遺言書を無効にできる?条件から手続きまで完全ガイド


弁護士法人デイライト法律事務所 代表弁護士保有資格 / 弁護士・税理士・MBA


「遺言書の内容が不公平」「本当に本人の意思なのか疑問がある」という場合、遺言書を無効にできるのか気になる方は多いことでしょう。

遺言書は、法律で定められたルールを満たしていない場合や作成状況に問題がある場合、無効と判断される可能性があります。

本記事では、遺言書が無効となる5つの条件、具体的な裁判例、無効を主張する手続きや費用まで、相続問題に詳しい弁護士がわかりやすく解説します。

遺言書を無効にできる?

遺言書が無効となる条件と事例

遺言書が無効となる主なケースは、次の5つです。

遺言書が無効となる条件

 

法定の方式を満たしていない場合(方式違反)

遺言書は法律で定められた方式を満たさなければ無効です(民法第960条)。

例えば、自筆証書遺言は次のような方式を満たす必要があります(民法第968条第1項)。

参考:民法|eーGOV法令検索

  • 遺言の作成者(遺言者)本人が遺言書の全文を自筆していること
  • 遺言者本人が正しい日付を自筆すること
  • 遺言者本人が氏名を自筆し押印すること

1つでも方式を満たしていない場合、その自筆証書遺言は無効です。

例えば、パソコンで作成した本文に氏名だけ自署した場合や、日付が「令和〇年〇月吉日」と曖昧な場合、押印がない場合などには、無効と判断されます。

また、偽造された遺言書は、本人が作成していないため当然に無効です。

 

遺言能力がない人によって作成された場合

有効な遺言書を作成するには遺言能力が必要であり(民法第963条)、遺言能力のない人が作成した遺言書は無効です。

遺言能力が認められるためには、15歳以上であり、かつ、作成する遺言書の内容やこれによってもたらされる結果を理解して判断できる能力(意思能力)があることが必要です。

以下のような場合には遺言能力が否定され、遺言書が無効とされることがあります。

  • 遺言者が作成時に15歳未満だった場合(遺言書は無効)
  • 遺言者が作成時に重度の認知症で判断能力が著しく低下していた場合
  • 遺言者が意識障害のある状態で作成された場合

 

 

錯誤(さくご)・強迫・詐欺によって作成された場合

遺言者の重大な勘違い(錯誤)によって作成された遺言書や、遺言者が脅されたり(強迫)、騙されたり(詐欺)したことによって作成された遺言書は、無効と判断されることがあります。

例えば、次のような事情がある場合には、遺言書は遺言者の真意に基づかずに作成されているため、遺言書が無効とされる場合があります。

  • 遺言者が「Aに相続させる」と記載するつもりで誤って「Bに相続させる」と記載した場合
  • 遺言者が特定の相続人から脅されて、その相続人に有利な内容の遺言書を作成した場合
  • 遺言者が特定の相続人から嘘の情報を告げられて、他の相続人に不利な内容の遺言書を作成した場合

 

内容が公序良俗に反する場合

遺言書の内容が公序良俗に反する場合(民法第90条)は無効です。

公序良俗(こうじょりょうぞく)とは、社会の秩序や一般的な道徳観念のことです。

例えば、犯罪行為の強要や売春・愛人契約、違法な賭博・個人の自由に対する極端な制限等を内容とする遺言書は、公序良俗に反するものであり無効です。

公序良俗との関係では、いわゆる不倫相手に遺産を取得させる遺言書の無効が争われることがあります。

不倫相手に遺産を取得させる内容の遺言書は常に無効とされるわけではありません。

裁判所は、不倫関係を維持・継続する目的かどうか、他の相続人の生活を脅かさないかどうか、などの事情を総合的に考慮した上で、遺言書を無効とするかどうかを判断しています。

 

後見人が利益を受ける内容の遺言書が作成された場合

遺言者が成年被後見人(判断能力が著しく低下しており、家庭裁判所の審判を受けて成年後見人のサポートを受けている人のことです)の場合で、成年後見人の利益となる内容の遺言書が作成されたときは、原則としてその遺言書は無効です(民法第966条)。

これは、成年後見人がその地位や影響力を利用して、判断能力の低下している被後見人に対して自分に有利な遺言書を作成させるという事態を防止するためです。

 

遺言書が無効となった裁判例

遺言書の無効が認められた裁判例をいくつか紹介します。

 

