無理やりキスをしたら何罪?示談金の相場は?

弁護士法人デイライト法律事務所 代表弁護士保有資格 / 弁護士・税理士・MBA
  

「冗談のつもりでキスをしたら犯罪になるのだろうか…」「酔った勢いでキスをしたけれども、訴えられる可能性は?」

相手の同意がないのに、その意思に反して無理やりキスをすれば、犯罪となり、逮捕・起訴されて処罰される可能性があります。

この記事では、具体的にどのような行為が犯罪になるのか、訴えられたときの慰謝料の相場などについて、弁護士が解説します。

無理やりキスしたら何罪?

不同意わいせつ罪が成立する可能性あり!

相手の同意がないにもかかわらず、その意思に反して無理やりキスをした場合、不同意わいせつ罪(刑法176条)が成立する可能性があります

相手が18歳未満の場合には、児童買春・児童ポルノ禁止法違反、児童福祉法違反、青少年健全育成条例違反などに問われる可能性もありますが、この記事では、不同意わいせつ罪を中心にお伝えします。

 

不同意わいせつ罪とは

相手が13歳以上かどうかで要件が異なる

相手が13歳以上(ただし、16歳未満は5歳以上年の差がある)の場合、不同意わいせつ罪は、下記の⑴又は⑵によって、わいせつな行為をしたときに成立します。

⑴同意しない意思を形成、表明又は全うすることが困難な状態にさせること
(あるいは相手がそのような状態にあることに乗じること)


⑵わいせつな行為ではないと誤信をさせたり、人違いをさせること
(又は相手がそのような誤信をしていることに乗じること)

上記の⑴については、その原因となり得る行為・事由について、法律の条文に例示的に明記されています(刑法176条1項各号)。

参考:e-GOV法令検索|刑法

下表は、その行為・事由と説明をまとめたものです。

行為・事由 解説
① 暴行又は脅迫 暴行:人の身体に向けられた不法な有形力の行使
脅迫:他人を畏怖させるような害悪の告知
② 心身の障害 身体障害、知的障害、発達障害及び精神障害
③ アルコール又は薬物の影響 飲酒や、薬物の投与・服用のこと
④ 睡眠その他の意識不明瞭 意識不明瞭:意識がもうろうとしているような、睡眠以外の原因で意識がはっきりしない状態
⑤ 同意しない意思を形成、表明又は全うするいとまの不存在 不意打ちなど
⑥ 予想と異なる事態との直面に起因する恐怖又は驚愕がく フリーズの状態のこと
⑦ 虐待に起因する心理的反応 虐待による無力感や恐怖心など
⑧ 経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力による不利益の憂慮 関係:上司・部下、教師・生徒、祖父母・孫など
不利益の憂慮:自らやその親族等に不利益が及ぶことを不安に思うこと

 

相手が16歳未満の場合

他方、相手が16歳未満(ただし、13歳以上16歳未満の場合は5歳以上年齢差がある)の場合には、わいせつな行為をしただけで、不同意わいせつ罪が成立します

参考:刑法|e−GOV法令検索

16歳未満の子供の者は、性的行為を行うかどうかを判断する能力が未熟であると考えられているからです。

なお、以下では、相手が16歳以上であることを前提とします。

 

「わいせつな行為」とは

そもそも、「わいせつな行為」とは、どのような行為なのでしょうか。

これについては、最高裁が、「刑法176条にいうわいせつな行為に当たるか否かの判断を行うためには、行為そのものが持つ性的性質の有無及び程度を十分に踏まえた上で、事案によっては、当該行為が行われた際の具体的状況等の諸般の事情をも総合考慮し、社会通念に照らし、その行為に性的な意味があるといえるか否かや、その性的な意味合いの強さを個別事案に応じた具体的事実関係に基づいて判断」すると述べています。

参考:最判平成昭和29年11月29日|最高裁ホームページ

このことから、加害者自身の性欲を満たす性的意図があるという典型的なケースは当然のことながら、ほかにも、被害者に対して性的な屈辱感を感じさせることによって復讐等を果たす目的があるというケースや、第三者の性欲を満たすための営利目的があるというケースでも、不同意わいせつ罪が成立する可能性があるといえます。

不同意わいせつ罪の解説については、以下のページも参照してください。

 

 

無理やりキスをして強制わいせつとなった判例

ここでは、どのような状況で、どのような行為を行って不同意わいせつ罪に問われたのかをイメージしていただくために、実際の裁判例をご紹介します。

なお、裁判例は、法改正以前の「強制わいせつ罪」に関するものですが、改正後も先例として参考になると考えます。

11歳の児童に対するキスが強制わいせつ罪に当たるとされたケース、被害者の供述が信用できないとされたケース、被害者の同意があると誤信(勘違い)していたケースといった、典型的なものを1つずつ掲載しますので、参考になさってください。

判決日 行為 結論
札幌地方裁判所令和元年10月23日判決 女子バスケットボールチームの監督が、謝罪のために訪れた女子(11歳)に対し、「チューして終わり」などと言い、唇にキスをさせた 性的意味合いの乏しいスキンシップとして許容されるものではない

強制わいせつ罪に当たる
横浜地方裁判所川崎支部平成30年3月29日判決 深夜、通行中の女性の両腕を両手でつかんで抱き付いた上、頬にキスをし、左手のひらで着衣の上から乳房をなで回した 虚偽の被害申告の可能性、誤認した可能性、被害を誇張している可能性があり、被害者の供述は信用できない

