのは「までに」と同義です。

分割払いの場合、分割の期間や毎月の支払額を明示しましょう。

 


第●条
1 甲は乙に対し、慰謝料として、金●●円の支払義務のあることを認め、これを次のとおり分割して、乙の指定する口座に振込んで支払う。振込手数料は甲の負担とする。

●年●月から●年●月まで、毎月末日限り、金●万円

2 甲が、前項記載の分割金の支払を2回以上怠ったときは、当然に期限の利益を失い、甲は、乙に対し、支払い残金を直ちに支払う。

上記の2項は、懈怠約款と呼ばれるものです。

分割払いの場合、この条項を入れておくと、義務者が支払を滞った場合に残金の一括払いを請求できます。

そのため、権利者側にとっては有利な条項となります。

 

④清算条項を失念しない

示談書は、通常、権利義務を確定させて、紛争を解決するために作成するものです。

例えば、交通事故の事案で、100万円で示談したとします。

加害者としては、100万円を支払うことで決着がついたと考えるでしょう。

ところが、示談成立後、被害者が追加で100万円を支払えと請求してくることがあります。

このとき、効力を発揮するのが清算条項と呼ばれるものです。


第●条 甲と乙との間には、本件に関し、本示談書に定めるほか、何らの債権債務がないことを相互に確認する。

清算条項というのは上記の例ように、示談書に記載されている以外のことについては、合意後は一切請求できなくなるということを確認する条項です。

なお、上記例では、「本件に関し」という文言を入れています。

この文言があると、清算の対象とするのは本件(上記の例では交通事故)のみということになり、それ以外の問題については生産しないことを意味します。

すなわち、甲と乙の間で、示談の対象となった交通事故以外の別の件(刑事事件、不倫や別の交通事故など)があれば、その件は清算の対象としないため、別途請求することが可能となります。

仮に、「本件に関し」という文言がない場合、清算の対象は限定されていないことになるため、示談当時、甲と乙との間に存在したすべての件について、今後一切請求できなくなります。

したがって、清算条項を入れるか否か、入れるとして、「本件に関し」を入れるか否かを伸長に検討する必要があります。

 

⑤日付や署名を失念しない

示談書には、和解契約の年月日がわかるように、日付を入れるようにしましょう。

また、当事者の合意の存在を示すために、必ず署名するようにしましょう。

 

 

示談書のポイント

法的に有効な示談書を作成できたとしても、それがあなたにとってベストなものとは限りません。

ここでは、より良い示談を行うために、ポイントとなる点をご紹介いたします。

 

専門家にチェックしてもらう

示談書は、当事者の権利義務を確定する重要な法律文書です。

また、法的に有効な示談書を作成すると、後から取り消したいと思っても、基本的には取り消すことはできません。

そのため、示談書は慎重に作成すべきです。

上記でご紹介した各種示談書のテンプレートは一例に過ぎず、示談書に記載すべき文言は、具体的な状況によって異なります。

そのため、上記のテンプレートや示談書の自動作成機は参考程度にとどめて、専門の弁護士にご相談されることをお勧めいたします。

専門性が高い弁護士であれば、具体的な状況を前提として、依頼者にとって有利となる示談書の案を提案してくれるでしょう。

 

示談書の取り交わし

法的に有効で、かつ、事案に沿った適切な示談書を作成したら、その取り交わしも重要となります。

取り交わしが不適切な場合、後から、「自分はサインしていない」などと主張されて紛争となる場合が懸念されます。

示談書はトラブルを解決して、後々の紛争を予防するための重要な法律文書です。

後から揉めることがないように、トラブル防止の観点から示談書を取り交わすようにしましょう。

現在、示談書の取り交わし方法としては、対面、郵送、Eメール、電子契約の4つの方法が代表的です。

これらの方法別に本人確認のポイントをご紹介します。

方法 特徴 本人確認のポイント
対面 相手と同席の上で署名押印する 身分証明書(運転免許証等)を確認し、かつ、そのコピーを取るなど
郵送 示談書を相手に郵送して返送してもらう 実印で捺印してもらい、返送の際に印鑑登録証明書を同封してもらうなど
Eメール 示談書を相手にメールで送信する。相手が示談書を印刷して署名押印し、それをPDFデータなどで返信してもらう 原本ではないため、トラブルが予想される場合は極力利用せず、他の方法が良い。どうしても利用しなければならない場合、実印で捺印してもらい、返送の際に印鑑登録証明書を添付してもらう。さらに、身分証明書(運転免許証等)のデータも添付してもらうなど
電子契約 電子契約サービスを利用する 電子証明書の有効性を確認する

 

 

示談書のよくあるご質問Q&A

上記の他に、示談書に関してよくあるご質問をご紹介いたします。

 

示談書は自分でも作成できますか?

問題となっている事案について、ある程度の法律知識を備え、上記のテンプレートや自動作成機を使用すれば、示談書は自分でも作成可能と思われます。

しかし、上記で解説したとおり、示談書は重要な法律文書です。

ご自身だけで作成するのはリスクがあるため、できるだけ専門家に作成してもらうことをお勧めいたします。

法律事務所の中には、相談の際、持参された示談書をチェックしてくれるところもあると思います。

このようなサービスを利用すると、自分が作成した示談書の問題の有無等を知ることができます。

 

示談書は手書きでもいいですか?

手書きでも大丈夫です。

しかし、後から編集のおそれがあるため、鉛筆などの消されやすいものではなく、ボールペンなどを利用するようにしましょう。

 

示談書は公正証書にすべきですか?

公正証書のメリットは上記のとおり、相手が任意に支払ってくれない場合、裁判を起こすことなく、強制執行手続きに移行できる点です。

他方で、面倒で、かつ、費用もかかってきます。

そのため、長期的な分割払いとなっている事案など、相手が支払ってくれなくなる可能性がある事案について、公正証書の作成を検討すればよいでしょう。

 

示談書に印鑑は必要ですか?

法律上、印鑑がなくても示談書の締結は可能です。

しかし、トラブル防止の観点から、できるだけ印鑑も捺印してもらうことをお勧めいたします。

 

「第三者に口外しない」約束は有効ですか?

示談書の内容を他人に知られたくない場合、「第三者に口外しない」などの口外禁止条項を入れることがあります。

この文言を入れて、示談書が無効となることはありません。

また、秘匿したい場合は相手に念を押すという意味で、条項を入れること自体は有益と考えます。

しかし、万一、相手が約束を守らず、第三者に口外したとしても、そのことを理由に法的責任を追及するのは難しい場合が多いと思われます。

 

 

まとめ

以上、示談書について、書き方やテンプレート、作成する上での注意点、作成のポイント等について、解説しましたがいかがだったでしょうか。

テンプレートや自動作成を利用することで、素人の方でも一応の示談書を作成することは可能です。

示談書には交通事故、不倫、刑事事件など様々なパターンがあり、事案の状況に即した法的に有効な示談書を作成しなければなりません。

また、示談書は権利義務を確定させる重要な法律文書であるため、少しでも有利な内容となるように慎重に検討すべきです。

そのため、テンプレート等はあくまで参考程度にとどめ、問題となっている事案の専門弁護士にチェックしてもらうことをお勧めいたします。

専門の弁護士であれば、相談時に問題点を指摘し、有益な情報を提供してくれると思われます。

この記事が示談でお困りの方にとってお役に立てれば幸いです。