労災認定で会社が受けるデメリットとは?弁護士が解説


労災認定によって、会社は①経済的ダメージ②会社に対するイメージダウン③対応に費やす時間的デメリット、そして④人材損失のデメリットが考えられます。

ここでは、労災が起こったときの会社のデメリットについてのくわしい内容、労災が発生しないようにする方法、労災発生時の対処法等について、企業法務に注力する弁護士が解説していきます。

ぜひ参考になさってください。

労災認定で会社が受けるデメリットとは

「労災認定」という言葉をしばしば耳にすることもあるかと思います。

この労災認定とは、ある事故などが起こった場合、その事故について、労働基準監督署からこれは労災に該当しますと認定を受けることです。

この労災認定に伴い、会社には、例えば、以下のデメリットが生じることが考えられます。

  1. 会社に対する経済的ダメージ
  2. 会社に対するイメージダウン
  3. 対応に費やす時間的デメリット
  4. 人材損失のデメリット

具体的には、以下のとおりです。

デメリットの内容 具体例
1.会社に対する経済的ダメージ
  • 会社が労災認定事案を引き起こし、従業員が訴訟を提起したことにより、多額の賠償金を支払うことになった。
  • 労災保険料が値上がりした。
2.会社に対するイメージダウン
  • 労災認定事案を引き起こしたことによって、会社のイメージがダウンし、継続的に取引をしてきた会社との取引を打ち切られることになった
  • 労災認定事案を引き起こしたことによって、消費者からのイメージが低下した。
3.対応に費やす時間的デメリット
  • 労災認定事案を引き起こしたことによって、労働基準監督署への報告や調査立ち会いに費やす時間が発生した。
  • 労災認定事案を引き起こし、従業員が訴訟を提起したことにより、その訴訟に費やす時間が発生した。
4.人材損失のデメリット
  • 労災認定事案を引き起こしたことによって、従業員の会社に対する不信感が募り、多くの退職者が発生した。
  • 労災認定事案が公表されたことによって、入社希望の人が激減し、新たな人材確保が難しくなった。



なお、上記のうち、経済的ダメージ、時間的デメリットに関しては、こちらもご参照ください。

本事案は、会社の支払う賠償金額を減額させた事例ですが、それでも会社に多少の経済的損失や時間的損失があったことは否めません

 

 

労災とは

労災とは、人身被害(負傷、疾病、死亡)のうち、労働者性があり、かつ業務起因性が認められるものをいいます。

つまり、次の3つの要件を満たすものです。

  1. ① 人身被害(負傷、疾病、死亡)があったこと
  2. ② 人身被害に遭った方が、「労働者」であること
  3. ③ 人身被害が、業務に起因して起こったものであること

例えば、A会社の従業員(②労働者)であるBさんが、建設現場での作業中に落下物にあたって(③業務起因性)、怪我をした(①人身被害)。

という場合に労災事案となり得ます。

上記の各要件は、いずれも争点になり得ます。

どの点がポイントかはケースバイケースです。

例えば、③の点については、以下のようなケースで争点になります。

<争われるケース(例)>

ある従業員(労働者)が、メンタル不調(うつ病等)になった。
※②の「労働者性」、①の人身被害(メンタル不調)の点は争いないものとします。

当該労働者は、メンタル不調になったのは、会社の業務に起因するものであると主張した。
他方で、会社側は、メンタル不調の原因は会社の業務ではなく、当該労働者の個人的な出来事によるものであると主張した。
※上記のケースでは、メンタル不調(うつ病等)の業務起因性が争われているといえます。

労災が起こったら?

労災が起こった場合、事業者は、「労働者死傷病報告書」を、所轄の労働基準監督署長に提出しなければなりません。

参考条文
【労働安全衛生法第100条第1項】
「厚生労働大臣、都道府県労働局長又は労働基準監督署長は、この法律を施行するため必要があると認めるときは、厚生労働省令で定めるところにより、事業者、労働者、機械等貸与者又はコンサルタントに対し、必要な事項を報告させ、又は出頭を命ずることができる。」

参考:労働安全衛生法|e-GOV法令検索

【労働安全衛生規則第97条第1項】
「事業者は、労働者が労働災害その他就業中又は事業場内若しくはその附属建設物内における負傷、窒息又は急性中毒により死亡し、又は休業したときは、遅滞なく、様式第二十三号による報告書を所轄労働基準監督所長に提出しなければならない。」

参考:労働安全衛生規則|e-GOV法令検索

 

 

労災が認められる場合とは

まず、労災が認められる可能性(労災保険の給付対象)があるのは、大きく、次の場合です。

  • 業務災害(仕事中に起こった災害)
  • 通勤災害(通勤途中に起こった災害)

そして、労災が認められるためには、上記のとおり、3つの要件(①人身被害、②労働者性、③業務起因性)を満たす必要があります。

労災の中には、例えば、従業員が工場内で作業をしているときに機会に挟まって怪我をしたというように、比較的分かりやすいケースもあります(上記の類型では「業務災害」に相当)。

他方で、そもそも労災にあたるのかどうかが争われるケースもあります。

例えば、通勤災害、従業員のメンタル不調(うつ病)等の場合です。

労災にあたるか、争われるケースの具体例は以下の通りです。

類型 具体例
通勤災害の場合 従業員が、出勤途中に子どもを保育園に送ろうとしたところ、その道中、事故で怪我をした。

※通勤経路といえるかどうか(通勤の中断性)が争点となる可能性があります。

メンタル不調の場合 従業員がうつ病に罹患した。

従業員は会社の業務(長時間労働)が原因と主張し、会社は従業員の個人的な出来事が原因と主張した。

※業務起因性が争点になる可能性があります。

通勤災害、メンタル不調(うつ病)の場合の考え方については、こちらもご参照ください。

 

 

労災隠しはなぜ悪い?

