少年事件の処分とは?|不処分・前科・前歴などをわかりやすく解説
少年事件とは?
少年事件とは、20歳に満たない者(以下「少年」といいます。)の健全な育成を期し、非行のある少年に対して性格の矯正及び環境の調整に関する保護処分を行うとともに、少年の刑事事件について特別の措置を講じることを目的とする一連の手続きです。
(ただし、2022年4月1日に施行された改正少年法により、18歳および19歳の者は『特定少年』として位置づけられ、その立場に応じた特例が設けられています。)
こうした方向性で展開される少年事件の手続きは、成人の犯罪者に対する制裁を主たる目的とする刑事手続き(いわゆる「刑罰主義」)とは根本的に異なる理念に基づいています。
少年事件におけるこの基本姿勢は「保護主義」と称され、少年法制度の根幹をなしています。
少年事件の流れ等について、詳しくは下記ページをご覧ください。
少年事件の流れ
少年事件は、警察・検察官による捜査の後、家庭裁判所に送致されます。
そして、家庭裁判所は少年について調査を行い、審判を開くかどうか、審判を開くとしてどのような処遇とするべきかを決定します。
審判が開かれた場合にどのような処遇となるかについては、以下で述べるとおり、①不処分、②保護処分、③都道府県知事または児童相談所長送致、④検察官への逆送致(逆送)に大別できます。
少年事件の結果は?
①不処分
審判までの間に、非行の原因となった少年の問題点が完全に無くなったと判断されるような場合、家庭裁判所が少年に対して処分を言い渡す必要がなくなります。
このような場合には「不処分」という結果に終わります。
不処分となった場合、処分自体は何も行われませんが、非行事実に間違いがない場合には、非行歴としてきちんと記録されます。
②保護処分
保護観察
保護観察とは、保護観察官が少年と定期的に面会し、少年の状況確認を行うことを通じて少年の問題点を改善していくものです。
保護観察官と接する以外の時間については特に身体拘束をされるわけではありませんので、これまでどおりの日常生活を送ることが可能です。
保護観察において、少年が守るべきルールとしては、一般遵守事項と特別遵守事項があります。
一般遵守事項は、保護観察処分を受ける少年全てに義務付けられるルールで、更生保護法に基づいて以下の5つが定められます。
内容 | |
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再非行防止・健全生活の維持 | 再び法令違反行為に及ばないよう、または問題行動をなくすよう健全な日常生活を送ること |
指導監督への協力 | 以下の事項を遵守し、保護観察官および保護司からの適切な指導・監督を真摯に受け入れること
|
居住地の届出 | 保護観察開始時には速やかに定住先を決め、管轄保護観察所へ届け出ること |
届出住所での生活 | 届け出た住居又は仮釈放若しくは仮退院の際に定められた住居に居住すること |
移動の事前許可 | 引越しや長期(7日以上)の旅行をする場合は、事前に保護観察所の許可を取得すること |
特別遵守事項は、個別の事情に応じて定められるものです。
例えば、性犯罪を犯してしまった場合には再度同様の犯行を行わないよう、性犯罪者の更生プログラムを受けることがルールとして定められることがあります。
また、薬物事犯の場合は薬物検査を受けることなども特別遵守事項として定められることがあります。
なお、特定少年(18歳・19歳)に対する保護観察処分は、①6か月の保護観察、②2年の保護観察の2種類に限定されています。また、②の2年の保護観察において重大な遵守事項違反があった場合には、家庭裁判所の決定により、1年以下の範囲で少年院(第5種少年院)に収容されることがあります。
加えて、特定少年については、性格又は環境に照らして、将来罪を犯し、又は刑罰法令に触れる行為をする虞があると認められること(ぐ犯)を理由とする保護処分は行われません。
少年院送致
要保護性(少年の性格や環境に照らして、将来再び非行に陥る危険性があり、保護処分による矯正教育が必要とされること)が強く、社会内での指導監督や補導援護のみでは更生が困難であると判断された場合、少年院送致の処分が選択されることがあります。
少年院は対象者の特性や必要な教育内容によって、次の5種類に分類されています。
種類 | 目的 | 対象 |
---|---|---|
第1種少年院 | 基本的な教育課程を実施する | 身体的・精神的に顕著な問題がない12歳程度から23歳未満までの少年 |
第2種少年院 | 犯罪性がより進んだ少年に対する特別な教育を行う | 主に16歳程度から23歳未満の少年 |
第3種少年院 | 医療的ケアを含めた特別な教育プログラムを提供する | 心身に特別な配慮を要する状態にある12歳程度から26歳未満の少年 |
第4種少年院 | 拘禁刑の執行を受ける者を収容する | 刑事処分を受けた少年(送致時に16歳に満たない少年など、刑事裁判で刑の言渡しを受けた少年が対象となる場合がある) |
