死亡事故で刑務所に入らないケースとは?弁護士が具体例で解説

弁護士法人デイライト法律事務所 代表弁護士保有資格 / 弁護士・税理士・MBA
  


死亡事故で刑務所に入らないケースとしては主に、不起訴となった場合と、起訴されて有罪となったものの執行猶予がついた場合の2つのケースが考えられます。

死亡事故は、交通事故の中でも被害者が命を落とすという最も重大な結果を招くものであり、厳しい処分を覚悟する必要があります。

ただし、死亡事故のすべてで刑務所に入るかというと、そういう訳ではありません。

この記事で詳しくご紹介するとおり、実際には刑務所に入らないで済むケースも多く存在します。

そこでこの記事では、死亡事故でも刑務所に入らないケースについて、実際の統計をふまえて、どのようなケースで刑務所に入ることになるのか、刑務所に入らないためにはどうするべきかといったことを、弁護士が解説します。

死亡事故で成立する犯罪とは?

死亡事故を起こした場合、自動車運転死傷処罰法違反となる可能性があります。

ただし、同法の中にも複数の罪が定められており、どの罪に当たるかによって、刑務所に入る可能性は変わってきます。

死亡事故であれば、危険運転致死傷罪、準危険運転致死罪、過失運転致死罪などの成立が考えられ、それぞれの罪の概要は次のとおりです。

罪名 事故の原因 罰則
危険運転致死罪 飲酒運転、無謀運転など 1年以上の有期懲役
準危険運転致死罪 飲酒・薬物・病気などの影響下での運転 15年以下の懲役
過失運転致死罪 不注意 7年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金

この中では比較的軽い部類に入る過失運転致死罪であっても、最高では7年間の懲役刑が科される可能性があることがわかります。

故意に事故を起こしたわけではないにせよ、人の死亡という重大な結果が生じていることから、死亡事故の罰則はこのように重いものとなっています。

 

 

死亡事故で刑務所に入る?判断基準は何?

死亡事故には以上のような重い罰則が定められていますが、実際にこれらの刑罰を科されるのは、あくまで起訴されて実刑判決を受けた場合です。

死亡事故で刑務所に入らないケースは主に、不起訴と執行猶予の2つのパターンがあるといえます。

つまり死亡事故で刑務所に入る基準は、不起訴や執行猶予となる基準を考えてみるとわかることになります。

死亡事故の実刑の割合

死亡事故で実刑となる割合は、過失運転致死罪と危険運転致死傷罪とで大きく異なっています。

ここでは実際の統計をもとに、それぞれの罪で実刑判決となっている割合をご紹介します。

 

過失運転致死罪

まずは過失運転致死罪について、統計を見てみます。

令和4年では、過失運転致死で1,002件の有罪判決が出ており、そのうち実刑判決が39件、執行猶予つきの判決が963件となっています。

出典:令和5年版犯罪白書|検察庁ホームページ

過失運転致死罪の場合は、割合でいうと有罪判決のうち約96パーセントは執行猶予つきであり、実刑判決は4パーセント程度ということになります。

死亡事故の実刑の割合

また、この1,002件はあくまで起訴された件数ですので、不起訴となったものも含めると、実刑となる割合はさらに低下することになります。

不起訴となった件数は統計からは明らかではありませんが、仮に起訴される率が半々の50パーセントであると仮定すると、事件全体に対する実刑判決の割合はさらに下がって、2パーセント程度ということになります。

過失運転致死罪の場合は、刑務所に入るケースはそう多くないといえるでしょう。

 

危険運転致死傷罪

続いて、危険運転致死傷罪です。

危険運転致死罪は件数が少なく、令和4年では21件が起訴され、そのすべてが実刑判決となっています。

さらに過去2年の統計を見てみますと、令和3年では34件のすべてが実刑判決、令和2年では21件のうち20件が実刑判決となっています。

出典
令和4年版犯罪白書|検察庁ホームページ
令和3年版犯罪白書|検察庁ホームページ

過失運転致死罪と同じく不起訴の割合は分かりませんが、死亡だけでなく負傷にとどまる「危険運転致傷罪」と合算した数値では、令和4年で65.7パーセントが起訴(公判請求)されています。