方式不備によって無効となった裁判例

自筆証書遺言の押印がなかったとして無効になった裁判例です。

判例【事案の概要】
遺言者Xによって作成された「家及び財産はAを家督相続人として◯◯家を継承させる」という内容を含む自筆証書遺言書には日付と氏名が自筆で記載されており、その下に花押(図案化された独自のサインのことで、毛筆などで書かれるもの)が書かれていたが、印鑑による押印はなかった。

最高裁判所は、「花押を書くことは、印章による押印と同視することはできない」として、この自筆証書遺言は押印の要件を満たさず無効であると判断しました(最高裁判所第二小法廷平成28年6月3日判決)。

参考:裁判例検索|最高裁判所

 

認知症の影響で遺言能力が否定され無効となった裁判例

公正証書遺言が重度の認知症等を理由として無効と判断された裁判例です。

判例【事案の概要】
遺言者Xは「全財産を妻乙に相続させる」という内容の自筆証書遺言を作成していたが、その後、妻の存命中に「甲の財産を妹丙に相続させ、丙を祭祀承継者及び遺言執行者とする」という内容の公正証書遺言を作成した。
Xの妻は、本件遺言当時、Xが重度のうつ病・認知症であったこと、高熱を出して不穏行動を繰り返し、重篤な肺炎に罹患し危機的状況にあったことなどから遺言能力がなかったとして、公正証書遺言の有効性を争った。

裁判所は、以下のような諸事情を総合的に考慮した上で、遺言者Xは作成時点で意思能力を備えておらず、遺言能力があったとはいえないとして、公正証書遺言を無効と判断しました(東京高等裁判所平成25年3月6日判決)。

  • 遺言者Xは本件公正証書の作成当時にうつ病と認知症に罹患しており、幻視幻聴、妄想等の問題行動があったほか、複数の薬を処方されており、判断能力が減弱した状態であったこと
  • 遺言者Xの妹は、Xに無断で公正証書遺言作成の直前に転院や自宅住所の変更、印鑑登録、公正証書遺言の作成手続き等を行っていたこと
  • Xの妻が存命であるにもかかわらず、妹に全財産を相続させるという遺言書を作成する合理的な理由がないこと

 

錯誤によって作成された遺言書が無効とされた裁判例

公正証書遺言が錯誤によって作成されたとして無効になった裁判例です。

判例 【事案の概要】
養護盲老人ホームHに入所していた全盲の遺言者Xは、「葬儀費用等を除いた財産全部を養護盲老人ホームHに包括遺贈する」という内容の公正証書遺言を作成した。
この遺言書には「知的障害者援護施設入所中の長女や病院に入院中の長男がお金を必要とする場合には、H園の園長はそのためのお金を私の寄付金から支出してほしい」という記載があったが、この記載は法的な強制力を持たない付言事項(ふげんじこう)であった。

裁判所は、長女や長男が養護盲老人ホームHにお金の支払いを求めてもHがこれに応じるかどうかは任意であること(付言事項には法的な強制力がないこと)を認識していれば遺言者Xは本件遺言をしなかった、としてXの錯誤を認め、遺言書を無効と判断しました(さいたま地方裁判所熊谷支部平成27年3月23日判決)。

 

 

遺言書が無効となったらどうなる?

遺言書が無効となった場合、その遺言書は最初から存在しなかったものとして扱われます。

 

別の有効な遺言書がある場合

遺言書は複数作成されていることがあります。

無効となった遺言書とは別に有効な遺言書がある場合、その遺言書の内容が優先されます。

 

別の有効な遺言書がない場合

ほかに有効な遺言書がない場合、相続人全員で話し合って遺産の分け方を決める(遺産分割協議)ことになります。

なお、すでに無効になった遺言書に基づいて財産が移転してしまっているケースもありえます。

例えば、無効な遺言書に従って預貯金の名義変更や払い戻しが済んでいる場合や、不動産の名義変更が行われてしまった場合などです。

このような場合には、不当利得返還請求等による元の状態の回復を検討することになります。

 

 

遺言書を無効にしたい場合の手続き

遺言書を無効にする手続きの流れ

遺言書を無効にする手続きの流れは次のとおりです。

遺言書を無効にする手続きの流れ

 

遺言書無効の交渉(遺産分割協議)

まずは、相続人同士で遺言書の有効性について話し合います。

例えば、遺言書の形式不備や、遺言書作成時に遺言者が認知症であったこと(遺言能力がなかったこと)などを具体的に指摘して、遺言書が無効であることを前提に遺産分割協議を行うことを目指します。

