アスベスト被害者の給付金はいくら?対象・申請方法や認定の流れ

アスベスト被害者の給付金としては、主に建設アスベスト給付金、石綿健康被害救済制度による給付、労災保険による給付があります。

このうち、建設アスベスト給付金は、被害者の症状に応じて、550万円から1300万円の給付金が支給されます。

この記事では、アスベスト被害者の給付金の種類、それぞれの給付金の要件や申請方法、給付までの流れ、アスベスト被害の回復のために大切なポイントについて、弁護士が解説します。

給付金の申請は期限がありますので、ご注意ください。

アスベスト被害者の給付金とは?

国からの給付には3種類ある

アスベスト被害にあった方に対して、国からの給付金としては、建設アスベスト給付金、石綿健康被害救済制度による給付、労災による給付の3種類があります。

それぞれについて、解説していきます。

建設アスベスト給付金

建設アスベスト給付金は、令和3年6月に成立した「特定石綿被害建設業務労働者等に対する給付金等の支給に関する法律」という法律に基づいて支給される給付金になります。

詳細はこちらもご確認ください。

 

石綿健康被害救済制度による給付

アスベストの特徴として、被害者の方に生じる健康被害というものが長い潜伏期間を経て発症することも多いため、具体的な原因がいつの時点かをはっきりすることが難しいという点が挙げられます。

そのため、会社で勤務していた際のけがで使用できる労災保険の支給が受けられないという被害者の方も中にはいらっしゃいます。

そのような場合には、この石綿健康被害救済制度による給付を受けることができる可能性があります。

詳細はこちらをあわせてご確認ください。

 

労災による給付

石綿健康被害救済制度による給付は、労災の適用が受けられない被害者の方を対象にした給付でした。

アスベスト被害者の方の中には、同じ会社で長く働いている中でアスベストによる健康被害が生じたという方もいらっしゃいます。

そのような場合には、勤めていたその会社で業務中に生じた病気と特定することが可能です。

そこで、工場で作業中に手を切ったときなどと同じように、労災申請をして、労災保険による給付を受けることができる可能性があります。

 

その他の被害者救済制度

これら3つの給付金以外にもアスベストの被害に関しては、建設型ではなく工場型の被害の場合の和解手続や会社への損害賠償請求などの被害者救済方法があります。

国とのアスベスト訴訟の和解手続

建設アスベスト給付金は法律に基づいて裁判が不要な形での給付を受けられるようになっていますが、特定の期間(1958年(昭和33年)5月26日から1971年(昭和46年)4月28日)にアスベスト工場で働いていた方については、国を相手に裁判を提起して、その中で要件を満たすことが確認できれば、国から和解金が受け取れます。

詳しくはこちらをご覧ください。

会社に対する損害賠償請求

また、過去に働いていた会社に対して、直接安全配慮義務違反を理由にして裁判をして、損害賠償を請求するということも考えられます。

詳しくはこちらをご覧ください。

 

 

建設アスベスト給付金について


給付金の対象

建設アスベスト給付金の対象になるのは、以下の3つの条件をすべて満たす方です。

  1. 労働者並びに一人親方及び労災特別加入制度の加入資格を有する中小事業主が一定の屋内作業場で石綿にさらされる建設業務に従事していた
    ア 屋内建設作業(屋内吹付作業も含む)
    昭和 50 年10 月1日から平成 16 年9月 30 日までの間
    イ 吹付作業
    昭和 47 年 10 月1日から昭和 50 年9月 30 日までの間
  2. その結果として、石綿肺、中皮腫、肺がん、びまん性胸膜肥厚などのアスベストが原因の健康被害を被った人、またはそのご遺族
  3. 消滅時効が完成していないこと(原則として健康被害の発症から20年以内)

屋内建設作業としては、主に以下の内容が対象になるとされていますが、屋内といえるのか、それとも屋外として支給対象外となってしまうかについては、ケースごとに判断されることになっています。

