過失運転致死傷罪とは?逮捕後の流れや刑罰について

弁護士法人デイライト法律事務所 代表弁護士保有資格 / 弁護士・税理士・MBA

過失運転致傷罪(かしつうんてんちしょうざい)とは、自動車運転中の過失によって、人をケガをさせる犯罪をいいます。

同様にして人を死亡させた場合は、過失運転致死罪(かしつうんてんちしざい)となります。

刑罰は7年以下の懲役もしくは禁錮又は100万円以下の罰金です。

逮捕、起訴されると有罪となる可能性が高いため、早い段階で示談交渉によって解決することが重要となります。

ここでは、過失運転致傷について、どのような場合に成立するか、予想される刑罰、逮捕後の流れや対処方法について解説いたします。

 

過失運転致傷とは?

過失運転致傷罪とは、自動車運転中の過失によって、人をケガをさせる犯罪をいいます。

過失運転致傷と過失運転致死との違い

同様にして人を死亡させた場合は、過失運転致死罪(かしつうんてんちしざい)となります。

過失運転致傷と過失運転致死は、いずれも「自動車運転中に過失があった」という点で共通しています。

違いは、結果がケガで終わったのか、死に至らしめたのか、という点です。

 

過失とはなにか?

問題となるのは、どのような場合に「過失」に該当するかということです。

過失とは、「他者の権利侵害を回避するために社会生活上必要となる注意義務に違反すること」をいいます。

自動車運転中の注意義務としては、以下のようなものが挙げられます。

自動車運転中の注意義務
  • 前方注視義務
  • 速度制限遵守義務
  • 信号指示遵守義務
  • 居眠りしない義務
  • 携帯を操作しない義務
  • アルコールを摂取しない義務

これらの義務を果たさない行為は全て、歩行者や他の車両運転者等と衝突するなどして、他者の生命・身体を侵害してしまう恐れのある行為です。

そのため「過失あり」となって、重い罰則を受ける可能性があります。

引用元:交通安全白書(内閣府)

 

 

過失運転致死傷罪の刑罰とは?

刑罰について(懲役・禁錮・罰金)


7年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金

※懲役と禁錮とは労務作業の有無が異なります。懲役の場合は労務作業があり、禁錮の場合はありません。

したがって、一般的に懲役は禁錮よりも重い刑罰とされています。

過失運転致死傷
第五条 自動車の運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、七年以下の懲役若しくは禁錮又は百万円以下の罰金に処する。
ただし、その傷害が軽いときは、情状により、その刑を免除することができる。

引用元:自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律|電子政府の総合窓口

 

過失運転致傷罪で付加かれる点数

過失運転致傷のケースは、刑罰だけでなく行政上のペナルティ(付加点数)もあります(道路交通法施行令別表二の三)。

参考:e-GOV法令検索|道路交通法施行令

どれくらいの点数が加算されるかは、被害者の怪我の程度や過失の有無によりますが、これをまとめると下表のようになります。

区分 治療期間 加害者の一方的過失の事案 被害者にも過失がある事案
重傷事故 3ヶ月以上、又は後遺障害がある 13点 9点
30日以上3ヶ月未満 9点 6点
軽傷事故 15日以上30日未満 6点 4点
15日未満 3点 2点

参考:警視庁

 

 

過失運転致死傷の不起訴率

それでは、過失運転致傷罪はどの程度、不起訴となっているのでしょうか。

統計資料によると、令和4年に過失運転致傷罪で検挙された人数は28万741人でした。

参考:令和5年版犯罪白書 (4-1-2-4表 危険運転致死傷・過失運転致死傷等 検挙人員)

同年の過失運転致死傷罪(死亡を含む。)の不起訴率は84.2%でした。

参考:令和5年版犯罪白書 (4-1-3-1図 交通事件 検察庁終局処理人員の処理区分別構成比)

一般的に、過失運転致死罪の方が過失運転致傷罪よりも重大であることから、不起訴率は低いと考えられます。

したがって、過失運転致傷罪については、84.2%以上の不起訴率と考えられます。

 

 

過失運転致死傷罪の対処方法

示談交渉を行う

上で解説したとおり、逮捕されてしまうと身体拘束が続き、日常生活に大きな影響が出てしまいます。

また、起訴されると99.9%以上の確立で有罪となってしまいます。

このような事態を回避するために、最も重要なことは早期の示談交渉です。

示談が成立すれば、逮捕の必要性が乏しくなりますし、起訴されない可能性が高くなります。

 

