親が亡くなり、親の身の回りの物で要らないものを捨てたり、形見分けをして処分整理をしました。
しかし、その後に、親には多額の借金があることが分かりました。
相続放棄はできるのでしょうか?
身の回りの品物を整理しただけでは、相続放棄ができなくなることはありません。
仮に、被相続人の身の回りの品物を形見分けなどして処分したとしても、それほど価値の高くないものを一般的に認められる範囲で処分した場合には、相続放棄できなくなるようなことはありません。
相続放棄とは
相続放棄とは、相続財産を放棄することをいいます。
法律上、人が亡くなったとき、相続人は亡くなった方の一切の権利義務を承継すると定められています(民法896条)。
しかし、相続人の中には、相続を希望しない人もいます。
また、被相続人の負債が高額な場合には、相続を受けない方が経済的にメリットがあります。
そのような場合のために相続放棄という制度が用意されています。
相続人は相続放棄をすることにより、プラスの財産を取得することはできませんが、負債を引き継がなくてよくなります。
相続放棄できない場合
相続放棄は、「自己のために相続の開始があったことを知った時」から3か月以内であればできると民法上規定されていますが、単純承認をした場合には、相続放棄ができなくなります。
単純承認は、相続放棄や限定承認と異なり、法律上、方式の定めがないので、家庭裁判所に申述を申し立てる等の手続きは不要とされています。
(相続の承認又は放棄をすべき期間)
第九百十五条 相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。
2 相続人は、相続の承認又は放棄をする前に、相続財産の調査をすることができる。
(単純承認の効力)
第九百二十条 相続人は、単純承認をしたときは、無限に被相続人の権利義務を承継する。
引用元:民法|電子政府の窓口
法定単純承認
単純承認には、法定単純承認といわれるものがあり、以下のことをすると法律上、単純承認をしたとみなされることになります。
- ① 相続財産の処分をしたとき
- ② 相続放棄できる期間に相続放棄をしなかったとき
- ③ 限定承認・放棄後の背信的行為
②は最も多い事由であり、相続放棄をするつもりのない多くの人が②によって法定単純承認をしているといえます。
(法定単純承認)
第九百二十一条 次に掲げる場合には、相続人は、単純承認をしたものとみなす。
一 相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。ただし、保存行為及び第六百二条に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない。
二 相続人が第九百十五条第一項の期間内に限定承認又は相続の放棄をしなかったとき。
三 相続人が、限定承認又は相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私にこれを消費し、又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったとき。ただし、その相続人が相続の放棄をしたことによって相続人となった者が相続の承認をした後は、この限りでない。
引用元:民法|電子政府の窓口
相続財産の処分をしたときの解釈
被相続人の身の回り品を処分整理することは、被相続人が死亡した際に当たり前のようになされていることで、これが法定単純承認となると考えることは妥当ではありません。
身の回りの物を引き取った事案の参考判例
判例 法定単純承認とはならないとした裁判例
「やむなく殆ど経済的価値のない財布などの雑品を引取り、なおその際被相続人の所持金 2万 432円の引渡しを受けたけれども、右のような些少の金品を持って相続財産とは社会通念上認めることができない。」と判示しており、金銭を含めて、一般的に認められる身の回りの品の整理をした程度では、法定単純承認とはならないことを明らかにしています。
【大阪高決昭和54年3月22日】
そのため、身の回りの品の処分整理についても、特に高価なものでない限り、その処分をしても相続放棄ができなくなるものではありません。
形見分けについても、裁判例があります。
形見分けの参考判例
判例 法定単純承認には該当しないとした裁判例
「僅かに形見の趣旨で背広上下、冬オーバー、スプリングコートと訴外〇〇の位牌を別けてもらった」行為について、法定単純承認には該当しないと判示しています。
【山口地徳島支判昭和40年5月13日】
まとめ
裁判所は、被相続人の死亡後、一般的に許容される範囲で行われた行為については、法定単純承認とはならないとする立場のように思われます。
このことは、形見分けを含め身の回りの品を整理することはもとより、葬儀費用を相続財産から支出することも法定単純承認にあたるものではないとしていることからも分かります。
もっとも、形見分けの範囲を逸脱したものについては法定単純承認と判断されるリスクがあるため、注意が必要です。
法定単純承認については、専門的に扱っていないと難しい判断ですから、一度弁護士に相談されることをおすすめします。