少年事件における家庭裁判所への対応【刑事弁護士が解説】

弁護士法人デイライト法律事務所 弁護士  保有資格 / 弁護士・3級ファイナンシャルプランナー

少年事件の家庭裁判所への対応

少年事件と家裁の関係

少年が事件を起こした場合、捜査機関による捜査が進んだ後、原則として全ての事件が家庭裁判所に送られます。

これを「全件送致主義」といい、少年法第41条および第42条に規定されています。

 根拠条文

(司法警察員の送致)
第四十一条
司法警察員は、少年の被疑事件について捜査を遂げた結果、罰金以下の刑にあたる犯罪の嫌疑があるものと思料するときは、これを家庭裁判所に送致しなければならない。犯罪の嫌疑がない場合でも、家庭裁判所の審判に付すべき事由があると思料するときは、同様である。
(検察官の送致)
第四十二条
1 検察官は、少年の被疑事件について捜査を遂げた結果、犯罪の嫌疑があるものと思料するときは、第四十五条第五号本文に規定する場合を除いて、これを家庭裁判所に送致しなければならない。犯罪の嫌疑がない場合でも、家庭裁判所の審判に付すべき事由があると思料するときは、同様である。
2 (略)

引用:少年法|e-Gov法令検索

なぜ全件送致主義が採用されているかというと、少年法が理念として掲げている「少年の健全な育成」(少年法第1条)を実現するためです。

令和3年5月21日に成立した少年法等の一部を改正する法律(令和4年4月1日施行)により、「特定少年」(18歳及び19歳)の概念が導入されましたが、この理念自体は変わっていません。

少年事件に関しては、少年が行ってしまった非行の軽重のみならず、なぜ少年が非行に走ってしまったのかについても十分に調査を行い、処分を決定していきます。

これは、少年が今後二度と非行に走ることなく健全に育っていくためには、非行の内容がどんなものであれ、非行に走ってしまった原因を早期に改善することが必要になるからです。

そのため、たとえ成人であれば不起訴になりうるような内容の事件であっても、少年の場合は一律に家庭裁判所に送致され、少年審判に繋がる可能性が高いといえます。

ただし、2022年4月からの成年年齢引下げに伴う少年法改正により、特定少年については、一部の重大事件に関しては原則検察官送致となるなど、扱いが変更されている点に注意が必要です。

この点については後ほどご説明します。

 

 

家裁調査官とは

家庭裁判所には、調査官と呼ばれる専門家が所属しています。

家庭裁判所調査官は、家庭裁判所において取り扱われる家事事件や少年事件などにつき,様々な観点からの調査を行う役割を担っています(裁判所法第61条の2第1項・第2項参照)。

裁判所職員採用総合職試験(家庭裁判所調査官補)に合格後、約2年間の専門研修を経て、心理学、社会学、社会福祉学、教育学などの専門的知識を身につけた方々が調査官となるのです。

調査官は、上記のような専門的知識を総動員して、なぜ少年が非行に走ってしまったのか、少年が今後また非行に走ってしまう可能性がどれくらいあるか、それを防ぎ少年が更生していくためにどのような処遇とすべきか、などといった内容について、様々な角度から調査を行い、処遇に関する意見を提出する役割を担っています。

 

 

