民事の損害賠償金は支払わなくていい?弁護士が解説

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民事の損害賠償金について、支払わなくていいというルールはありません。

法的には、相手に対して発生した損害を埋め合わせる義務(債務)を負っている状態ですので、支払う義務があります。

もし支払わずに放置してしまうと、裁判を起こされたり、あなたの財産(お給料や銀行預金など)を強制的に差し押さえられたりするリスクがあります。

「刑事罰ではないから逃げ切れる」と安易に考えるのは非常に危険です。

この記事では、損害賠償を請求されてお困りの方に向けて、支払わないことで生じるリスクや、どうしても支払えない場合の対処法、納得がいかない時の解決策などを、弁護士の視点からわかりやすく解説します。

民事の損害賠償金は支払わなくていい?

民事の損害賠償金であっても、支払う必要があります。

相手に対して損害賠償の義務(債務)を負っている状態で、法的に支払う義務があります。

「民事だから警察は動かないし、無視しても捕まらないだろう」という声を耳にされることがあるかもしれません。

確かに、民事事件においてお金を払わないことだけで、いきなり警察に逮捕されたり、刑務所に入れられたりすることはありません。

日本の法律では「借金を返さない」などの民事上の不履行に対して、身体の自由を奪うような罰則は設けられていません。

しかし、法律上、相手方(被害者)には「強制執行」という強力な権利が認められています。

あなたが自分の意思で支払わない場合、相手は裁判所の手続きを通じて、あなたの財産を無理やり取り立てることができます。

「民事だから大丈夫」という考え方は大変危険です。

例えば、従業員が会社に対して重大な不祥事を起こし、損害賠償を求められたケースを考えてみましょう。

「どうせ民事だ」とタカをくくって無視を続けてしまえば、会社側は法務部や弁護士を動員して、淡々と法的な手続きを進めることになります。

最終的にお給料の差し押さえが実行されれば、別の会社に転職したとしても、新しい会社での給与さえも追いかけて差し押さえられる可能性があります。

また、「自分には今、財産がないから差し押さえようがないはずだ」と考える方もいらっしゃいますが、それも根本的な解決にはなりません。

判決などで確定した損害賠償金の時効は10年(民法第169条1項)と長く、その間にあなたが就職したり、新しい口座を作ったり、相続で財産を得たりすれば、その瞬間に差し押さえを受けるリスクが復活します。

さらに、損害賠償請求を無視し続けると、遅延損害金が発生することによって金額が膨らんでしまうという問題もあります。

 

 

民事の損害賠償金とは?

民事の損害賠償金とは、誰かの権利を侵害したり、約束を破ったりしたことによって相手に与えてしまったマイナス(損害)を穴埋めして、元の状態に戻すためのお金です。

法律上、損害賠償が発生する原因には、大きく分けて以下の2つがあります。

  • 不法行為による損害賠償
    これは、故意(わざと)や過失(うっかり)によって、他人の利益を侵害した場合に発生します(民法第709条)。代表的なものには、交通事故、他人の持ち物の損壊、SNSでの誹謗中傷(ひぼうちゅうしょう)、不倫(不貞行為)などがあります。
  • 債務不履行による損害賠償
    これは、契約上の約束を守らなかった場合に発生します(民法第415条)。例えば、代金を支払ったのに商品が届かない、逆に従業員が会社との雇用契約(秘密保持契約など)に反して顧客情報を外部に漏洩させ、会社に損害を与えた、といった場合です。

 

損害賠償の内容

損害賠償の内容についても、簡単に解説します。

賠償金は単に「治療費」や「修理代」だけではありません。

大きく分けて以下の3つの要素で構成されることが多いです。

 

積極損害

事故や事件によって、実際に財布から出ていくことになったお金です。

治療費、入院費、壊れた車の修理代、葬儀費用などが該当します。

 

消極損害

その事故がなければ将来得られたはずの利益です。

「逸失利益(いっしつりえき)」とも呼ばれます。

例えば、怪我で仕事ができなくなった期間の給料(休業損害)や、後遺障害が残って将来の収入が減る分などが含まれます。

 

慰謝料(いしゃりょう)

精神的な苦痛に対する賠償金です。

形のない「心の傷」を、裁判所の基準(相場)に照らし合わせて金額に換算します。

損害賠償の目的は、あくまで「損害を公平に分担すること」にあります。

被害者が得た損害以上に、罰として余分にお金を支払わせる「懲罰的損害賠償」という考え方は、日本の民法には原則としてはありません。

しかし、最近ではSNSの普及により、たった一度の投稿が数百万円の損害賠償に発展するケースもあります。

 

 

民事の損害賠償金を支払わないとどうなる?

