略式起訴は前科になる?弁護士が解説!

弁護士法人デイライト法律事務所 弁護士  保有資格 / 弁護士・3級ファイナンシャルプランナー

略式起訴により罰金刑が科された場合も、通常の裁判による有罪判決と同様、前科がつくことになります

略式起訴とは

略式起訴とは、正式な裁判の手続を経ることなく、裁判官が書面のみの審査を行い、100万円以下の罰金又は科料を科す手続のことを指します。

略式起訴の制度により、比較的低額の罰金刑にとどまるような軽微な犯罪については、正式な裁判を行うのではなく、簡易化された手続によることで、検察官や裁判所の負担を減らすことができます。

もちろん、被疑者にとっても、裁判に出頭する負担を減らすことができるというメリットがあります。

以上のような理由から、略式起訴は、多くの事案において広く利用されています。

 

どういう場合に略式起訴になる?

前提として、略式起訴は、100万円以下の罰金又は科料が科される場合にのみ使用される可能性があります。

逆にいうと、100万円以上の罰金刑となる場合、又は(執行猶予がつく場合も含め)懲役刑・禁固刑が科される場合には、略式起訴はなされず、公判請求がなされ、正式に裁判を行うこととなります。

100万円以下の罰金又は科料となる場合において、略式起訴により事件処理を終了させるには、被疑者が略式起訴の手続によることについて異議がない旨の書面が必要となります(刑事訴訟法462条2項、同461条の2第2項)。

根拠条文
第四百六十二条 略式命令の請求は、公訴の提起と同時に、書面でこれをしなければならない。
② 前項の書面には、前条第二項の書面を添附しなければならない。
第四百六十一条の二 検察官は、略式命令の請求に際し、被疑者に対し、あらかじめ、略式手続を理解させるために必要な事項を説明し、通常の規定に従い審判を受けることができる旨を告げた上、略式手続によることについて異議がないかどうかを確かめなければならない。
② 被疑者は、略式手続によることについて異議がないときは、書面でその旨を明らかにしなければならない。

引用元:刑事訴訟法|e-GOV法令検索

異議がないことを示す書面は、自分であらかじめ作成しておく必要はなく、検察官が当該事件を略式起訴により処理するのが適当だと判断したときに、取調べの最中などに、被疑者に対し署名・押印を求めます。

検察官から略式起訴について被疑者に一通りの説明を受け、被疑者が略式起訴によることに同意した場合に、被疑者自身が署名・押印を行います。

検察官は、この同意書と証拠資料一式を裁判所に送付し、略式起訴の手続を取ることになります。

略式起訴による事件処理がなされることが多いのは、下記のようなケースです。

  • 道路交通法違反(酒気帯び運転で事故など一切ないケース)
  • 過失運転致傷(怪我の程度が軽微な交通事故)
  • 被害額が比較的低額にとどまる窃盗
  • 各都道府県の迷惑行為防止条例違反(痴漢、盗撮など)

しかしながら、上記はあくまで前科・前歴がない、初犯の方の場合にのみ当てはまります。

前科・前歴があり、過去にも略式起訴による罰金刑を受けたことがある場合や、前刑において罰金以上に重い懲役刑の判決を受けたことがある場合などは、略式起訴ではなく、公判請求され、正式な裁判が開かれる可能性が高くなります。

 

略式起訴の罰金の相場は?

略式起訴となった場合の罰金額の相場は、事案により大きく異なってきます。

例えば、福岡県内における痴漢事件や盗撮事件であれば、福岡県迷惑行為防止条例11条により、法定刑は1年以下の懲役又は100万円以下の罰金とされていますが、初犯の場合の罰金刑はおよそ30〜40万円程度となることが多いといえます。

他方、再犯に及んでしまった場合は、そもそも略式起訴ではなく公判請求されてしまうケースも増えますが、略式起訴で処理されたとしても、罰金額は70〜80万円程度と、さらに高額になります。

また、窃盗事件であれば、法定刑は刑法235条により、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金とされていますが、被害額にもよりますが、初犯の場合で概ね20〜30万円程度となるケースが多いようです。

 

 

略式起訴は前科になる?

それでは、略式起訴により事件処理が終結した場合、通常の手続よりも簡単な手続で終了していることから、前科とはならない可能性はあるのでしょうか。

結論から申し上げますと、略式起訴により罰金刑が科された場合も、通常の裁判による有罪判決と同様、前科がつくことになります。

なぜなら、罰金刑はれっきとした刑罰の一つであり(刑法9条、15条)、手続が簡略化されたとはいえ、検察官が裁判所に対して起訴を行い、裁判所がこれに応じて罰金刑という刑罰を科すという点は、通常の刑事裁判と変わらないからです。

根拠条文
(刑の種類)
第九条 死刑、懲役、禁錮、罰金、拘留及び科料を主刑とし、没収を付加刑とする。
(罰金)
第十五条 罰金は、一万円以上とする。ただし、これを減軽する場合においては、一万円未満に下げることができる。