少年事件の家裁調査の流れ

処分の決定にあたっては、家庭裁判所調査官が事件の記録を精査した上で、少年や保護者と面接を行い、非行に至った経緯や、生活状況、家庭環境等について話を聞き出します。

その上で、どうして非行に走ってしまったか、どうすれば二度と非行に走らずに済むかについて、少年や保護者と一緒に考えていくことになります。

また、必要に応じて、少年の通学先の学校や勤務先への訪問調査、心理テストの実施なども行われます。

事件の内容や、少年自身が抱える問題の深さなどにもよりますが、この調査には少なくとも1ヶ月程度を要することが多いといえます。

特に複雑な事案では、より長期間の調査が必要となる場合もあります。

調査期間中、少年の身柄は通常は保護者に引き渡されますが、事案の内容によっては少年鑑別所に収容されることもあります。

少年鑑別所では、少年の資質の鑑別が行われるとともに、必要な指導も受けることになります。

調査終了後の処分

調査が終了した後は、調査官が担当裁判官に対し、少年調査票を作成・提出します。

この調査票の中には、少年に対し、どのような処遇とするのが一番良いかについて、調査官の意見が記載されます。

また、調査官は、少年審判にも出席し、少年に質問をしたり、調査官としての意見を述べたりします。

少年審判は非公開で行われ、少年、保護者、付添人(弁護士等)、調査官などが出席します。

裁判官は、少年調査票に記載された調査官の意見を参考にしつつ、審判の中での少年の受け答えなどを踏まえ、最終的な結論を決めることになります。

少年事件の場合、事件の内容が軽微なものであったとしても、少年自身が再び非行に走る可能性が高いと判断されたりすると、何らかの保護処分がなされる可能性があります。

少年事件の終わり方としては、以下の3つのパターンが想定されます。

審判不開始、不処分などにより、その後の監督等が不要と判断されるパターン

軽微な事案や、少年の改善が顕著であると認められる場合に適用されます。

 

少年院送致や保護観察などをはじめとする保護処分、知事又は児童相談所長送致など、一定の監督が必要と判断されるパターン

再非行のリスクがあると判断された場合や、少年の健全育成のために専門的な指導・監督が必要と判断された場合に適用されます。

保護観察では、保護観察官による定期的な面接指導や、社会奉仕活動などの特別遵守事項が課されることがあります。

 

少年事件としての扱いではなく、成人と同様に刑事裁判を行うべきであるとする検察官送致(逆送)のパターン

特に重大な事件や、16歳以上の少年による故意の犯罪行為で被害者が死亡した事件などに適用されます。

また、2022年4月からは、特定少年による「死刑・無期・短期1年以上の拘禁刑に当たる罪」の事件については、原則として検察官送致となる点に注意が必要です。

 

 

付添人の役割

少年事件においては、「付添人」と呼ばれる少年の代理人を選任することができます。

付添人は通常、弁護士が務めることが多く、少年の健全な育成という少年法の理念に沿って少年をサポートします。

付添人は捜査段階から関与し、観護措置の回避や審判不開始を目指すとともに、少年と家庭裁判所調査官との間の適切なコミュニケーションを促進します。

特に、調査官との面談についてはできる限り積極的に行い、少年の努力や変化を伝えることで、より適切な処遇意見につながる可能性があります。

また、少年の更生計画を立案し、中間報告書などの形で調査官と情報共有を行うことで、少年が自己の課題をどこまで認識し改善できているかを示すことも重要です。

これにより、例えば「少年院送致が相当」とするはずだった処遇意見が「保護観察が相当」という内容に変わったりすることもあり得ます。

 

 

2022年少年法改正のポイント

2022年4月からの少年法改正は、選挙権年齢や民法の成年年齢が20歳から18歳に引き下げられたことを背景としてなされたものです。

18歳・19歳の者は、社会において責任ある主体として積極的な役割を果たすことが期待される立場となった一方で、成長途上にあり適切な教育や処遇による更生が期待できることから、「特定少年」として少年法の適用対象としつつも、17歳以下の少年とは異なる特例を定めるという形で法改正が行われました。

主な変更点は以下の通りです。

 

①「特定少年」制度の創設

18歳・19歳の者を「特定少年」と位置づけ、少年法の適用対象としつつも、成人とは異なる特別な取扱いを定めています。

通常の少年の場合と異なり、特定少年に対する保護処分は、①少年院送致(法定上限は3年以内ですが、少年法64条3項により、未決勾留日数の算入が可能となりました)、②2年間の保護観察(遵守事項違反時は少年院収容可)、③6か月の保護観察の3種類に限られます。