損害賠償金の支払いを無視し続けた場合、状況は悪化の一途をたどります。

相手が本気であればあるほど、法的な手続きを淡々と、かつ冷徹に進めてくることになります。

ここでは、損害賠償請求がどのような流れで進み、最終的にどのようなリスクが生じるのかを、段階を追って見ていきましょう。

 

損害賠償請求の流れ

損害賠償の請求は、一般的に以下のようなステップで進んでいきます。

損害賠償請求の流れ

 

①内容証明郵便による督促(とくそく)

相手方が弁護士を通じて、「〇〇円を支払え」という最後通牒(さいごつうちょう)を送ってきます。

この前段階にメール・電話などの手段で損害賠償請求の意向を伝えられる場合もあります。

 

②示談交渉(話し合い)

金額や支払い方法について協議します。

ここでまとまれば「示談書」を交わして終了です。

 

③民事訴訟(裁判)の提起

話し合いが成立しない、あるいは無視された場合、相手は裁判所に訴状を提出します。

 

④判決または和解の確定

裁判官が証拠に基づき、支払いの有無や金額を決定します。

 

⑤強制執行(差し押さえ)

判決が出ても支払わない場合、裁判所の力を借りて無理やり財産を回収されます。

初期段階では「内容証明郵便」が届くことが多いです。

これは「いつ、誰が、どんな内容を送ったか」を郵便局が公的に証明するもので、相手が本気で法的手段を考えている証拠です。

これを無視すると、相手は「誠意がない」と判断し、迷わず裁判へと踏み切ります。

なお、これよりも前段階でメール・電話などの手段で損害賠償請求の意向を伝えられる場合もあります。

裁判になると、あなたのもとに裁判所から封書で訴状と呼出状が届きます。

これらを「受け取らない」という手段に出る人もいますが、お勧めしません。

法律には「付郵便送達(ふゆうびんそうたつ)」や「公示送達(こうじそうたつ)」という仕組みがあり、あなたが受け取らなくても「届いたもの」として裁判が進んでしまうこともあります。

無視して欠席すれば、相手の主張が100%認められた「欠席判決」が出てしまい、反論の機会を永遠に失うことになります。

判決が確定しても支払いに応じない場合には、裁判所に対して強制執行の申立がなされて、強制的に財産が差し押さえられてしまうことになります。(詳しくは次項で解説します。)

 

損害賠償請求を無視した場合のリスク

判決が確定したにもかかわらず支払いを拒み続けると、以下のようなリスクがあります。

 

給与の差し押さえ

これが最も恐ろしいリスクの一つです。

原則として、手取り給料の4分の1(月収が額面で約44万円を超える場合は、33万円を超える全額)が、完済するまで毎月、会社から相手方へ直接支払われることになります。

この際、裁判所から会社に対して「差し押さえ命令」が届くため、あなたが金銭トラブルを抱えていることが職場に露呈します。

従業員としての信用にも影響しますから、昇進や人間関係にも悪影響が及ぶ可能性があります。

 

預貯金の差し押さえ

突然、銀行口座からお金が引き出せなくなります。

相手方があなたの銀行口座を特定していれば、口座内の残高がまるごと差し押さえられ、相手の手に渡ることになります。

光熱費の引き落としや生活費の支払いができなくなってしまうなど、生活に直結した不利益につながるリスクです。

 

遅延損害金の増加

損害賠償金には、支払いが遅れた分だけ遅延損害金(利息のようなもの)がつきます。

現在の法定利率は年3%ですが、放置期間が長くなればなるほど、支払わなければならない総額は膨れ上がります。

1,000万円の賠償金であれば、1年遅れるだけで30万円もの余計なお金を払わなくてはならなくなります。

 

財産開示手続と刑事罰のリスク

裁判所があなたを呼び出し、財産の内容を正直に答えさせる「財産開示手続」において、嘘をついたり出席しなかったりすると、「6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金」という刑事罰が科される可能性があります。

 

 

損害賠償金の支払い能力がない場合はどうする?

