痴漢の証拠とは?逮捕・立証に必要な証拠と対処法

弁護士法人デイライト法律事務所 代表弁護士保有資格 / 弁護士・税理士・MBA
  

痴漢の証拠とは

痴漢の証拠とは、容疑者が痴漢行為を行ったことを根拠づける物や証言のことです。

痴漢事件において、証拠の存在は、容疑者の有罪・無罪を左右する決定的な要素です。

証拠が不十分であれば冤罪のリスクが高まり、十分な証拠があれば適正な処罰が可能となります。

しかし、痴漢事件では決定的な証拠に欠けるケースもあり、被害者の申告と容疑者の否認が対立する状況に陥りがちです。

痴漢事件の証拠には、目撃証言や防犯カメラ映像、DNA鑑定などさまざまな種類があります。

それぞれの証拠には特徴があり、証拠の信頼性や収集方法についても理解しておく必要があります。

この記事では、痴漢事件における証拠について、証拠の種類や立証すべき内容、無実の証明方法、実際に痴漢を犯してしまった場合の対処法などを、弁護士が解説します。

痴漢の証拠とは?

痴漢の証拠とは痴漢の証拠とは、容疑者が痴漢行為を行ったことを根拠づける物や証言のことです。

これには、防犯カメラの映像や、DNA鑑定の結果などのほか、被害者や目撃者の証言、容疑者の自白などの供述が含まれます。

ただし、通常、単一の証拠によって痴漢行為を立証できることは多くありません。

証拠が容疑を強めるものだとしても、それのみで100パーセント犯行を断定できるかというと、疑問が残るケースが多いためです。

痴漢の証拠は、さまざまな種類のものを可能な限り収集し、総合的な判断によって容疑者の痴漢行為を証明するというように使われます。

 

痴漢事件で証拠が重要な理由

痴漢事件では、証拠が重要な意味を持ちます。

刑事事件では、ある事実を認定するときは、必ず証拠によらなければなりません(刑事訴訟法317条)。

参考:刑事訴訟法|e-Gov法令検索

罪の種類を問わず、犯罪を行ったという事実を認定するに当たっては、証拠の存在が必須となるのです。

さらに、痴漢事件において証拠が特に重要視されているのは、痴漢という犯罪の性質が関係しています。

痴漢行為は、性的な目的で他人の身体に触れる犯罪です。

単に相手に触れることだけで成立するため、窃盗罪における盗品や、傷害罪における怪我のような、目に見える根拠が残り難いという特徴があります。

また、痴漢行為は、混雑した電車内などで行われることが多く、接触が故意なのか偶然なのか判別が難しいという事情もあります。

証拠の存在は、このような状況で犯行を明らかにするための手段です。

適切な証拠があれば、真犯人を特定して適正な処罰を行うことができ、無実の人が冤罪で罰せられるリスクを減らすことができます。

日本の刑事裁判では、「疑わしきは被告人の利益に」の原則があります。

容疑者の犯行であることに疑問が残る状態で処罰することは、許されません。

検察側が、容疑者の犯行で間違いないということを立証する必要があります。

証拠が不十分な場合、罪に問うことができませんので、無罪判決となります。

このように、痴漢事件における証拠は、冤罪を防止し適切な処罰を実現するための重要な要素なのです。

 

 

痴漢の証拠の種類と具体例

痴漢事件では、さまざまな種類の証拠が用いられます。

これらの証拠は、単独ではなく、複数の証拠が組み合わさることで、総合的に犯行を裏付けます。

証拠は大別すると、物証と、人の供述(証言)に分けることができます。

証拠

それぞれの証拠には、メリットとデメリットがあり、証拠としての強さも異なります。

また、証拠を考える上では、その証拠によってどのような事実を証明しようとしているのか、という視点も重要です。

以下では、痴漢事件でよく用いられる証拠の種類と具体例を解説します。

 

物証

人の供述以外の証拠物を、物証といいます。

物証は、人の記憶を介さないため、客観性が高いという特徴があります。

 