刑事事件にくわしい弁護士に示談交渉を依頼する

示談交渉を成功させるために、まずは刑事事件にくわしい弁護士に相談しましょう。

刑事事件では、示談したくても捜査機関が被害者の連絡先を教えてくれないことが多いです。

これは、被害者の心情として加害者と接触したくないと考えているためです。

このような場合、弁護士を間に入れることで、被害者の連絡先を開示してくれることが期待できます。

また、刑事事件にくわしい弁護士であれば、示談交渉に慣れているので示談を成功に導くことも期待できます。

 

示談書を作成する

示談が成功したら、後々のトラブルを防止するために示談書を作成しましょう。

また、その示談書を捜査機関に届けることで逮捕や起訴を回避できる可能性があがります。

示談書については、刑事事件にくわしい弁護士に依頼されていれば、その弁護士が作成してくれるでしょう。

 

 

過失運転致死傷罪で逮捕されたらどうする?

逮捕令状には、過失の具体的な内容が記載されています。そのため、まずはそれを確認する必要があります。

例えば、前方を注視しなかったがために事故を起こしたとされているのであれば、

「被疑者は、平成○○年○月○日午後○時○○分ころ、普通乗用自動車を運転し、○○県○○市○○区○町○丁目○番付近道路を、北方面に直進するにあたり、同時刻は前方の見通し困難な時間帯であったから、前方左右を注視して進路の安全を確認する自動車運転上の注意義務があるのにこれを怠り、前方注視を欠き、進路の安全を確認せず、道路上に歩行者がいるのに気付かないまま、漫然時速約60キロメートルで進行した過失により、道路を横断中であったA(当時○○歳)に自車前部を衝突させ、よって、Aに加療約○ヶ月間を要する右大腿骨骨幹部骨折等の傷害を負わせた」

などと書かれています。

この場合は「前方左右を注視して進路の安全を確認する自動車運転上の注意義務があるのにこれを怠り、前方注視を欠き、進路の安全を確認」しなかったことが、過失の内容です。

この過失があるのかどうか、弁護士と意見共有をしておくことが重要です。

仮に前方不注視がなかったというのであれば、弁護士が迅速に有利な証拠の収集に努めることが重要になります。

 

 

 

過失がなかったことをどうやって立証する?

例えば、上記のような逮捕状の記載がある場合、「歩行者がいきなり飛び出してきたため、避けようがなかった」などの状況も考えられます。

「前方を注視していたとしても歩行者がいきなり飛び出してきたため衝突を避けることは困難であった」と認められれば、仮に前方不注視という注意義務違反があったとしても、結果回避可能性がないということになり、過失犯として処罰されないことになります。

ですが現実には、前方を注視していたら、どのような結果になるのか、その立証は困難を極めます。

「前方を注視していたら」という仮定の話となってしまうため、結果を立証することは容易ではないのです。

過失犯において無罪判決を得るためには、やはり注意義務違反がないことを主張することが最も重要です。

 

 

無罪となった参考判例

判例 令和2年3月5日前橋地裁 平30(わ)183号

【事案の概要】

被告人が、かねてから低血圧の症状があり、医師や家族から、同症状によりめまいや意識障害を生じるおそれがあることから、自動車の運転をしないように注意されていたところ、低血圧の症状があったのに、自動車の運転をし、A運転の自転車及びB運転の自転車に自車を衝突させ、よって、Aを死亡させ、Bに傷害を負わせたとして、過失運転致死傷で公訴提起された事案。 ※控訴されて高裁では有罪となっている。

 

【判決の重要部分】

本件事故は、被告人が低血圧により意識障害の状態に陥ったことが原因であると認められるが、被告人には、本件事故の前に自動車の運転もできないほどの意識障害が生じたり、それに類する症状が出たことも認められず、そのような点の病識を被告人が持ち、本件病識がある下で通院し、その医師から自動車の運転を控えた方がよいと指導されたという事実は認められないこと、被告人が本件事故直前に意識障害に陥ったのは、服用していた薬の副作用等による可能性があり、被告人は、そのような副作用等による意識障害を予見できなかったこと等から、被告人には、本件運転避止義務を負わせる前提となる本件予見可能性が認められないとして、被告人に無罪を言い渡した。

 

 

刑が重くなる場合とは〜危険運転致死傷罪〜

自動車の運転による死傷件数は減少傾向にありますが、飲酒運転等による悪質・危険な交通事故が多発していたことや、厳罰化を求める声があったことから、2014年5月に危険運転致死傷罪が施行されました。