また、特定少年については、将来罪を犯すおそれがあることを理由とする「ぐ犯少年」としての保護処分は行われません(少年法第65条)。

 根拠条文

(保護処分についての特例)

第六十四条

1 第二十四条第一項の規定にかかわらず、家庭裁判所は、第二十三条の場合を除いて、審判を開始した事件につき、少年が特定少年である場合には、犯情の軽重を考慮して相当な限度を超えない範囲内において、決定をもつて、次の各号に掲げる保護処分のいずれかをしなければならない。ただし、罰金以下の刑に当たる罪の事件については、第一号の保護処分に限り、これをすることができる。

一 六月の保護観察所の保護観察に付すること。

二 二年の保護観察所の保護観察に付すること。

三 少年院に送致すること。

2 前項第二号の保護観察においては、第六十六条第一項に規定する場合に、同項の決定により少年院に収容することができるものとし、家庭裁判所は、同号の保護処分をするときは、その決定と同時に、一年以下の範囲内において犯情の軽重を考慮して同項の決定により少年院に収容することができる期間を定めなければならない。

3 家庭裁判所は、第一項第三号の保護処分をするときは、その決定と同時に、三年以下の範囲内において犯情の軽重を考慮して少年院に収容する期間を定めなければならない。

4 勾留され又は第十七条第一項第二号の措置がとられた特定少年については、未決勾留の日数は、その全部又は一部を、前二項の規定により定める期間に算入することができる。

5 第一項の保護処分においては、保護観察所の長をして、家庭その他の環境調整に関する措置を行わせることができる。

(この法律の適用関係)

第六十五条 第三条第一項(第三号に係る部分に限る。)の規定は、特定少年については、適用しない。

(審判に付すべき少年)

第三条 次に掲げる少年は、これを家庭裁判所の審判に付する。

一・二(略)

三 次に掲げる事由があつて、その性格又は環境に照して、将来、罪を犯し、又は刑罰法令に触れる行為をする虞のある少年

イ 保護者の正当な監督に服しない性癖のあること。

ロ 正当の理由がなく家庭に寄り附かないこと。

ハ 犯罪性のある人若しくは不道徳な人と交際し、又はいかがわしい場所に出入すること。

ニ 自己又は他人の徳性を害する行為をする性癖のあること。

引用:少年法|e-Gov法令検索

 

②原則逆送事件の範囲拡大

特定少年については、「故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪の事件であって、その罪を犯すとき16歳以上の少年に係るもの」に加え、「死刑又は無期若しくは短期1年以上の拘禁刑に当たる罪の事件」が原則検察官送致の対象となりました。

これにより、強盗罪や強制性交等罪などの犯罪も原則検察官送致の対象となっています。

ただし、「犯行の動機、態様及び結果、犯行後の情況、特定少年の性格、年齢、行状及び環境その他の事情を考慮し、刑事処分以外の措置を相当と認めるとき」は例外的に家庭裁判所での審判が行われます(少年法第62条第2項)。

 根拠条文

(検察官への送致についての特例)

第六十二条

1 家庭裁判所は、特定少年(十八歳以上の少年をいう。以下同じ。)に係る事件については、第二十条の規定にかかわらず、調査の結果、その罪質及び情状に照らして刑事処分を相当と認めるときは、決定をもつて、これを管轄地方裁判所に対応する検察庁の検察官に送致しなければならない。

2 前項の規定にかかわらず、家庭裁判所は、特定少年に係る次に掲げる事件については、同項の決定をしなければならない。ただし、調査の結果、犯行の動機、態様及び結果、犯行後の情況、特定少年の性格、年齢、行状及び環境その他の事情を考慮し、刑事処分以外の措置を相当と認めるときは、この限りでない。

一 故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪の事件であつて、その罪を犯すとき十六歳以上の少年に係るもの

二 死刑又は無期若しくは短期一年以上の拘禁刑に当たる罪の事件であつて、その罪を犯すとき特定少年に係るもの(前号に該当するものを除く。)