屋内建設作業とされる可能性のある業務
大工(墨出し、型枠を含む。)、左官、鉄骨工(建築鉄工)、溶接工、ブロック工、軽天工、タイル工、内装工、塗装工、吹付工、はつり、解体工、配管設備工、ダクト工、空調設備工、空調設備撤去工、電工・電気保安工、保温工、エレベーター設置工、自動ドア工、畳工、ガラス工、サッシ工、建具工、清掃・ハウスクリーニング、現場監督、機械工、防災設備工、築炉工

 

給付金の申請から認定までの流れ

この建設アスベスト給付金の申請から被害者としての認定を受けるまでの流れは以下のとおりです。

建設アスベスト給付金の申請から被害者としての認定を受けるまでの流れ

  • 1.資料の収集
    まず、ご自身やご家族がアスベストによる健康被害を受けていて、「自分も給付金の対象になるかも」と思ったら、まずは給付金の申請に必要な書類を収集することになります。

    例えば、住民票や対象の期間に一定の建設業務に従事していたことを示す資料(被保険者記録照会回答票など)、健康被害の状況を示す資料(じん肺管理区分決定通知書、診断書・カルテなど)などを準備していきます。

    また、労災の認定をすでに受けている方の場合には、労災支給決定等情報提供サービスを利用することで一部の資料を省略することもできます。

    参考:厚生労働省「建設アスベスト給付金」を受けようとする皆さまへ

    弁護士に依頼をすることで、必要な書類についてアドバイス、サポートを受けながら進めることが可能です。

  • 2.厚生労働省へ給付金の申請
    資料の収集ができたら厚生労働省へ給付金の申請を行います。

    書類の送付先は以下の住所になります。

    〒100-8916
    東京都千代田区霞が関1-2-2 中央合同庁舎第5号館
    厚生労働省労働基準局労災管理課
    建設アスベスト給付金担当 あて

  • 3.認定審査会による審査
    厚生労働省が被害者の方からの書類を受け取って、請求書などの形式的な不備がないかどうかを確認したら、認定審査会というところに記録を送って、審査をするという流れになります。
  • 4.厚生労働省による認定と通知
    認定審査会の審査が終了すると、審査会が厚生労働省へその結果を通知します。これを受けて、厚生労働省が申請をした被害者に対して、審査の結果、建設アスベスト給付金の対象となるかどうか(認定・不認定)の通知を行います。

    この通知で認定ということになれば、建設アスベスト給付金を受けることができます。

  • 5.給付金の受給
    厚生労働省から認定通知を受けた被害者は、労働者健康安全機構という機関から症状に応じて、国から給付金を受けることができます。

    給付金の金額は以下のとおりです。

    症状 給付金の金額
    じん肺管理区分の管理2で合併症がない場合 550万円
    管理2で合併症がある場合 700万円
    管理3で合併症がない場合 800万円
    管理3で合併症がある場合 950万円
    管理4で肺がん・中皮腫・びまん性胸膜肥厚の場合 1150万円
    石綿肺(管理2・3で合併症なし)による死亡の場合 1200万円
    石綿肺(管理2・3で合併症ありまたは管理4)で肺がん・中皮腫・びまん性胸膜肥厚による死亡の場合 1300万円

    ※他の制度で給付を受けている場合などは金額の減額調整があり得ます。

 

遺族は受給の対象となる?

この建設アスベスト給付金は、被害者ご本人はもちろん請求できますが、すでに被害者本人が亡くなっている場合には、ご遺族(配偶者、子、父母、孫、祖父母又は兄弟姉妹)のうち、最先順位者の方が請求することが可能です。

したがって、遺族も受給の対象となり得ます。

 

給付金を受けるとることができるのはいつ?

