認知症の方が相続人である場合、遺産分割協議が無効となるリスクや、財産管理の困難さなど、さまざまな問題が発生します。
相続は、通常でも複雑な手続きが必要となりますが、認知症の方が関わる場合は、さらに難しい状況となります。
判断能力が著しく低下した方は、法律上の重要な判断や手続きができません。
そのため、相続人に認知症の人がいる場合、遺産分割協議の無効リスクや相続税申告の遅延など、多くの問題が生じる可能性があります。
しかし、適切な対策を講じることで、これらの問題を回避または軽減することが可能です。
この記事では、認知症と相続について、生じるリスクや問題点、効果的な対処法、生前対策、トラブル事例などを、弁護士が解説します。
目次
相続人が認知症の場合のリスクや問題点
相続の場面において、相続人の一人が認知症である場合、さまざまな問題やリスクが発生します。
認知症により判断能力が低下した方は、法的な意思決定が難しくなるため、相続手続きが複雑化し、多くの障害に直面することになります。
ここでは、認知症の相続人がいる場合に生じる主なリスクや問題点について詳しく解説します。

認知症の人は遺産分割協議が無効となるリスクがある
認知症の方が参加した遺産分割協議は、その方に十分な意思能力がないと判断された場合、無効となる可能性があります。
遺産分割協議は、相続人全員の合意によって遺産の分け方を決める重要な手続きです。
しかし、認知症の方は判断能力が低下しているため、自分の権利や利益を正しく理解して意思決定することが難しいとされています。
法律的には、契約などの法律行為をするには、意思能力が必要とされています。
これが十分でない状態で行われた遺産分割協議は、後から「無効」と主張されるリスクがあります。
たとえば、相続人の一人が認知症であるにもかかわらず、その状態を無視して遺産分割協議を進めたとします。
その場合、後日、他の相続人や親族から「その時点ですでに判断能力がなかった」として、協議の効力が争われることがあり得ます。
このような主張は、相続から何年も経過した後になされることもあり、一度決着したはずの相続問題が再燃する原因ともなります。
遺産分割協議の無効が認められると、すでに分割済みの財産を再度分け直さなければならなくなるため、大きな混乱を招くことになります。
認知症と遺産分割の問題点については、以下のページをご覧ください。
遺産分割をしない場合の問題点
遺産分割を行わないまま放置すると、さまざまな問題が生じます。
まず、相続財産が共有状態のままとなり、不動産などの財産を売却したり活用したりする際に、相続人全員の同意が必要となります。
たとえば、遺産の不動産を売却しようとしても、相続人全員の合意がなければ売却できません。
認知症の相続人がいる場合、その方の同意を適法に得ることが難しく、不動産の売却や活用が事実上不可能になってしまうことがあります。
また、預貯金などの金融資産も、被相続人名義のままでは引き出しや運用ができなくなります。
金融機関は、相続人が全員揃って手続きをしない限り、原則として払い戻しに応じません。
さらに、相続税の申告と納付の問題も発生します。
相続税の申告期限は、相続人が相続を知った日の翌日から10か月以内とされています。
遺産分割ができないことで申告が遅れると、延滞税や加算税などのペナルティが科される可能性があります。
代筆はNG!罪に問われることも
遺産分割が進まないからといって、認知症の相続人に代わりに他の相続人や親族が書類を代筆することは、絶対に避けるべき行為です。
このような「代筆」は、法律上の「偽造」に該当する可能性があり、刑事罰の対象となることがあります。
たとえば、認知症の親に代わって遺産分割協議書や相続関連書類に署名することは、私文書偽造罪(刑法159条1項)や同行使罪(同法161条1項)に該当するおそれがあります。
参考:刑法|e-Gov法令検索
これらの罪は、5年以下の拘禁刑に処される可能性のある重大な犯罪です。
たとえ「本人のため」「手続きをスムーズに進めるため」という善意からであっても、法律違反となることに変わりはありません。
また、代筆された書類に基づいて行われた登記や名義変更などは、後に無効となる可能性があります。
さらに、他の相続人から「財産を騙し取られた」として損害賠償請求をされるリスクもあります。
認知症の相続人がいる場合は、成年後見制度の利用など、必ず法的に認められた適正な方法で手続きを進めることが重要です。
認知症の人は相続放棄できないリスクがある