引用:少年法|e-Gov法令検索

 

③検察官関与制度の対象拡大

特定少年の事件では、家庭裁判所は、死刑又は無期若しくは長期3年を超える拘禁刑に当たる罪の事件について、その罪質及び被害者・遺族の心情・意見等の事情を考慮して必要と認めるときは、検察官を審判に関与させることができるようになりました(少年法第22条の2第1項、同条第3項)。

 根拠条文

(検察官の関与)

第二十二条の二

1 家庭裁判所は、第三条第一項第一号に掲げる少年に係る事件であつて、死刑又は無期若しくは長期三年を超える拘禁刑に当たる罪のものにおいて、その非行事実を認定するための審判の手続に検察官が関与する必要があると認めるときは、決定をもつて、審判に検察官を出席させることができる。

2 家庭裁判所は、前項の決定をするには、検察官の申出がある場合を除き、あらかじめ、検察官の意見を聴かなければならない。

3 検察官は、第一項の決定があつた事件において、その非行事実の認定に資するため必要な限度で、最高裁判所規則の定めるところにより、事件の記録及び証拠物を閲覧し及び謄写し、審判の手続(事件を終局させる決定の告知を含む。)に立ち会い、少年及び証人その他の関係人に発問し、並びに意見を述べることができる。

引用元:少年法|e-Gov法令検索

 

④推知報道規制の緩和

特定少年については、推知報道規制が一部緩和されました。

具体的には、特定少年が犯した罪により逆送されて起訴された場合(略式命令請求手続の場合を除く)には、氏名、年齢、職業、住居、容ぼうなどによって本人と推知される報道が可能となりました(少年法第68条)。

これにより、公開の法廷で刑事責任を問われる立場となった特定少年については、社会的な批判・論評の対象となり得るものとされています。

ただし、略式命令請求手続が行われた場合や、家庭裁判所の審判を受ける場合には、引き続き推知報道は禁止されています。

 根拠条文

第六十一条

家庭裁判所の審判に付された少年又は少年のとき犯した罪により公訴を提起された者については、氏名、年齢、職業、住居、容ぼう等によりその者が当該事件の本人であることを推知することができるような記事又は写真を新聞紙その他の出版物に掲載してはならない。

第六十八条

第六十一条の規定は、特定少年のとき犯した罪により公訴を提起された場合における同条の記事又は写真については、適用しない。ただし、当該罪に係る事件について刑事訴訟法第四百六十一条の請求がされた場合(同法第四百六十三条第一項若しくは第二項又は第四百六十八条第二項の規定により通常の規定に従い審判をすることとなつた場合を除く。)は、この限りでない。

引用:少年法|e-Gov法令検索

 

まとめ

少年事件においては、審判を担当する裁判官や調査官とも緊密に連携を取り、何をするのが少年にとって最善であるかを共に考えていく必要があります。

そのためには、付添人が率先して調査官との面談を行ったり、審判に至るまでの少年の努力を中間報告書の形にまとめ、調査官と情報共有を行ったりして、少年が自己の課題をどこまで認識し改善できているか、さらに少年の反省を深め、課題を解決していくにはどのような手段を取ったら良いか、といった点につき、議論を深めていくことが有用です。

最終的な処遇意見を述べる権限のある調査官に対し、少年自身の努力や変化を逐一伝えることで、調査官も少年が自分の力で更生できる可能性を認めるようになるかもしれません。

2022年の少年法改正により、特定少年については、より成人に近い扱いとなる部分も増えていますが、それでも「少年の健全な育成」という少年法の基本理念は変わっていません。

少年事件においては、刑罰よりも教育的・福祉的な観点からの介入が重視される点が、成人の刑事事件とは大きく異なります。

お子様が少年審判を受けることになったなど、ご不安を抱えていらっしゃる方は、ぜひ一度少年事件に注力する弁護士にご相談ください。

専門的な知識と経験を持つ弁護士が、少年の健全な成長と将来を見据えたサポートを提供します。

 

 


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