微物検査、DNA鑑定などの結果

痴漢事件においては、微物(びぶつ)検査やDNA鑑定などの結果が、証拠として用いられるケースがあります。

微物検査とは、容疑者の手や指からテープで付着物(微物)を採取し、その種類・性状などを調べる捜査手法のことをいいます。

微物検査は、決定的な証拠に欠けることが少なくない痴漢事件において、重要な証拠となることがあります。

たとえば、容疑者の手から被害者の衣服の繊維が検出されたり、逆に被害者側から容疑者の皮膚片が検出されたりするケースです。

このような証拠は、容疑者の手などが被害者の身体に触れたことを示すと考えるのが一般的な見方です。

ただし、このような証拠があるからといって、それで痴漢行為があったと確定するわけではありません。

偶然触れた際に付着した可能性や、接触以外の何らかの経路で付着した可能性などを、別途検討しなければならないためです。

このような鑑定は、科学的な手法によるものであり、客観性が高くはあります。

とはいえ、それがどのような事実を示しているかについては、慎重に検討する必要があります。

 

防犯カメラの映像

近年、駅構内や電車内に設置される防犯カメラが増えています。

防犯カメラは、客観的な記録を残すため、その映像が痴漢事件の証拠となることがあります。

たとえば、電車内のカメラであれば、車両における当事者の行動や位置関係を立証するための証拠となり得ます。

また、容疑者が逃走していた場合、その足取りを追って人物を特定する際にも、防犯カメラの映像が効果を発揮することがあります。

ただし、防犯カメラのアングル的に、痴漢行為そのものが映像として残っているというケースは多くないかもしれません。

また、電車内の混雑状況によっては、映像が不鮮明になる場合もあります。

防犯カメラは客観性の高い証拠である反面、すべての痴漢行為がはっきり記録されるわけではないという限界もあります。

 

現場遺留品

容疑者が現場に残していった物も、痴漢の証拠になり得ます。

たとえば、逃走の際に、身分証や携帯電話などを現場に残すことにより、身元が判明するということがあります。

これらの証拠は、痴漢行為それ自体の証拠ではありませんが、逃走した人物と容疑者の同一性を示す証拠として用いることができます。

 

行動履歴

容疑者の行動履歴も、痴漢の証拠となることがあります。

たとえば、駅や電車の痴漢であれば、ICカードの利用記録などが、容疑者が犯行時刻に犯行現場にいたことの証拠となることがあります。

反対に、このような記録は、アリバイの証明に使われることもあります。

たとえば、犯行時刻に別の場所にいたことが証明できれば、無実の証拠となります。

このような証拠も、痴漢行為を直接立証するものではなく、防犯カメラの映像のように人物特定の趣旨で利用されることがあります。

 

供述

供述は、被害者や目撃者などの証言の形を取る証拠です。

供述証拠は、証言をする人の記憶に基づく点で、本当に信用できるのかを吟味する必要があります。

 

被害者の供述

被害者による供述は、痴漢事件の基本的な証拠のひとつです。

痴漢被害の発生は、被害者にしか分からないことも多く、痴漢事件での被害者の証言は非常に重要な証拠となります。

他方で、特に背後から痴漢行為が行われた場合などには、被害者からは犯人の顔が見えないことも多いです。

また、被害に遭ったことによる混乱や感情の高ぶりから、必ずしも冷静な供述が得られるとは限らないという問題もあります。

被害者の供述は、重要な証拠である反面、その信用性を特に慎重に検討しなければなりません。

被害者の供述の信用性は、供述の一貫性や具体性、客観的証拠との整合性などによって判断されます。

ただし、被害者の供述だけで容疑者の有罪を立証することは難しく、他の客観的証拠と組み合わせて評価されることが多いです。

 

