養子縁組とは?必要な条件や手続き、デメリットを解説


弁護士法人デイライト法律事務所 代表弁護士保有資格 / 弁護士・税理士・MBA

養子縁組とは、血のつながりのない子どもとの間に法律上の親子関係をつくる制度のことです。

この記事では、養子縁組に必要な条件や手続き、必要書類、養子縁組のメリット・デメリットなどについて、養子縁組にくわしい弁護士がわかりやすく解説します。

養子縁組とは?

養子縁組とは、血縁関係(血のつながりのことです。)があるかどうかにかかわらず、法律上の親子関係を結ぶ制度のことをいいます。

養子縁組によって親となる人を「養親(ようしん)」、子となる人を「養子」といいます。

養子縁組には、「普通養子縁組」と「特別養子縁組」の2つがあります。

 

法律上の親子関係とは

法律上の親子関係が認められる場合には、次のような法律に基づく効果が発生します。

  • 親が亡くなった場合、子は親の遺産を相続します(第1順位の相続人)。
  • 子が亡くなった場合、親は子の遺産を相続する可能性があります(第2順位の相続人)。
  • 養子が未成年であるときは、養親に親権が発生します。
  • 養子は、原則として養親の氏(苗字)になります。
  • 親子は、お互いに相手を扶養する義務(自分の収入で生活できない人を支える義務のことです。)を負います。

 

養子と実子との違い

養子と実子の違いは、法律的なつながりの子どもか、それとも生物学的なつながり(血のつながり)のある子どもか、という点にあります。

養子とは

養子とは、養子縁組という法律(民法)に基づく手続きをすることによって、血のつながりの有無にかかわらず、法律上(民法上)の親子関係が認められる子どものことをいいます。

実子とは

実子とは、生物学的に血のつながった子ども(実の子ども)のことをいいます。

母親であれば自分で産んだ子ども、父親の場合は自分の遺伝子(血)を引き継ぐ子どものことです。

実子は「嫡出子(ちゃくしゅつし)」と「非嫡出子(ひちゃくしゅつし)」の2つに分かれます。

「嫡出子」とは結婚している夫婦の間に生まれた子どものことをいい、「非嫡出子」とは結婚関係にない男女の間に生まれた子どものことをいいます。

母親は出産をした事実によって非嫡出子との法律上の親子関係が認められますが、父親と非嫡出子の間の法律上の親子関係は、父親が「認知」の手続きをしないかぎり認められません。

 

普通養子縁組と特別養子縁組との違い

普通養子縁組と特別養子縁組のもっとも大きな違いは、実の親(実親)との親子関係が続くかどうかという点です。

「普通養子縁組」の場合は養子縁組後も養子となった子どもと実親との親子関係が続くのに対して、「特別養子縁組」の場合は養子縁組によって養子となった子どもと実親との親子関係が終了します。

普通養子縁組と特別養子縁組の主な違いをまとめたものが次の表です。

これらの違いは、それぞれの養子縁組の目的の違いによるものです。

普通養子縁組 特別養子縁組
養子縁組の目的 家督や遺産、事業の承継、相続対策など 子どもの福祉のため(子どもを適切な環境で養育するため)
実父母との親子関係 継続する(実親、養親の両方との間に法律上の親子関係がある)
※養子は実父母と養父母の両方の遺産を相続する
終了する(養親との間にのみ法律上の親子関係がある)
※養子は実父母の遺産を相続しない
配偶者の要否 単身でもよい 必要(夫婦共同縁組が必要)
養親の年齢制限 20歳以上であること 養親となる夫婦の一方が25歳以上、かつ、夫婦がともに20歳以上であること
養子の年齢制限 養親よりも年齢が低いこと 原則15歳未満であること
家庭裁判所の許可 未成年者を養子とする場合は必要 常に必要
監護期間 不要 6ヶ月間の監護期間が必要
養子縁組の成立時期 養子縁組届が受理されたとき 特別養子縁組の成立の審判がされたとき
戸籍の続柄の記載 「養子」・「養女」 「長男」・「長女」など実子と同様の記載
離縁 話し合いによる離縁(協議離縁)が可能 原則不可、かつ家庭裁判所の審判が必要

