外患誘致罪とは?死刑のみの最も重い罪を弁護士が解説

外患誘致罪とは、外国と通謀して(「内通している」という意味です。)日本に対し武力を行使させた場合に成立する犯罪です。
日本の刑法に定められた犯罪の中で唯一、法定刑が死刑のみとされている、最も重い犯罪です。
この罪は、国家の存立そのものを脅かす行為を対象としています。
「法定刑が死刑のみ」というインパクトの強さからしばしば話題に上ることがありますが、制定されてから一度も適用された事例はありません。
外患誘致罪とはどのような犯罪なのか、その基本的な知識を整理することで、法的に正しい理解を深めることができます。
この記事では、外患誘致罪について、その定義や成立要件、過去の適用例の有無、フィクションとの違い、ネット上で話題になる背景などを、弁護士が解説します。
外患誘致罪とは何か?日本で最も重い「死刑のみ」の犯罪

外患誘致罪とは、外国と通謀して日本に対し武力を行使させた場合に成立する犯罪です。
外患誘致罪は、法定刑として「死刑のみ」が規定されています。
これは、全ての犯罪の中で、最も重い刑罰です。
殺人のような重い犯罪であっても、必ず死刑になるわけではありません。
一方、外患誘致罪では、仮にこの罪で有罪となった場合、減軽事由がない限り確実に死刑となります。
それ以外の判決は、法律上あり得ません。
この点で、外患誘致罪は、日本の刑法の中でも特別な位置づけにある犯罪といえます。
外患誘致罪の定義と読み方
外患誘致罪は、「がいかんゆうちざい」と読みます。
刑法では、次のように定められています。
第八十一条 外国と通謀して日本国に対し武力を行使させた者は、死刑に処する。
引用:刑法|電子政府の総合窓口
外患誘致罪とは、外国と意思を通じ合い、その外国に日本国に対する武力行使をさせた者に成立する犯罪です。
この罪が成立した場合の刑罰は、死刑のみと定められています。
法定刑が死刑だけという犯罪は、この外患誘致罪のほかに存在しません。
そのため、外患誘致罪は、日本の刑法における最も重い犯罪として知られています。
なぜ「死刑」しか法定刑がないのか?
日本の刑法において、死刑が科される可能性のある犯罪は、いくつかあります。
たとえば、殺人罪や現住建造物等放火罪などの重大な結果が生じる犯罪には、死刑が規定されています。
ただし、これらの罪の刑は「死刑又は拘禁刑」であり、死刑以外の選択肢も用意されています。
ところが、外患誘致罪だけは、法定刑が「死刑」の一択です。
このように、法定刑が死刑のみとされている理由は、外患誘致罪という犯罪の性質にあります。
外患誘致罪が守ろうとしているのは、「日本という国家の存立そのもの」です。
外国の武力行使を招くという行為は、国民の生命や財産を広範囲にわたって危険にさらし、国の独立や主権を根底から揺るがすものです。
そのため、他の犯罪では設けられている刑の幅が、この罪に限っては一切排除されているのです。
「外患」と「誘致」の意味をわかりやすく解説
「外患誘致」という言葉は、日常生活で耳にする機会がほとんどないため、字面だけでは意味がイメージしにくいかもしれません。
ここでは、「外患」と「誘致」に分けて、それぞれの意味を確認します。
外患
「外患」とは、外部からもたらされる国家の危機を意味します。
具体的には、外国からの武力攻撃のような、国家の安全を脅かす外部の脅威を指す言葉です。
刑法には、「外患に関する罪」という章が設けられており、国防に関わる重大な事態が想定されています。
誘致
「誘致」とは、招き入れることを意味します。
日常用語としては、「企業誘致」や「オリンピック誘致」のように、何かを自分のところに招き寄せるという意味で使われます。
外患誘致罪の文脈では、外国による武力行使を日本に対して引き起こさせるといった意味になります。
外患誘致罪は、単に外国のためにスパイ活動をしたり、機密情報を漏らしたりするだけでは成立しません。
あくまで、外国と通じ合った上で、その外国に日本国に対する武力行使というレベルの攻撃を実際に行わせた場合に成立する犯罪です。
外患誘致罪は、国家的危機を引き起こす行為を対象としています。
外患誘致罪の成立要件と具体例
外患誘致罪がどのような場合に成立するのかは、法律上の成立要件を確認することで理解できます。