第5種少年院 | 保護観察中に遵守事項に違反し、その程度が重い場合に、少年院で教育をし直して矯正を図る | 2年の保護観察に付されている特定少年であって、保護観察中に遵守すべき事項を遵守しなかったと認められる事由があり、 その程度が重く、少年院において処遇を行わなければ本人の改善及び更生を図ることができないと認められ、 少年院に収容する旨の決定を受けた者 ⇒収容期間は1年以下と定められている |
少年院送致は少年事件の中で一般的に最も厳しい処分ではありますが、この処分もあくまで少年の性癖等の改善のために行われるものですので、「前科」には当たりません。
成人の「前科」とは異なり、少年の保護処分は「前歴」として扱われます。
しかし、少年院送致の処分を受けた経験があるにもかかわらず、成人してからも犯罪を行ってしまった場合、当然処分が重くなる方向で考慮されることになります。
なお、特定少年(18歳・19歳)が検察官送致(逆送)となり、刑事裁判で有罪判決を受けた場合は、17歳以下の少年とは異なり、少年法第60条の資格制限の特例(前科としての効力を制限する規定)は適用されず、成人と同様に前科として扱われます。
第六十条
1 少年のとき犯した罪により刑に処せられてその執行を受け終り、又は執行の免除を受けた者は、人の資格に関する法令の適用については、将来に向つて刑の言渡を受けなかつたものとみなす。
2 少年のとき犯した罪について刑に処せられた者で刑の執行猶予の言渡を受けた者は、その猶予期間中、刑の執行を受け終つたものとみなして、前項の規定を適用する。
3 前項の場合において、刑の執行猶予の言渡を取り消されたときは、人の資格に関する法令の適用については、その取り消されたとき、刑の言渡があつたものとみなす。
試験観察
家庭裁判所は、保護処分を決定するために必要があると認めるときは、決定をもって、相当な期間、少年を調査官の観察に付することができると定められています(少年法25条1項)。
この条文による処分を、試験観察といいます。
第二十五条 家庭裁判所は、第二十四条第一項の保護処分を決定するため必要があると認めるときは、決定をもつて、相当の期間、家庭裁判所調査官の観察に付することができる。
2 家庭裁判所は、前項の観察とあわせて、次に掲げる措置をとることができる。
一 遵守事項を定めてその履行を命ずること。
二 条件を附けて保護者に引き渡すこと。
三 適当な施設、団体又は個人に補導を委託すること。
少年事件では、家庭裁判所の審判において、少年の処遇を決定します。
この審判の時点で、少年を保護観察処分として社会内に戻すには少年自身や環境の問題(要保護性といいます)が大きすぎるような場合のうち、直ちに少年院送致の処分を下すことも不適切ではないかと考えられるような場合に、試験観察が利用されることになります。
試験観察は、家庭裁判所の調査官が少年を指導・監督して少年の立ち直りを支援しながら、要保護性を可能な限り下げていくことを目的としています。
試験観察の結果が良いものであれば、不処分や保護観察といった社会内での処遇に委ねる処分が下されることになります。
逆に、試験観察の結果が悪いものであれば、少年院送致の処分が下されることになります。
いわば、試験観察は中間的な処分なのです。
ここまでの説明で、試験観察という処分をマイナスに捉える方もいらっしゃるかもしれません。
ですが、試験観察が言い渡されるような事案においては、仮に試験観察制度がなかったとした場合、家庭裁判所としては少年院送致の決定をせざるを得ないようなケースも少なくありません。
そのため、試験観察は少年や家族にとってプラスに捉えるべき制度です。
また、試験観察には在宅の試験観察と、補導委託の試験観察の2つがあります。
在宅の試験観察の場合には、家庭裁判所の審判において試験観察処分に付する旨が言い渡された後は、簡単に試験観察の説明を受け、そのまま家に帰ることができます。
一方、補導委託の試験観察の場合には、家ではなく、補導委託先の団体(少年を収容する施設など)で生活を送ることになります。
これは少年院ほど拘束的ではないものの、一定の規律を伴う生活環境で少年の更生を図る方法です。
③都道府県知事又は児童相談所長送致
家庭裁判所が、児童福祉法の規定による措置を受けさせるべきであると考えるときは、都道府県知事や児童相談所長に対して送致することになります。
これらの機関に送致された後は、個々のケースに応じて、誓約書を提出させたり、児童福祉司等による指導が行われたり、児童自立支援施設や児童養護施設などの児童福祉施設に入所させたりといった措置が行われることになります。
この処分は主に年少少年(特に触法少年)に対して適用されることが多く、基本的な生活習慣の確立や教育的観点からの支援が必要な場合に選択されます。
もっとも、この処分結果となることはそこまで多くありません。
④検察官送致(逆送)
事件の悪質性や少年の状態から、保護処分ではなく刑事罰が相当であると考えられる事件があります。