認知症の方は、自ら相続放棄の手続きを行うことができないという大きな問題があります。
相続放棄は、相続人が被相続人の財産を一切相続しないという意思表示であり、家庭裁判所での手続きが必要です。
しかし、認知症により判断能力が著しく低下している方は、この法的手続きを自分で行うことができません。
相続放棄は、「相続の開始があったことを知った時から3か月以内」に行う必要があります(民法915条1項)。
参考:民法|e-Gov法令検索
この期間を過ぎると、原則として相続放棄はできなくなり被相続人の権利義務を全面的に引き継ぐことになります。
特に問題となるのは、被相続人に多額の借金がある場合です。
通常であれば、このような場合は相続放棄によって負債の承継を回避できます。
しかし、認知症の相続人は、自らの判断で相続放棄ができないため、知らないうちに多額の債務を背負ってしまう危険性があります。
また、成年後見人を立てるにしても、その選任には時間がかかるため、相続放棄の期限である3か月を経過してしまうリスクもあります。
相続放棄については、以下のページをご覧ください。
通常の相続より時間を要する
認知症の相続人がいる場合、法的に有効な遺産分割を行うためには、成年後見制度の利用が必要になることが多いです。
成年後見を開始するには、家庭裁判所に後見人の選任を申し立てる必要があり、時間や費用の負担が生じます。
後見が開始するまでには、早くても1〜2ヶ月程度の時間を要するため、それまでの間、相続手続きが前に進まないという状況になります。
相続の手続きが完結しない状態は、法的な権利関係が不安定な状態の継続を意味します。
相続税の申告・納付が遅れる
認知症の相続人がいる場合、相続税の申告・納付が遅れるリスクが高まります。
相続税の申告・納付は、被相続人の死亡を知った日の翌日から10か月以内に行う必要があります。
認知症の相続人がいると、遺産分割協議が成立しないために申告が遅れがちになります。
手続きの遅延により申告期限を過ぎると、延滞税や加算税が課されるほか、配偶者控除などの特例が使えなくなるおそれがあります。
延滞税は、年率約8.7%(変動あり)と高率であり、加算税も10~15%程度課される場合があります。
また、相続税には「配偶者の税額軽減」「小規模宅地等の特例」など、条件を満たせば適用できるさまざまな特例があります。
これらの多くは申告期限内に遺産分割を完了し、適正に申告することが条件となっています。
申告が遅れることで、これらの特例が適用できなくなり、結果的に納税額が大幅に増加してしまうおそれがあります。
相続税の申告期限については、以下のページをご覧ください。
相続人が認知症の場合の対処法
認知症の相続人がいる場合、通常の相続手続きとは異なるアプローチが必要になります。
ここでは、相続人に認知症の人がいる場合の対処法について解説します。
適切な対策を講じることで、認知症に関連する相続問題を最小限に抑えることが可能です。

意思能力の有無を判断する
認知症の方の財産管理や相続対策を考える際には、まず本人の意思能力の程度を確認することが重要です。
意思能力とは、自分の行為の結果を判断できる能力のことです。
これがあるかどうかによって、その人が契約締結や遺言作成などを有効に行えるかが決まります。
これは、意思能力がない状態で行った法律行為は、無効となるためです(民法3条の2)。
参考:民法|e-Gov法令検索
ただし、認知症であるからといって、常に意思能力が欠けているとはいえません。
認知症と診断されていても、その程度や状態によって、意思能力の有無は異なります。
たとえば、軽度の認知症であれば、日常生活に関する判断や簡単な財産管理についての意思決定は可能なケースもあります。
そこで、まずは本人の判断能力がどの程度あるかを確認する必要があります。
意思能力の有無を客観的に判断するためには、医師の診断を受けることが望ましいです。
特に、遺言分割協議書の作成のような重要な法律行為を行う場合は、事前に医師の診断書を取得しておくことで、後日その行為の有効性が争われるリスクを減らすことができます。
診断書には、認知症の程度や判断能力の状態、理解力の有無などについて、医師の見解を記載してもらいます。
このような医学的な証明があれば、遺産分割協議音有効性を後日主張する際の、ひとつの根拠となります。
成年後見制度を利用する
相続人の認知症が進行しており、意思能力がないと判断される場合、成年後見制度の利用が最も一般的な対処法となります。
