掲載日:2020年1月24日|最終更新日:2020年1月24日

ご質問について、弁護士がお答えします。

従業員の給料は、多くの事案では、なるべく通常の約定日どおり支払うべきでしょう。

しかし、給料と一口に言っても多種多様です。

そこで、会社破綻の局面における従業員の給料の取り扱いについて、以下で詳しく説明いたします。

債権者平等の大原則

会社が破産するには、まずは地方裁判所に破産申立てをします。

破産申立てがなされると、裁判所は破産手続開始要件を審査し、問題がなければ破産手続開始決定を出します。

破産手続が開始すると、破産法などの法令に則り破産手続が進められます。

破産手続では多くの法律を遵守する必要がありますが、その中でも特に重要なルールが「債権者平等の原則」です。

例えば、特定の債権者に対してのみ借金を返済する行為は偏頗弁済(否認の対象)にあたり原則禁止となります。

経営者の方にこの債権者平等を説明すると、多くの方が「債権者平等の原則」を勘違いします。

金融機関やカード会社のように金銭的な請求権を有する債権者は、「債権者」であることをすぐに理解します。

しかし、取引先や従業員が「債権者」であるという視点に欠けていることが多々あります。

取引先であれば売買債権、従業員であれば賃金債権を有する「債権者」であるということに注意が必要です。

すなわち、取引先や従業員についても、原則として、他の債権者と区別をすることなく、「平等」に扱う必要があります。

つまり、破産申立ての準備に入った段階では、他の債権者と同様に未払い金の支払いをしてはいけないことになります。

(なお、破産法上「債権者平等の原則」には、多くの例外が定められています。それぞれの債権者に対しどのように対応をするかについては、弁護士と相談の上、慎重に検討する必要があります。)

もっとも、従業員の賃金債権については、生活の糧となる重要な権利であることに照らし、一定の特別な扱いが認められています。

 

 

破産手続で優先される給料とは?

従業員の労働債権と一口で言っても、その種類や内容は、次のように、細かく分けることができます。

  • 基本給
  • 残業手当
  • 法定休日労働に対する割増賃金(休日手当)や深夜労働に対する割増賃金(深夜手当)
  • 賞与
  • 扶養手当、住宅手当などの各種手当
  • 通勤手当
  • 解雇予告手当
  • 退職金など

破産法は、「破産手続開始前3月間の破産者の使用人の給料の請求権」については、破産手続に関わらず優先的に返済をしても良い(このような債権を財団債権といいます。)としています。

ここで、「給料の請求権」にどこまで含まれているかが問題となりますが、「賃金、給料、手当、賞与、その他名称の如何を問わず、労働の対価として使用人が労働者に対して支払う全てのもの」をいうと解釈されています。

すなわち、基本給のみならず、就業規則に定められた役職手当、扶養手当などの諸手当も含まれます。

また、残業手当や休日手当なども当然に含まれるとされています。

その他にも、結婚祝や災害見舞金など、就業規則に定められており、使用者がその支払いをすべき義務を負うものも含みます。

以上のように、破産手続開始前の3か月間のこれらの給料については、特に優先的な保護が与えられることになります。

しかしながら、破産手続開始前3月より前の給料については、このような優先性は認められておらず、財団債権ではなく、破産債権となります。

また、解雇予告手当については、労働の対価ではないことから「給料」にはあたらないとされており、財団債権ではなく、破産債権(通常の扱いとなる債権)として扱われます。

もっとも、雇用関係に基づく債権については、破産法上、優先的破産債権とされているため、財団債権には劣るものの、破産債権の中で優先的な順位が与えられています。

補足説明

「破産手続開始前3月間」とは?

破産手続開始前3か月間の労働の対価に相当する部分と解釈するのが一般的です。

すなわち、12月10日に破産手続開始決定がでたとすると、その前の3か月間である9月10日~12月9日までの労働に対する給料が対象となります。

 

 

退職手当は財団債権?

退職手当については、破産法に「破産手続の終了前に退職した破産者の使用人の退職手当の請求権(当該請求権の全額が破産債権であるとした場合に劣後的破産債権となるべき部分を除く。)は、退職前3月間の給料の総額(その総額が破産手続開始前3月間の給料の総額よりも少ない場合にあっては、破産手続開始3月間の給料の総額)に相当する額を財団債権とする。」と規定されています。

つまり、給料3か月分相当の退職金については破産手続において財団債権として優先的な保護となります。

 

 

給料はいつまで支払うべきか?

従業員の給料をいつまで支払って良いかについて、法律上に明確な規定があるわけでもなく、慣例上も明確にされているわけではありません。

そのため、破産手続開始決定があるまでは支払わないという姿勢をとっても法的には問題はありません(むしろ、債権者平等の原則のもとでは、破産手続前は支払わないという対応が原則的な対応と考えることもできます。)。

もっとも、実務上は破産手続の準備に入った段階で破産申立代理人の指示のもと従業員に給与を支払うことが多いです。

なお、厳密に破産法を遵守すれば、以下のような取り扱いをすべきと言えます。

  1. ① 破産手続開始決定前3月間の給料(破産申立後、財団債権となる部分)については、破産手続においても財団債権として特別な保護があるため、申立人代理人の指示のもと、破産手続開始前に支払っても良い。
  2. ② 破産手続開始決定前3月より前から給料の未払いがある場合については、支払う際は慎重に判断すべき。

この場合、財団債権となりうる未払給料と優先的破産債権となりうる未払給料があるため、前者については支払っても良いが、後者については支払いは差し控えるべきとなりうるためです。

しかしながら、判断基準が「破産手続開始前3月間」であるため、破産手続開始決定がいつでるか不確定な時点では、そもそも、具体的な算出が困難です(なお、算定できる場合に、確実に財団債権となりうる部分についてのみ支払うなどの方法が考えられます。)。

 

 

未払賃金立替払制度

破産会社のみの資金では給料の全額を支払うことができない場合には、未払賃金立替払制度を利用して、未払い賃金の一部を補填することも可能です。

もっとも、同制度を利用するためには数か月かかるため、なるべく早期に従業員の給与を支払うためには、上述の判断を迅速かつ適切に行い、破産会社の財産から破産手続に先立って支払うべきでしょう。

会社破産の従業員との関係、未払い賃金の問題は専門的な知識や経験が必要となります。

資金繰りの悪化に悩んでいる方、破産や再建をお考えの方は、会社破産・事業再生を専門とする弁護士に一度相談することをオススメします。

 

 

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