略式起訴された場合の公務員の処分は?弁護士が詳しく解説

弁護士法人デイライト法律事務所 弁護士  保有資格 / 弁護士・3級ファイナンシャルプランナー

略式起訴された場合の公務員の処分は?

公務員は、「全体の奉仕者」としての役割を与えられており、国民全体の公共の利益を増進させるための業務に従事することが求められています。

そのような立場にある公務員の方が罪を犯してしまった場合、仮に正式に起訴されるような事案ではなく、略式起訴による罰金刑にとどまる事案であっても、職場内で厳しく処分されるケースが散見されます。

この記事では、公務員として勤務している方が罪を犯し、略式起訴された場合、どのような処分を受けることになるのかを見ていきます。

起訴休職処分とは?

前提として、正式に起訴された場合に想定される、起訴休職処分についてご説明します。

起訴休職処分とは、刑事事件に関し起訴された従業員を、一定期間又は判決が確定するまでの間、休職させることを指します。

刑事事件の嫌疑をかけられ、逮捕・勾留されたり、起訴されたりしたとしても、それだけで直ちに犯罪者であるということが確定したわけではありません。

逮捕・勾留の段階では「被疑者」、起訴された段階では「被告人」と呼ばれますが、これらの立場にある者は、あくまでも罪を犯したという疑いがかけられているに過ぎません。

例えば、使用者側が逮捕された段階、あるいは起訴された段階で、当該従業員に対し懲戒処分を行なったものの、後に嫌疑が誤りであったことが分かり、無罪となった場合、懲戒事由が存在しなかったことになり、解雇無効の訴えを起こされ、対応を余儀なくされる可能性があります。

他方、使用者側としては、罪を犯した可能性がある従業員を継続して業務に従事させることで、使用者の社会的信用が失われたり、職場内の秩序が妨げられたりする危険も無視することはできません。

そのため、使用者は、刑事裁判が終了し、当該従業員の有罪が確定するまでの間、当該従業員への処分を保留し、休職扱いにして出勤させないという対応を取ることが認められています。

こうした起訴休職処分は、公務員の場合においても同様に適用される可能性があります。

例えば、国家公務員法79条には、以下のように定められています(地方公務員法にも同趣旨の規定が存在します)。

本人の意に反する休職の場合

第七十九条 職員が、左の各号の一に該当する場合又は人事院規則で定めるその他の場合においては、その意に反して、これを休職することができる。

二 刑事事件に関し起訴された場合

引用元:国家公務員法 | e-Gov法令検索

なお、起訴休職中の給与につきましては、通常の60%程度まで減額されることになります。

他方、略式起訴にとどまる場合は、略式起訴後ほどなくして、略式命令、すなわち罰金刑の判決が言い渡されることとなります。

そのため、起訴されてから判決が言い渡されるまでの期間が短いことから、起訴休職処分を言い渡す実益がほぼありません。

したがって、略式起訴の事案においては、起訴休職処分を受ける可能性はなくなるといってよいでしょう。

刑事処分を軽減するのみならず、起訴休職による収入の減少を回避するという観点からも、早期に弁護士を選任し、示談交渉をはじめとする適切な弁護活動を行うことが重要であるといえます。

 

 

略式起訴となった場合、失職の可能性は?

では、略式起訴となった場合、公務員が職を失う可能性はあるのでしょうか。

当然失職のリスクは?

そもそも、「禁錮刑以上の刑に処せられた者」は、公務員になることができません。

欠格条項

第三十八条 次の各号のいずれかに該当する者は、人事院規則で定める場合を除くほか、官職に就く能力を有しない。

一 禁錮以上の刑に処せられ、その執行を終わるまで又はその執行を受けることがなくなるまでの者

引用元:国家公務員法 | e-Gov法令検索

上記は国家公務員法からの引用ですが、地方公務員法にもやはり同様の規定が存在します(地方公務員法16条1号)。

参照:地方公務員法 | e-Gov法令検索

そのため、在職中であっても、刑事事件を起こし、禁錮刑以上の有罪判決が確定してしまうと、当然に公務員としての職を失うことになってしまいます。

しかし、略式起訴の場合に科される刑罰は、100万円以下の罰金又は科料のいずれかです。

そのため、禁錮刑以上の刑に処せられる可能性はありませんので、略式起訴の場合に当然に失職することはありません。

懲戒のリスクは?

しかし、当然に失職することがないからと言って、失職のリスクがないわけではありません。

公務員であっても、一般企業と同様に、懲戒処分を受けるリスクはあります。

懲戒の場合

第八十二条

職員が、次の各号のいずれかに該当する場合においては、これに対し懲戒処分として、免職、停職、減給又は戒告の処分をすることができる。

三 国民全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあつた場合

引用元:国家公務員法 | e-Gov法令検索

公務員が刑事事件を起こしてしまった場合、多くのケースで「国民全体の奉仕者たるにふさわしくない非行」を働いたと評価されることになります。

そのため、免職をはじめ、停職、減給、戒告などの懲戒処分を受けることは十分にありうるでしょう。

ただし、懲戒免職は懲戒処分の中でも最も重い処分であり、これを正当化するにはそれに見合うだけの問題を起こしたと評価されることが必要です。

事件の質にもよりますが、比較的軽微な犯罪であれば、懲戒免職まではなされず、停職や減給にとどまる可能性もあります。

失職した場合退職金を受け取れる?