成年後見とは、認知症などのために判断能力が不十分な人に対して、家庭裁判所が選んだ後見人が、その意思決定をサポートする制度です。
後見人がつくことにより、本人に代わって遺産分割協議や各種手続きを行うことができます。
成年後見制度には、判断能力の程度に応じて「後見」「保佐」「補助」の3つの類型がありますが、認知症が進行して判断能力が著しく低下している場合は、通常「後見」が選択されます。
成年後見人の選任申立ては、家庭裁判所に対して行います。
成年後見人には、親族がなる場合と、弁護士や司法書士などの専門職がなる場合があります。
財産が複雑であったり、親族間で対立があったりする場合は、中立的な立場の専門職が選任されることが多いです。
成年後見人は、本人に代わって財産の管理や医療・介護サービスの契約などの法律行為を行う権限を持ちます。
相続に関しては、遺産分割協議への参加や相続放棄の申述、遺留分侵害額請求なども行えます。
本人が意思能力を欠く場合は、成年後見人をつけることによって、相続の手続きを進めることができます。
成年後見のメリット
成年後見制度のメリットは、認知症の方に代わって法的に有効な手続きができることです。
成年後見人は、本人の代理人として、遺産分割協議書への署名、不動産の名義変更、預貯金の払い戻しなどを行うことができます。
これにより、相続手続きが停滞することを避けられます。
また、成年後見人は家庭裁判所の監督を受けながら活動するため、本人の権利や利益が不当に侵害されることを防ぐ効果があります。
特に、専門職が成年後見人に選任された場合は、公平・中立な立場から本人の最善の利益を考えた対応がなされるため、親族間の対立がある場合でも適切な解決が期待できます。
成年後見のデメリット
成年後見制度にはメリットがある一方で、いくつかのデメリットも存在します。
まず、手続きに時間と費用がかかる点が挙げられます。
申立てから成年後見人の選任までに2~3か月かかるほか、申立て費用(約2万円)や成年後見人への報酬(月額2~6万円程度)など、継続的な費用負担が発生します。
また、成年後見制度は、本人の行為能力を制限する制度でもあります。
特に、「後見」類型の場合、本人は原則として単独で有効な契約を結ぶことができなくなります。
これにより、本人の自己決定権が制限される側面があります。
さらに、成年後見制度は一度開始すると、本人の死亡まで原則として継続します。
意思能力が回復した場合には取り消しもあり得ないわけではありませんが、認知症が進行性であることを考えると、現実的には極めて稀です。
また、不動産の売却などには家庭裁判所の許可が必要となるなど、柔軟な財産管理が難しい面もあります。
成年後見制度については、以下のページをご覧ください。
専門家(弁護士)に相談する
認知症の方が関わる相続問題は複雑であるため、早い段階で専門家に相談することが重要です。
弁護士のような専門家に相談することで、どの制度を利用すべきか、手続きの進め方などについて、専門的な視点からアドバイスを受け、具体的な手続きを依頼することができます。
弁護士は、認知症の方の権利擁護に関する法的知識を持っています。
成年後見制度や家族信託、遺言などさまざまな選択肢の中から、その方の状況に最も適した解決策を提案することができます。
特に、親族間で意見が対立している場合や、相続財産が複雑な場合は、中立的な立場から助言できる弁護士の存在が重要です。
認知症と相続の問題は、早期の対策が何よりも重要です。
症状が軽度のうちに適切な対策を講じておくことで、将来の相続手続きの負担を大幅に軽減することができます。
親が認知症の場合の生前対策
親が認知症の場合、生前の相続対策はハードルがあがります。
たとえば、生前贈与を行うにしても、認知症の親を騙して財産を贈与させたのではないか、という問題が生じる可能性があるためです。
ただし、まだ認知症の初期段階であれば、さまざまな生前対策を講じておくことで、将来の相続をスムーズに進めることができます。
また、すでに認知症が進行している場合であっても、成年後見制度などを利用することで、適切な財産管理や相続手続きを進めることが可能です。
ここでは、親が認知症の場合に家族が考えるべき生前対策について解説します。
早期に対策を講じることで、相続時のトラブルを未然に防ぎ、親の財産を適切に管理・承継することが可能になります。

現状を把握し、財産を整理する
親の認知症が進行する前に、まずは現状の財産状況を正確に把握し、整理することが重要です。
財産の目録を作成して資産と負債をリスト化し、不要な口座や不動産は整理・集約しておきます。