「支払わなければならないのは分かっているけれど、貯金もないし、今の給料では到底無理だ……」という悩みをお持ちの方もいらっしゃるでしょう。

このような状況に陥ってしまった場合でも、「逃げる」という選択肢を選ぶのは避けましょう。

法的な解決策は、お金がない人のためにも用意されています。

支払い能力がない場合の具体的な対処法は主に3つあります。

 

①分割払いの交渉をする

一括での支払いが無理でも、月々数万円ずつであれば支払えるというケースは非常に多いです。

実は、相手方(被害者)にとっても、裁判をして差し押さえをするのは弁護士費用や手間がかかるため、負担が大きいです。

それならば、「確実に毎月〇円ずつ、〇年間かけて支払う」という公正証書(公証役場で作る公的な書類)を交わすことで、相手が納得してくれる可能性は十分にあります。

この際、弁護士が間に入って「今の収入状況からして、これが限界です」と客観的な資料を提示することで、無理のない支払い計画を認めさせやすくなります。

 

②賠償額の減額交渉を行う

相手が請求してきている金額が、法律上の相場よりもはるかに高額であることは珍しくありません。

特に交通事故の慰謝料や、不倫の慰謝料などは、相手の感情が高ぶっているため、相場の2倍、3倍の金額を請求されることがあります。

弁護士が介入し、過去の膨大な裁判例(判例)を根拠に「このケースでの妥当な金額は〇〇万円です」と交渉することで、請求額を大幅にダウンさせることができる場合があります。

 

③自己破産などの債務整理を検討する

どうしても支払いきれないほどの多額の賠償金を背負ってしまい、一生かかっても返せないような場合は、最終的な手段として「自己破産」などの債務整理を検討します。

自己破産が裁判所に認められれば、原則としてすべての借金や賠償金の支払い義務が免除されます。

ただし、すべての損害賠償金が自己破産で消えるわけではありません。

法律には「非免責債権」という、自己破産しても消えない特別な債務が決まっています(破産法第253条第1項)。

例とともに表で整理したのでご覧ください。

損害賠償の種類 自己破産で消えるか? 具体例
悪意の不法行為 消えない 相手を陥れるためにわざと嘘を広めた(名誉毀損)
故意・重過失による生命・身体侵害 消えない あえて殴って怪我をさせた、飲酒運転で人をはねた
通常の過失による事故 消える可能性が高い 前方不注意による交通事故、うっかり他人の物を壊した
契約違反(債務不履行) 消える可能性が高い 借金の未払い、仕事上のミスによる損害

例えば、従業員が会社のお金を「横領」して、その補填として損害賠償を求められている場合、これは「悪意の不法行為」とみなされる可能性が高く、自己破産をしても支払い義務は残ります。

逆に、不注意で会社の高価な機材を壊してしまったという程度であれば、自己破産で解決できる可能性があります。

(参考)破産法第253条1項 抜粋

(免責許可の決定の効力等)

第二百五十三条 免責許可の決定が確定したときは、破産者は、破産手続による配当を除き、破産債権について、その責任を免れる。
ただし、次に掲げる請求権については、この限りでない。

〜〜
二 破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権
三 破産者が故意又は重大な過失により加えた人の生命又は身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権(前号に掲げる請求権を除く。)
〜〜

引用:破産法|e-Gov法令検索

 

 

損害賠償額に納得がいかない場合の対処法

相手から請求された金額を見て、「こんなに高いのはおかしい」「自分だけが悪いわけではないのに、なぜ100%自分が払うのか」と納得がいかないこともあると思います。

実は、法的な損害賠償の世界では、相手の言い値がそのまま通ることはまずありません。

損害賠償額を争うためには、主に以下の3つの戦略を検討する必要があります。

 

①損害額の計算に「間違い」や「水増し」がないか精査する

相手方が主張している損害額に客観的な根拠があるかを徹底的に確認します。

例えば、会社の備品を壊してしまったケースでは、その備品の「時価」が基準となります。

10年使った古いパソコンを壊したのに、新品の購入価格を請求されているのであればそれは不当です。

また、怪我をさせたケースでも、事故とは無関係な持病の治療費が含まれていないか、過剰な入院をしていないか、といった点を診断書やレセプト(診療報酬明細書)から分析します。

 

②「過失相殺」を強く主張する

実務上重要なポイントです。

損害が発生したことについて、相手方(被害者)にも何らかの落ち度(過失)があった場合、その割合に応じて賠償額を差し引くことができます(民法第418条、民法第722条第2項)。