犯罪の成立要件は、法律上「構成要件」という形で整理されます。
外患誘致罪の構成要件

外患誘致罪の構成要件は、大きく次の2つの要素があります。
外国と通謀
「通謀(つうぼう)」とは、外国の政府や軍などの機関と、意思を通じ合うことを意味します。
単に、外国に対して一方的に情報を提供するだけでは足りません。
相手方との間で、日本に対する武力行使について意思疎通がなされることが必要です。
ここでいう「外国」とは、外国の政府や軍事組織など、国家的な意思決定を行う主体を指します。
テロ組織のような非国家的な組織については、国家そのものとはいい難く、「外国」には当たらないと考えられています。
武力を行使させる
「武力を行使させる」とは、通謀した外国に対し、日本国に対する軍事力を行使させることを指します。
武力行使は、必ずしも戦争の勃発までは必要とされていません。
軍隊の上陸や侵攻など、日本に対して軍事力を発揮した場合には、武力行使の要件を満たします。
また、サイバー攻撃については、「武力」という言葉の通常の意味に含まれないという理解が一般的です。
サイバー攻撃がインフラの大規模な破壊を伴い、実質的に武力攻撃とみなせるような場合の取り扱いは、今後議論の余地があるところです。
いずれにしても、この要件が求めているのは国家レベルの軍事行動であり、成立のハードルは高いといえます。
外患誘致罪の具体例

上記の構成要件を踏まえると、外患誘致罪が成立するのは、たとえば次のような場面です。
上陸作戦の実行に向けて情報提供・手引きをする
日本側の警備状況や進入経路などについて情報を提供し、実際に上陸行動を起こさせる。
攻撃目標の選定に役立つ内部情報を渡す
自衛隊施設のような要所の位置、警戒態勢、稼働状況などの情報を渡し、実際の攻撃を起こさせる。
部隊侵入や破壊活動のための支援をする
潜入のための車両や通信手段を用意し、部隊等の侵入や破壊活動を実行させる。
このように、外患誘致罪が問題になるのは、ただの情報漏えいではありません。
外国の軍事行動が実際に起きるよう具体的に働きかけた場合に、外患誘致罪が成立します。
未遂や予備も処罰されるのか
外患誘致罪は、既遂に至らない未遂や予備であっても、処罰されることがあります(刑法87条、88条)。
引用:刑法|電子政府の総合窓口
未遂
外患誘致罪の未遂とは、武力行使に向けて外国と通謀したものの、実際には武力行使が行われなかった場合を指します。
未遂の場合は、死刑のほか、刑が減軽されれば、無期または10年以上の拘禁刑となります(刑法68条1号)。
予備
予備とは、外患誘致の実行に備えて準備行為をすることを指します。
たとえば、武力行使のための通謀に向けて、スパイ活動などのなんらかのアクションを起こすことです。
これらの段階であっても処罰の対象となりますが、法定刑は死刑ではなく、1年以上10年以下の拘禁刑です(刑法88条)。
参考:刑法|電子政府の総合窓口
このように、外患誘致罪は、国家の安全を守るために、実行の前段階から幅広く処罰の対象としている点に特徴があります。
漫画やアニメ(コナン等)で描かれるイメージと現実
外患誘致罪という言葉を知ったきっかけが、漫画やアニメという方もいらっしゃるかもしれません。
たとえば、2025年公開の映画『名探偵コナン 隻眼の残像(フラッシュバック)』では、機密情報を入手して政府に圧力をかけるという趣旨の描写がありました。
そこで、「外患誘致罪に当たるのでは?」という指摘が一部で見られました。
ただ、これまで見てきたように、外患誘致罪は、「外国と結託して、日本に武力攻撃を仕掛けさせる」という犯罪です。
単に、機密情報を盾に政府を脅すだけでは、外患誘致罪には当たりません。
おそらく、「国家を脅かす重罪」というイメージから、外患誘致罪が連想されたものと思われます。
フィクションをきっかけに、「この行為はどんな罪になるのだろう」と調べてみるのは、法律を身近に感じる入口として面白いところです。
もっとも、作品の表現上、現実の法律とは異なる形で描かれていることも多くあります。
気になった点は、条文や信頼できる解説など、現実のルールと照らし合わせてみることで、理解が一段と深まるでしょう。
外患誘致罪の過去の実例・判例はあるか?