 

 

養子縁組を行うケース

結婚(再婚)相手の連れ子と養子縁組をする

連れ子がいる相手と結婚(再婚)した場合、結婚の手続き以外に何の手続きもしなければ、連れ子との間に(法律上の)親子関係はないままです。

そのため、連れ子に対して親権を行いたい場合や、連れ子に自分の遺産を相続させたい場合には、連れ子との法律上の親子関係を作るために養子縁組をする必要があります。

 

子どもの配偶者と養子縁組をする

自分の子どもの配偶者(妻や夫)と養子縁組をするケースです。

例えば、子どもの結婚相手(配偶者)が自分の事業を手伝ってくれたため、その配偶者に事業を継がせるために子どもの配偶者と養子縁組をするというケースがあります。

また、子どもの結婚相手(配偶者)が自分の世話や介護をしてくれた場合に、その恩返しとして遺産を与える(相続させる)ために養子縁組をするというケースもあります。

 

孫と養子縁組をする

かわいがっている孫に遺産を相続させるために養子縁組をするケースです。

自分の子どもが生きている場合、孫に遺産を相続させることはできません(孫は原則として「相続人」にあたらないため)。

そこで、孫に遺産を相続するために養子縁組をするのです。

また、自分 → 子ども → 孫と段階を踏んで遺産を相続させる場合には、自分から子どもへの相続の段階と、子どもから孫への相続の段階で2度相続税がかかることとなるため、相続税の節税目的で孫との養子縁組を行うケースも少なくありません。

ただし、後で説明するように、かえって相続税の負担が重くなる場合があるため、注意が必要です。

孫が遺産を相続する場合について詳しくはこちら

 

事業を継がせるために養子縁組をする

自分自身が事業を行っている場合で、事業を継いでくれる親族がいない場合や身寄りがないときに、親族以外に事業を継がせるために養子縁組をするケースです。

 

実親による養育が難しい場合に養子縁組をする(特別養子縁組)

上にあげた4つのケースはいずれも普通養子縁組についての説明です。

特別養子縁組は養子となる者が虐待やネグレクトを受けているケースなど、実親による養育が難しい場合に、もっぱら子どもの利益(福祉)を目的として行われます。

 

 

養子縁組の条件

普通養子縁組の条件

普通養子縁組をするためには、次の条件をすべて満たす必要があります。

成人を養子にする場合
  1. ① 養親が20歳以上であること
  2. ② 養子は養親よりも年齢が下であること・尊属でないこと
  3. ③ 養親本人・養子本人がともに養子縁組に合意していること
  4. ④ 養親または養子に配偶者がいる場合、その配偶者が同意していること
  5. ⑤ 役所への届出をすること
未成年者を養子にする場合

未成年者(18歳未満)を養子にする場合、上の①〜⑤に加えて次の2つの条件を満たすことが必要です。

  1. ⑥ 配偶者がいる場合、配偶者とともに養子縁組をすること(夫婦共同養子縁組)
  2. ⑦ 家庭裁判所の許可(審判)を受けること

①養親が20歳以上であること

養親となる者は20歳以上であることが必要です。

成人を養子にする場合には、配偶者がいることは条件とされておらず、20歳以上であれば独身でも養子縁組をすることができます。

 

②養子は養親よりも年齢が下であること・尊属でないこと

養子となる者が養親となる者よりも年齢が上の場合、養子とすることはできません。

また、養子となる者が尊属(父母・祖父母・おじ・おばなど、自分よりも上の世代の親族のことをいいます。)である場合も養子にすることはできません。

 

③養親本人・養子本人がともに養子縁組に合意していること

養親となる者、養子となる者の両方が養子縁組をすることに合意していることが必要です。

養子となる者が15歳未満の場合には、養子の法定代理人(親権者や未成年後見人などです。)が、養子本人の代わりに養子縁組の合意をします。

 

