略式起訴になったら会社にばれる?対策を弁護士が解説
略式起訴とは?
略式起訴とは、懲役刑が科されるほどではない比較的軽微な犯罪につき、正式な裁判の手続を取るのではなく、裁判官が書面のみに基づいて審査を行い、100万円以下の罰金又は科料の刑罰を与えることを決定する手続のことです。
検察官や裁判官は、膨大な刑事事件の中でも軽微なものにつき、簡易な手続によることで訴訟対応の負担を減らせる一方、被疑者にとっても比較的早期に事件が終了することになるため、双方にメリットがあるといえます。
そのため、略式起訴は多くの事案において採用されています。
略式起訴になったら会社にばれる?
会社にばれるのはどんな場合
略式起訴により罰金刑が科された場合、「自分が罰金刑になったことが会社に発覚してしまうのではないか」とご不安に感じる方が多くいらっしゃいます。
しかし、略式起訴が決まったからといって、会社に対し検察庁や裁判所から連絡がいくようなことはありません。
略式起訴となり、裁判所が罰金額を決定した後は、まず裁判所から「略式命令謄本」が被疑者宛に郵送されます。
その後、1〜2週間ほどすると、今度は検察庁から「納付告知書」が郵送されます。
この納付告知書を持って、指定された金融機関や検察庁の窓口に行き、現金で罰金を納付することになります。
したがって、在宅事件として捜査が終了した事案においては、上述した書類が全て自宅に届くようにしておけば、略式起訴による罰金刑を受けた事実を他人に知られることはまずありません。
むしろ、発覚の可能性があるとすれば、逮捕・勾留されてしまい、留置施設内で何日も過ごすことを余儀なくされたり、実名付きで報道されてしまったりした場合になります。
実名報道については、事件について報道されるかどうかはメディアの裁量により決まりますので、報道を確実に防ぐことは難しいと言わざるを得ません。
しかし、逮捕・勾留を防ぐことができれば、その後に略式起訴がなされたという事実も含めて、会社に発覚する可能性を下げることにもつながります。
前科により資格が停止する場合
ただし、上記はあくまで国家資格などに基づかない、通常の会社員などの場合を想定しています。
一部の国家資格は、前科の有無により資格の停止などといった処分がなされる可能性があります。
略式起訴による罰金刑でも当然に前科はつきますから、医師や薬剤師、看護師などといった職業に関しては、資格が停止されてしまうと、従来どおりに働くことができなくなってしまいます。
資格停止となった事実を病院などの勤務先に隠したまま働いてしまうと、無免許で当該業務を行うことになってしまいますから、さらに罪を重ねることにもつながります。
そのため、資格停止となった事実は、勤務先に報告せざるを得ませんので、こうした経緯から勤務先に発覚するという可能性は残ります。
会社にばれたら解雇されてしまうのか
解雇(懲戒免職)が認められる条件は厳しい
では、万一会社に発覚した場合、解雇される可能性があるのでしょうか。
原則として、使用者側が労働者を解雇することは容易ではありません。
労働契約法16条によれば、労働者の解雇処分が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合、当該解雇処分は無効になると定められています。
また、会社が従業員に対し懲戒処分を行う場合、就業規則に懲戒規定を定めていなければなりません(現実には、ほとんどに企業において懲戒規定が定められているものと考えられます)。
懲戒規定を定めていたとしても、実際に懲戒免職を行う場合、労働契約法15条の適用を受けます。
同条によれば、懲戒を受ける原因となった労働者の行為の性質・態様及びその他の事情に鑑み、客観的に合理的な理由を欠くか、社会通念上相当であると認められない場合、懲戒免職は無効となります。
すなわち、労働者が起こしてしまった事件の内容、それによって生じた結果の大小など、様々な事情をもとに、懲戒免職が有効であるかが判断されるのです。
懲戒免職は、戒告や減給、停職など複数ある懲戒処分の中でも最も重い処分であり、これが有効であるといえるためのハードルはその分高くなるといえます。
ただ、略式起訴となるような事案は、懲役刑が選択される事案と比較すれば軽微な犯罪であることが多いです。
そのため、略式起訴になったことが会社に発覚したからといって、それだけで直ちに懲戒免職となる可能性は、さほど高いとまではいえません。
しかし、会社としても、罪を犯した従業員を何のお咎めもなく継続して雇用するとは限りません。