ここまで、外患誘致罪の成立要件や法定刑について解説してきました。
実際にこの罪が適用された事例は、あるのでしょうか。
ここでは、過去の適用例の有無と、しばしばこの罪名が話題になる背景について取り上げます。
過去の適用例、判例は「ゼロ」
外患誘致罪は、日本の刑法が制定されて以来、一度も適用された事例がありません。
明治時代の旧刑法の時代まで遡っても、この罪で起訴されたり有罪判決が下されたりしたケースは存在しないのです。
つまり、外患誘致罪には判例が一つもありません。
このように適用例がない理由は、この犯罪の成立要件に関係しています。
外患誘致罪が成立するためには、外国と通謀し、その外国が実際に日本に対して武力を行使するという事態が発生しなければなりません。
これは、日本が外国による軍事攻撃を受けている状況を前提としています。
平時において、このような事態が現実に起こり、かつ通謀行為が立証されるというのは、可能性として考えにくい状況です。
過去の日本において、スパイ事件が存在しなかったわけではありません。
たとえば、第二次世界大戦中では、ソ連のスパイであるリヒャルト・ゾルゲとその協力者が、日本の機密情報をソ連に流していた事件が知られています。
しかし、この事件で適用されたのは外患誘致罪ではなく、当時の国防保安法や治安維持法でした。
ソ連が日本に対して武力を行使したという事実関係はなく、外患誘致罪の構成要件には該当しなかったのです。
このように、外患誘致罪は条文上は存在しているものの、その適用が現実に想定される場面は、極めて限定的です。
実際の適用が難しいとしても、万が一の脅威に備えるための規定としての存在意義があるのです。
ネット上で政治家が「外患誘致罪」と言われる背景
インターネット上、特にSNSや掲示板等では、政治家に対して「外患誘致罪だ」といった表現が使われることがあります。
特に、外交や安全保障をめぐる不満や批判に関連して、このような表現が見られることがあります。
これは、法律上の犯罪として真面目に論じているのではなく、非難の強さを示すための言い回しの一種です。
外患誘致罪は、外国との通謀と、日本に対する武力行使を実際に起こさせることが要件です。
通常の外交交渉や政策判断とは、意味合いが大きく異なります。
「国難を招きやがって」という政治的非難の強い表現として、死刑相当の外患誘致罪だと言われることがあるのです。
あくまで政治的評価としての表現であり、刑法上の要件とは切り分けて受け止めるようにしましょう。
外患誘致罪についてのQ&A
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外患誘致罪で死刑にならないケースはありますか?
死刑が減軽された場合、無期または10年以上の拘禁刑となります(刑法68条1号)。
参考:刑法|電子政府の総合窓口
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外患誘致罪の時効は何年ですか?
刑事訴訟法では、時効までの期間は、罪の重さによって変わります。
外患誘致罪は、「人を死亡させた罪であつて拘禁刑以上の刑に当たるもの以外の罪」であり、かつ法定刑が死刑であることから、時効期間は25年となります。
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外患誘致罪に強い弁護士はいますか?
仮にこの罪が問題となるような事態が生じた場合には、刑事弁護の経験が豊富な弁護士に相談することが考えられます。
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外患援助罪との違いは何ですか?
外患誘致罪が「武力行使を引き起こさせる」行為であるのに対し、外患援助罪は「既に行われている武力行使に加担する」行為である点が異なります。
外患援助罪の法定刑は、死刑又は無期若しくは2年以上の拘禁刑であり、死刑以外の選択肢もあります。
なお、外患援助罪についても、これまでに適用された事例はありません。
まとめ
この記事では、外患誘致罪について、その定義や成立要件、過去の適用例の有無、フィクションとの違い、ネット上で話題になる背景などを解説しました。
記事の要点は、次のとおりです。
- 外患誘致罪は、法定刑が「死刑のみ」である日本の刑法上唯一の犯罪である。
- 成立要件は、外国と通謀し、その外国に日本国に対する武力行使を実行させることであり、成立のハードルは高い。
- 未遂も死刑の対象となり、予備・陰謀の段階でも1年以上10年以下の拘禁刑が科される。
- 明治時代から現在に至るまで、外患誘致罪が適用された事例や判例は一件も存在しない。
- 政治家に対してこの罪名が持ち出されることがあるが、外交上の判断や政策の失敗で犯罪が成立することは、現実的ではない。
なぜ刑事事件では弁護士選びが重要なのか