目撃者の証言

目撃者の証言も、痴漢事件において重要な証拠の一つです。

特に、第三者による目撃証言は、被害者の主張を裏付ける強力な証拠となります。

また、たまたま居合わせた第三者だけでなく、警戒中の警察官が犯行を目撃することもあります。

目撃者の証言と被害者の供述が一致していた場合、それらの証言は相互に補完しあい、双方の信用性が高まります。

ただし、目撃証言も人の供述である以上、人間の記憶の不確かさや見間違いなどが含まれる可能性があります。

特に、混雑した電車内では、正確に状況を把握するのが難しいケースもあります。

 

犯人の自白

犯人の自白、つまり容疑者自身による犯行を認める旨の供述も、痴漢の証拠となります。

自白については、不利な事実を自ら認めるものであることから、一般に信用性は高いとされています。

ただし、強引な取り調べ根負けしてやっていないのに認めてしまう場合のほか、身代わり出頭などのケースもないとはいえません。

このようなことから、法律では、自白以外の証拠がない場合には有罪にできないとされています(刑事訴訟法319条2項)。

参考:刑事訴訟法|e-Gov法令検索

これは、冤罪防止のための重要な原則です。

また、強制や誘導によって得られた自白は、証拠として採用されない可能性があります。

自白は信用性が高いからこそ、安易に「信用できる」と決めつけることのないよう戒められているのです。

 

 

逮捕の種類別の痴漢の証拠

痴漢事件における逮捕には、主に、犯行の場で直ちに行われる「現行犯逮捕」と、逮捕状を得て行う「通常逮捕」の2種類があります。

痴漢の証拠は、どちらの逮捕であっても、最終的には、容疑を固めて犯行を立証するという目的であることには変わりません。

ただし、逮捕の段階においては、証拠は逮捕を正当化する根拠資料としての役割を果たします。

それぞれの逮捕形態の特徴に応じて、問題となりやすい証拠が変わってきます。

以下では、逮捕の種類別に利用されやすい証拠について解説します。

 

現行犯逮捕の痴漢の証拠の例

現行犯逮捕とは、犯行の最中または犯行直後に逮捕することをいいます(刑事訴訟法212条)。

参考刑事訴訟法|e-Gov法令検索

現行犯逮捕では逮捕状が不要であり、また、警察官でない一般人による逮捕(いわゆる私人逮捕)が可能です(同法213条)。

痴漢事件では、被害者が直ちに被害を申告し、駅員や警察官がその場で容疑者を逮捕するケースが多くみられます。

現行犯逮捕の根拠とされる証拠の典型が、供述です。

現行犯逮捕では、犯行からまだ間がなく、証拠を細かく精査しているよりも、新鮮な記憶に基づく証言の方が重宝されやすいのです。

具体的な証拠の例としては、以下のようなものが挙げられます。

第一に、被害者の即時の申告です。

被害直後に「この人に触られました」と被害者が申し出ることが、現行犯逮捕の最も基本的な証拠となります。

被害の具体的内容を詳細に述べることができれば、申告の信頼性はより高まります。

第二に、目撃者の証言です。

第三者が痴漢行為を目撃していれば、被害者の申告を裏付ける強力な証拠となります。

たとえば、「確かにこの人が手を伸ばして触っているのを見ました」という目撃証言があれば、現行犯逮捕の正当性が高まります。

また、警察官が犯行を現認し、自身が犯行を目撃したということを根拠に現行犯逮捕することもあります。

さらに、駅構内の防犯カメラ映像も、犯行直後に確認することができる場合があります。

犯行の様子が映っていれば、それは有力な証拠となります。

 