調停や訴訟を利用する場合は解決までに多大な時間と労力を要する傾向にあります。

そのため、まずは相続人同士の話し合い(交渉)による解決を目指すのがおすすめです。

当事者だけでの解決が難しい場合には、相続に強い弁護士への交渉の代理の依頼も検討してみましょう。

 

遺言無効確認の調停

当事者同士の交渉で解決できない場合は、家庭裁判所に遺言無効確認の調停(遺言書が無効であることを確認するための調停)を申し立てます。

申立先は、遺言書が有効であると主張する相続人のうち1人の住所地を管轄する家庭裁判所です。

調停では、家庭裁判所の「調停委員」が当事者の間に入って意見の調整を行い、合意による解決を目指します。

遺言書の有効・無効などの家族間のトラブルに関する事件については、原則としていきなり訴訟を提起するのではなく、まずは調停の申立てをしなければならないとされています(調停前置主義)。

もっとも、遺言書の無効を争う場合には、実務上、調停を経ることなくいきなり訴訟を提起し、裁判所がそのまま訴訟による解決を認めるケースも多く見られます。

遺言書の無効をめぐるトラブルでは意見が真っ向から対立し、調停による解決が見込めない(訴訟のほうが適している)と判断されやすいためです。

 

遺言無効確認請求訴訟

調停が成立しない場合、最終的には遺言書無効確認請求訴訟(遺言書が無効であることの確認を求める訴訟)によって解決することになります。

訴訟の管轄は、被告(遺言書の有効性を主張する相続人)のうち1人の住所地、または相続開始時の被相続人の住所地、のいずれかを管轄する地方裁判所または簡易裁判所です。

遺言書が無効になることによって得られる利益の額(訴額)が140万円以下の場合は、簡易裁判所の管轄となります。

訴訟では、「遺言書が法律上無効かどうか」を裁判所が判断します。

裁判所は当事者の主張のほか、客観的な証拠をもとに判断を行います。

 

遺言書を無効にするための証拠

遺言書を無効にするための証拠は、どのような理由で無効を主張するかによって異なります。

遺言書の内容による無効を主張する場合には、遺言書それ自体が証拠となります。

方式違反や偽造による無効を主張する場合には、これに加えて筆跡鑑定書などが証拠になります。

遺言者が作成当時に遺言能力がなかったこと(特に認知症の影響)を主張する場合には、次のようなものが証拠になります。

  • 診断書・カルテ
  • 介護記録、要介護認定資料
  • 認知症の症状を記した家族の日記
  • 遺言作成時の状況に関する証言
  • 録音・録画データ

認知症の影響により遺言能力がなかったことを主張する場合には、医学的な資料の重要性が高まります。

また、これらのような物的証拠のほかに、遺言書作成前後の遺言者の様子などを目撃していた人が証人として裁判所で証言する場合もあり、この場合にはその証言が証拠となります。

 

遺言書の無効申立ての時効

遺言書の無効の申立て(調停・訴訟)自体についての時効はありません。

しかし、時間が経つほど証拠収集が難しくなることから、できるだけ早く申立てを行うことが大切です。

また、遺言書の無効に関連する請求については時効がある場合もあるため、注意が必要です。

例えば、無効な遺言書に基づいて預貯金の払い戻しが行われてしまっているケースでは、遺言書の無効を主張するのとあわせて不当利得返還請求を行う必要があります。

この不当利得返還請求には「請求できることを知ったときから5年以内」という時効があります。

さらに、遺言書の無効が主張されるケースでは、あわせて遺留分侵害額請求(次の項目で詳しく解説します。)が行われるケースが少なくありません。

遺留分侵害額請求には「相続開始および遺留分侵害を知った時から1年以内」という時効があります。

請求の種類 時効
遺言書の無効確認請求 時効なし
不当利得返還請求 請求できることを知ったときから5年以内
遺留分侵害額請求 相続開始および遺留分侵害を知った時から1年以内

 

遺留分侵害額請求の意思表示について

仮に遺言書が有効であったとしても、遺言書の内容が遺留分(いりゅうぶん)を侵害している場合、遺留分を侵害された相続人は「遺留分侵害額請求」をすることができます。

遺留分とは、相続人のうち、配偶者・子・両親・祖父母等に対して法律上保障されている遺産の最低限の取り分のことで、遺言書によってもこれを奪うことはできません。

遺留分侵害額請求には時効があり、相続開始および遺留分侵害を知った時から1年以内に、侵害の原因となっている相手(例えば、遺言書によって全財産を譲り受けた人)に対して行う必要があります。

