公訴時効とは?時効との違いを解説【一覧表付き】
公訴時効とは、犯罪の発生から一定の期間が経過すると、検察官が容疑者を起訴できなくなる制度です。
刑事事件で公訴時効が成立すると、いくら容疑が確定的であっても、もはや容疑者を起訴して刑事裁判を開くことはできません。
公訴時効がどのような場合に成立するかを知ることは、犯罪が処罰される可能性があるかを考える上で重要です。
この記事では、公訴時効について、その基本的な意味や存在理由、公訴時効の期間、時効が停止する場合などを、弁護士が解説します。
公訴時効とは?

公訴時効とは、犯罪の発生から一定の期間が経過すると、検察官が容疑者を起訴できなくなる制度です。
犯罪からある程度の時間が経過すると、もうその行為で罪に問われることはなくなる、というイメージです。
ここでは、公訴時効の基本的な定義から、その存在理由、そして混同されやすい他の制度との違いについて解説します。
公訴時効の定義
公訴時効は、「犯行を行い終わってから一定期間が経過することで、国の刑罰権が消滅する制度」と定義することができます。
法律上は、時効の効果としては、「判決で免訴の言渡し」をするものとされています(刑事訴訟法337条4号)。
「免訴(めんそ)」とは、有罪か無罪かを審理する前提が欠けているとして、訴訟手続きを打ち切ることを意味します。
公訴時効が成立した犯罪については、もう処罰されることがなくなるということです。
なお、公訴時効は、すべての犯罪に適用されるわけではありません。
法律で定められた一定の重大犯罪については、公訴時効が廃止されています。
公訴時効が存在する理由
犯罪を犯しているのに、時間の経過で処罰されなくなるのは、おかしいように思われるかもしれません。
公訴時効という制度が存在する理由には、次のようなものがあります。

証拠が消えていくこと
まず、時間の経過によって証拠が消えていき、正確な事実認定が困難になるという問題があります。
犯罪から長い年月が経過すると、物的証拠が失われたり、証人の記憶が曖昧になったりします。
そのような状況では、適切な裁判を行うことが難しくなると考えられます。
処罰の必要性の低下
犯行からの時間の経過により、処罰の必要性が低下します。
これは、罪が軽くなるという意味ではありません。
時間がたつほど、「いま刑罰を科す必要がどれだけあるのか」が小さくなり得るという考え方です。
事件から長い年月が過ぎると、本人の生活や環境が変わり、再犯の危険が下がっている場合があります。
その結果、刑罰によって更生や再犯防止を図る実益が小さくなります。
また、社会に対して違反の結果を示すという刑罰の役割も、出来事から時間が離れるほど効果が薄れやすいといえます。
法的安定性
公訴時効の存在理由には、法的安定性も挙げられます。
これは、犯罪があったかもしれないという状態をいつまでも引きずらず、一定期間が経過したら、法的な扱いを区切って社会の状態を確定させるという考え方です。
いつまでも捜査や起訴の可能性が残ると、本人は将来設計を立てにくく、周囲の利害関係も不安定なままになります。
また、国家の刑罰権が時間の制約なく行使され得る状態は、社会全体にとっても緊張を長引かせます。
そこで公訴時効により、「この時点以降は刑事責任を追及しない」という外枠を設け、一定の期間で関係を確定させるような制度になっているのです。
これらの理由から、刑事司法制度では、迅速な捜査を促すとともに、一定期間経過後は刑事責任を問わないという仕組みが採用されています。
時効と聞くと、「逃げ切った人が得をする制度では?」と感じる方もいるかもしれません。
たしかに、結果だけを見れば、「時間がたったからもう裁けない」となり、ずるい印象を受けがちです。
ただ、刑事裁判は、早い段階で事実を確かめて結論を出すのが基本です。
時間が経ちすぎると、当時の状況を正確にたどりにくくなります。
また、長い年月が過ぎれば、本人がすでに社会生活の中で役割を持ち、周囲もそれを前提に日常を築いていることがあります。
そこへ突然、過去の出来事で強い処罰を持ち込むこと、かえって社会の秩序や生活を大きく揺さぶる場面もあります。
時効の制度は、「逃げ得を許すため」ではなく、一定のところで区切りをつける仕組みとして置かれています。
公訴時効と刑の時効との違い