④養親または養子に配偶者がいる場合、その配偶者が同意していること

養親となる者に配偶者(妻・夫)がいる場合、または養子となる者に配偶者がいる場合には、その配偶者が養子縁組に同意している必要があります。

成人を養子とする場合には配偶者の同意があればよく、配偶者とともに養子縁組をすることまでは必要ありません。

 

⑤役所への届出をすること

普通養子縁組は、養親と養子の本籍地または所在地の役所に養子縁組届を提出することによって成立します。

 

⑥配偶者がいる場合、配偶者とともに養子縁組をすること(夫婦共同養子縁組)

未成年者との間で普通養子縁組をする場合、養親となる者に配偶者がいるときは、配偶者とともに養子縁組をする必要があります。

これは未成年者の利益(福祉)のために必要とされる要件です。

 

⑦家庭裁判所の許可(審判)を受けること

未成年者との間で普通養子縁組をする場合、⑤市区町村への届出より前に、養子縁組に関する家庭裁判所の許可(審判)を受ける必要があります。

ただし、養子となる者が配偶者の子ども(連れ子)や孫である場合、または自分の孫である場合、家庭裁判所の許可は不要です。

 

特別養子縁組の条件

特別養子縁組をするためには、次の条件をすべて満たす必要があります。

特別養子縁組の条件
  1. ① 養親となる者が夫婦共同養子縁組をすること
  2. ② 養親となる者の一方が25歳以上、かつ、双方が20歳以上であること
  3. ③ 養子となる者が原則15歳未満であること
  4. ④ 養子となる者の実父母の同意があること(原則)
  5. ⑤ あらかじめ養親となる者が養子となる者を6ヶ月以上監護すること
  6. ⑥ 養子となる子どもの利益のために特に必要があること
  7. ⑦ 家庭裁判所の許可(審判)を受けること

①養親となる者が夫婦共同養子縁組をすること

普通養子縁組の場合とは異なり、特別養子縁組の場合には養親となる者が結婚していること(配偶者がいること)が必須であり、かつ、夫婦ともに養子縁組をすることが必要です。

これは、特別養子縁組が子どもの福祉のために、実親子の関係と同じような関係を築くことを目的とする制度だからです。

 

②養親となる夫婦の一方が25歳以上、かつ、双方が20歳以上であること

養親となる夫婦のどちらか一方は25歳以上であることが必要です。

また、25歳未満のもう一方は20歳以上であることが必要です。

 

③養子となる者が原則15歳未満であること

養子となる者は、原則として、家庭裁判所の審判を申し立てたときに15歳未満であることが必要です。

 

④養子となる者の実父母の同意があること

特別養子縁組が成立すると、養子となる者と実父母との法律上の親子関係がなくなるため、原則として、特別養子縁組について養子となる者の実父母の同意が必要です。

ただし、実父母が意志を示すことができない状態にあるとき(例えば、昏睡状態、行方不明など)や、養子となる者の利益が著しく害されるとき(例えば、実父母による虐待やネグレクトがある場合など)は、この同意は不要とされています。

 

⑤あらかじめ養親となる者が養子となる者を6ヶ月以上監護すること

養親となる人は、あらかじめ養子となる子どもをあらかじめ6か月以上監護することが必要です。

 

⑥養子となる子どもの利益のために特に必要があること

特別養子縁組は、実父母との親子関係を終わらせて養親に育てられることが養子となる子どもにとって特に必要である場合に限って認められます。

具体的には、実父母による虐待やネグレクトがある場合、実父母が著しく偏った教育をしてる場合など、客観的に見て実父母が子どもを育てることが著しく難しい場合がこれにあたります。

 

⑦家庭裁判所の許可(審判)を受けること

特別養子縁組は、家庭裁判所の審判によって成立します。

特別養子縁組の場合、家庭裁判所の審判は(1)特別養子適格の確認の審判、(2)特別養子縁組の成立の審判、という2段階で行われます(それぞれの審判の内容については後ほど解説します)。

 

 

