損害賠償請求の消滅時効とは?弁護士が解説

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損害賠償請求の消滅時効とは、請求できる権利が「時間の経過によって消えてしまう」仕組みのことです。

たとえ正当な理由があっても、時効が完成すると加害者に賠償を求めることができなくなります。

しかも、時効の期間は「いつからカウントが始まるのか(起算点)」や「損害の内容」によって異なるため、注意が必要です。

この記事では、損害賠償請求における消滅時効の基本知識・種類・期間・時効を止める方法までを詳しく解説します。

損害賠償請求を検討している方は、時効で権利を失ってしまわないように、ぜひ最後までご覧ください。

損害賠償請求の時効には2つの種類がある

損害賠償請求と一口にいっても、その発生原因によって、適用される時効期間は異なります。

民法上、損害賠償請求には大きく分けて次の2種類があります。

  • 不法行為に基づく損害賠償請求
  • 債務不履行に基づく損害賠償請求

どの根拠に基づいて損害賠償請求を行うかによって、起算点(時効がいつから進み始めるか)や時効成立までの期間が異なります。

そのため、まずはこの違いをしっかり理解しておくことが大切です。

 

不法行為に基づく損害賠償請求

不法行為とは、「故意または過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害する行為」のことです。

わかりやすく言えば、「他人のわざと、または不注意の行為によって損害を受けた」ケースです。

具体例としては、次のようなケースが挙げられます。

  • 交通事故でケガをさせられた
  • 見知らぬ人に殴られてケガをした
  • 配偶者が不倫をした
  • インターネット上で誹謗中傷された

 

債務不履行に基づく損害賠償請求

債務不履行とは、「契約の当事者の一方が、正当な理由なく契約内容どおりの義務を果たさないこと」を指します。

わかりやすく言えば、「契約関係にある相手が約束を守らなかったために損害を受けた」ケースです。

具体例としては、次のようなケースが挙げられます。

  • お金を貸したのに、返済期限を過ぎても返してくれない
  • 商品を販売したのに、代金を支払ってくれない
  • 会社が給料や残業代を支払ってくれない

これらのケースでは、当事者間に契約(約束)が先に存在し、その約束が守られなかったことが損害賠償請求の根拠となります。

債務不履行については、以下の記事で詳しく解説をしていますので、ぜひこちらも合わせてお読みください。

 

 

不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効

不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効

不法行為に基づく損害賠償請求には、民法上、3年・5年・20年という3つの時効期間が定められています。

ここでは、それぞれの時効期間について、具体的な起算点や適用される場面を詳しく解説します。

 

不法行為の3年間の消滅時効

まず、基本となるのがこの「3年」という期間です(民法724条1号)。

不法行為に基づく損害賠償請求権は、被害者が「損害が発生したこと」および「加害者が誰であるか」を知った時から3年間行使しなかった場合、時効によって消滅します。

ポイントは、「損害」と「加害者」の両方を知った時点からカウントがスタートするという点です。

この起算点を、法律用語では「主観的起算点(しゅかんてききさんてん)」といいます。

 

損害及び加害者を知った時とは?具体例で解説

損害および加害者を知った時とは、「損害の発生と加害者の両方を具体的に認識した時点」を意味します。

たとえば、交通事故で自分の車が破損した場合を考えてみましょう。

事故が起きた場合、一般的にはその場で「車が壊れた」という損害と、「誰がぶつかってきたか」という加害者を同時に認識するケースが多いでしょう。

したがって、原則として事故発生時が起算点となります。

次に、配偶者が不倫をし、不倫相手に慰謝料を請求する場合を考えてみましょう。

この場合、配偶者が不倫をしていると知っただけでは、まだ時効はスタートしません。

「不倫をされて夫婦関係の平穏が害された」という損害自体は、この時点で認識できます。

しかし、不倫相手が「どこの誰であるか」を氏名や住所など、請求の相手として特定できる程度に把握してはじめて、加害者を具体的に認識したといえます。

したがって、時効の起算点はこの時点から始まります。

 

不法行為の5年間の消滅時効

2020年4月1日に施行された改正民法によって、被害者保護をより手厚くするため、新たに「5年」という時効期間が設けられました。

これは、「人の生命または身体を害する不法行為による損害賠償請求権」について、主観的起算点からの時効期間を従来の3年から5年に延長したものです(民法724条の2)。

 

生命・身体を害する不法行為とは?