遺留分侵害額請求の意思表示は口頭で行っても有効です。

ただし、後に「言った」「言わない」をめぐるトラブルになるリスクがあることから、請求の客観的な証拠を残すために内容証明郵便を利用して請求するのが一般的です。

遺言書の無効が問題となるケースでは、同時に遺留分の侵害が問題となるケースも少なくありません。

そのため、仮に遺言書が有効と判断された場合に備えて、予備的に遺留分の請求を行っておくことが大切です。

 

 

遺言書を無効にするための費用

遺言書を無効にするための費用は大きく、①証拠の収集にかかる費用、②裁判所を利用する場合の費用、③弁護士を利用する場合の費用、の3つに分けられます。

 

証拠の収集にかかる費用

交渉・調停・訴訟のどの方法によって無効を主張する場合であっても、遺言書の無効を裏付ける客観的な証拠を収集することが大切です。

収集する証拠によって、例えば次のような費用がかかります。

  • 診断書・カルテの取得費用:数千円〜数万円
  • 医師の意見書(請求裁判用):数万円〜数十万円
  • 筆跡鑑定費用
    簡易鑑定:1万円〜数万円
    裁判所提出用:数十万円

これらはあくまで目安であり、個々の状況によって費用は異なります。

 

裁判所を利用する場合の費用

裁判所の調停や訴訟を利用する場合には、裁判所に支払う手数料(収入印紙代)や郵便切手代、必要書類の取得費用がかかります。

 

調停の費用

手数料(収入印紙代)

家庭裁判所に調停を申し立てるための手数料として、収入印紙で1200円を納める必要があります。

 

郵便切手代

申立人と裁判所・相手方(他の相続人)との間の郵送による書類のやり取りにかかる郵便切手代を事前に納める必要があります。

相続人の数によって必要な郵便切手代は異なりますが、数千円〜1万円程度が相場です。

 

必要書類(戸籍謄本等)の取得費用

調停の申立てを行う際には、裁判所に戸籍謄本(戸籍全部事項証明書)や住民票等の必要書類を提出する必要があります。

取得には以下のような手数料がかかります。

戸籍謄本 450円/通
除籍謄本 750円/通
改製原戸籍謄本 750円/通
住民票 300円/通

※各市区町村によって、また、書類の取得方法によって、料金は異なる場合があります。

相続人の数や相続関係の複雑さによって取得する通数は異なりますが、数千円〜1万円程度が相場です。

 

訴訟の費用

手数料(収入印紙代)

裁判所に訴訟を申し立てるための手数料の金額は、遺言書が無効になることによって得られる利益の額(訴額)によって異なります。

訴額に応じた手数料の金額は、裁判所が公表している手数料早見表の「訴えの提起」欄で確認できます。

例えば、遺言書が無効になることによって得られる利益(訴額)が1000万円の場合には、5万円分の収入印紙を納付する必要があります。

ただし、具体的な訴額の計算方法は遺言書の内容によって異なるため、事前に相続に詳しい弁護士や裁判所に確認されることをおすすめします。

参考:手数料早見表

 

郵便切手代:数千円〜1万円程度

相続人の数によって必要な郵便切手代は異なりますが、数千円〜1万円程度が相場です。

 

必要書類(戸籍謄本等)の取得費用:数千円〜1万円程度

訴訟を提起する際には、裁判所に戸籍謄本(戸籍全部事項証明書)や住民票等の必要書類を提出する必要があります。

個々の状況によって必要な通数は異なりますが、数千円〜1万円程度が相場です。

 

弁護士を利用する場合の費用

遺言書の無効を主張するための交渉や調停、訴訟を弁護士に依頼する場合には、弁護士費用(法律相談料・着手金・成功報酬・日当等)がかかります。

弁護士費用は一律に決まっておらず、各弁護士が自由に決めることができます。

 

法律相談料

法律相談料は、正式に弁護士に依頼する前の相談をする際にかかる料金です。

法律相談料の相場は1時間あたり5000円〜1万円程度です。

遺言書を含む相続関係の相談については、初回相談を無料とする弁護士も多く存在します。

 