公訴時効と混同されやすい制度として、刑の時効があります。
刑の時効とは、有罪判決が確定した後、刑の執行がなされないまま一定の期間が経過すると、その刑を執行できなくなる制度です。
つまり、公訴時効が「起訴前の段階」における制度であるのに対し、刑の時効は「有罪判決確定後の執行段階」の制度という違いがあります。
たとえば、ある人が犯罪を犯して有罪判決を受けたものの、何らかの理由で刑の執行がされずにいたとします。
この場合、一定期間が経過すれば刑の時効が成立し、刑を執行できなくなります。
ただし、有罪判決が確定しているのに、その刑が長年執行されずに放置されるという事態は、通常想定されません。
また、死刑では、判決確定から時間がかかるケースもありますが、死刑の言渡しについては、刑の時効の対象外となっています。
公訴時効と消滅時効との違い
公訴時効と似た名称の制度として、「消滅時効」というものがあります。
消滅時効は民法上の概念で、一定期間権利を行使しないことによって、その権利が消滅する制度です。
たとえば、お金を貸した人が長期間にわたって返済を求めないでいると、一定の期間経過後には、返済を求める権利が消滅時効によって消滅します。
民法では、債権の消滅時効期間は、権利を行使できることを知った時から5年、または権利を行使できる時から10年とされています(166条1項)。
参考:民法|e−Gov法令検索
また、不法行為に基づく損害賠償請求権については、損害及び加害者を知った時から3年(人の生命・身体を害する場合は5年)、不法行為の時から20年と定められています(724条、724条の2)。
公訴時効が刑事上の責任に関する制度であるのに対し、消滅時効は民事上の権利に関する制度です。
両者は、時間の経過によって法的な権利が消滅するという点では共通していますが、民事と刑事というまったく異なる領域における概念です。
公訴時効と告訴期間との違い
公訴時効と混同されやすいものとして、告訴期間があります。
告訴とは、犯罪の被害者が、捜査機関に対して犯罪事実を申告し、犯人の処罰を求める意思表示のことです。
一部の犯罪については、告訴がなければ検察官が起訴できない「親告罪」と呼ばれる類型があります。
親告罪では、被害者が犯人を知った日から6か月以内に告訴しなければ、告訴権が消滅すると定められています(刑事訴訟法235条)。
親告罪では、告訴期間が経過すると告訴ができなくなります。
結果として、検察官は起訴できなくなるという点で、公訴時効と似た効果が生じます。
公訴時効が検察官にとっての時間制限であるのに対して、告訴期間は被害者にとっての制限ということができます。
公訴時効は何年?
公訴時効の期間は、犯罪の重さによって異なります。
法律に定められた刑が重い犯罪ほど、時効までの期間は長く設定されています。
ここでは、公訴時効の期間の考え方を解説します。
【罪名別】公訴時効の一覧表
公訴時効の期間は、法定刑の重さに応じて決まります(刑事訴訟法250条)。
また、単なる刑の重さだけでなく、「人を死亡させたかどうか」によって、適用される期間が異なります。
刑の重さ、代表的な犯罪、公訴時効までの期間は、次のとおりです。
人を死亡させた罪であって拘禁刑の刑に当たるもの
| 刑の重さ | 代表的な犯罪 | 公訴時効までの期間 |
|---|---|---|
| 死刑に当たる罪 | 殺人、強盗致死(強盗殺人) | 公訴時効の適用なし |
| 無期拘禁刑 | 不同意わいせつ致死、不同意性交等致死 | 30年 |
| 長期20年の拘禁刑 | 傷害致死、危険運転致死 | 20年 |
| 上記以外 | 過失運転致死、業務上過失致死 | 10年 |
人を死亡させた罪であって拘禁刑に当たるもの以外の罪
| 刑の重さ | 代表的な犯罪 | 公訴時効までの期間 |
|---|---|---|
| 死刑 | 現住建造物等放火 | 25年 |
| 無期拘禁刑(わいせつ関係) | 不同意わいせつ致傷、不同意性交等致傷 | 20年 |
| 無期拘禁刑(わいせつ関係以外) | 強盗致傷、通貨偽造 | 15年 |
| 長期15年以上の拘禁刑(わいせつ関係) | 不同意性交等、監護者性交等 | 15年 |
| 長期15年以上の拘禁刑(わいせつ関係以外) | 傷害、強盗 | 10年 |
