執行猶予がついた場合、前科はどうなる?弁護士が解説

弁護士法人デイライト法律事務所 弁護士  保有資格 / 弁護士・3級ファイナンシャルプランナー

執行猶予の期間を経過すれば、法律上は前科がないものとして扱われます。

ですが、法律上は前科がないものとして扱われるというだけで、当然ながら、前科がついたという事実自体は決して消えることはありませんし、検察庁が作成・保管する犯歴票や市町村が作成・保管する犯罪人名簿など、前科の有無についての記録は残ります。

以下、詳しく解説します。

執行猶予とは

刑事裁判において、有罪判決が言い渡されると、その判決の内容に従い、刑罰が執行されることになります。

執行猶予とは、有罪判決による刑の執行を一定期間猶予することができる制度のことをいいます(刑法25条)。

つまり、刑罰の執行を一定期間猶予し、その間に罪を犯さなければ、刑務所に行ったり、罰金を支払ったりしなくてもよくなるという制度です。

引用元:刑法 | e-Gov法令検索

 

 

執行猶予の期間を経過すると前科は消える?

執行猶予付きの懲役刑が言い渡されていた場合において、罪を犯すことなく執行猶予の期間が経過し、刑の執行を免除されれば、刑務所に行く必要はなくなります。

そして、刑法上、執行猶予の期間を経過すれば、刑の言渡しが効力を失うと規定されています(刑法27条)。

根拠条文

(刑の全部の執行猶予の猶予期間経過の効果)

第二十七条 刑の全部の執行猶予の言渡しを取り消されることなくその猶予の期間を経過したときは、刑の言渡しは、効力を失う。

引用元:刑法 | e-Gov法令検索

この場合の「刑の言渡し」とは、全ての有罪確定裁判のことを指すとお考えください。

そのため、有罪判決の法的な効力が失われる結果、その判決を理由として刑務所に行ったり、罰金を支払ったりしなければならないという義務がなくなります。

また、刑の言渡しが効力を失うことにより、法律上は前科がないものとして扱われます。

ですので、前科があると資格が制限される職業にも再度就くことができるようになりますし、万が一再度罪を犯したときにも、もう一度執行猶予がつく可能性が生じます。

ですが、法律上は前科がないものとして扱われるというだけで、当然ながら、前科がついたという事実自体は決して消えることはありませんし、検察庁が作成・保管する犯歴票や市町村が作成・保管する犯罪人名簿など、前科の有無についての記録は残ります。

特に、検察庁が作成する犯歴票については、次回以降の刑事裁判において、ほぼ確実に証拠として裁判に提出されます。

ですので、前科があるという事実を裁判官に認識されることとなり、裁判の際に不利に働く可能性は否定できません。

 

 

執行猶予のメリット

執行猶予がついた場合の最大のメリットは、やはり「直ちに刑務所に行かなくても良くなる」という点でしょう。

懲役刑の言い渡しを受けてしまうと、原則として判決確定後に刑務所に行かなければならないこととなりますが、執行猶予が付された場合、保釈が認められておらず身体拘束が継続していた場合でも、判決が言い渡された時点で身体拘束は解除され、すぐに日常生活に戻ることができます。

また、実刑判決が言い渡されると、当然ながら服役期間中は職場への出勤もできなくなりますので、職場としては解雇を選択せざるを得なくなると考えられますが、執行猶予が付されれば、普段どおり出勤もできますので、解雇を選択される可能性を下げることにもつながります。

 

 

執行猶予がつく条件

刑事裁判において執行猶予がつくためには、以下のような条件があります。

 

下記のいずれかの条件を満たすこと(刑法25条1項1号・2号)
・「前に禁錮以上の刑に処せられたことがない」こと(1号)
・「前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から5年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない」こと(2号)
今回の判決が「3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金」であること
執行猶予をつけるのが相当といえるような「情状」があること

前科があっても執行猶予はつく?

上述した条件を満たしてさえいれば、前科があったとしても執行猶予がつく可能性はあります。

前科の種類に応じて条件は異なりますので、順に見ていきましょう。

 

前科が罰金刑以下であった場合

罰金刑をはじめとする禁錮刑以下の前科があるにとどまる場合は、「前に禁錮以上の刑に処せられたことがない」ことは明らかであり、刑法25条1項1号には反しません。

そのため、この場合は条件①を満たすことになりますので、条件②③を満たしていれば、前科があっても執行猶予がつく可能性はあります。

 

前科が禁錮刑以上(執行猶予付き)の場合

以前に執行猶予付きの懲役刑や禁錮刑を言い渡されていた場合、執行猶予期間が満了していれば、刑の言渡しが効力を失っていることになります。

そのため、法律上は「前に禁錮以上の刑に処せられたことがない者」として扱われますので、条件①を満たすことになり、条件②③も満たしていれば、法律上は執行猶予がつく可能性があります。