「生命・身体を害する」とは、死亡・負傷・病気など、人の生命や身体そのものに損害が生じた場合を指します。

具体例としては、次のようなケースが挙げられます。

  • 交通事故でケガをした
  • アスベストを吸い込んで肺がんを発症した
  • 医療過誤によって死亡した

これらのケースでは、「損害および加害者を知った時から5年」が時効期間となり、
他の不法行為よりも長い期間、請求が認められます。

一方で、生命・身体以外の損害については、従来どおり3年の時効期間が適用されます。

たとえば、ひとつの交通事故で「ケガ」と「車の損壊」の両方の被害を受けた場合は、
次のように時効期間が分かれます。

ケガに関する損害(治療費・慰謝料など) 5年の時効
車に関する損害 3年の時効

 

不法行為の20年間の消滅時効

さらに、「不法行為の時から20年」というのも重要な期間です。

ひき逃げのように加害者が不明なままのケースなど、「加害者を知った時」という主観的起算点がなかなか到来しない場合があります。

しかし、このような場合でも、無期限に請求が認められるわけではありません。

法律関係の安定を図るため、不法行為の時から20年が経過した時には、時効によって権利が消滅すると定められています(民法724条2号)。

この期間は、被害者が損害や加害者を知っていたかどうかに関係なく、客観的に「不法行為があった時」からカウントがスタートするため、「客観的起算点(きゃっかんてききさんてん)」と呼ばれます。

 

法改正によって除斥期間が廃止

この「20年」という期間については、2020年の民法改正で非常に重要な変更がありました。

改正前は、この20年の期間は「除斥期間」と解釈されていました。

除斥期間とは、裁判上の請求などを行っても進行を止めたりリセットしたりすることが一切できない、非常に強力な期間制限のことです。

しかし、民法改正により、この20年の期間は「消滅時効」であることが明確化されました。

これにより、不法行為の時から20年の間(かつ主観的起算点から3年以内)であれば、被害者は、時効の更新や完成猶予の規定を利用して、時効が完成するのを防ぐことができるようになりました。

 

 

債務不履行に基づく損害賠償請求の消滅時効

債務不履行に基づく損害賠償請求権の消滅時効は、次の2つのうち、いずれか早い方が到来した時に完成します(民法166条1項)。

  • 債権者が権利を行使することができることを知った時から5年
  • 権利を行使することができる時から10年

なお、人の生命または身体を害した場合の損害賠償請求権については、「権利を行使できる時から10年」ではなく、20年が時効の期限となります(民法167条)。

つまり、人の生命または身体を害した場合には、不法行為に基づく場合でも債務不履行に基づく場合でも、時効期間は変わりません。

起算点 通常の時効 生命・身体侵害の時効
不法行為 損害・加害者を知った 3年 5年
不法行為の時 20年 20年
債務不履行 行使できることを知った 5年 5年
行使できる時 10年 20年

 

 

損害賠償請求の消滅時効のポイント

損害賠償請求の消滅時効のポイント

時効が成立してしまうと、法的には加害者に支払い義務がなくなり、被害回復の手段を失ってしまいます。

そのため、損害賠償を検討している場合は、時効を成立させないための行動を早めに取ることが大切です。

ここでは、実務上特に重要となるポイントを3つに絞って解説します。

 

時効を成立させないための方法を知っておく

時効の完成を防ぐことができるのは、時効の「完成猶予」または「更新」に該当する事由があった場合に限られます。

時効の完成猶予とは、一定の事由が生じた場合に、一定期間、時効の完成が一時的に止まる(猶予される)制度のことです。

時効の完成猶予の事由は、次のとおりです。

  • 裁判上の請求(民法第147条1項1号)
  • 支払督促(民法147条1項2号)
  • 即決和解(民訴法275条1項)の申立て
  • 民事調停、家事調停の申立て(民法147条1項3号)
  • 破産手続等への参加(民法147条1項4号)
  • 強制執行等(民法148条1項)
  • 仮差押え、仮処分(民法149条)
  • 催告(民法150条)
  • 協議を行う旨の合意(民法151条)
  • 未成年者または成年被後見人(民法158条)
  • 夫婦間の権利(民法159条)
  • 相続財産(民法160条)
  • 天災等(民法161条)