着手金

弁護士に案件を依頼する段階で支払う費用(前金)です。

望む結果が得られたかどうかにかかわらず、返還されることはありません。

着手金の相場は以下のとおりですが、事案の難易度(認知症の有無や証拠の複雑さなど)など個々の事情によって金額は変動します。

  • 交渉の代理:20万円〜30万円程度
  • 調停:30万円〜50万円程度
  • 訴訟:30万円〜50万円程度

 

成功報酬

成功報酬は、案件が終了したときに、その結果(成果)に応じて支払う弁護士費用です。

成功報酬の相場は、得られた利益の10%〜20%程度(最低報酬30万円〜50万円程度)が相場です。

交渉の代理や調停については金額が若干低く設定されている場合もあります。

弁護士費用の設定は個々の弁護士によって、また事案の難易度によって幅がありますので、必ず事前に見積もりをもらって確認するようにしましょう。

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遺言書の無効を主張する場合のポイント

ここでは、遺言書の無効を主張する場合に、実務上特に重要となるポイントを解説します。

 

まずは話し合いによる解決を目指す

遺言書の無効を主張する場合、まずは話し合い(交渉)による解決を目指すことを強くおすすめします。

話し合いでの解決ができなければ最終的に調停や訴訟によって解決するほかありませんが、裁判所を介した手続きは、解決までに多くの時間と労力がかかる傾向にあります。

例えば、訴訟を提起した場合、第一審の判決が出るまでに1年〜2年程度かかるのが一般的です。

控訴された場合は、上記に加えて半年〜1年程度、上告された場合は半年程度の期間を要します。

また、通常は訴訟提起の準備にも数ヶ月程度かかります。

したがって、できるだけ話し合い(交渉)による解決を目指すことが大切です。

法律の専門家である弁護士に話し合い(交渉)の代理を依頼することによって解決が早まる場合もあります。

状況に応じて、相続に強い弁護士への依頼を検討してみるとよいでしょう。

 

無効の理由を明確に特定する

遺言書が無効であると主張する理由・原因を明確に特定して伝えることも大切です。

すでに解説したように、遺言書が無効となる条件には、①方式違反、②遺言能力の欠如(認知症など)、③錯誤・強迫・詐欺による作成、④後見人が利益を受ける内容、⑤公序良俗違反、など様々なものがあります。

これらのうち何を主張するかによって、争点や必要となる証拠が大きく変わります。

 

客観的な証拠を収集する

遺言書の無効を立証するには、無効を裏付ける客観的な証拠の収集が重要です。

特に、遺言能力がないことを理由とする無効を主張する場合には、診断書やカルテ、介護記録、要介護認定資料などの医学的な資料の提出が結果を大きく左右します。

客観的な証拠は時間の経過とともに入手が難しくなるケースが少なくないため、早めに収集することが大切です。

 

感情的対立をコントロールする

遺言書の無効をめぐる争いは、家族間の感情的な対立が激化しやすく、これによって争いが長期化しやすい傾向にあります。

しかし、感情的な主張は法的判断にはほとんど影響しません。

むしろ、合理的な主張を行い、冷静に証拠を積み上げることが有利な結果につながります。

早い段階で法律の専門家である弁護士を介入させることで、無用な対立を避けられる場合もあります。

 

遺留分侵害額請求との関係も検討する

遺言書の無効を主張する場合には、遺留分の侵害が発生しているケースも少なくありません。

このような場合には、遺留分侵害額請求との関係も十分に検討しておくことが大切です。

遺言書全体を無効にするのは立証のハードルが高く時間もかかる一方で、遺留分の侵害は客観的に判断されるため立証のハードルはそれほど高くない傾向にあります。

事案によっては無効の主張にこだわらず、遺留分侵害額の請求による解決を選択する方が合理的な場合もあります。

また、遺留分侵害額請求には1年の時効があるため、遺言書の無効をメインで主張する場合でも、予備的に遺留分の主張をしておくようにしましょう。

 

相続に強い弁護士に依頼する

遺言書の無効を主張する場合には、相続に強い弁護士に依頼することを強くおすすめします。

遺言書の有効・無効の判断にあたっては、科学的・医学的な観点が考慮されますが、最終的に法律的な観点から判断されます。

相続に強い弁護士であれば、認められやすい無効の主張の組み立てや、必要な証拠の見極めと収集、相続人とのトラブルを早期に解決するための戦略等について、専門知識と経験に基づいて適切なアドバイスをもらえることが期待できます。

弁護士にもそれぞれの専門分野があるため、相続に強い弁護士を選ぶことが重要です。

 

 

遺言書の無効についてのQ&A

全財産を1人に遺すと書かれた遺言書は無効か?