「致傷」を除いて「致死」に限定した場合の起訴率は、当然これより高くなると推測されます。

危険運転致死罪はそもそも犯罪としての悪質性が高く、多くの事件で厳しい判決が出ています。

この点を考慮すると、証拠不十分のようにそもそも有罪の立証が困難で起訴を断念したような場合を除けば、不起訴となるケースはかなり稀であるとも思われます。

 

死亡事故で服役する可能性が高いケース

統計としては以上のとおりですが、改めて、死亡事故で服役するケース、しないケースを整理してみます。

死亡事故で服役するケースの筆頭と考えられるのは、危険運転致死傷罪で起訴されるケースであり、統計上はほぼすべての事案で実刑判決となっています。

危険運転致死傷罪は成立の判断が難しく、それゆえ件数も少なくなっているのですが、具体的なケースとしては次のようなイメージとなります。

  • アルコールや薬物の影響下での運転
  • 制御困難な高速度での運転
  • 危険な速度でのあおり運転

また、たとえ過失運転致死罪での起訴であっても、4パーセント程度は実刑判決が出ていますので、無視はできません。

多くが執行猶予となる過失運転致死罪で実刑判決が出るのはかなり悪質な事案であり、たとえば次のようなケースと考えられます。

  • 飲酒運転やあおり運転などの危険な行為だが、危険運転致死傷罪にはかろうじて当たらない場合
  • 居眠り運転や、睡眠不足での運転
  • 死傷者が複数いるなど、被害が重大なケース
  • 大幅な速度超過
  • 救護義務違反(轢き逃げ)
  • 運転中のスマートフォンの操作など、不注意の程度が著しい場合
  • 自賠責に未加入であるなど、賠償の目処が立たない場合

 

死亡事故でも服役する可能性が低いケース

死亡事故でも服役する可能性が低いケースは、以上の服役する可能性が高いケースの裏返しとなります。

危険運転致死傷罪での執行猶予はかなり厳しい現状となっているため、服役を回避するためには、過失運転致死罪となることが前提といえそうです。

その上で、服役する可能性が低いケースとしては次のようなものが想定されます。

  • 被害者側にも過失がある
  • 不注意の程度がそこまで甚だしいとはいえない場合
  • 既に示談が成立しており、被害弁償が済んでいる

死亡事故で服役する可能性を改めて整理しますと、まず、危険運転致死罪で起訴されるケースは、その時点で服役する可能性が高いといえます。

次に、過失運転致死罪の場合、下記のような要素によって、服役の可能性が左右されることになります。

実際に服役を回避できるかは、事案ごとにケースバイケースで判断されるため、参考としてご覧いただければと思います。

状況 服役する可能性が高いケース 服役する可能性が低いケース
加害者の不注意や悪質性の程度 著しい 軽度
被害者の落ち度 なし あり
被害の発生状況 死傷者が多数 死傷者が少数
被害弁償 済んでいない 済んでいる

 

 

死亡事故で刑務所に入るまでの流れ

死亡事故で刑務所に入るのは、起訴されて実刑判決を受けた場合であり、流れとしては次のようになります。

 

死亡事故で刑務所に入るまでの流れ

①事故発生、捜査

警察が事故の事実を把握すると、捜査が開始します。

捜査には、容疑者を逮捕するケースと、逮捕せずに取り調べの際に容疑者を呼び出す形で進める在宅捜査があります。

警察の捜査は主に、証拠物の収集や、関係者からの聞き取りを書面化して調書を作成するといった形で進んでいきます。

 

②送検、起訴

捜査が終結すると、警察は検察官に対し事件を送検します。

事件の送検を受けた検察官は、起訴して刑罰を科すべきと判断すると、容疑者を起訴して刑事裁判に移行します。

 

③刑事裁判、判決

刑事裁判では検察官は証拠を提出したり、証人尋問を行ったりといった立証活動を行います。

有罪の立証に成功すると、裁判官は有罪判決を出します。

有罪判決には実刑判決と執行猶予つきの判決があり、実刑判決であれば刑務所に服役することになります。

 

④収容

有罪の実刑判決が確定すると、刑務所に収容されて服役が開始します。

 

 