通常逮捕の痴漢の証拠の例

通常逮捕は、犯行から時間が経過した後に、裁判官が発行する逮捕状に基づいて行われる逮捕です。

痴漢事件では、被害者が後日被害を申告した場合などには、現行犯逮捕ではなく通常逮捕となります。

また、現行犯の時点では逮捕できるだけの容疑がなかった場合や、容疑者が現場から逃走しており、捜査の結果、容疑者が特定された場合などにも行われます。

通常逮捕では、現行犯逮捕と異なり、裁判官の発行する逮捕状が必要となります。

つまり、通常逮捕では、証拠は逮捕状を取得するための資料ということができます。

容疑者を通常逮捕するには、容疑者の犯行を疑うに足りるだけの根拠が必要となります。

まず、痴漢事件においては、現行犯逮捕の場合だけでなく、通常逮捕においても、被害者や目撃者の証言は重要な意味を持ちます。

通常逮捕の場合、これらの証言は、供述調書という形で書面化されます。

被害の具体的状況や、容疑者の特徴、時間や場所などの供述が記載された調書は、通常逮捕の根拠となります。

また、容疑者が逃走していた場合であれば、これから逮捕しようとする人物と、その逃走していた人物とが同一であることを示す証拠が必要です。

たとえば、現場から去る容疑者の姿を防犯カメラで確認し、その人物のICカードの乗車履歴から、それが誰であるかを特定するといった具合です。

容疑者は特定されていたものの、嫌疑が不確かで逮捕できずにいた場合であれば、微物鑑定やDNA検査などの結果で容疑が固まることで、逮捕可能となることもあります。

 

 

捜査機関が痴漢事件で立証すべき内容

痴漢事件において、捜査機関は容疑者が有罪であることを立証するために、いくつかの重要な要素を証明する必要があります。

立証の対象は、究極的には、「容疑者が痴漢をした」という事実です。

痴漢の多くは、不同意わいせつ罪や迷惑防止条例違反ですので、これらの罪にあたることを立証することになります。

ただし、事件のポイントや争点は、容疑者がどのような主張をするかによっても変わってきます。

たとえば、容疑者が「その場にはいなかった」と主張している場合であれば、防犯カメラや乗車記録などで、その場にいたことから立証する必要があります。

他方で、「その場にはいたが痴漢はしていない」という主張であれば、痴漢行為をしたかどうかが争点となります。

この場合、後に供述を翻す可能性もあるため、その場にいたこと自体も証拠で押さえる必要はありますが、立証の重みは低下します。

 

痴漢行為

痴漢事件で立証すべき事実の中心となるのが、痴漢行為の存在です。

痴漢は、一般的には、臀部など相手の身体に性的な意図をもって触れるという犯罪です。

痴漢とは

痴漢は、混雑している電車内など、犯行がわかりづらい場所で行われることも多く、立証することが難しいケースもあります。

たとえば、電車内であれば、仮に防犯カメラが設置されていたとしても、角度や混雑状況などの関係で、接触行為の瞬間がはっきり映っていないことも多いでしょう。

また、被害者の証言についても、勘違いの可能性があるほか、示談金などを狙った狂言である可能性も、まったくないとはいえません。

痴漢行為があったことは、被害者や目撃者の証言、防犯カメラの映像、微物鑑定の結果などを積み上げて、丁寧に立証する必要があります。

 

容疑者と犯人の同一性

容疑者が犯行を否定している場合、別人の犯行ではなく、その人の犯行であることを立証する必要があります。

たとえば、犯人が事件後に逃走していたケースであれば、防犯カメラや乗車記録などを追跡して容疑者を特定する必要があります。

また、犯行を否認しているケースでは、別人による犯行ではないことを、当時の位置関係などから立証しなければなりません。

 

故意

痴漢事件では、故意の存在を証明する必要があります。

満員電車のような人が過度に集合している空間では、やむを得ず他人に触れてしまうということもありえます。

痴漢を処罰するためには、接触行為が偶然ではない、意図的なものであることを立証しなければならないのです。

これは、触ったかどうかではなく、わざと触ったのかという内心の問題となります。

そのような内心の事情についても、証拠に基づいて客観的に認定されることになります。

たとえば、犯行が一瞬ではなく、相当の時間にわたって継続していたことが証明されれば、その事実が意図的な接触であることの証拠にもなり得ます。

また、防犯カメラから、離れる機会があったにもかかわらず、被害者の近くの位置を不自然に保ち続けたことがわかったような場合も、偶然ではないと認定する根拠となり得ます。

 