家庭裁判所が刑事罰を受けさせるべきだと考えた場合、検察官に起訴するか否かを委ねるため、検察官に送致します(少年法第20条1項)。
これは「逆送」とも呼ばれています。
なお、2021年5月21日に少年法等の一部を改正する法律が成立し、2022年4月1日から施行されています。
この改正では、18歳・19歳の者が「特定少年」という新たな区分に位置づけられました。
民法の成年年齢が18歳に引き下げられたことに合わせた改正ですが、成長途上にある特定少年も引き続き少年法の適用対象とされています。
ただし、その立場に応じた取扱いとするため、原則逆送対象事件の拡大、保護処分の種類の限定、特定少年が起訴された場合に実名や顔写真などの報道が可能になること、資格制限の特例(少年法第60条)の適用除外など、17歳以下の少年とは異なる特例が定められています。
なお、16歳以上の少年が故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪については、原則として検察官送致という扱いになる規定が設けられています(少年法第20条第2項)。
これに加え、2022年4月1日施行の改正少年法により、特定少年(18歳・19歳)については、さらに逆送対象事件が拡大され、死刑、無期または短期1年以上の拘禁刑に当たる罪(強盗罪、強制性交等罪、強制わいせつ罪、現住建造物等放火罪など)についても、原則として検察官送致とされることになりました(改正後の少年法第62条第2項第2号)。
しかしながら、個々の事案において、当該特定少年の精神的成熟度、違法行為の具体的状況、保護処分による更生可能性などを総合的に評価し、家庭裁判所が保護処分が適切と判断すれば、従来どおりの少年保護手続きで対応することも可能な制度設計となっています。
この制度設計は、被害者の心情に配慮しつつ、少年の更生可能性も見据えたものといえます。
検察官送致された場合
検察官送致を受けた後は、通常の刑事事件と同様に手続きが進んでいきます。
検察官は事件を精査した上で起訴・不起訴を決定します。
起訴された場合は刑事裁判に移行し、有罪判決となれば刑罰が科されることになります。
刑事裁判の過程においても、対象者が少年あるいは特定少年であることへの配慮が制度化されています。
刑事裁判の途中段階でも、少年の更生可能性が高いと判断された場合には、家庭裁判所への移送制度を活用して保護処分への切り替えが可能です。
また、刑事罰を科す場合、17歳以下の少年に対しては、刑期に幅を持たせた不定期刑(例:拘禁刑〇年以上〇年以下)が原則として適用されます(少年法52条)。
第五十二条
1 少年に対して有期拘禁刑をもつて処断すべきときは、処断すべき刑の範囲内において、長期を定めるとともに、長期の二分の一(長期が十年を下回るときは、長期から五年を減じた期間。次項において同じ。)を下回らない範囲内において短期を定めて、これを言い渡す。この場合において、長期は十五年、短期は十年を超えることはできない。
2 前項の短期については、同項の規定にかかわらず、少年の改善更生の可能性その他の事情を考慮し特に必要があるときは、処断すべき刑の短期の二分の一を下回らず、かつ、長期の二分の一を下回らない範囲内において、これを定めることができる。この場合においては、刑法第十四条第二項の規定を準用する。
3 刑の執行猶予の言渡しをする場合には、前二項の規定は、これを適用しない。
特定少年についても不定期刑の適用は可能ですが、その場合でも犯した罪の責任の限度で刑を科すこととされ、成人と同様の基準で量刑が判断された上で、その刑の範囲内で言い渡されることになります。
また、特定少年については、事案により成人と同様に有期刑が科されることもあります。
ただし、死刑を無期刑に、無期刑を有期刑に緩和する少年法第51条の規定は、特定少年にも適用されます。
第五十一条
1 罪を犯すとき十八歳に満たない者に対しては、死刑をもつて処断すべきときは、無期拘禁刑を科する。
2 罪を犯すとき十八歳に満たない者に対しては、無期拘禁刑をもつて処断すべきときであつても、有期拘禁刑を科することができる。この場合において、その刑は、十年以上二十年以下において言い渡す。
まとめ
以上、少年事件の処分についてご説明いたしましたが、いかがでしたでしょうか。
少年事件の処遇は、付添人の活動が少年の内省を深め、更生に向けた具体的な環境調整を行うことで、少年にとってより良い結果に繋がる可能性が十分にあります。
早い段階で少年事件に注力する弁護士に依頼し、少年の更生に向けた活動を展開していくことで、少年なりに事件の振り返りを重ねて反省を深め、結果として処分結果を軽減できる可能性を高めることができるでしょう。
ご自身のお子様が少年事件に巻き込まれてしまいお困りの方は、ぜひ少年事件に注力する弁護士に相談されることをお勧めします。
少年事件のよくある相談Q&A
なぜ刑事事件では弁護士選びが重要なのか