時効の更新とは、それまで進行していた時効期間をリセットし、新たに進行を始める制度です。

つまり、更新が生じると、それまでの期間はなかったものとされ、再びゼロからカウントが始まります。

時効が更新されるタイミングは、次のとおりです。

裁判上の請求の場合 判決が確定した時または和解が成立した時
支払督促の場合 支払督促が確定した時
即決和解、民事調停、家事調停の場合 和解または調停が成立した時
破産手続等への参加の場合 権利の確定に至り、手続が終了した時
強制執行等の申立ての場合 権利の満足に至ることなく終了した時

 

示談交渉中も時効に注意する

被害者と加害者(または保険会社)との間で、賠償額などについて話し合う「示談交渉」が行われるケースは多くあります。

しかし、ここに大きな落とし穴があります。

それは、「示談交渉をしているだけでは、原則として時効は止まらない」という点です。

加害者側が誠実に対応しているように見えても、時効期間を過ぎてしまえば、最終的に「時効を理由に支払いを拒否される」可能性があります。

交渉が長引きそうな場合や時効の完成が近い場合は、交渉と並行して、前述の「時効の完成猶予」や「更新」のための法的手続きを取る必要があります。

 

損害賠償請求に強い弁護士に相談する

時効の完成を防ぐためには、損害賠償請求に強い弁護士へ、できるだけ早く相談することが大切です。

ご自身で時効期間を計算していても、起算点の考え方を少し誤っていたために、実はすでに時効が目前に迫っていた、というケースは少なくありません。

時効の管理は、損害賠償請求における最も重要なリスク管理の一つです。

損害賠償請求に詳しい弁護士であれば、正確な時効の起算点と完成時期の判断や、時効を止めるための最適な手続きを安心して任せることができます。

また、その後の示談交渉や訴訟手続まで一貫してサポートを受けられるため、確実に解決へ向けて進めていくことができます。

 

 

損害賠償請求の消滅時効のよくあるQ&A

損害賠償請求の時効に関して、多くの方から寄せられる疑問について、Q&A形式でお答えします。

 

損害賠償請求権は誰が行使できますか?

損害賠償請求権を行使できるのは、損害を直接被った本人(被害者)です。

ただし、被害者が死亡した場合には、相続人(配偶者・子ども・両親など)が、被害者の有していた損害賠償請求権を相続によって引き継ぎ、加害者に対して請求することができます。

また、被害者本人が未成年であったり、認知症などにより判断能力が不十分であったりする場合には、その法定代理人(親権者や成年後見人など)が本人に代わって損害賠償請求を行うことが可能です。

 

時効が成立した場合の損害賠償請求はどうなりますか?

損害賠償請求権の時効が成立すると、法的にはその請求権は消滅します。

たとえ請求しても、相手が「時効を理由に支払わない(時効の援用)」と主張すれば、裁判でも認められない結果となります。

このように、時効は被害者にとって非常に大きな影響をもたらすため、「時効が成立する前に行動すること」が大切です。

 

時効の延長を行う方法はありますか?

時効の進行を一時的に止めたり、いったんリセットしたりする方法があります。

これを、法律上それぞれ「時効の完成猶予」と「時効の更新」と呼びます。

詳しくは、上記の「時効を成立させないための方法を知っておく」の見出しで詳しく解説していますので、そちらをご参照ください。

 

 

まとめ

損害賠償請求には、法律で定められた「時効」があります。

この時効を過ぎてしまうと、加害者に損害賠償を請求する権利そのものが消滅してしまいます。

時効の期間は、請求の根拠や損害の内容によって異なり、さらに「いつからカウントが始まるのか」という起算点の判断も複雑です。

自分ではまだ期間があると思っていても、実際にはすでに時効が迫っているケースも少なくありません。

損害賠償請求に詳しい弁護士に早めに相談し、時効が完成しないようにすることが大切です。

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