情状に関する事実

裁判では、情状に関する事実も立証すべき事実となります。

情状とは、犯行の動機や悪質性、前科の存在など、量刑を決めるに当たって考慮すべき一切の事情のことです。

情状に関する事実は、犯行に関連する周辺事情ですので、その立証がなくても、有罪を立証することは可能です。

ただし、情状に関する事実についても、それを主張するのであれば、証拠によって立証する必要があります。

たとえば、被害者の処罰感情が強いことを主張する場合に、その証拠として被害者の供述調書を提出するといったことが考えられます。

 

 

痴漢事件の証拠に関する注意点

痴漢事件における証拠の取り扱いには、さまざまな注意点があります。

これらの点に留意することで、冤罪を防ぎ、適正な刑事手続きを確保することができます。

以下では、痴漢事件の証拠に関する重要な注意点を解説します。

 

証拠の捏造や隠蔽はNG

痴漢の被害者であれ加害者であれ、証拠を捏造したり、隠蔽したりすることは許されません。

すでにある証拠を消滅させたり、新たに偽の証拠を作成したりするような行為が、証拠の隠蔽や捏造にあたります。

証拠物を破壊することのほか、被害者や目撃者に接触して証言の変更を迫る行為も、一種の証拠隠滅といえます。

そのような行為は、場合によっては、証人威迫罪となることがあります(刑法105条の2)

参考:刑法|e-Gov法令検索

また、知人に虚偽のアリバイ証言を依頼するような行為も、証拠の捏造であり違法です。

この場合、加担した者は、犯人隠避罪(刑法103条)や証拠隠滅罪(同法104条)に問われる可能性があります。

加害者だけでなく、被害者であっても、証拠の捏造行為は許されません。

たとえば、誰かに虚偽の証言を依頼するような行為は、被害者による証拠の捏造といえます。

また、実際には痴漢被害を受けていないにもかかわらず、被害があったと虚偽の申告をするように、被害自体が嘘の場合は、虚偽告訴罪(刑法172条)に該当する可能性があります。

証拠を捏造しても、そのような証拠に事実を証明する効力はなく、裁判で用いることはできません。

そればかりか、そのような工作活動自体が、上記のような罪に問われることもあるのです。

 

捜査機関の強引な証拠収集は違法

捜査機関が証拠を収集する際にも、適正な手続きを守る必要があります。

たとえば、令状なしでの住居の捜索や所持品の検査、強制的なDNA採取などは、違法な証拠収集方法となる可能性があります。

また、不当に長時間の取り調べや、身体的・精神的圧力をかけて自白を強要することも、違法な取り調べ方法です。

このような方法で得られた証拠や自白は、裁判で証拠能力を否定される可能性があります。

違法に収集された証拠であっても裁判で使用できるとなると、捜査機関による違法な証拠収集が助長されるおそれがあるためです。

捜査の適法性を保つために、違法に収集した証拠は使用できないものとされているのです。

 

証言の信頼性には注意が必要

痴漢事件では、物証に乏しく、被害者や目撃者の証言が重要な証拠となることも多いです。

ただし、人間の記憶や認識は万能ではなく、人の供述については、その内容の正確性を特に慎重に吟味する必要があります。

特に、混雑した電車内などでの出来事は、状況を把握するのに限界がある場合があります。

また、誤解や思い込み、記憶の変容などにより、実際とは異なる証言がなされる可能性もあります。

そのため、証言の信頼性を判断する際には、一貫性や具体性、他の客観的な証拠との整合性などを、慎重に検討する必要があります。

 