死亡事故による服役を回避するためのポイント

死亡事故は被害者が命を落としている重大な事故ですが、実際に服役するケースは必ずしも多くありません。

適切に対応することで、服役を回避する可能性もじゅうぶんにあります。

以下では、服役を回避するためのポイントをご紹介します。

死亡事故による服役を回避するためのポイント

不起訴を目指す

服役を回避するために重要なポイントのひとつは、不起訴処分を獲得することです。

服役までの手続きの流れでご覧いただいたとおり、実際に刑務所に服役するのは、起訴されて実刑判決を受けた場合です。

つまり不起訴処分となれば、刑事裁判が開かれることもなく実刑判決が出ることもありませんので、その時点で服役を回避できることになります。

起訴・不起訴を決定するのは検察官ですが、検察官が起訴・不起訴を決定する前、すなわち捜査段階での弁護活動しだいでは、不起訴の可能性を高めることも不可能ではありません。

被害者と示談を成立させる

死亡事故で不起訴となる可能性をあげるためには、被害者遺族と示談することが重要です。

示談とは、加害者が被害者に対して謝罪するとともに、損害を賠償して和解することをいいます。

示談が成立しているということは、損害が償われており被害者から許しを得られていますし、加害者の反省が態度として表れているといえます。

したがって検察官としては、示談が成立しているのであればあえて裁判を開始して刑罰を科す必要まではないと判断して、不起訴処分とすることが見込まれるのです。

もちろん、起訴・不起訴は総合的に判断されますので、たとえ示談が成立していたとしても、あまりに悪質な事案の場合は、起訴して刑罰を科すべきとの判断となることもあり得ます。

とはいえ、示談が成立していれば、成立していない場合に比べると、基本的には不起訴の確率が高くなるということはできそうです。

起訴されてしまうと、判決しだいで実刑か執行猶予かという岐路に立つことになるのに対し、不起訴であればその時点で事件が終結し服役の回避が確定します。

死亡事故で服役を回避するためには、不起訴処分を獲得することが重要といえるのです。

示談についての詳しい解説は、こちらをご覧ください。

 

過失運転致死罪での起訴を目指す

死亡事故で服役を回避するためには不起訴処分の獲得が望ましいといえますが、仮に起訴されるのであれば、危険運転致死罪ではなく過失運転致死罪での起訴を目指すことが重要となってきます。

統計的に見れば、過失運転致死罪では約94パーセントの割合で執行猶予がついて服役を回避しているのに対し、危険運転致死罪ではほぼすべての事件で実刑判決となっており、服役を回避できる見込みはきわめて低くなります。

死亡事故を起こした場合、どちらの罪で起訴されるかは、服役を回避できるかの重大なポイントといえます。

そのため、死亡事故で服役を回避するためには、危険運転致死罪ではなく過失運転致死罪での起訴を目指すことが重要となります。

死亡事故の統計をご紹介した際に、過失運転致死罪が1,000件を超えているのに、危険運転致死罪での起訴が20件程度であることを不思議に思われた方もいらっしゃるかもしれません。

危険運転致死罪は非常に重い罰則が科される重罪と位置づけられており、成立するための要件が厳しくなっていることから、このような差が生じていると考えられます。

たとえば、飲酒運転の死亡事故だからといって常に危険運転致死罪を適用できるわけではなく、実際には飲酒を原因とする死亡事故であっても、過失運転致死罪での起訴となるケースも多いです。

このため、捜査段階で弁護士に依頼することで、今回のケースが危険運転致死罪には当たらないことについて、検察官に意見書を提出するといった弁護活動が可能となります。

これはあくまで弁護側の立場での意見にすぎませんので、検察官に対する拘束力があるわけではありません。

しかし、弁護士も検察官もともに法律の専門家ですので、弁護士からそのような意見書が出てくれば、検察官もこれを無視することはできません。

交通事故事件の弁護経験が豊富な弁護士であれば、危険運転致死罪の成立要件を正確に把握しており、今回の事案では危険運転致死罪が成立しないことを論理的に主張することが可能です。

弁護士の主張を崩すことができないと判断すれば、検察官は強引に危険運転致死罪で起訴するようなことはせず、確実に立証可能な過失運転致死罪で起訴するものと考えられます。

このように、「法律」という共通言語を用いて検察官と戦えるのは、弁護士だけといっても過言ではありません。

交通死亡事故では、起訴される罪名によって服役する可能性が大きく変わってきますので、起訴される前での弁護活動の重要性が特に高いといえるでしょう。

 

