痴漢の示談金|慰謝料の相場について刑事弁護士が解説

弁護士法人デイライト法律事務所 弁護士  保有資格 / 弁護士

 

痴漢の慰謝料とは

痴漢とは

「痴漢」という言葉は昔から広く浸透していますが、ひとえに痴漢といってもどのような犯罪に該当するかは様々です。

まず、各都道府県の迷惑行為防止条例において
「人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような行為〜衣服その他の身に付ける物の上から又は直接に人の身体に触れること」が禁止されていることがあります。

痴漢の多くは、このような迷惑行為防止条例違反の罪に該当する行為になるでしょう。

ただし、胸や陰部を触るような痴漢の中でも悪質なものは、迷惑行為防止条例違反ではなく、より法定刑の重い不同意わいせつ罪に該当する可能性があります

 

迷惑行為防止条例とは

迷惑行為防止条例とは、各都道府県において、居住者及び滞在者に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等を防止し、その平穏な生活を保持することを目的として定められている条例です。

この条例では、様々な迷惑行為を取り締まることとされており、嫌がらせ行為や路上での客引きだけでなく痴漢や盗撮もこの条例において定められています。

 

慰謝料とは

慰謝料とは、被害者が被った精神的苦痛に対して支払われるお金のことを指します。

よく耳にするのは不貞に対する慰謝料や交通事故の被害に遭った際の通院慰謝料などではないかと思いますが、痴漢の被害に遭った被害者も、当然精神的苦痛を被っていると考えられていますので、同じく慰謝料を受け取る権利があります。

 

 

痴漢の示談金(慰謝料)の相場

慰謝料の傾向

それでは、盗撮の示談金(慰謝料)の相場はどのような傾向にあるでしょうか。

裁判上で認められる金額の相場ではなく、示談交渉の中での相場ではありますが、盗撮の示談金(慰謝料)は、近年の性犯罪厳罰化の方向性を受けて、やや高額化の傾向にあるように感じられます。

基本的には現在の相場から大きく落ち込むことはないように思います。

 

被害者が未成年の場合

被害者が未成年の場合、示談交渉の窓口は、被害者の親権者となることがほとんどです。

親として当然の感情ですが、自分の子供が被害に遭ったことに憤り、強い怒りを持つ方が多くいらっしゃいます。

そのため、被害者の方が求める示談金(慰謝料)も成人が被害に遭った場合と比べて高額となるケースが往々にしてあります。

まだ精神的に未熟な部分がある未成年者の被害であることも考えると、相場としても、成人の場合よりはやや高くなると思って頂いた方がよいでしょう。

 

痴漢の示談金の実例

痴漢の示談金としては、迷惑行為防止条例違反となるものであれば20万円から40万円程度が最も多く、不同意わいせつ罪を構成するものであれば50万円から100万円の間が最も多い傾向にありますが、これよりも高額な示談金となることもありますので、以下では高額な示談金となっているケースを2つ紹介します。

ただし、これらはあくまで示談による解決を行った場合のものであり、裁判で同等の金額が認められるということではありません。

個別の事情によって示談金が変わることにはご注意ください。

 

示談金が150万円超えとなったケース

駅のホームにおいて、片手で被害者の口を塞ぎ、もう片方の手で被害者の体を触ったという痴漢の事件について、示談金が165万円となったケースがあります。

この事件は、少年が加害者となった事件ですので、刑事事件としては扱われておらず、詳しい行為態様は不明ですが、おそらく迷惑行為防止条例違反にとどまらず、不同意わいせつ罪を構成するような行為態様であり、かつ、親権者がどうしても示談を成立させてあげたかったという事情があったのかもしれません。

引用元:「慰謝料算定実務の基礎」 千葉県弁護士会編 ぎょうせい

 

示談金が100万円となったケース

電車内で、同じ被害者に対して痴漢行為を数週間継続して行った事件について、示談金が100万円となったケースがあります。

このケースも具体的な行為態様が不明ですが、数週間にも及ぶ執拗な犯行という点で示談金が高額となったのではないでしょうか。

引用元:「慰謝料算定実務の基礎」 千葉県弁護士会編 ぎょうせい

 

 

痴漢の罰金の相場 ・罰金の法定刑と傾向

既に述べたとおり、痴漢といわれる行為の中には、迷惑行為防止条例違反の事件と不同意わいせつの事件とが混在しています。

しかしながら、不同意わいせつ罪には罰金刑がありませんので、以下に示す罰金刑の相場や傾向等は迷惑行為防止条例違反の罪に問われるものに限られるということにご注意ください

福岡県の迷惑行為防止条例では、痴漢に関する罪の法定刑は、1年以下の懲役刑か100万円以下の罰金刑とされています(同条例11条1項)。

初犯で刑事処分を下すという結論となった場合、ほとんどのケースで罰金刑が選択され、その金額は40万円前後となることが多く感じます。

同種前科・前歴があれば当然徐々に刑事罰は重くなっていきます。

以下に示す統計は、罰金刑の法定刑の上限が50万円となっていた時期のものですので、現在であればより罰金の金額が上がることが予想されます。

参考:「量刑調査報告集」第一東京弁護士会刑事弁護委員会

 