引用元:刑法|e – GOV法令検索

通常の裁判により言い渡される罰金刑と、略式起訴による罰金刑とでは、基本的に公開の法廷において裁判がなされるか、非公開で書面のみにより判断されるかの違いしかありません。

 

交通反則金との違い

なお、ご承知の方も多いかもしれませんが、信号無視やスピード違反など、交通違反行為を行なった場合に支払う「反則金」については、刑罰としての罰金とは性質が異なります。

交通違反は刑事事件と比べても数が圧倒的に多く、その全てにつき刑事事件として扱うとすると、検察庁や裁判所の事件処理が到底追いつかなくなってしまいます。

そのため、警察官の指示に従い、指定された期間内に指示通りの反則金を支払った場合、刑事事件として処理することを免除するという仕組みになっています。

つまり、反則金は、支払う代わりに刑罰を免除できるのに対し、罰金はそれ自体が刑罰であるという点で、決定的な違いがあります。

そのため、反則金の感覚で略式起訴に同意し、罰金を支払ったとしても、有罪判決を受けたことになり、前科がつくことになってしまいます。

罰金 反則金
刑罰:懲役や禁錮と同一線上にある刑事処分 刑罰ではない(行政処分)

 

略式起訴でついた前科は消すことができる?

上記のように、略式起訴による罰金刑も、通常の罰金刑と異なるところはありません。

そのため、略式起訴でついてしまった罰金刑の前科は、通常の刑罰による前科と同様、消すことはできません。

確かに、略式起訴による罰金刑で済んだ場合、長期間にわたる裁判手続を回避でき、罰金を納付すれば刑事手続が全て終了することになりますので、一刻も早く事件の幕引きをしたいという方には魅力的に映るかもしれません。

しかしながら、例えば国家資格をお持ちの方や公務員としてお勤めの方に前科がついてしまうと、場合によっては資格停止処分がなされてしまう可能性があります。

略式起訴により言い渡されるのは罰金刑か科料のみですので、公務員や公認会計士など、罰金刑までであれば、資格停止にならない資格もありますが、医師、薬剤師、歯科衛生士などといった一部の資格は、罰金以上の刑が科された場合、資格停止処分を受ける可能性があります(医師法4条)。

参考:医師法|e-GOV法令検索

前科と資格停止について、詳しくはこちらをご覧ください。

また、検察官が提出した書面のみによって審理されるため、こちらの言い分を一切主張できないままに有罪判決がなされることになりますので、その点はリスクになりうるといえるでしょう。

略式起訴による有罪判決も、判決が言い渡された翌日から起算して2週間が経過すれば、判決が確定することになります。

判決確定後は、再審事由が存在するなど特段の事情がない限り、基本的に裁判のやり直しはできません。

ご自身の言い分を十分に主張しないままに、早く終了させられるという点のみを重視して、略式起訴による処理を安易に受け入れることは避けるべきです。

以上のとおり、前科がつくことにより生じるデメリットと、早期に事件を終了させられることのメリットを踏まえた上で、略式起訴による罰金刑を選択されるかどうか、慎重に検討する必要があります。

取調べの前に、刑事事件に強い弁護士に相談しておくことで、略式起訴による事件終結が適切な判断と言えるかどうか、専門的な観点からのアドバイスを受けることができます。

 

 

略式起訴の流れ

略式起訴の流れについて簡単に図示すると、以下のとおりとなります。

詳細につきましては、こちらのページで詳細に解説していますので、ぜひご覧ください。

 

まとめ

以上、略式起訴による罰金刑が前科になるのかどうかについてご説明いたしましたが、いかがでしたでしょうか。

略式起訴は、裁判所や検察官のみならず被疑者にとっても、裁判に出頭する労力、身体拘束が長期化するリスクを軽減できるという点でメリットがあり、必要に応じて利用への同意を検討すべきであるといえます。

他方で、略式起訴のデメリットとして、公開の法廷において裁判を受け、自らの主張を闘わせることはできなくなること、罰金刑とはいえ確実に前科がつくことなどが挙げられます。

略式起訴により事件処理を終了させるかどうかは、検察官が判断することになります。

取調べの中で、検察官から略式起訴への同意書へのサインを唐突に求められ、訳も分からずにサインしてしまい、望まない形で前科がついてしまった、という事態だけは避けなければなりません。

そのためには、取調べを受けることが決まった段階など、なるべく早期のタイミングで、刑事事件に強い弁護士に相談し、今後の取調べに対してどのように対応していくべきかを、事前に協議の上決定しておくことが望ましいといえます。

事前に弁護士から略式起訴について説明を受け、自分が起こしてしまった事件が略式起訴で終了する可能性があるのかどうかについて、あらかじめ見通しを確認しておけば、検察官から突然に略式起訴と言われても、冷静に対応することができると考えられます。

刑事事件に注力する弁護士であれば、刑事事件に関する豊富な経験に基づき、略式起訴により処理される可能性がどのくらいあるかを、より高い精度で予測することができます。

事件を起こしてしまい、ご自身の処分がどうなるのか見通しが不安な方がいらっしゃいましたら、なるべく早期に刑事事件に強い弁護士に相談されることをお勧めします。

 

 

 

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