容疑者側にも証拠が必要

犯罪があったことを立証する責任は、検察官が負っています。

検察官が犯罪を証明しない限り、裁判官は無罪判決を出さなければなりません(刑事訴訟法336条)。

参考:刑事訴訟法|e-Gov法令検索

つまり、容疑者側には、自分の無罪を証拠で立証する責任はないということです。

ただし、法的には責任がないとはいっても、主張を認めてもらうために積極的な立証活動が望ましいこともあります。

たとえば、無罪を強く主張する事案では、痴漢が不可能であったことを立証するために、位置関係などの当時の状況を再現し、証拠として提出することがあります。

このような証拠は、検察側の立証活動を妨げるものといえます。

妨げるといっても、邪魔をするということではなく、不十分であることをはっきりさせるというものです。

また、罪を認める場合でも、情状に関する事実を立証するための証拠を提出することが多いです。

たとえば、示談が成立していることの証拠として示談書を提出したり、今後の監督を誓う情状証人を請求したりといった例があります。

容疑を否認しない認めの事件でも、どうせ有罪だからと投げやりになるのではなく、どのような主張が可能かを丁寧に検討することが重要です。

立証責任の有無は、あくまで法律上の話にすぎません。

実際上は、法的責任の有無にかかわらず、有利な事実については積極的に証拠を提出することが効果的です。

 

 

痴漢が冤罪の場合の無実の証明方法

痴漢事件では、混雑した状況や証拠の乏しさから、冤罪が発生するリスクがあります。

もし痴漢の疑いをかけられたが実際には行っていない場合、無実を証明するためにはどうすればよいのでしょうか。

痴漢行為を行ったことの立証責任を負うのは、検察官です。

検察官が有罪を立証できなければ、容疑者を罪に問うことはできません。

よって、容疑者の側で自分の無実を立証する必要はないのが、法的な原則ではあります。

もっとも、無実を主張する場合に、自ら積極的な立証活動を行うことは、無罪判決となる可能性を高めるために重要になります。

以下では、冤罪の場合に無実を証明するための方法を解説します。

痴漢が冤罪の場合の無実の証明方法

 

アリバイの証明

犯行が疑われている日時に、その場所にいてさえもいなかったということであれば、アリバイの証明が重要です。

アリバイは、犯行があったとされる日時に、別の場所にいたということです。

犯行時刻に別の場所にいたことを証明できれば、必然的に犯行を行ったのは別人ということになります。

現行犯逮捕であれば、少なくともその場にいたこと自体は争えないでしょうから、逮捕状によって通常逮捕された事案で、アリバイを検討すべきことになります。

たとえば、ICカードの利用記録、や携帯電話の位置情報、クレジットカードやレシートなどの買い物の記録、監視カメラの映像、一緒にいた人の証言などが有効です。

犯行があったとされる時間に、別の場所で確実に行動していたことを示す証拠を集めましょう。

 

犯行が不可能であることの立証

次に、物理的に犯行が不可能だったことを証明する方法があります。

たとえば、事件当時の混雑状況や被害者との位置関係から、容疑者が物理的に痴漢行為を行うことが不可能だったことを証明できれば、無罪の証拠となります。

この場合、どのような犯行があったとされるのか、被害者の主張を確認し、それが成り立たないことを立証することが重要です。

また、防犯カメラ映像の確認も重要です。

駅構内や電車内の防犯カメラ映像を確認し、痴漢行為をしていないことが映っていれば、それは有力な無罪の証拠となります。

痴漢行為をしていないことまではわからないとしても、映像と供述とを組み合わせて、「本当は何があったか」を主張することが考えられます。

証言やカメラ映像などに基づいて、事件当時の状況を再現することも、時に有効な手段となります。

 

黙秘権の行使

無実を証明する上では、黙秘権を適切に行使することも重要です。

黙秘とは、供述を拒むことであり、憲法38条によりその権利が保障されています。

この権利により、自己に不利益な供述を強要されることはありません。

黙秘することは、無実を立証する上での重要な手段のひとつです。

黙秘は、あくまで取り調べに対して黙るだけですので、それによって直接的に無実が証明できるわけではありません。

しかし、供述をするということは、それがどのような内容であれ、捜査機関にヒントや手がかりを与えることになります。

有罪の立証責任を負っているのは、あくまで検察官です。

そして、本当に無実であるならば、有罪が立証されることはないはずです。

誤って有罪になるリスクを下げるためにも、無実の場合には、余計な供述をせずに黙秘を貫くことが有効なことがあります。

まったく身に覚えがない場合、弁護士と相談するまでは安易に供述しないことが重要です。

不用意な発言が、後に不利な証拠として使われる可能性があります。

無実を証明するためには、弁護士と丁寧に打ち合わせた上で、慎重に供述することが重要です。

 