養子縁組の手続き

手続きの流れ

普通養子縁組の手続き

普通養子縁組の手続きの流れは、次の図のとおりです。

普通養子縁組の手続きの流れ

普通養子縁組の手続きは、基本的には、

①当事者(養親と養子)の合意 

③届出

という2つのステップで完了します。

ただし、養子が未成年者(18歳未満)の場合、これに加えて②家庭裁判所の許可を得る必要があります。

①当事者の合意

まずは、養親と養子(当事者)の間で、養子縁組をすることについての合意をすることが必要です。

養子が15歳未満の場合、養親は養子の法定代理人との間で合意をします。

また、養親または養子に配偶者がいる場合には、原則として配偶者の同意が必要です。

②家庭裁判所の許可(未成年者を養子にする場合)

未成年者を養子にする場合には、家庭裁判所の許可(養子縁組の許可審判)を得る必要があります。

家庭裁判所は養子となる未成年者を保護するために、養子縁組の目的や縁組後の生活基盤などを調査して、縁組みを許可しても未成年者にとって問題がないかどうかを判断します。

なお、養子が配偶者の子ども(いわゆる連れ子)や養親の孫である場合、家庭裁判所の許可は不要です。

③届出

養子縁組届に必要事項を記載し、必要書類を添えて養親と養子の本籍地または所在地の役所へ提出します。

養子縁組の届出が完了すると、普通養子縁組が成立します。

 

特別養子縁組の手続き

特別養子縁組は子どもの利益(福祉)を目的として実親と養子との親子関係を終了させるという強い効果をもたらすことから、裁判所の許可(審判)を受けることが必要です。

特別養子縁組の手続きでは、家庭裁判所による判断(審判)は2段階に分けて行われます。

特別養子縁組の手続きの流れ

①養親による申立て

養親となる者は家庭裁判所に対して、(1)特別養子適格の確認の審判(2)特別養子縁組成立の審判を同時に申し立てます。

②家庭裁判所による調査

養親となる者への意志確認や調査、養子縁組をあっせんした機関に対する調査や意見の聴き取りなどを行います。

③特別養子適格の審判

家庭裁判所は調査結果をもとに、申立てのあった養子縁組について監護期間以外の条件を満たしているか(子どものために特別養子縁組を認めるべきかどうか)を判断します。

④6ヶ月以上の監護期間

③の審判によって特別養子適格が認められた後、養親となる者が養子となる者を6ヶ月以上試験養育することが必要です。

この期間は、養親となる者の能力や養子となる者との相性などを判断するために必要とされます。

⑤特別養子縁組成立の審判

家庭裁判所は監護期間での養育状況をふまえて、特別養子縁組を成立させるかどうかを判断します。

家庭裁判所が特別養子縁組の成立を認める判断(審判)をしたときは、特別養子縁組が成立します。

なお、普通養子縁組は届出をすることによって成立します(裁判所の許可だけでは成立しません)。

⑥特別養子縁組の届出

養父母は、特別養子縁組成立の審判がなされてから10日以内に、養親と養子の本籍地または所在地の役所に特別養子縁組の届出をします。

 

必要書類

普通養子縁組の必要書類

届出の必要書類

普通養子縁組の必要書類は、次のとおりです。

ア 養子縁組届出書

イ 本人確認書類(運転免許証、パスポート等)

ウ 養親・養子の戸籍全部事項証明書(戸籍謄本)

※養親・養子の本籍地の市区町村役場に届出をする場合には、不要となることがあります。

エ 家庭裁判所の審判書謄本(未成年者を養子にするとき)

養子縁組許可審判の必要書類

未成年者を養子にする場合、家庭裁判所に次の書類を提出して審判を申し立てることが必要です。

ア 申立書

イ 養親の戸籍全部事項証明書(戸籍謄本)

ウ 未成年者(養子)の戸籍全部事項証明書(戸籍謄本)

エ 未成年者が15歳未満の場合、法定代理人の戸籍全部事項証明書(戸籍謄本)

 