では、前科がついて退職することとなった場合に、退職金は支払われるのでしょうか。

まず、当然失職、及び懲戒免職の場合は、退職金は一切支払われません。

他方、懲戒免職まではいかず、その他の懲戒処分を受けた上で自主退職した場合は、退職金が支払われる余地があります。

しかし、略式起訴であれ、罰金刑の有罪判決を受けている以上、懲戒事由に該当することは明らかですから、懲戒処分の軽重に応じた減額がなされる可能性は残るといえるでしょう。

失職をしたら再度公務員になるのは難しい?

それでは、罪を犯した公務員が失職等したのち、再度公務員になることはできるのでしょうか。

まず、禁錮刑以上の有罪判決を受けており、当然に失職した場合は、欠格期間が明ければ再度公務員に就職することはできます。

また、懲戒処分を受けて退職した場合は、欠格期間自体が存在しませんので、この場合も再度公務員に就職できるといえます。

しかしながら、公務員として働くには、試験や面接等を経て役所等に採用される必要があります。

その際、かつて公務員として勤務していた経歴があり、退職理由が刑事事件を起こし有罪判決を受けたからであることが判明した場合、選考上大きなマイナスとなることは明らかです。

そのため、一度失職した後で公務員に再就職することは、極めて困難であると言わざるを得ません。

公務員としての職を守る場合は、職場への発覚を防ぎ、かつ、不起訴処分か略式起訴による罰金刑以下の処分を勝ち取ることが必要不可欠であるといえます。

 

 

公務員が略式起訴されたら職場にばれる?

それでは、公務員が略式起訴された場合、職場への発覚は避けられないのでしょうか。

結論から申し上げますと、略式起訴にとどまる場合は、発覚を回避できる可能性はあります。

公務員が事件を起こした場合であっても、捜査機関から職場に対し直ちに連絡がなされるわけではないことは、一般の会社員の場合と変わりありません。

逮捕・勾留されてしまえば長期にわたり出勤ができなくなるため、職場への発覚も時間の問題となってしまいますが、在宅事件であれば、引き続き職場への出勤も可能ですので、すぐに発覚することはありません。

略式起訴となる場合も、職場に連絡がなされるわけではありませんので、罰金を支払ってしまえば、最後まで職場に発覚することのないまま事件が終了することになります。

ただし、公務員の立場である者が刑事事件を起こした場合、社会的な関心を引く可能性が高く、実名付きで報道されるリスクが通常より高まるといえます。

職場にばれるのを防ぐには?


職場への発覚を防ぐには、なるべく早期に弁護士を選任し、逮捕・勾留を防ぐとともに、不起訴処分や略式起訴処分となるべく適切な弁護活動を受けることが必要です。

特に、被害者が存在する事件については、可能な限り早期に示談交渉を行い、反省の態度を示すとともに、被害者から許しを得ることは処分の軽減にもつながりますし、報道のリスクを低減させることにもつながります。

また、犯行の発覚前であれば、自首を検討すべきです。

捜査機関が犯人を把握するよりも先に自首をすることは、自身の行為への深い反省を示すことですので、処分を決定する上でも有利な事情となりますし、報道される可能性を下げられるかもしれません。

 

 

公務員が逮捕された時の対処方法

公務員が罪を犯し、逮捕されてしまった場合、職場への発覚可能性を下げるためにも、一刻も早く身体拘束からの解放を目指す必要があります。

逮捕された後、逃亡の恐れや罪証隠滅の恐れがあることを理由に、最長で20日間の勾留を受ける可能性があります。

勾留されてしまうと、長期間にわたり出勤ができなくなりますので、職場への発覚を回避するのは非常に困難になります。

そのため、逮捕されてしまった場合も、やはり早期に弁護士を選任し、まずは勾留を回避するために必要な弁護活動を受けることが必要となります。

国選の弁護人に任せることもできますが、国選弁護人が選任されるのは勾留決定がなされた後になります。

勾留決定がなされた後も、準抗告という形で勾留を争うこともできますが、やはり勾留をなんとしても回避したい場合は、勾留決定をする前から私選で弁護士をつけ、勾留回避のために動いた方が効果的です。

弁護人の選任時期

国選弁護人 私選弁護人
勾留決定後
→勾留を回避する弁護活動は限られる
いつでも選任できる
→勾留回避のために早期に様々な活動ができる

逮捕される可能性がある場合は、早めに弁護士に相談しておくか、家族に事件を起こしたことを伝え、万一の際は早期に弁護士をつけるよう頼んでおくべきでしょう。

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まとめ

以上、公務員が略式起訴された場合の処分についてご説明いたしましたが、いかがでしたでしょうか。

公務員という職業の特性上、一般の企業に比べて規律も厳しく、職場に発覚した場合の処分は非常に厳しくなることが予想されます。

略式起訴であれば罰金刑にとどまるため、当然失職は避けられますが、公判請求され禁錮刑以上の有罪判決を受けた場合、例外なく職を失うことになります。

また、報道されてしまった場合、罪を犯してしまった公務員に対し、世間からの風当たりはどうしても厳しくなってしまいます。

公務員という身分を持ちながら罪を犯してしまった方が自身の生活を守るためには、刑事事件に強い弁護士を早期に選任し、適切かつ迅速な弁護活動を受ける必要性が、一般の会社員と比べても特に高いといえます。

お困りの際は、ぜひ刑事事件に強い弁護士にご相談ください。

 

 

その他のよくある相談Q&A

 

 

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