証人尋問

被害者や目撃者の証言について争いたい場合は、裁判の場で証人尋問を行うことができます。

証人尋問とは、裁判所に証人を呼び出して質問することです。

証人尋問では、証人に対して直接質問をすることができ、証言の矛盾点や不自然な点を指摘することが可能です。

また、証人の記憶の曖昧さや、事件当時の状況についての認識の違いを明らかにすることもできます。

特に、痴漢事件では、被害者の証言が重要な証拠となることが多いです。

証人尋問によって被害者の証言の信用性を争うことは、無実を証明する上で非常に重要な手続きとなります。

証人尋問を行う際は、事前に証言の内容を想定し、矛盾点や不自然な点をイメージしておくことが重要です。

証人尋問の結果、証言の信用性が否定されれば、検察側の立証が困難となり、無罪判決を得られる可能性が高まります。

ただし、証人尋問は、高度な法的技術を要する手続きです。

証人の供述を崩して有利な結果を得るには、法廷での豊富な経験が必要です。

証人尋問で積極的に供述の信用性を争うには、刑事事件の経験が豊富な弁護士に依頼することが重要です。

 

弁護士への依頼

無実を証明するためには、早期に弁護士に相談することが重要です。

弁護士は、証拠収集や法的戦略の立案、捜査機関との交渉など、さまざまな面でサポートしてくれます。

特に、痴漢事件に詳しい弁護士であれば、冤罪を回避するための効果的な対応策を提案してくれるでしょう。

無実の証明は容易ではありませんが、適切な対応と証拠収集によって冤罪から身を守ることは可能です。

冷静に対応し、法的権利を活用しながら、無実を証明するための活動を進めましょう。

 

 

痴漢を犯してしまった場合の対処法

実際に痴漢行為をしてしまった場合、罪を償って責任を果たさなければなりません。

ただし、どのような形で責任を果たすのか、その後の対応によって、刑事処分の内容や社会的影響が大きく変わる可能性があります。

痴漢事件では、事件後の対応が非常に重要です。

適切な対応を取ることで、刑事処分の軽減や社会的影響の最小化が期待できます。

事件後の対応が今後の人生を大きく左右するため、慎重かつ適切な対応が求められます。

以下では、痴漢を犯してしまった場合の適切な対処法について解説します。

 

示談交渉を行う

痴漢事件において、被害者との示談は非常に重要です。

示談とは、加害者が被害者に謝罪し、示談金を支払うことで、被害者の許しを得て紛争を解決する合意のことです。

示談が成立すると、被害者が刑事告訴を取り下げたり、処罰を望まない旨の嘆願書を提出したりすることに合意するケースが多いです。

示談が成立すると、刑事処分の軽減につながることが期待されます。

示談成立により、不起訴処分となる可能性が高まるほか、起訴されても執行猶予が付く可能性が高まると考えられます。

痴漢事件の初犯であれば、示談成立によって不起訴になるケースは珍しくありません。

示談交渉を行う際は、被害者の感情を考慮し、誠意を持って対応することが重要です。

痴漢事件は被害者に強い不快感を与えるものであり、処罰感情を低下させることは簡単ではありません。

対応を誤ると、むしろ被害者感情を害してしまい、示談成立が遠のくこともあり得ます。

被害者と示談交渉する際は、示談交渉に強みを持つ弁護士を通じて行うことが望ましいでしょう。

弁護士が間に入ることで、冷静かつ円滑な交渉が可能となります。

示談交渉における弁護士選びの重要性については、以下のページをご覧ください。

 