| 長期15年未満の拘禁刑(わいせつ関係) | 不同意わいせつ、監護者わいせつ、児童福祉法違反(自己を相手方として淫行をさせる行為に係るもの) | 12年 |
| 長期15年未満の拘禁刑(わいせつ関係以外) | 窃盗、詐欺、恐喝、業務上横領 | 7年 |
| 長期10年未満 | 横領、背任 | 5年 |
| 長期5年未満 | 器物損壊、暴行、名誉毀損 | 3年 |
| 拘留又は科料 | 軽犯罪法違反 | 1年 |
公訴時効の期間は、実際に科される刑ではなく、法律で定められた刑の範囲によって決まります。
たとえば、窃盗罪の法定刑は「10年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金」です。
この場合、「長期15年未満の拘禁刑」に該当し、公訴時効は7年となります。
なお、上記のうちわいせつ関係の罪については、被害者が18歳未満のときは、18歳に達するまでの期間が時効期間に加算されます。
たとえば、犯行当時被害者が15歳の不同意わいせつは、時効の期間は12年ではなく15年となります。
未解決事件が長期化する中で、殺人事件被害者の遺族などから、公訴時効の廃止等を求める意見がありました。
そのような流れを受け、平成22年の法改正で、殺人罪など「人を死亡させた罪」のうち法定刑の上限が死刑であるものは、公訴時効が廃止されました。
また、「人を死亡させた罪」で無期刑相当など一定の類型については、公訴時効期間が延長されました。
公訴時効はいつからスタートするの?
公訴時効は、犯罪のある時点から、上記の期間を経過することで成立します。
この公訴時効の期間のカウントが開始する時点を、時効の「起算点」といいます。
刑事訴訟法では、公訴時効は「犯罪行為が終わった時から進行する」と定められています(253条1項)。
犯罪行為が終わった時とは、基本的には犯罪の実行行為(処罰の対象となる行為)が完了した時点を指します。
たとえば、窃盗罪であれば、他人の物を自分の支配下に置いた時点で犯罪行為が終わったことになります。
ただし、犯罪の態様によっては、いつ犯罪行為が終わったかの判断が難しい場合があります。
たとえば、監禁罪のように時間的に継続する犯罪については、監禁を解いた時が起算点となります。
また、共犯事件では、共犯者の一番最後の行為が終わった時点が、共犯者全員の時効の起算点となります(刑事訴訟法253条2項)。
時効の起算点は、いつの時点で時効が成立するかを左右する重要な概念です。
時効の成立を正しく判断するためには、起算点の正確な理解が欠かせません。
公訴時効が停止する場合とは?
公訴時効は、原則として犯罪行為が終わった時から進行し続けます。
ただし、一定の場合には、時効の進行が一時的に停止します。

公訴の提起
刑事訴訟法では、公訴の提起があったときは、時効の進行が停止するとされています(254条1項)。
つまり、検察官が事件を起訴した時点で、公訴時効の進行は止まります。
警察が捜査を開始したり、容疑者を特定したりしても、検察官が起訴しない限り、時効は進行し続けます。
たとえば、容疑者の逮捕は、時効の停止事由に当たりません。
たとえ時効完成直前に逮捕されたとしても、起訴が間に合わなければ、時効は成立します。
犯人が国外にいる場合
犯人が犯行後国外に出国している場合、その期間は、公訴時効は停止します(刑事訴訟法255条1項)。
国外に逃亡して時効完成を待つ、といったことは通用しません。
起訴状の送達等ができない場合
容疑者が逃亡しており、起訴状の送達等を有効にできない場合も、時効の進行は停止します(刑事訴訟法255条1項)。
もっとも、これは捜査段階で「容疑者が見つからない」ケースとは異なります。
あくまで、起訴により起訴状を送達すべき段階にあるのに、逃げ隠れのため送達等が有効にできない場合に限って、時効の進行を止めるものです。
公訴時効が成立したケース
日本の刑事事件の歴史において、公訴時効が成立した事件はいくつも存在します。
実際、犯人を特定できずに、3年や5年で時効となっている事件は多数あると思われます。
しかし、社会の関心が高いのは、報道などで注目される「重大事件」ではないでしょうか。
ここでは、社会的に大きな注目を集めた事件の中から、公訴時効が成立した代表的なケースを紹介します。
3億円事件
3億円事件は、昭和43年12月10日に東京都府中市で発生した現金強奪事件です。