執行猶予つき判決の獲得を目指す

死亡事故で起訴されてしまうと、実刑判決を受け実際に刑務所に服役する可能性が出てきます。

ただし起訴された場合でも、執行猶予つきの判決を獲得することができれば服役を回避することができます。

もちろん、無罪判決を獲得することでも服役は回避できますが、一度起訴されると99パーセント以上の割合で有罪判決が出ており、やや現実的ではありません。

そのため、死亡事故で起訴された場合は、執行猶予つきの判決を獲得することが服役を回避するために重要となってくるのです。

被害者と示談する

不起訴処分の項目で被害者と示談することの重要性をご説明しましたが、被害者との示談は、執行猶予つきの判決を得る上でも大きな意味を持ちます。

容疑者を起訴するのかは検察官が、起訴された場合にどのような罰則を科すのかは裁判官が、それぞれ諸般の事情を総合的に考慮して判断します。

そのため、被害者と示談したにもかかわらず起訴された場合であっても、示談が成立したという事実自体は加害者にとって有利なものですので、執行猶予つきの判決を出すための材料のひとつとなり得るのです。

示談の成立は不起訴処分を得るためだけでなく、執行猶予を獲得する上でも重要ですので、服役を回避する可能性を高める上で大きな意味を持つといえます。

 

運転免許を再取得しないことを誓約する

死亡事故の裁判で服役を回避できる事案では、被告人が運転免許を再取得しないことを誓約するケースもよく見られます。

刑事裁判で服役を回避する上では、再犯する可能性の有無がポイントとなります。

再犯のおそれがあるケースでは、実際に刑務所に服役することで再犯の可能性を解消する必要があるためです。

車を運転しなければ事故を起こすこともありませんので、死亡事故の事案では、運転免許を再取得しないことを誓約することによって、再犯のおそれがないことを示すことになります。

実際の裁判でも、被告人が運転免許を再取得しないことを誓約している点を理由のひとつとして、執行猶予をつけている判決も見られます。

過失運転致死罪における実刑判決の割合は4パーセント程度ですので、服役を回避するためには二度と車を運転してはいけないということはありませんが、そのような選択ができれば、より執行猶予の可能性が高まると考えられます。

死亡事故は故意ではないとはいえ、尊い人命をうばう結果となっているのは事実ですので、服役回避の可能性を高める点も含めて、運転をやめるという選択を検討してもよいでしょう。

 

刑事事件に強い弁護士に依頼する

死亡事故で服役を回避する可能性をあげるためには、刑事事件に強い弁護士に依頼することも重要です。

死亡事故で服役を回避するためには、不起訴処分や執行猶予つきの判決を獲得する必要があります。

不起訴処分を得るためには起訴前の弁護活動が、刑事裁判で執行猶予つきの判決を得るためには起訴前から起訴後に至るまでの一貫した弁護活動が重要となってきます。

具体的には、被害者との示談を目指したり、検察官や裁判官に対して服役の必要がないことを論理的に説明したりする必要があります。

ただし、死亡事故のような重大な事件で、被害者との示談を成立させたり、執行猶予が妥当であることを説得力をもって主張したりすることは、簡単なことではありません。

刑事事件に強い弁護士であれば、示談交渉や法廷での弁護活動の経験も豊富ですので、服役の回避を目指す上で心強い存在であるといえます。

刑事事件における弁護士選びの重要性については、こちらをご覧ください。

 

 

 

まとめ

この記事では、死亡事故でも刑務所に入らないケースについて、実際の統計をふまえて、どのようなケースで刑務所に入ることになるのか、刑務所に入らないためにはどうするべきかといった点について解説しました。

記事の要点は、次のとおりです。

  • 死亡事故で刑務所に入らないのは、主に不起訴処分や執行猶予つきの有罪判決となった場合である。
  • 死亡事故では、危険運転致死罪や過失運転致死罪が成立する可能性があり、前者では刑務所に入る見込みがかなり高いのに対し、後者では執行猶予がつく可能性が高い。
  • 死亡事故で刑務所に入らないためには、不起訴処分や執行猶予の獲得を目指すべきであり、いずれにおいても刑事事件に強い弁護士に依頼することが効果的である。

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