財産目録の作成は、相続対策の第一歩です。
親の所有する不動産、預貯金、有価証券、保険、借金など、すべての資産と負債を書き出します。
財産調査の方法としては、親の了解を得た上で、通帳、保険証券、固定資産税の納税通知書、不動産の権利証、ローン返済予定表などを確認します。
親の認知症が初期段階であれば、親自身に財産について聞き取りを行うことも大切です。
財産調査の過程で、多数の口座や使われていない不動産が見つかることもあります。
このような場合は、預貯金口座を集約したり、不要な不動産を売却したりすることで、財産管理を簡素化することが望ましいです。
口座の集約は、親本人が判断能力を持つうちに行うことが重要です。
認知症が進行した後では、本人の意思確認ができないため、口座の解約や統合が難しくなります。
不動産についても、不要な物件は売却してシンプルな資産状況にしておくことが、将来の相続手続きをスムーズにする鍵となります。
財産の把握と整理を通じて、親の財産の全体像を明らかにすることで、適切な相続対策の土台となります。
遺言書を作成する
親の認知症が初期段階で、意思能力が認められるのであれば、遺言書の作成を検討することが重要です。
誰にどの財産を渡すか、親の明確な意思を書面に残し、相続トラブルを防ぎます。
遺言書は、相続財産の分配方法を前もって決めておくための有効な手段です。
遺言書の作成には「遺言能力」が必要であるため、親の認知症が軽度のうちに作成することが重要です。
遺言能力とは、遺言の内容を理解し、自分の意思を表明できる能力のことです。
認知症と診断されていても、その程度によっては、遺言能力があると判断されることもあります。
ただし、認知症が進行した状態での遺言書は、効力をめぐって相続人間で意見が対立し、かえって事態を複雑にするおそれがあります。
後に、「認知症の状態で書かれた遺言書は無効だ」といわれないためにも、医師の診断をあおぐなどして、意思能力に問題がないことを明らかにしておくことが重要です。
認知症の場合の遺言書の効力については、以下のページをご覧ください。
家族信託を検討する
親の認知症に備えた財産管理の方法として、家族信託があります。
家族信託とは、親が子などの信頼できる家族を受託者として財産の管理・処分権を託する仕組みです。
家族信託の最大の特徴は、柔軟な財産管理が可能な点です。
成年後見制度では財産処分に家庭裁判所の許可が必要なケースが多いですが、家族信託では、信託契約で定めた範囲内であれば、受託者の判断で迅速に財産を管理・処分できます。
たとえば、認知症の親が所有する不動産の売却や建て替えなどを、その子が親の利益のために行うことができます。
家族信託も契約の一種ですので、親が十分な判断能力を有していることが前提になります。
認知症が進行する前に、専門家(弁護士、司法書士など)に相談しながら信託契約を締結することが重要です。
認知症の場合の家族信託については、以下のページをご覧ください。
任意後見契約を結んで将来に備える
親の認知症に備えて、任意後見契約を検討することも重要な対策の一つです。
任意後見契約は、親本人が判断能力を失った場合に備えて、あらかじめ信頼できる人(子や専門家など)を後見人として選び、財産管理や生活・介護等に関する委任内容を決めておく契約です。
この契約は、公証役場で公正証書として作成する必要があります。
任意後見契約の特徴は、親本人が自分の意思で後見人を選べることと、後見人の権限を細かく設定できる点です。
たとえば、「不動産の売却には特定の親族の同意を必要とする」「月々の生活費として〇〇円まで引き出せる」といった条件を付けることができます。
任意後見契約は、実際に親の判断能力が低下した時点で、家庭裁判所に申立てを行い「任意後見監督人」が選任されて初めて効力を生じます。
これにより、不必要に親の権利が制限されることを防ぎつつ、必要なときに適切な支援を受けられる仕組みとなっています。
任意後見契約を認知症の初期段階で締結しておくことで、将来の相続手続きを含む財産管理を円滑に行うことができるでしょう。
生前贈与をしておく
生前贈与とは、親が生きているうちに子や孫などに財産を贈与することです。
贈与には年間110万円の非課税枠があるため、計画的な生前贈与により、相続税負担を軽減できる可能性があります。
また、生前贈与によって計画的に財産を引き継いでおけば、その分遺産が少額となり、相続手続きが省力化できるという利点もあります。