白バイ隊員に扮した犯人が、銀行の現金輸送車を停車させ、約3億円を車ごと持ち去って逃走しました。
この事件は、戦後最大の未解決事件として知られ、大規模な捜査が行われましたが、犯人は特定されませんでした。
犯人は白バイ隊員を装って運転手を欺き、車ごと乗り去ったもので、暴行や脅迫は用いていません。
強盗罪ではなく窃盗罪となることから、7年後の昭和50年12月10日に、公訴時効が成立しています。
グリコ・森永事件
グリコ・森永事件は、昭和59年から昭和60年にかけて発生した一連の企業脅迫事件です。
江崎グリコの社長が誘拐され、その後、複数の食品会社に対して脅迫状が送られ、金銭が要求されました。
さらに、青酸入りの菓子を店頭にばら撒くなど、市民の生命を脅かす行為にも及びました。
犯人グループは「かい人21面相」を名乗り、社会を震撼させましたが、結局犯人は特定されませんでした。
この事件に関する各罪の公訴時効は、最後の青酸入り菓子ばら撒き事件に対する殺人未遂罪の時効が平成12年2月に成立したことで、すべて完成しました。
これらの事件は、いずれも社会に大きな衝撃を与えた重大事件であり、公訴時効の成立は被害者遺族や社会に大きな失望をもたらしました。
こうした経緯もあり、平成22年の法改正では、殺人罪などの重大犯罪について公訴時効が廃止されるに至りました。
警察庁長官狙撃事件
警察庁長官狙撃事件は、平成7年3月30日に発生した事件です。
当時の警察庁長官が、自宅マンション前で何者かに拳銃で銃撃され、重傷を負いました。
大規模な捜査が行われましたが、犯人の特定には至りませんでした。
殺人未遂罪の公訴時効は当時15年であったため、平成22年3月30日に公訴時効が成立しました。
この時効成立は、同年4月27日に施行された公訴時効廃止の法改正のわずか1か月前のことであり、法改正の議論にも大きな影響を与えました。
ワンポイント:世田谷一家殺害事件
世田谷一家殺害事件は、平成12年12月30日に東京都世田谷区で発生した殺人事件です。
一家4人が自宅で殺害されるという凶悪事件で、現場から犯人のものと見られる多くの遺留品が発見されましたが、犯人は特定されませんでした。
この事件の公訴時効は、当初は平成27年12月30日でしたが、平成22年の刑事訴訟法改正により、殺人罪の公訴時効が廃止されました。
これによって時効が成立することはなくなり、現在も捜査が継続されています。
公訴時効についてのQ&A
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公訴時効は廃止されないのですか?
平成22年の刑事訴訟法改正により、法定刑が死刑に当たる罪については公訴時効が廃止されています。
また、人を死亡させた事件で法定刑が無期の拘禁刑に当たる罪については、時効期間が30年に延長されました。
ただし、公訴時効には、それなりの存在意義があります。
すべての犯罪について公訴時効を廃止すべきとまでは、現在のところ考えられていません。
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詐欺の公訴時効は何年ですか?
ただし、詐欺罪にもさまざまな態様があり、たとえば組織的詐欺など一定の加重類型については、法定刑がより重くなるため、公訴時効の期間も長くなります。
また、詐欺罪の公訴時効は、詐欺行為が終わった時、つまり財物を騙し取った時から進行を始めます。
まとめ
この記事では、公訴時効について、その基本的な意味や存在理由、公訴時効の期間、時効の起算点や停止事由、実際に時効が成立した事件などを解説しました。
記事の要点は、次のとおりです。
- 公訴時効とは、犯罪発生から一定期間が経過すると検察官が起訴できなくなる制度である。
- 公訴時効の期間は、法定刑の重さによって異なる。
- 公訴時効は、犯罪の処罰と社会の安定などのバランスを図る制度であり、逃げ得を許すものではない。
- 三億円事件やグリコ・森永事件など、社会的に注目を集めた重大事件でも公訴時効が成立したケースがある。
- 公訴時効は、人を死亡させた一部の重大犯罪について、平成22年の法改正により廃止されている。
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