例えば、交通事故であなたが加害者であっても、相手が一時停止を無視していたり、夜間にライトをつけていなかったりすれば、相手の過失分を差し引くことができます。

民法第418条

(過失相殺)

第四百十八条 債務の不履行又はこれによる損害の発生若しくは拡大に関して債権者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の責任及びその額を定める。

引用:民法|e-Gov法令検索

民法第722条2項

(損害賠償の方法、中間利息の控除及び過失相殺)

第七百二十二条2 被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができる。

引用:民法|e-Gov法令検索

 

③「報復的請求」や「法外な慰謝料」を拒否する

不倫トラブルやSNSの誹謗中傷など、感情的な対立が激しい場合、相手は「制裁」の意味を込めて、相場からかけ離れた数百万、数千万という金額を請求してくることがあります。

しかし、日本の裁判所は感情的な上乗せをまず認めません。

弁護士が介入し、過去の同様の裁判例を提示して「裁判になればこの金額(相場)にしかなりません。今の提示額は法的に認められません。」と毅然と交渉することで、現実的な金額まで引き戻すことができます。

ただし、これらの判断や交渉を自分一人で行うのは、実際のところ非常に難易度が高いです。

相手も「自分が被害者だ」という強い意識があるため、直接話し合おうとすると罵倒されたり、脅されたりすることもあり、精神的なストレスは計り知れません。

そのような時は、損害賠償に強い弁護士に相談し、代理人として交渉を任せることをお勧めします。

弁護士であれば、法律に基づいて冷静に話し合いを進められます。

また、弁護士が介入したという事実だけで、相手が「これ以上無理な要求は通らない」と悟り、早期解決に向かうことも非常に多いです。

損害賠償の問題を弁護士に依頼するメリットや、弁護士選びのポイントについては、以下のページでも詳しく解説しています。

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損害賠償の不払いについてのQ&A

損害賠償の支払いについて、よくある疑問にお答えします。

賠償金を踏み倒してもいい?

避けるべきで、全くおすすめできません。

賠償金を支払わなければ、財産への差し押さえなど、強制執行を受けてしまいますし、その他にもこの記事で解説した通りのリスクがあります。

財産を隠そうとしても、現在では相手の弁護士が「弁護士会照会」という制度を使ったり、裁判所を通じて銀行の本店に照会をかけたりすることで、あなたの口座を特定することが容易になっています。

また、お勤め先が判明していれば、お給料を差し押さえられるのは時間の問題です。

法的な手続きに従って、正々堂々と解決し、リセットするのが賢明です。

 

損害賠償金の時効とは?

損害賠償請求権にも、一定期間が過ぎると権利が消滅する「時効」があります。

 

不法行為(交通事故、不倫、不祥事など)の時効

主観的時効:被害者が損害および加害者を知った時から「3年」(※生命・身体を害する場合は5年)。

客観的時効:不法行為の時から「20年」(除斥期間的な運用)。

債務不履行(契約違反、未払いなど)の時効

主観的時効:権利を行使できることを知った時から「5年」。

客観的時効:権利を行使できる時から「10年」(※生命・身体を害する場合は20年)。

 

時効期間の早見表
起算点 通常の時効 生命・身体侵害の時効
不法行為 損害・加害者を知った時 3年 5年
不法行為の時 20年 20年
債務不履行 行使できることを知った時 5年 5年
行使できる時 10年 20年

相手が裁判所に訴えを提起したり、裁判所外で正式な催告(さいこく)を行ったりすれば、時効のカウントダウンはストップ(更新・完成猶予)します。

また、一度判決が出てしまうと、その時点から時効は一律「10年」に延長されます。
時効の成立を正確に判断するには、いつの時点でどの法律が適用されるかという高度な知識が必要です。

勝手な判断で「時効だ」と思い込み、後で大きなしっぺ返しを食らわないよう、必ず弁護士に確認してください。

 

 

まとめ

民事の損害賠償金は支払わなくていいのか、放置するとどのようなリスクがあるのか、そしてどうしても支払えない場合にどのような解決策があるのかについて、幅広く解説しました。
重要なのは「逃げずに正しく対処すること」です。放置してリスクを最大化させるのではなく、早い段階で専門家に相談し、分割払いや減額の交渉を行うことを強くお勧めします。
損害賠償請求を受けてお困りの方、あるいは請求額に納得がいかず悩んでいる方は、どうぞお一人で抱え込まず、私たちデイライト法律事務所にご相談ください。

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