無罪
仙台地方裁判所平成30年2月8日 駐車中の自動車内で、被害者(17歳)に対し、いきなり覆いかぶさって、両乳房を揉むなどした上、下着の中に手を差し入れて陰部に指を挿入した(※) 被害者が同意していると信じていたとしても、特に不合理であるとはいえない

無罪

※キスの事案ではないですが、典型的なケースをご紹介するため、ここで掲載します。

 

 

どういう行為が罪になる?3つのケースを解説

ここでは、相談の多い3つのケースを例に、ポイントをお伝えします。

背後から抱きついて無理やりキスをした

相手との関係性や、キスした際のシチュエーションなどにもよりますが、一般的には、上の「同意しない意思を形成、表明又は全うするいとまの不存在」に該当し、不同意わいせつ罪が成立すると考えられます。

また、抱きついた際に、相手が驚いて転んでケガをしたような場合には、不同意わいせつ致傷罪(刑法181条1項)が成立します。

参考:刑法 | e-Gov法令検索

不同意わいせつ致傷罪の罰則は、無期又は3年以上の懲役刑で、不同意わいせつ罪よりもさらに重い犯罪です。

 

相手も好意を持っていると思い込んでキスしてしまった

このケースでは、ご紹介した裁判例の3つ目のように、相手が同意していると勘違いしたことを理由に、無罪を主張できるのかどうかがポイントとなります。

単に、相手の同意があると思っていたというだけでは、無罪になるということはあり得ません。

ここでも、相手との関係性、キスした際のシチュエーション、その後の2人の行動など、客観的な事実を踏まえて、相手の同意があると勘違いしても不合理ではないといえることが必要です。

このほか、本当に同意があった(明示的な拒絶がなく、黙示的な同意があった)にもかかわらず、その後、相手の気持ちが変わって、被害を受けたと申告されてしまったという事案も、このケースに該当します。

 

泥酔した相手が意識を失っているときにキスをした

酒を飲ませて泥酔させて、相手が抵抗できない状態を利用してキスをしたというような場合、上の「アルコール又は薬物の影響」に該当し、不同意わいせつ罪が成立します。

 

 

無理やりキスした場合の慰謝料(示談金)の相場とは?

無理やりキスをして不同意わいせつ罪で検挙されたときには、被害者に謝罪するとともに、被害を弁償して、示談の成立を目指す必要があります。

示談が成立して、被害者から、「謝罪を受け入れて、刑事責任を許すことにした。処罰を望まないので、被害届を取り下げる。」という意思表示をしてもらうことができれば、被害者の意思に反してまで起訴される可能性が低くなり、不起訴処分となることを期待できるからです。

無理やりキスをした場合の慰謝料(実務上は示談金と呼ぶことがあります。)は、50~100万円が相場と思われます。

ただし、個別の事案によって示談金の額は異なりますので、金額は上下しますし、示談金の支払以外にも、接触・接近・連絡の禁止などを誓約することを求められることもあります。

不同意わいせつ罪の示談については、次のリンクも参照してください。

 

 

無理やりキスをした場合、証拠がなくても捕まる?

無理やりキスをしたという事案の証拠には、どのようなものがあるでしょうか。

密室での行為の場合、被害者の供述しか証拠がなく、客観的な証拠が存在しないというケースも少なくないと思われます。

しかし、この場合でも、被害者に嘘をつく理由があるとか、供述の内容が不自然であるなどといった事情がなければ、被害者の被害申告どおりの行為があったとされ、逮捕されることも十分にあり得ます。

実際の例でも、被害者の供述しかなく、加害者が否認して争っていたケースで、被害後に直ちに病院を受診するとともに、友人や警察に被害を申告したという被害者の行動からすれば、被害者の供述は信用できるとして、有罪となったものがあります。

また、近頃では、至るところに防犯カメラが設置されています。

路上、集合住宅、商業施設、駅構内などはもちろんのこと、電車の中への防犯カメラの設置も進んでいます。

行為そのものが映っていないとしても、密室でもない限り、行為前後の行動などの何らかのシーンが、付近の防犯カメラに写っている可能性が高く、そこから犯人の特定が行われる可能性が高いと考えておくべきでしょう。

まとめ

無理やりのキスは、不同意わいせつ罪が成立する可能性のある行為です。

不同意わいせつ罪は、罰金刑となることがなく、実刑判決を受ければ拘禁刑となる比較的重い犯罪です。

不同意わいせつ罪が成立するためには、相手の同意なくわいせつな行為を行うことが必要ですが、その手段は暴行や脅迫だけに限定されておらず、認められやすい傾向にあります。

また、相手が子供の場合は同意があったとしても処罰されます。

不同意わいせつ罪の際に相手を死傷させれば、不同意わいせつ致死傷罪が成立し、より重い罰則が科されます。

無理やりキスをして検挙されたときには、示談を成立させて不起訴処分の獲得を目指すことが重要です。

無理やりキスをした場合の慰謝料示談金は、50~100万円が相場と思われますが、個別の事案に応じた適正な金額を提案することが必要です。

無理やりキスをして検挙されて、又は検挙されるかもしれないという場合には、刑事事件の経験豊富な弁護士にご相談ください。

 

 


15分無料電話相談(性犯罪限定)
なぜ弁護士選びが重要なのか

強制わいせつについてよくある相談Q&A