ただし、裁判官は前科があるという事実を考慮して判決の内容を決めることになりますので、執行猶予がつくかどうかは裁判官の判断次第ということになります。

 

前科が禁錮刑以上(執行猶予なし)の場合

前刑で執行猶予がつかず刑務所に入っていた場合、刑の執行を終わった日、すなわち出所してきた日から5年が経過していれば、「前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その執行を終わった日…から5年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない」に該当します。

そのため、条件①を満たすことになり、条件②③も満たしていれば、執行猶予がつく可能性があります。

 

 

前科がついた場合のデメリット

前科がついた場合、職業に関する資格制限のほか、就職活動時や海外渡航など、様々な面でデメリットが生じる可能性があります。

 

就職活動への影響

就職の際、履歴書の賞罰欄に、前科があるにもかかわらず、これを隠して「前科なし」と書いてしまうと、虚偽記載に該当します。

履歴書に虚偽の記載をして、虚偽の事実を前提に採用されたとしても、それが後日発覚した場合、場合によっては懲戒解雇の対象とされます。

 

海外渡航への影響

ビジネスで就労ビザを取得する場合に、無犯罪証明書の提出を求められることがあります。

しかし、無犯罪証明書は、罰金であれば5年間、執行猶予であれば、執行猶予の期間満了まで発行してもらえません。

なお、観光など短期の場合は、日本人であればほとんどの国においてビザが不要となるので、問題になることはほとんどないといえます。

 

結婚への影響

結婚前から前科がある場合

戸籍に前科情報が載ることはありませんので、結婚前に結婚相手の前科を調べる方法は乏しいといえます。

そのため、結婚前の前科については、自分から結婚相手に話をしない限り、発覚する可能性は高いとはいえません。

前科がついていることを知られてしまうと、社会的なイメージの悪化は避けられず、相手方が結婚を躊躇してしまったり、周囲から強い反対を受け、結婚が難しくなったりする可能性があります。

他方、前科があることを隠して結婚し、その後に発覚した場合、前科の内容によっては夫婦関係の悪化を招く可能性も否定はできません。

既に見たとおり、前科の内容によっては海外渡航が難しくなることもありますので、家族で海外旅行に行こうとしたときなどに発覚する可能性があります。

これらを踏まえると、前科についてどこまで伝えるべきかについては、発覚する可能性などを十分に考慮した上で、慎重に検討する必要があるでしょう。

結婚後に前科がついた場合

結婚後に罪を犯し、前科がついてしまった場合、家族に発覚するかどうかは、逮捕・勾留の有無によっても左右されます。

家族への発覚を避けられなかった場合、前科の内容次第では、離婚を切り出されてしまうケースも想定されます。

この場合、民法770条1項5号の「その他婚姻を継続し難い重大な事由」に該当するとして、法律で定められた離婚事由を充足するという判断がなされる可能性もあります。

引用元:民法|eGov法令検索

 

 

前科をつけないためには?

現在の我が国においては、起訴され、刑事裁判が開かれることになってしまうと、99%以上の確率で有罪判決が言い渡されることとなり、前科がついてしまいます。

そのため、前科をつけないために最も効果的なのは、そもそも起訴をさせないことであるといえます。

起訴させないためには、検察官が起訴・不起訴の判断を行うよりも前に、被害者との間で示談を成立させるなど、迅速に対応することが必要不可欠です。

示談交渉を行う場合、刑事事件に注力する弁護士を可能な限り早期に選任し、少しでも早く必要な弁護活動を展開してもらうことが重要といえます。

 

 

まとめ

以上、執行猶予について解説してきましたが、いかがでしたでしょうか。

実刑判決と執行猶予付き判決とでは、その後の生活に与える影響の大きさが全く異なります。

実刑判決を受け服役することとなれば、仕事を失い、生活の基盤が失われることとなる可能性があり、罪を犯してしまった場合、更生に向けて生活を立て直していくためにも、執行猶予の獲得に向けて最善の努力を行うべきです。

特に、既に前科があるような場合、次に言い渡される判決はこれまでよりも厳しくなることが予想され、執行猶予がつかない可能性もあります。

このような場合は、起訴・不起訴の判断がなされるまでに、刑事事件に注力する弁護士を選任し、示談交渉など起訴させないための弁護活動を受けることが望ましいでしょう。

ですが、既に前科がある場合において、起訴されてしまった後であっても、執行猶予の獲得のためには、刑事事件に注力する弁護士に依頼することには大きなメリットがあります。

刑事事件に注力する弁護士は、刑事裁判で法廷に立つ機会も多く、執行猶予の獲得に向けどのような主張を行うべきかを熟知していますので、裁判においても適切な主張を行い、執行猶予を獲得する可能性を高めることができます。

ご自身や家族の生活を守るためにも、執行猶予の獲得が必要不可欠であるという方は、是非刑事事件に注力する弁護士に相談されることをお勧めします。

この記事が皆様のお役に立てば幸いです。

 

 


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