懲戒免職までは行かなくとも、停職、減給、戒告などといった処分を受ける可能性は残るため、注意が必要です。
さらに、例えば営業職の従業員が罪を犯し、実名報道がされてしまった場合、会社の顔として外部の人間と関わる営業職にとどめておくことはできないと考えるかもしれません。
このような場合、懲戒処分とまでは行かなくとも、他の部署への異動、あるいは自主的な退職を指示される可能性もあります。
略式起訴でも懲戒免職が認められうるケース
他方で、略式起訴による場合でも、懲戒免職の対象となることがあります。
以下、3つの事案を挙げてご説明します。
会社内での盗撮行為
例えば、会社の更衣室にカメラを仕掛けて盗撮したような場合が挙げられます。
盗撮行為は、初犯であれば略式起訴になる可能性が高い類型の犯罪ですが、業務時間中の会社内における犯行であることに加え、他の従業員の不安を招く行為でもあり、社内の風紀を著しく害すると言わざるを得ません。
このような行為を行なった従業員を継続して雇用することは、他の従業員にも悪影響を与えてしまう可能性があるといえるでしょう。
そのため、社内の労働環境を守るためにも、盗撮行為を行なった従業員を懲戒免職とする可能性があります。
トラックやバスの運転手による酒気帯び運転
また、例えばトラック・バスの運転手が酒気帯び運転を行なった場合、最終的には運転免許が取り消される可能性が極めて高く、そもそも運転業務に従事できなくなってしまいます。
仮に、欠格期間を経て運転免許を再取得したとしても、最低限の交通法規すら遵守できなかった従業員に、継続して運転業務を任せることは到底考えられないでしょう。
そのため、こうしたケースにおいても、懲戒免職となる可能性があります。
実名報道がなされた事案
さらに、社名付きで実名報道がされてしまった場合などは、それだけで会社の評判を大きく下げることにもつながってしまいます。
今は実名報道がなされてしまうと、インターネットに半永久的に名前が残ってしまいますし、SNSなどから現在の勤務先まで簡単に特定できてしまいます。
実名報道がなされるような事案は、報道の対象とならない事案と比べて悪質である場合も多く、罪を犯した従業員をそのまま雇用し続けるだけでも、会社としての良識を疑われてしまう可能性があります。
企業としては、そうしたイメージ低下を防ぐため、早期に懲戒免職を選択する可能性もあるでしょう。
以上に挙げたケースの場合は、会社としても懲戒免職を選択せざるを得ないと考えられますし、客観的に合理的な理由があり、社会通念上も相当な処分であるとして、懲戒免職が有効と判断される可能性も十分にあるといえます。
会社にばれないようにするには?
上述のとおり、略式起訴がされたとしても、検察庁や裁判所から直ちに会社まで連絡がいくことはありません。
そのため、自ら会社に報告をしない限り、略式起訴により罰金刑を科されたという事実は、会社に発覚することはないといって良いでしょう。
むしろ、逮捕・勾留されてしまった場合の方が、そもそも会社に出勤できなくなってしまうことから、会社に発覚するリスクは高いといえます。
略式起訴された事実を会社に知られたくないと考えるのであれば、そもそも逮捕・勾留されてしまったという事実を会社に知られないよう、迅速に対処しなければなりません。
そのためには、早期に弁護士に依頼し、身体拘束からの早期解放に向けた弁護活動を行う必要があります。
また、被害者がいる事案では、早期に弁護士に依頼して被害者と示談交渉を行い、示談を成立させることができれば、略式起訴自体を回避し、不起訴処分となる可能性を高めることができます。
再犯であるなどの事情により、公判請求される見込みが高く、不起訴処分となるのが難しいような事案でも、弁護活動により、略式起訴による罰金刑にとどめ、会社への発覚のリスクを最小限に抑えられる可能性もあります。
まとめ
以上、略式起訴になった場合に会社に発覚する可能性とその対策について解説しましたが、いかがでしたでしょうか。
在宅事件であれば、略式起訴が会社に発覚する可能性は一般的に見て高くはありませんが、様々な要因によって発覚の可能性が生じることもあり得ます。
会社への発覚を避けるためには、刑事事件に強い弁護士を早期に選任し、適切な弁護活動を展開していくことが必要不可欠といえます。
ご自身やご家族が刑事事件の当事者となり、会社への発覚を避けたいとお考えの方は、ぜひ一度刑事事件に強い弁護士に相談されることをお勧めいたします。
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