 

痴漢で慰謝料の請求をされたら

示談のメリット

刑事処分が軽くなる可能性がある

被害者が存在する犯罪は、刑事処分の決定において、被害者の処罰意思が考慮されることが多々あります。

痴漢の場合も、迷惑行為防止条例違反の罪であれ、不同意わいせつ罪であれ、同様に被害者が加害者を許しているかどうかという点は処分に大きく影響します。

すなわち、示談をして被害者に許してもらえたならば、不起訴となる可能性や、少しでも軽い刑事処分としてもらえる可能性が出てくるということです。

前科がつくかどうか、罰金刑なのか懲役刑なのか、執行猶予がつくのかということは加害者にとって最大の関心事でしょうから、この点は加害者側にとって示談をすることのメリットといえるでしょう。

 

身体拘束から解放される可能性がある

迷惑行為防止条例違反の事件で長期間身体拘束をされる例はさほど多くはありませんが、身体拘束を受けている理由の一つとして、被害者と接触して証拠隠滅を図るおそれがあるということが挙げられがちです。

被害者と示談をした場合、加害者にとって有利な証拠が既に収集できており、それ以上被害者に働きかける必要性が全くなくなりますから、身体拘束の理由をなくすことが出来ます。

そのため、もしも身体拘束を受け続けている場合は、示談を行うことで日常生活に戻れる可能性があるということになりますから、この点も加害者側にとって示談をすることのメリットとなります。

 

民事上の問題を残さずに解決できる

痴漢を行ってしまった場合、刑事責任を負うことは当然です。

そして、民事上も痴漢は不法行為と評価できますから、慰謝料を中心とする損害賠償を行う責任が生じることになります。

示談をせずに刑事事件を終えてしまう場合、民事上の責任は残ったままですから、刑事罰を受けた後に被害者から損害賠償請求をされる可能性が残ってしまいます。

そのため、刑事事件の中で示談を済ませておくことで、紛争を一体的に解決することができ、再起に向けて集中することができるという点も加害者側が示談を行うメリットとして挙げられます。

 

示談金を釣り上げられた場合の対処法

痴漢をしてしまった以上、被害者に対して慰謝料を支払う義務があることは間違いありませんが、時には適正額とあまりにもかけ離れた示談金を求められることもありえます。

そのような場合はどのように対処するべきなのでしょうか。

被害者の要求がどの程度適正額から離れているのか、前科がつくことによるリスクを受け入れるか否かにもよりますが、示談金を釣り上げられた場合は、示談が成立しなくても刑事処分の決定のために有利な証拠を作ることは可能です。

示談経過の報告書を作成し、適正額であれば支払う意思があることを示すことで、加害者側で出来る限りの誠意は尽くしていることを検察官に分かってもらうことが出来ます。

被害者との間で示談が成立していない以上、誠意を尽くしたとしても罰金刑を科されることもあり得ますが、弁護士としては適正額から離れた示談に応じることは、あまりお勧めできません。

適正額で納得してもらえるよう、交渉において最善を尽くし、釣り上げの意思が変わらない場合には上記のような対応をすべきでしょう。

 

示談金の受け渡し方法

示談金の受け渡しは、手渡し若しくは銀行口座への送金のどちらかで行います。

どちらの方法であっても、きちんと示談金を受け渡したことが証明できれば示談の効力に影響を与えることはありませんので、被害者の意向やその時々の事情によって方法を選択することになります。

手渡しの場合には、示談金を受け渡したことを捜査機関に証明するため、被害者の方に領収証を書いてもらう必要がありますが、合意書の締結と同時に示談金を渡すのであれば、合意書の条項を調整することで同様の役割を果たすこともできます。

銀行口座への送金の場合は、送金時の振込証明を捜査機関に提出することになります。

 

示談書を匿名で作成できる?

被害者に自分の氏名を知られたくないということで、示談書を匿名で作成したいと考える方もいらっしゃるかもしれません。

もちろん被害者がそれでもいいということであれば、匿名で作成すること自体は可能ですが、加害者が匿名で示談書を交わすことに意味はありません。

何故ならば、匿名で示談書を交わす場合、捜査機関に証拠として示談書を提出しても、誰が当事者か分からない以上、刑事処分を決めるにあたって考慮してもらうことが出来ない可能性が高いからです。

また、被害者は事件の処分がどうなったか等の情報について、問い合わせをすることが出来ます。

そのため、加害者の氏名は処分結果の問い合わせにおいて明らかとなる可能性があり、匿名で示談書を交わすことのメリットは無いといってもよいでしょう。

 

 

まとめ

以上のとおり、痴漢をしてしまった場合の慰謝料について解説をしましたが、個別の事案によってどの程度の慰謝料が妥当かは当然異なります。

痴漢の事件で捜査を受けることになった方は、刑事事件に詳しい弁護士に相談することをお勧めします。

 

 


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