全財産を相続人の1人に遺すと書かれた遺言書は、他に無効となる条件(方式違反や遺言能力の問題など)がない限り、その内容によって無効になることはありません。

全財産を特定の1人だけに取得させる場合、他の相続人の遺留分(法律で保障された遺産の最低限の取り分)を侵害することとなるケースがあります。

しかし、遺留分を侵害する内容の遺言書も有効です。

遺言書の制度は、被相続人の最期の意思を最大限尊重するための制度だからです。

ただし、遺留分を侵害された相続人は、全財産を譲り受けることによって遺留分を侵害している人に対して、「遺留分侵害額請求」を行うことができます。

 

遺言書無効確認は難しい?訴訟の勝率は?


一般的に、遺言の無効が認められるためのハードルは高いといわれています。

もっとも、実際にはそれぞれの事案によって難易度や勝率はケースバイケースというほかありません。

公正証書遺言は公証人によって作成されるため、無効になるケースはかなり稀です。

自筆証書遺言について保管制度を利用しないケースでは、形式不備(一部がパソコンで作成されている、日付の記載がない、署名または押印がない等)を理由に無効とされるケースが一定程度あります。

遺言能力の欠如(認知症等)を理由に遺言書の無効を主張するケースでは、どのような証拠があるかによって結果が大きく左右されます。

例えば、遺言書作成の前後で認知症が悪化しており、継続的に判断能力がほとんどない状態にあったことを裏付けるカルテや診断書等がある場合には、無効が認められやすいといえます。

これに対して、医学的な証拠がなく、遺言書作成時点での認知症の程度に関する判断が人によって異なる場合には、無効が認められにくい傾向にあります。

このように、遺言の無効確認訴訟の勝敗は無効の原因や事案ごとの証拠関係に大きく左右されるため、難易度や勝率はケースバイケースです。

訴訟提起を検討する場合には、事前に相続に強い弁護士に相談して見通しを確認されることをおすすめします。

 

遺言書を開封したら無効となるの?


遺言書を開封しても無効にはなりません。

封印のある自筆証書遺言(保管制度を利用しない場合)や秘密証書遺言は、家庭裁判所での「検認(けんにん)」手続きを経る前に開封することはできないとされています(民法第1004条第3項)。

しかし、開封したことによって遺言書が無効になることはありません。

ただし、検認をせずに開封した場合には、5万円以下の過料の対象となる可能性があります(民法第1005条)。

また、遺言書の偽造を疑われるなどしてトラブルに発展する可能性もあります。

遺言書を発見した場合はすみやかに家庭裁判所で検認の手続きを行うことが大切です。

 

遺言書が有効か無効かは誰が判断するの?


最終的には訴訟において裁判所が判断します。

遺言書が無効とされるのは、

  1. ① 相続人同士の話し合い(交渉)の結果、相続人全員が遺言書を無効とすることに合意した場合
  2. ② 調停において、相続人全員が遺言書を無効とすることに合意した場合
  3. ③ 訴訟において、裁判所が遺言書を無効と判断した場合

のいずれかです。

訴訟で遺言書の無効が争われた場合、裁判所は当事者の主張や証拠をもとに、無効の条件を満たすかどうかを判断します。

 

 

まとめ

  • 遺言書が無効となる条件には、①法定の方式を満たしていない場合(方式違反)、②遺言能力がない人によって作成された場合、③錯誤・強迫・詐欺によって作成された場合、④内容が公序良俗に反する場合、⑤後見人が利益を受ける内容の遺言書が作成された場合、などがあります。
    どの条件を理由として無効を主張するかによって、収集・提出すべき証拠が異なります。
  • 遺言書を無効にするためには、まずは相続人同士での話し合い(交渉)による解決をめざします。
    話し合い(交渉)による解決が難しい場合、最終的には裁判所が有効・無効の判断を行います。
  • 遺言書の無効主張を的確に行うためには高度の専門知識が必要となるため、早い段階で相続に強い弁護士に相談されることを強くおすすめします。

当事務所では、相続に強い弁護士で構成する相続対策専門チームを設置しており、遺言書に関するご相談をはじめ、遺産分割協議や相続登記、相続トラブル、相続税の申告・節税対策など、相続全般に関する幅広いご相談を承っております。

少しでも遺言書に関する疑問や不安がある場合には、ぜひお気軽にご相談ください。

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