遺言と同じく、認知症が進行してからの贈与は、有効性に疑念が生じるため、生前贈与も難しくなります。
このため、親の判断能力があるうちに、計画的な生前贈与を行うことが有効な対策です。
ただし、特定の相続人にのみ贈与を行うと、他の相続人との間で不公平感が生じ、将来のトラブルの原因となる可能性があります。
また、過度な生前贈与は親自身の生活資金を減少させるおそれがあるため、親の将来の生活に必要な資金は十分に確保しておくことが大切です。
認知症の親からの生前贈与については、以下のページをご覧ください。
亡くなった方が認知症だった場合のトラブル事例
被相続人が認知症だった場合、相続に関連してさまざまなトラブルが発生することがあります。
ここでは、実際に起こりがちなトラブル事例とその解決法について解説します。
家族による預貯金の使い込み
認知症の親の預貯金が、特定の家族によって無断で引き出され使い込まれるケースがしばしば発生します。
たとえば、親の認知症が進行する中で、同居している子が親の通帳とキャッシュカードを使って、親の預貯金を自分のために使ってしまうというケースです。
認知症の親と同居する子は、金銭管理を含めて親の世話をする立場になりがちなことから、しばしば預貯金を使い込むことがあるのです。
親が亡くなった後、他の相続人が預金通帳を確認すると、大量の不審な引き出しが発見され、トラブルに発展することがあります。
相続の場面では、無断で使われた預貯金も相続財産として計算され、使い込んだ相続人は「特別受益」として、その分を自分の相続分から差し引かれることになります。
これを「持ち戻し計算」といいます。
このようなトラブルを防止するためには、親の認知症の初期段階で、適切な財産管理の仕組みを整えることが重要です。
たとえば、成年後見制度を利用して第三者の監督下で財産管理を行ったり、家族信託を設定して透明性の高い財産管理を実現したりする方法があります。
また、親の口座からの引き出しや支払いの記録を家族間で共有し、定期的に報告する仕組みを作っておくことも有効です。
特に介護や生活支援のために親の財産から支出する場合は、領収書を保管するなど、後日の説明責任を果たせるよう心がけることが大切です。
親の預貯金の使い込みについては、以下のページをご覧ください。
不公平な遺言書の作成
認知症の親に対して、特定の相続人が働きかけて自分に有利な内容の遺言書を作成させるケースがあります。
たとえば、認知症の症状が現れ始めた親に対して、同居している子が「あなたの面倒を見ているのは私だけだから」と説得し、自分にすべての財産を相続させる内容の遺言書を作成させるといった事例です。
このような遺言書は、作成時に親に十分な遺言能力がなかったとして、後に他の相続人から無効を主張されるリスクがあります。
また、仮に遺言書が有効だとしても、他の相続人には「遺留分」という最低限の相続分が法律で保障されており、遺留分侵害額請求によって一部を取り戻すことができます。
このようなトラブルを防止するためには、公正証書遺言を選択し、公証人による厳格な意思確認を経ることで、後日の無効主張のリスクを減らすことができます。
また、遺言書に特定の相続人に多くの財産を残す理由を明記しておくと、他の相続人の理解を得やすくなり、トラブルを防止する効果があります。
たとえば「長年の介護への感謝」「事業継承のため」など、合理的な理由を明示しておくことが大切です。
認知症の方が書いた遺言書の効力については、以下のページをご覧ください。
認知症の遺産相続の相談窓口
認知症の方が関わる相続問題は複雑なため、適切な相談窓口を知っておくことが重要です。
ここでは、認知症と相続に関する主な相談窓口とその特徴について解説します。
状況に応じて最適な専門家に相談することで、問題の早期解決につながります。

判断能力については主治医
親や相続人の認知症の程度や判断能力について正確に把握するためには、主治医への相談が最も適しています。
認知症の診断や症状の程度、日常生活における判断能力の評価などは、医学的な専門知識が必要な分野です。
特に、遺言書作成や任意後見契約締結など、法律行為を行う際の「意思能力」の有無を判断するためには、医師による診断が重要な証拠となります。
主治医からは、認知症の進行度や、具体的な症状などについての情報を得ることができます。
また、「診断書」や「意見書」の形で書面を取得しておくことで、後日の法的手続きにおける重要な証拠となります。
認知症は進行性の疾患であるため、定期的な診断を受け、症状の変化に応じた対策を講じることが重要です。