特別養子縁組の必要書類

審判申立ての必要書類

特別養子縁組の申立てに関する必要書類は、次のとおりです。

※同じ内容の書類は1部あれば足ります。

(1) 特別養子適格の確認の申立て

ア 申立書

イ 養子の戸籍全部事項証明書(戸籍謄本)

ウ 養子の実父母の戸籍全部事項証明書(戸籍謄本)

(2) 特別養子縁組成立の申立て

ア 申立書

イ 養親の戸籍全部事項証明書(戸籍謄本)

届出の必要書類

特別養子縁組の届出に関する必要書類は、次のとおりです。

ア 特別養子縁組届

イ 特別養子縁組の審判書の写し(謄本)・確定証明書

ウ 養親・養子の戸籍全部事項証明書(戸籍謄本)

※養親・養子の本籍地の市区町村役場に届出をする場合には、不要となることがあります。

戸籍謄本の取り方について詳しくはこちら

 

養子縁組にかかる費用

普通養子縁組の場合

普通養子縁組にかかる費用は、0円〜数千円程度です。

成人を養子にする場合、家庭裁判所の審判の費用はかかりません。

さらに、養親・養子の本籍地の市区町村役場に届出をする場合には戸籍謄本の提出が不要となる場合があり、この場合の費用は0円です。

未成年を養子にする場合、家庭裁判所の許可(審判)を受けるための費用(収入印紙、郵便切手代)がかかります。

必要なもの 費用
戸籍全部事項証明書(戸籍謄本) 450円 / 通
審判申立ての費用(収入印紙)
※未成年を養子にする場合の審判費用
800円 / 養子1人あたり
連絡用の郵便切手
※未成年を養子にする場合の審判費用
1000円前後

 

特別養子縁組の場合

特別養子縁組の場合、家庭裁判所に審判の申立てを行う必要があり、1万数千円程度の費用がかかります。

費用の内訳は次のとおりです。

必要なもの 費用
戸籍全部事項証明書(戸籍謄本) 450円 / 通
審判申立ての費用(収入印紙) 800円 / 養子1人あたり
連絡用の郵便切手(※) 5000円〜1万円前後

※一定金額分の郵便切手をあらかじめ家庭裁判所に納めておく必要があります。

手続きの終了後、余った郵便切手は返還されます。

 

 

養子縁組のメリットとデメリット

養子縁組には次のようなメリットとデメリットがあります。

メリット デメリット
  • 相続人以外に遺産を相続させることができる
  • 相続税の基礎控除額が増える
  • 生命保険金・死亡退職金の非課税枠が増える
  • 親子関係の発生にともなう権利・義務が発生する
  • 相続トラブルの原因になる可能性がある
  • 孫を養子にする場合、相続税額が2割加算される

 

養子縁組のメリット

相続人以外に遺産を相続させることができる

遺産を相続することができる人(相続人)の範囲は法律(民法)によって配偶者(妻・夫)、子ども、親や祖父母など、兄弟姉妹と決められており、それ以外の人(例えば、配偶者の子ども、自分の子どもの配偶者、孫など)は、基本的に遺産を「相続」することができません。

相続人にあたらない人と養子縁組をすることによって、遺産を相続させることができるようになります(養子は「被相続人の子」として相続人にあたります)。

相続人の範囲について詳しくはこちら

 

相続税の基礎控除額が増える

相続税の「基礎控除額」とは、相続税の計算で使われる非課税枠(税金がかからない金額の枠)のことです。

基礎控除額は、次の式によって計算されるため、法定相続人の人数が多くなるほど増えます。

基礎控除額 = 3000万円 + 600万円 × 相続人の数

養子は「被相続人の子」として相続人にあたるため、養子縁組をすることで基礎控除額が増える場合があります。

例えば、相続税の対象となる遺産が1置円、相続人が2名(配偶者1名、実子1名)のケースでは、基礎控除額は4200万円(計算式:3000万円 + 600万円 × 2 = 4200万円)です。

これに対して、相続人が3名(配偶者1名、実子1名、養子1名)のケースでは、基礎控除額は4800万円(計算式:3000万円 + 600万円 × 3 = 4800万円)となり、相続税のかからない基礎控除額が600万円増えるため、節税することができます。