 

この危険運転致死傷罪とは、以下のような危険な行為で、人を死亡させたり、怪我させたりした場合に成立する犯罪です。

  1. ① アルコールや薬物の影響を受けて正常な運転が困難な状況での走行
  2. ② 進行を制御することが困難なほどの速度での走行
  3. ③ 進行を制御する技量がない上での走行
  4. ④ 人や自動車などの通行を妨害する目的で、それらに著しく接近し、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為
  5. ⑤ 赤信号を無視し、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為
  6. ⑥ 通行禁止道路を走行し、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為

 

罰則について

危険運転致死傷罪の罰則は次のとおりであり、過失運転致死傷罪よりも重くなっています。

結果 法定刑
怪我をさせた場合 15年以下の懲役
死亡させた場合 1年以上の有期懲役

※有期懲役とは1ヶ月以上20年以下の期間

根拠条文:自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律

第二条 次に掲げる行為を行い、よって、人を負傷させた者は十五年以下の懲役に処し、人を死亡させた者は一年以上の有期懲役に処する。

一 アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させる行為

二 その進行を制御することが困難な高速度で自動車を走行させる行為

三 その進行を制御する技能を有しないで自動車を走行させる行為

四 人又は車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に進入し、その他通行中の人又は車に著しく接近し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為

五 車の通行を妨害する目的で、走行中の車(重大な交通の危険が生じることとなる速度で走行中のものに限る。)の前方で停止し、その他これに著しく接近することとなる方法で自動車を運転する行為

六 高速自動車国道(高速自動車国道法(昭和三十二年法律第七十九号)第四条第一項に規定する道路をいう。)又は自動車専用道路(道路法(昭和二十七年法律第百八十号)第四十八条の四に規定する自動車専用道路をいう。)において、自動車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の前方で停止し、その他これに著しく接近することとなる方法で自動車を運転することにより、走行中の自動車に停止又は徐行(自動車が直ちに停止することができるような速度で進行することをいう。)をさせる行為

七 赤色信号又はこれに相当する信号を殊更に無視し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為

八 通行禁止道路(道路標識若しくは道路標示により、又はその他法令の規定により自動車の通行が禁止されている道路又はその部分であって、これを通行することが人又は車に交通の危険を生じさせるものとして政令で定めるものをいう。)を進行し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為

(引用元:自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律|電子政府の総合窓口)

 

 

逮捕されたあとの流れ

過失運転致死傷罪等で逮捕されると、通常、以下の流れが想定されています。

捜査段階

刑事事件は容疑者の段階から早期に弁護活動を行うことで、逮捕を防止できることがあります。

この段階の刑事弁護活動は被害者との示談交渉や警察などへの同行サービスなどがあります。

逮捕(48時間)

捜査機関は、通常、逮捕してから48時間以内に送検するか、釈放するかを決めます。

したがって、逮捕後は迅速な刑事弁護活動が必要です。

送検(24時間)

送検後、検察官が24時間以内に、「勾留請求」か「釈放」かを判断します。

勾留(10日間)

勾留された場合、さらに取り調べが続きます。

この期間に検察官が起訴(裁判)をするか否かを決定します。

起訴されないようにするために、弁護士は被害者との示談交渉や担当検事との面会を求めたりします。

勾留は10日間の延長があり、最大で20日間です。

起訴

起訴されると裁判で戦うことになります。

具体的には、無罪を求めるための立証活動や、被告人に有利な情状を主張し、減刑を求めます。

起訴されると99%以上が有罪となってしまいます。

そのため、刑事弁護は少しでも早い段階から活動することがなによりも重要となります。

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まとめ

以上、過失運転致死傷罪について、詳しく解説しましたがいかがだったでしょうか。

過失運転致死傷罪は、過失による罪なので、故意がなく単なる不注意によって人を死傷させた場合にも罪が成立する可能性があります。

法定刑は7年以上の懲役もしくは禁錮又は100万円以下の罰金です。

また、飲酒運転等悪質・危険な行為があるとさらに罪が重くなってしまう可能性もあります。

過失がないことの立証は決してかんたんではありませんが、過去の裁判例では無罪が言い渡された事案もあります。

無罪は難しいとしても、情状弁護等によって量刑が軽くなる可能性もあります。

そのため、刑事事件専門の弁護士に相談されることをおすすめしています。

当事務所には、刑事事件に注力する弁護士が在籍しており、刑事弁護を強力にサポートしています。

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