認知症へのサポートについては地域包括支援センター
認知症の方やその家族が日常生活で直面する困りごとや、介護サービスの利用については、地域包括支援センターが身近な相談窓口となります。
地域包括支援センターは、市区町村が設置する高齢者支援の総合窓口で、保健師、社会福祉士、介護支援専門員などの専門職が配置されています。
地域包括支援センターでは、認知症に限らず、高齢者にまつわる全般的な相談に対応しています。
認知症に関しては、「最近物忘れが増えた」「親の行動がおかしい」といった初期の相談に応じ、状況に応じて適切な機関へとつないでもらえます。
また、認知症の方の生活を支えるための介護サービスの紹介や利用手続きのサポートも行っています。
認知症の方の財産管理や権利擁護に関する、基本的な相談も可能です。
ただし、具体的な相続手続きや複雑な財産管理の問題については、法律の専門家(弁護士など)への相談が必要になります。
相続に強い弁護士
認知症の方が関わる相続問題の解決には、相続に強い弁護士への相談が効果的です。
弁護士は法律の専門家として、認知症の相続人がいる場合の法的問題を総合的に解決に導くことができます。
特に、次のようなケースでは弁護士への相談が有効です。
まず、成年後見制度の利用検討と申立て手続きのサポートです。
成年後見の申立てには多くの書類作成が必要であり、弁護士に依頼することで負担を軽減できます。
事案によっては、弁護士自身が成年後見人に就任することも可能です。
また、認知症の方が関わる遺産分割協議を進める方法についてのアドバイスを受けられます。
認知症の相続人がいる場合の特殊な法的問題について、弁護士は適切な助言やサポートを提供します。
さらに、認知症の親の財産管理の仕組みづくりとして、家族信託や任意後見契約などの生前対策についても、専門的なアドバイスを受けることができます。
認知症の相続人が絡む相続問題は、通常の相続より複雑です。
早い段階で弁護士に相談することで、問題の拡大を防ぎ、円滑な解決につながることが多いでしょう。
相続に強い弁護士への相談については、以下のページをご覧ください。
認知症の遺産相続についてのQ&A
![]()
認知症は相続手続きでバレる?
特に、相続人が複数いる場合の遺産分割協議では、全員の明確な意思表示が必要となるため、認知症の相続人がいることは隠し通すことが難しくなります。
ただし、軽度の認知症であれば、本人が手続きに参加することも可能な場合があります。
認知症を隠して相続を進めても、後に発覚すれば、すべて無駄になることもあります。
認知症の事実を隠そうとするのではなく、成年後見制度の利用など適切な法的手続きを踏むことが、結果的にスムーズな相続手続きにつながります。
![]()
認知症で後見人なしで相続できますか?
軽度の認知症で、本人が相続の意味を理解し、自分の意思を表明できる状態であれば、後見人なしで手続きを進めることも可能です。
また、被相続人が遺言書を残していれば、遺産分割協議を経ずに相続手続きを進められるケースもあります。
ただし、認知症が中度から重度の場合、本人に法律行為を行う能力がないことが多く、成年後見人の選任が必要になるケースが多いでしょう。
まとめ
この記事では、認知症と相続について、生じるリスクや問題点、効果的な対処法、生前対策、トラブル事例などを解説しました。
記事の要点は、次のとおりです。
- 認知症の相続人がいる場合、遺産分割協議の無効リスクや、相続税申告の遅れなどの問題がある。
- 本人の判断能力が残っているうちに、任意後見契約の締結、家族信託の活用、遺言書の作成などの生前対策を講じることが重要である。
- すでに判断能力が低下している場合は、成年後見制度を利用して法定代理人を選任する必要がある。
- 親が認知症になる前に、財産の把握と整理、遺言書の作成、生前贈与などの対策を行うことで、相続トラブルを未然に防ぐことができる。
- 認知症の相続人が関わる相続問題は複雑なため、早い段階で弁護士などの専門家に相談することが問題解決の近道となる。
当事務所では、相続に注力する弁護士及び税理士からなる専門チームを構築しています。
相続対策チームは、相続に関する専門知識やノウハウを活用し、相続問題の解決に尽力しています。
遠方にお住まいの方でもお気軽に当事務所の専門サービスをご利用いただけるように、LINE、Zoom、などを活用したオンライン相談をご提供しております。
相続問題については、当事務所の相続弁護士までお気軽にご相談ください。