弁護士同行で自首をする

犯行後に逮捕されていない場合、自首を検討することも一つの選択肢です。

自らの意思で捜査機関に出頭することは、反省の態度や、逃亡の意思がないことを表す意味があります。

そのような事情があると、後の手続きにおいて有利に考慮されることが期待できます。

自首する際は、弁護士の同行が推奨されます。

弁護士なしで自首すると、取り調べへの不適切な対応により、不利な状況を招く可能性があります。

弁護士は、適切な供述の仕方や、取り調べへの対応についてアドバイスしてくれます。

せっかく自首をするのであれば、弁護士に相談の上で行うことが望ましいでしょう。

自首を弁護士に依頼するメリットについては、以下のページをご覧ください。

 

刑事事件に強い弁護士に相談する

痴漢事件をはじめとする刑事事件では、刑事事件に強い弁護士を選ぶことが重要です。

特に、痴漢事件では、示談交渉や供述の仕方などの事件対応の面で、専門的な知識と経験が必要とされます。

弁護士に相談することで、事件の見通しや最適な対応策について、的確なアドバイスを受けることができます。

また、示談交渉の代行や裁判での弁護など、さまざまな面でサポートを受けることができます。

弁護士を選ぶ際は、痴漢を含む刑事事件の経験が豊富な弁護士を選ぶことが望ましいでしょう。

刑事事件における弁護士選びの重要性については、以下のページをご覧ください。

 

 

痴漢の証拠のよくあるQ&A

痴漢事件は現行犯以外は逮捕が難しい?

痴漢事件は現行犯での逮捕が多いですが、通常逮捕の事件もあります。

容疑者がその場から逃走しているような場合には、その後の捜査によって人物を特定の上、通常逮捕されることがあります。

痴漢での逮捕についての解説は、以下のページをご覧ください。

 

痴漢は証言だけで有罪にできますか?

被害者や目撃者の証言だけでも、有罪となる可能性はあります。

証言も証拠の一種であり、慎重な検討により信用性が認められると、その内容に従って痴漢行為が認定されます。

理想的には、他の証拠で補強されることが望ましくはありますが、痴漢行為は物証がないことも多く、証言だけで有罪となるケースもあります。

 

痴漢は防犯カメラで犯人を特定できますか?

公共の場の防犯カメラは、痴漢の犯人を特定する際に役立つことがあります。

痴漢行為が混雑した電車内などで行われたような場合ですと、痴漢行為そのものを防犯カメラが捉えているというケースは多くないかもしれません。

他方で、犯人が現場から立ち去っていた場合に、防犯カメラで容疑者の動向を追跡し、身元を特定することは可能です。

防犯カメラで犯人が特定できるかについては、以下のページをご覧ください。

 

痴漢は証拠がないと逮捕されない?

物的な証拠がなくても、証言があれば、逮捕される可能性はあります。

特に、現行犯の場合は、被害者の証言によって逮捕されることがあります。

痴漢での逮捕についての解説は、以下のページをご覧ください。

 

 

まとめ

この記事では、痴漢事件における証拠について、証拠の種類や立証すべき内容、無実の証明方法、実際に痴漢を犯してしまった場合の対処法などを解説しました。

記事の要点は、次のとおりです。

  • 痴漢事件では、被害者の供述や目撃証言、防犯カメラ映像、微物鑑定などが証拠となる。
  • 痴漢での逮捕には現行犯逮捕や通常逮捕などがあり、それぞれの場面で利用されやすい証拠がある。
  • 冤罪の場合は、アリバイの証明や防犯カメラ映像の確認、早期の弁護士相談などが無実を証明する上で重要である。
  • 痴漢を犯してしまった場合は、示談交渉や弁護士同行での自首、刑事事件に強い弁護士への相談が適切な対処法となる。

当事務所は、刑事事件のご相談の予約に24時間対応しており、LINEなどのオンライン相談を活用することで、全国対応も可能となっています。

まずは、お気軽に当事務所までご相談ください。

あわせて読みたい
ご相談の流れ

 

 



なぜ刑事事件では弁護士選びが重要なのか

続きを読む