特別受益の評価額はどの時点のもの?


弁護士法人デイライト法律事務所 代表弁護士保有資格 / 弁護士・税理士・MBA

特別受益の評価額の時期について

父が亡くなり、相続人は、私と弟だけでした。

弟は、父から甲不動産を買ってもらっており、父が亡くなった直後に売却をしています。

遺産は、1000万円の預貯金だけで、甲不動産の購入時の額は1000万円であり、売却額は500万円だったそうです。

甲不動産が特別受益であることに争いはないのですが、どの時点の評価額を特別受益の評価額とするかで弟と争っています。

どの時点の評価額を用いればよいのでしょうか?

 

 

まず、特別受益の評価時点は相続開始時(被相続人の死亡時)ですので、贈与を受けた時点の価額ではありません。

また、相続人の1人が被相続人に不動産を購入してもらった場合、そもそもその不動産自体が特別受益の対象なのか、不動産ではなく購入費用としてもらった金銭が特別受益なのかでその結論は全く異なるものになることがほとんどですので、その点を確定する必要もあります。

 

本件の場合

不動産自体が特別受益となった場合

家共有不動産の相続開始時の価額が特別受益の額になります。

被相続人の死亡直後に第三者に売却をして500万円ということであれば、その金額が相続開始時の価額と考えて差し支えないでしょう。

 

金銭が特別受益となった場合

お金金銭で贈与を受けた場合には、金銭それ自体が価値を示す指標なので、贈与時がそれほど遠い過去の時点でなければ、そのままの1000万円と評価して良いでしょう。

もっとも、何十年も前の金銭の贈与だとすれば、貨幣価値も当然変動していますので、消費者物価指数をもとに、贈与時点の1000万円が相続開始時にいくらになっているのかを算定することになります。

 

 

特別受益の評価基準時とは

税のイメージ画像特別受益の評価基準時は、民法には規定はありませんが、実務は特別受益の評価基準時として、相続開始時を採用していると言われています。

そして、被相続人から相続人への生前の贈与(特別受益)が、物であった場合には、贈与を受けた時点と相続が開始した時点で相当期間が経過しており、その物の価額はかなり変動していることがほとんどです。

そのため、贈与時には1000万円の価値があるものをもらったとしても、その後相続開始時には半分の500万円の価値になったとすれば、特別受益は500万円として評価されるのです。

弁護士逆に、贈与時よりも相続開始時のほうがその財産の価値が高くなっている場合にはその価額が特別受益の評価額となります。

時間が経過して価値が高まるという物はあまりないと考える方も多いと思いますが、バブルの時期ように不動産の価値が上がっていたり、宝石や金などの資産は価値が上がっていくこともしばしばであり、特別受益の評価額が贈与時よりも高くなることも珍しくはありません。

 

特別受益が貨幣の場合

一方、特別受益が金銭の場合、その変動はそれほど大きくないのが通常です。

もっとも、贈与時と相続開始時が何十年も離れている場合には、貨幣価値は相当異なっており、例えば30年前の100万円の贈与を30年後に同じ100万円と評価するのは不適切ですから、下記の計算式のとおり、相続開始時の消費者物価指数を贈与時の消費者物価指数で割ったものをかけることによって、貨幣価値の変動を反映させた額を算定して特別受益の評価額を算出することになります。

金銭贈与があった場合の相続開始時の特別受益額
= 贈与時の額 × 相続開始時の消費者物価指数 / 贈与時の消費者物価指数

この計算式について、具体例で見てみましょう。

具体例

被相続人から相続人に対し、1980年に100万円を贈与し、相続開始時は、2010年であった。

1980年の消費者物価指数は、77.2であり、2010年の消費者物価指数は、100.0である。

このときの特別受益の算定式は以下のとおりとなります。


100万円 × 100.0 / 77.2 = 129万5336円

つまり、相続開始時の特別受益の評価額は、129万5336円となるのです。

 

 

相続開始時の物の価額をどう決めているのか

相続開始時の価額が特別受益の評価額となるとは言っても、不動産をはじめとした物を評価するのは大変難しいと言えます。

本件のように、相続開始時に近接した時期に、全く関係のない第三者に対して当該財産を売却している場合には、その売却額が相続開始時の価額であるといえるでしょう。

これは、売却する人も買う人も市場価値を考慮して売買をしているので、その売却額を相続開始時の当該財産の価値と考えてよいと理由に基づくものです。

そのため、この大前提として、売却した人と特別な関係がないことが必要です。

例えば、購入者が子どもであるなど親族の場合には、適正な市場価値を反映しているとは言い難いでしょう。

もっとも、このように生前に贈与された物を相続開始時に近接した時期に売却していることは稀ですので、その場合には、不動産であれば固定資産税評価額や路線価などの公的な評価額を参考にしたり、不動産業者に寄る簡易な査定を行って、当事者で価額について折り合いをつけるのが実務です

裁判例最終的に協議などで価額を決めることができない場合には、審判となるのですが、裁判所の指定した鑑定人による鑑定を行うことになります。

この鑑定人によって評価された額がそのまま特別受益の評価額になるわけではなく、鑑定を参考に審判官が最終的な評価を出すことになりますが、審判官は鑑定の結果をそのまま利用することがほとんどですので、鑑定の結果はかなり重要になってきます。

 

まとめ

本件では特別受益の評価額について争われていますが、そもそも特別受益に該当するか、その贈与があったのか否かということが争われることのほうが多く、それと比較すると評価額での争いというのは少ないと言えます。

しかし、実際には評価額でどのような主張をするかで遺産分割の結果が変わってきますので、評価額に関しての検討もとても重要です。

特別受益は、遺産分割の手続において争われることも多く、相続人間の感情面での対立もとても強い分野といえます。

また、特別受益の該当性や証明などが難しく、特別受益の持戻免除の意思表示などの可能性もあって、法的にも簡単ではない分野で、専門家でないとその判断はかなり困難と言えますので、特別受益について検討する場合には、相続を専門とする弁護士にご相談ください。

 

特別受益についてはこちらの記事もご覧ください。

 

 


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