特定の人物に対して全ての財産を相続させるというような内容の遺言が遺されていた場合に、遺産を全く分けてもらえなかった相続人は、遺留分侵害額請求をすることで被相続人の財産を取得することが可能です。
なお、遺留分侵害額請求する際は、遺留分侵害額請求を行ったという事実が事後的に争われないような内容、方法で行う必要があるため注意が必要です。
遺留分侵害額の計算
遺留分の額や遺留分が侵害された額については、以下のプロセスにより求めることが可能です。
遺留分額の計算
遺留分の基礎となる財産は、
「被相続人が相続開始時に有していた財産の価額」+「贈与財産の価額」-「相続債務」
という計算式で求めることが可能です。
遺留分割合は、
「民法1028条に規定された遺留分割合」 × 「法定相続分の割合」
で算出します。
「①で求めた額」×「②で求めた割合」=遺留分額となります。
遺留分侵害額の計算
遺留分侵害額は、
「遺留分額」 – 「(遺留分権利者が相続によって取得した財産の額) – (遺留分権利者の相続債務分担額)」 – 「特別受益額」
で求めることができます。
具体例での計算
具体例
A男さんとB子さん夫婦の間には、X子さんとY男さんという子供が生まれました。
B子さんは、10年前に亡くなり、その後、A男さんは、長年一人暮らしをしていました。
A男さんは3か月前に亡くなりましたが、生前、Y男さんにすべての財産を譲るとの内容の遺言書を作成していました。
A男さんには預貯金等はほとんどありませんでしたが、自宅不動産を持っており、不動産会社によればその時価は1000万円とのことです。
ただし、調べてみるとA男さんには、100万円の借金がありました。
A男さんは、生前、X子さんが結婚するときに200万円、Y男さん結婚するときに500万円をそれぞれ贈与していました。
上記事例のX子さんについて遺留分侵害額を計算してみます。
遺留分額
「被相続人が相続開始時に有していた財産の価額」 + 「贈与財産の価額」 - 「相続債務」
=「1000万円」 + 「700万円」 – 「100万円」
= 1600万円
= 「1/2」 × 「1/2」
= 1/4
= 「1600万円」 × 「1/4」
= 400万円
以上より、X子さんの遺留分額は400万円になります。
遺留分侵害額を求める
「遺留分額」 – 「(遺留分権利者が相続によって取得した財産の額) – (遺留分権利者の相続債務分担額)」 – 「特別受益額」
= 「400万円」 – 「(0円) – (0円)」 – 「200万円」
= 200万円
以上によれば、遺留分侵害額は200万円ですので、X子さんは、Y男さんに対し遺留分侵害額請求を行うことで200万円分の財産を獲得することが可能となります。
遺留分侵害額請求のポイント
財産の評価
遺留分侵害額の計算からもわかるように、「被相続人が相続開始時に有していた財産の価額」は、遺留分侵害額請求をする上で極めて重要です。
しかし、この「被相続人が相続開始時に有していた財産の価額」は、とくに不動産や株式等が存在する場合、その評価額について争いになりやすい傾向があります。
そのため、不動産や株式等が存在する場合には、相続問題に精通した弁護士にご相談に行かれることをお勧めします。
特別受益
遺留分侵害額を計算する上で、特別受益の額も大きく影響することになります。
したがって、遺留分侵害額請求をする方自身の特別受益及び相手方の特別受益について、証拠を集めた上、最大限有利な主張を組み立てていくことが重要です。
遺言は有効なものですか?
これまでに説明した遺留分侵害額請求は、あくまで遺言が有効であることを前提とした場合に行うべきものです。
しかし、亡くなった方が生前に遺言を作成していた場合でも、遺言の作成当時、認知症などを原因として作成者の判断能力が低下していたため、遺言が有効なものであるかどうか疑いがあるというケースが数多くあります。
このような場合、遺されていた遺言が無効であると争った上、遺産分割協議を申し入れるべきです。
仮に、遺言が無効であることを前提に遺産分割がなされた場合、遺産は、基本的には法定相続分に応じて分けられることになるため、取得できる相続財産額が数倍になります。
したがって、遺言の有効性に疑義がある場合には、遺言の効力を争うことも含めて対応を検討する必要があるといえます。
もっとも、遺言が有効か無効かという判断には極めて専門的な知識が要求されており、数多ある裁判例の傾向を把握した上での検討が必要となりますので、遺言の有効性を争う可能性がある場合には相続問題に精通した弁護士に相談に行かれることをお勧めいたします。
なお、遺産分割協議を行っていても、別途遺留分侵害額請求をしておく必要があります。詳しくはこちらをご覧ください。