居住権を持つ親族間の立ち退きや賃料の請求は、困難なケースが多いのが実情です。
しかし、状況(遺産分割の前後や賃貸契約の有無など)によっては、合法的に立ち退かせたり、賃料を請求できたりする可能性も十分にあります。
今回は、親族間の居住権トラブルについて、「長年住めば権利は強くなる?」という年数の誤解から、具体例、無理に追い出す場合のリスク、立ち退き料の相場まで、相続問題に注力した弁護士が分かりやすく解説します。
目次
居住権はどのくらい強い?立ち退きを拒否できる法的根拠
そもそも「居住権」とは?
居住権とは、家屋に住み続けることができる権利の総称をいいます。
例えば、家屋に関して、賃貸借契約や使用貸借契約がある場合、借主はその家屋に住む権利があります。
賃貸借契約とは?
賃貸借契約とは、貸主(物件の所有者等)が借主に対して、その物件の使用や収益を認め、借主がその対価として「賃料」を支払うことを約束する契約のことです。
使用貸借契約とは?
使用貸借契約は、貸主が借主に対して、無料で物件の使用や収益を認める契約です。
すなわち、賃貸借契約との違いは、賃料の有無となります。
配偶者居住権について
賃貸借契約等とは別に、相続が発生した場合、被相続人(亡くなった方のこと)の配偶者には、配偶者居住権や配偶者短期居住権が認められることがあります。
居住権を主張する親族に立ち退き請求はできる?
具体例 共同相続人の1人であるAが相続財産である建物に居住し、A、B、Cの相続分はそれぞれ3分の1だった場合

このような場合、BとCの2人でAに明渡しを求めれば、共有持分権の合計割合が多いBC(3分の2)に対して、Aは応じなければいけないようにも見えます。
しかし、Aは、たとえ共有持分権がBCより少なくても、自己の持分権に基づいて建物を使用収益する権限を有し、占有しています。
したがって、このような場合、BCがAに明渡しを求めるためには、その理由を主張し、立証しなければならないと解されています(最判昭41.5.19)。
判例 【昭和41年 5月19日 最高裁第一小法廷 昭38(オ)1021号】
右の少数持分権者は自己の持分によって、共有物を使用収益する権原を有し、これに基づいて共有物を占有するものと認められるからである。
従って、この場合、多数持分権者に対して共有物の明渡を求めることができるためには、その明渡を求める理由を主張し立証しなければならないのである。
居座る親族に賃料(お金)の請求はできる?
例えば、共同相続人であるAが相続開始前から被相続人Dの許諾を得て、遺産である建物にDと同居していた場合、他の相続人BがAが自己の相続分を超えていると主張して、賃料を請求するケースがあります。

このような場合、D死亡後、遺産分割で建物の所有権が確定するまでの間は、Aに建物を無償で使用させる合意があったものと推認されるため、賃料を請求することはできません。
裁判例も、このような事案について、「被相続人と同居の相続人との間において、相続開始を始期とし、遺産分割時を終期とする使用貸借契約が成立していたものと推認される」として、他の相続人からの不当利得返還請求を認めていません(最判平8.12.17)。
他方、このような無償で使用させる合意が推認されないケースでは、占有する相続人は、自己の相続分および管理費用を超える使用収益を得ている場合、他の相続人に対し、対価相当分を支払うのが相当と考えられます。
判例 【平成 8年12月17日 最高裁第三小法廷 平5(オ)1946号】
共同相続人の一人が相続開始前から被相続人の許諾を得て遺産である建物において被相続人と同居してきたときは、特段の事情のない限り、被相続人と右同居の相続人との間において、被相続人が死亡し相続が開始した後も、遺産分割により右建物の所有関係が最終的に確定するまでの間は、引き続き右同居の相続人にこれを無償で使用させる旨の合意があったものと推認されるのであって、被相続人が死亡した場合は、この時から少なくとも遺産分割終了までの間は、被相続人の地位を承継した他の相続人等が貸主となり、右同居の相続人を借主とする右建物の使用貸借契約関係が存続することになるものというべきである。
親族間の立ち退きトラブルを未然に防ぐ「生前対策」
ここでは、まだ相続が発生していない場合で、将来に備えた、親族間のトラブル予防法について、ご紹介します。
遺言書を作成しておく
遺言書があれば、基本的には相続人はその遺言内容に従わなければなりません。
そこで、遺言書の中で、当該不動産の処分方法について、記載しておくことで、立ち退きトラブルを予防できることとなります。
例えば、不動産を「現在居住している者に相続させる」旨の遺言書を作成します。
この場合、相続発生時に、当該不動産の所有権が居住者に移ります。
こうすることで、親族間の立ち退きトラブルがなくなります。
使用貸借契約書を作成する
使用貸借契約について、期間を明記した契約書を作成しておくことでも、トラブルの予防につながります。
例えば、居住させる際に、使用貸借の期間を「貸主(被相続人)が死亡するまで」としておけば、相続開始と同時に、使用貸借契約が終了します。
居住権による親族間の立ち退きトラブルの解決方法
では、事前の対策ができず、すでに実家に親族が居座ってしまってトラブルになっている場合はどうすればいいのでしょうか。
前述した通り、「遺産分割(相続の話し合い)が終わるまでは、最高裁の判例によって、無理に追い出すことも家賃を奪うこともできない」のがルールでした。
つまり、逆を言えば「遺産分割を早く終わらせて、家の所有者をカチッと決めること」こそが、この居住権トラブルを根本から解決する唯一のルートになります。
具体的な方法をご紹介します。