「労災隠し」という言葉を聞いたことがあり、何となく悪いイメージを持っている方も多いかと思います。

「労災隠し」というのは、労災が発生したにも関わらず、

① 労働者死傷病報告書を故意に提出しない場合

もしくは、

② 労働者死傷病報告書に虚偽の内容を記載し、提出する場合

「労災隠し」は悪いことですが、その理由は、例えば、

  1. そもそも犯罪であること
  2. 労災認定を受けられないことによる労働者のデメリットが大きいこと
  3. 会社にとってのデメリットが大きいこと

にあります。

「労災隠し」が悪い理由は以下の通りです。

理由 内容・具体例
1.そもそも犯罪であること 「労災隠し」をした場合、50万円以下の罰金となる可能性があります。
2.労働者のデメリットが大きいこと 「労災隠し」をするということは、労災の事実が明らかにならず、労災保険を使った適正な給付が行われません。

他方で、怪我などをした場合は、その治療費などがかかります。

そのため、「労災隠し」が起こると、場合によっては労働者が経済的負担を強いられる可能性もあります。

3.会社のデメリットが大きいこと 「労災隠し」をした場合、従業員のモチベーションが下がり、場合によっては退職を誘発する原因になる可能性があります。

また、公表された場合は、新たな人材の確保が難しくなる可能性があります。


 

 

労災隠しのペナルティとは

「労災隠し」は犯罪であり、50万円以下の罰金となる可能性があります。

その根拠となる条文は、以下のとおりです。

参考条文
【労働安全衛生法第120条第5号】
「次の各号のいずれかに該当する者は、五十万円以下の罰金に処する。
五 第百条第一項又は第三項の規定による報告をせず、若しくは虚偽の報告をし、又は出頭しなかった者」
【労働安全衛生法第122条】 ・・・ 法人の代表者等への罰則規定
「法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関して、第百十六条、第百十七条、第百十九条又は第百二十条の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対しても、各本条の罰金刑を科する。」

参考:労働安全衛生法|e-GOV法令検索

 

 

労災認定の対象となりうる事故等の状況

ここまで「労災」や「労災隠し」などを俯瞰してきましたが、会社経営者の方などにとって関心があるのは、

労災認定の対象となりうる事故等はどのようなものなのか?

あるいは、

既に事故が起こってしまったが、これが果たして労災認定の対象となるのか

ということかと思います。

この点については、まずはこの問題に詳しい弁護士に相談されることをお勧めします。

というのも、労災事案というのはそれほど頻繁に起きるわけではないため、どのように対処すればよいかの見通しが立たないことが多いからです。

相談をされることによって、自身の取るべき方針の参考になります。

なお、様々な事例については、厚生労働省の労働災害事例も1つの参考になります。

参考:労働災害事例−職場のあんぜんサイト(厚生労働省)

 

 

労災認定のリスクに備える方法

まずは、労災そのものを発生させないことが重要であることは言うまでもありません。

そのためには、次の点が重要です。

  • まず、過去にどのようなケースで労災事故が認定されたのかを確認すること
  • 次に、これを防ぐためにはどのようにすればよかったのかを検討、実行すること

次に労災が起こった際の事後の対処も重要です。

具体例

  • 労働者死傷病報告書の提出
  • 当該従業員のケア
  • 社内での再発防止の徹底(その方法等を従業員へ周知)

また、起こった労災該当事案について、労災保険でカバーされる部分がどの部分なのか、あるいはカバーされない部分があるのかといったことも把握する必要があります。

 

 

従業員が労災保険を使用しなかったら会社にデメリットはある?

まず、前提として労災が発生したものの、従業員が労災保険を使わないという選択をすることは違法ではありません。

そのため、場合によっては、従業員が労災保険を使用しないという選択肢もあり得ます。

しかし、この場合、保険から賄われない以上、従業員が労災(怪我など)の治療のために支払った医療費などは、最終的には会社が負担する必要があります。

つまり、会社にとっては、経済的デメリットが生じるという側面があります。

参考条文
第1項
「労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかった場合においては、使用者は、その費用で必要な療養を行い、又は必要な療養の費用を負担しなければならない。」
第2項
「前項に規定する業務上の疾病及び療養の範囲は、厚生労働省令で定める。」

引用元:労働基準法|e-GOV法令検索

そのため、最終的には従業員の選択ということにはなりますが、会社としては、従業員に対して、労災保険を使うという選択肢を明示するとともに、労災が起こった場合はこれを使用するように勧めるのがよいかと思います。

ここで注意をしなければならないのは、会社が、労災認定による様々なデメリット(例:労災保険料の値上がり、イメージダウン)を恐れて、労災保険を使用しないように、従業員に制限や圧力をかけることです。

こうしたことをすると、「労災隠し」にあたります。

※会社に生じる可能性のあるデメリットについては、上記の「労災認定で会社が受けるデメリットとは」をご覧ください。

※「労災隠し」については、上記「労災隠しはなぜ悪い?」をご覧ください。

 

 

まとめ

以上、労災や労災認定で会社が受けるデメリットなど、労災にまつわる様々な点について説明をしてきましたが、いかがだったでしょうか。

この点は、まずは労災についての知識をつけることが大切であり、それと同時にそういったケースを発生させないようにする努力も求められます。

また、万が一、労災事案が起こってしまった場合は、適切に対処することが必要です。

こういった問題について、詳しく知りたい、あるいは現在問題に直面している場合などには、専門の弁護士に相談されることをお勧めします。

 

 

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