ただし、第2順位や第3順位の人が相続人となる場合(例えば、第3順位の兄弟姉妹4人が相続人となる場合の基礎控除額は5400万円)には、養子縁組をすることでかえって基礎控除額が減る可能性があるため、注意が必要です。

 

生命保険金・死亡退職金の非課税枠が増える

養親が亡くなった場合の生命保険金(死亡保険金)や死亡退職金は、その受取人の財産となり、遺産に含まれないものの、相続税の課税対象になります。

もっとも、生命保険金や死亡退職金には基礎控除とは別に、次の計算式によって算定される非課税枠があります。

非課税枠 = 500万円 × 相続人の数

養子は「被相続人の子」として相続人にあたるため、基礎控除の場合と同様に、養子縁組をすることで非課税枠を増やせる可能性があります。

ただし、基礎控除額の場合と同じく、養子縁組によってかえって非課税枠が減る場合もあるため、注意が必要です。

 

養子縁組のデメリット

親子関係の発生にともなう義務が発生する

養子縁組をすると、養親と養子との間には法律上の親子関係が発生し、養親には扶養義務などの義務(負担)が発生します。

 

相続トラブルの原因になる可能性がある

養親となる者に法定相続人(実子や親、兄弟姉妹など)がいる場合、養子縁組によって養子という法定相続人が増えることで、元から法定相続人だった者の遺産の取り分が減る可能性があります。

そのため、養子縁組をすることによって、養子と他の法定相続人との間で相続トラブルとなるというケースが少なくありません。

 

孫を養子にする場合、相続税額が2割加算される

孫を養子にする場合には、相続税額が2割加算されます。

特に、節税を目的として孫を養子にする場合には、かえって相続税が増える可能性があることから、慎重に判断することが必要です。

 

 

養子縁組で困らない3つのポイント

養子縁組で困らない3つのポイント

事前に関係者と相談する

養子となる者以外に養親の相続人となる者がいる場合(特に実子がいる場合)など、養子縁組によって影響を受ける関係者がいる場合には、事前に相談をすることをおすすめします。

事前に何の相談もなく養子縁組をすることで関係者が疑心暗鬼になってしまい、後々養子に対して「遺産目当てで養親を言いくるめたのでは」などの非難が浴びせられ、遺産をめぐる相続トラブルなどにつながるケースがあります。

養親となる者が養子縁組をする理由や思いを事前に関係者に伝えることで、こうしたトラブル防ぐことにつながります。

 

相続税について確認する

純粋な節税目的のみで養子縁組を行う場合には、そもそも養子縁組自体が認められない(否定される)可能性があります。

また、節税効果を期待していたにもかかわらず、かえって税金の負担が重くなってしまうケースや期待したような節税効果が得られないケースもあります。

養子縁組をする場合には、相続税の負担についてよく確認することが大切です。

 

専門の弁護士に相談する

養子縁組でのトラブルを避けるためには、事前に養子縁組を専門とする弁護士に相談することをおすすめします。

養子縁組を専門とする弁護士であれば、養子縁組の方法や必要書類などのほか、養子縁組のトラブルを防ぐためのポイントや、相続税との関係についても適切なアドバイスをもらえることが期待できます。

弁護士にはそれぞれ専門分野があり、養子縁組は高度の専門知識を必要とする分野のひとつですので、養子縁組を専門とする弁護士に相談することが大切です。

 

 

養子縁組のよくあるQ&A

養子縁組できる子どもは何歳までですか?


普通養子縁組の場合には、「◯歳未満」という一律の年齢制限はありません。

ただし、養子となる子どもの年齢が養親となる人の年齢よりも下であることや、尊属でないことが必要です。

これに対して、特別養子縁組の場合には、養子縁組できる子どもの年齢は14歳まで(15歳未満)という制限があります。

 

養子縁組は大人同士でもできる?


普通養子縁組であれば、大人同士でもすることができます。

ただし、上で説明したとおり、養親よりも養子となる人の年齢より下であることや、養子となる人が養親となる人の尊属にあたらないことが必要です。

 

養子縁組を解消できる?