遺産分割協議の実施
親族との居住権のトラブルが発生するのは、まだ遺産分割が確定していないからです。
そのため、遺産分割を成立させることを第1に考えるべきです。
遺産分割の方法には、家裁の調停を利用する方法もあります。
しかし、家裁の手続は、一般的に解決まで長年月を要します。
また、家裁まで何回も行くのは、相当な労力を要します。
そのため、まずは遺産分割協議を実施されることをお勧めいたします。
遺産の調査と評価
また、遺産分割協議を成立させる前提として、まず遺産にどのようなものがあるかを調査する必要があります。
また、遺産の範囲を確定したら、次にそれを適切に評価する必要があります。
特に、今回のご質問のような不動産が遺産となる場合、その時価を算出する必要があります。
不動産については路線価や固定資産税評価額が遺産価値と考えている方が多いため、注意が必要です。
これらの評価額は、あくまで相続税や固定資産税という課税の局面の評価であって、遺産分割の際の評価とは同一ではありません。
あくまで参考程度の評価額であって、適切に評価するためには時価を査定する必要があります。
絶対にやってはいけない!強行手段とリスク
そもそも居住者に居住権が認められる場合、その居住者の意向を無視して強制的に追い出すことはできません。
また、居住権がなかった場合でも、勝手に荷物を撤去する行為は違法となります。
このような場合、裁判所の手続きを経て、強制執行しなければなりません。
親族間の居住権トラブルについてのよくあるQ&A
ここでは、親族間の居住権トラブルについてのご質問をご紹介します。
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居住権で立ち退きを拒否できますか?
また、配偶者の場合、配偶者居住権によって、立ち退きを拒否できる場合があります。
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親族間の立ち退き料の相場は?
立ち退きの交渉を行う場合、引っ越し代に加えて、引っ越し先の賃料の半年分を負担するなどと提案することで、穏便に済むケースもあります。
ただ、ケース・バイ・ケースですので、くわしくは相続に強い弁護士に相談されることをお勧めいたします。
まとめ
以上、相続時の建物明け渡しや賃料請求の問題について、くわしく解説しましたがいかがだったでしょうか?
親族との居住権をめぐるトラブルを根本的に解決するためには、遺産分割を行う必要があります。
そして、遺産分割をできるだけご負担が少なく解決するためには、協議による解決がお勧めです。
しかし、遺産分割は、その前提として、遺産を調査し、かつ、適切に評価する必要があります。
これらは相続の専門家でなければ難しい場合があります。
また、相続人間では感情的な対立があり、遺産分割の協議が難しいというケースがあります。
このようなケースでは、専門家に間に入って交渉してもらうという方法も検討されると良いでしょう。
当事務所の相続対策チームは、相続問題に注力する弁護士・税理士のみで構成される専門チームであり、居住権トラブルや遺産分割に関するノウハウを共有しています。
居住権トラブルでお悩みの方は、当事務所までお気軽にご相談されてください。
なお、ご自宅の近くに専門の弁護士がいない方に対して、当事務所ではLINEなどを活用したオンラインによる相談を実施しています。
ご相談の流れは以下のページをご覧ください。