養子縁組は解消できる場合があります。

養子縁組を解消することを「離縁(りえん)」といいます。

離縁の可否やその方法は、養子縁組の種類が普通養子縁組か、特別養子縁組か、によって異なります。

普通養子縁組の場合

普通養子縁組を解消する方法には、

  1. ① 協議離縁
  2. ② 調停離縁
  3. ③ 審判離縁
  4. ④ 裁判離縁

の4つの方法があります。

基本的には、①協議離縁 → ②調停離縁 → (③審判離縁)→ ④裁判離縁と段階を踏んで行います。

①協議離縁

普通養子縁組の場合、当事者同士の話し合い(協議)で養子縁組を解消することができます(協議離縁)。

養子が15歳未満の場合には、離縁後に養子の法定代理人となる者が養子の代わりに話し合いをします。

話し合い(協議)がまとまったら、「協議離縁届」を作成して役所に提出することで、離縁が成立します。

②調停離縁

当事者の話し合いがまとまらない場合や相手が話し合いに応じてくれない場合には、家庭裁判所に離縁の調停を申し立てることが考えられます。

「調停」とは、家庭裁判所の調停委員が当事者の間に入って、養子縁組の解消に向けた当事者間の合意をめざす手続きです。

当事者が離縁に合意できた場合には調停が成立し、家庭裁判所によって「調停調書」が作成されます。

当事者は調書の写し(謄本)をもらい、調停の成立から10日以内に離縁届と一緒に役所に提出します。

当事者が合意できない場合、調停は不成立に終わります。

③審判離縁

調停が成立しかけたところで相手が突然調停に来なくなってしまった場合や、もう少しのところで調停がまとまらなかった場合などには、家庭裁判所の判断で結論を下すことができます(これを「審判」といいます)。

離縁を認める審判が確定した場合、当事者は審判の内容を記載した「審判書」の写し(謄本)をもらい、審判の確定から10日以内に離縁届と一緒に役所に提出します。

④裁判離縁

離縁の裁判(離縁訴訟)をしたい場合でも、裁判(訴訟)をいきなり行うことはできません。

基本的には裁判(訴訟)を提起する前に調停を行う必要があり、調停がまとまらなかった場合にはじめて、家庭裁判所に離縁訴訟を提起することができます。

離縁を認める判決が確定した場合には、当事者は「判決書」の写し(謄本)をもらい、判決の確定した日から10日以内に離縁届と一緒に役所に提出します。

 

特別養子縁組の場合

特別養子縁組の場合、原則として離縁をすることはできません。

法律で定められた要件を満たす場合に限り、例外的に家庭裁判所の許可(審判)を得て離縁することができます。

特別養子縁組において離縁が認められるのは、次の3つの要件をすべて満たすような例外的な場合に限られます。

  1. ① 養親による虐待など、養子の利益を著しく害する事情があること
  2. ② 実父母による相当な監護ができること
  3. ③ 養子の利益のために特に必要があること

 

 

まとめ

  • 養子縁組とは、血のつながりのない子どもとの間に法律上の親子関係を作り出す制度のことをいいます。
  • 養子縁組によって法律上の親子関係が作られると、養子が養親の相続人となる効果や、未成年の養子に対する養親の親権が発生する効果、養親と養子がお互いに扶助義務を負う効果などが発生します。
  • 養子縁組には普通養子縁組と特別養子縁組の2つがあり、養子縁組の条件や手続きなどが異なります。
  • 養子縁組にはメリットだけでなく、相続トラブルにつながるなどのデメリットもあるため、事前によくメリットとデメリットを比較することが大切です。
  • 養子縁組をめぐるトラブルを避けるためには、養子縁組を専門とする弁護士に相談するのがおすすめです。

当事務所には養子縁組を専門とする弁護士が在籍しており、養子縁組で困らないためのアドバイスをはじめ、万一相続トラブルなどが発生した場合のご相談にも対応しております。

ぜひお気軽にご相談ください。

 


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