実際に厚生労働省から認定通知が届いてから給付金を受け取ることができるのは、1か月程度(翌月)になります。

申請を行ってから認定か不認定かの結論が出る期間については、国は公表をしていません。

具体的なケース、その期間の申請件数などにもよります。

少なくとも数か月はかかるものと考えて、申請の準備を行う必要があります。

申請には期限があるので注意しましょう。

 

 

アスベスト健康被害救済給付について

次に、石綿被害救済制度による給付について解説します。

給付の対象


この給付金の対象になるのは、以下の要件を満たす方です。

  • 日本国内において石綿(アスベスト)を吸入してしまった
  • それにより、下記の病気を発症した
    1.中皮腫
    2.肺がん
    3.著しい呼吸機能障害を伴う石綿肺
    4.著しい呼吸機能障害を伴うびまん性胸膜肥厚
  • その病気で、
    1.現在療養されている方
    2.中皮腫・肺がんの場合は平成18年3月27日、著しい呼吸機能障害を伴う石綿肺・著しい呼吸機能障害を伴うびまん性胸膜肥厚の場合は平成22年7月1日よりも前にこれらの疾病が原因で死亡された方のご遺族
    3.中皮腫・肺がんの場合は平成18年3月27日、著しい呼吸機能障害を伴う石綿肺・著しい呼吸機能障害を伴うびまん性胸膜肥厚の場合は平成22年7月1日よりもあとに認定の申請をしないでこれらの疾病に起因して死亡された方のご遺族

 

給付内容

この石綿健康被害救済制度では、医療費をはじめとして、以下の給付を受けることができます。

  • ① 医療費
    現在、アスベストによる健康被害により、1.中皮腫、2.肺がん、3.著しい呼吸機能障害を伴う石綿肺、4.著しい呼吸機能障害を伴うびまん性胸膜肥厚で治療をしている方は、治療費のうち、自己負担の部分について、給付を受けることができます。

    なお、申請後は、医療手帳が交付され、この医療手帳を病院に出すことで、窓口での支払が免除されるという形で給付がなされることになります。

  • ② 療養手当
    医療費以外の入通院に伴う交通費などの諸経費や家族による介護に要する費用などを考慮して、療養手当というものが支給されます。

    支給額は月額10万3870円で、2か月に1回、2か月分の金額が支給されます。

  • ③ 葬祭料
    救済制度の対象となっている、(1)中皮腫、(2)肺がん、(3)著しい呼吸機能障害を伴う石綿肺、(4)著しい呼吸機能障害を伴うびまん性胸膜肥厚でお亡くなりになった場合には、葬祭料として、19万9000円が支給されます。
  • ④ 未支給の医療費等
    申請後に亡くなってしまった場合に、まだ支給できていなかった医療費や療養手当があった場合には、その医療費や療養手当に相当する金額が給付金として受け取ることができます。
  • ⑤ 救済給付調整金
    申請を受けてから被害者の方が受け取っていた医療費や療養手当の額が280万円未満で亡くなった場合、その差額を調整金としてご遺族の方が受け取ることができます。

 

利用方法

この石綿健康被害救済制度を利用するには、認定申請書や医師の診断書などの必要書類を準備して、環境再生保全機構、各地の保健所または環境省の地方環境事務所へ提出することが必要です。

提出方法については、各窓口へ持参するか郵送するかで行います。

申請を行うことで環境大臣が中央環境審査会という審査会に意見を聞き、その結果、申請をした被害者、ご遺族に給付対象となるかどうか結果が通知されます。

 

 

労災による給付について

労災保険制度は、仕事が原因となって生じたけがや病気になった労働者やご遺族に対して保険給付などがなされる制度です。

アスベストによる健康被害に関しては、今現在働いていたり、過去に働いていた会社での業務で石綿にさらされたことにより石綿肺、肺がん、中皮腫などのアスベストとの関連が認められる病気になった場合に、そのために治療をしたり、休んだり、亡くなってしまった際に、業務災害として労働基準監督署長から認定を受ければ、労災保険の給付を受けることができます。

 

給付の対象

給付の対象になるのは、他の労災と同じく、業務を遂行する中で生じた病気であることが必要です。

アスベストに関しては、工場で手を切ったり、やけどをしたりというその場でのけがではなく、アスベストを日々の業務の中で吸ったことで、蓄積して潜伏期間を経て病気になるという特徴があるため、「業務によるもの」かどうかの判断が難しいという特徴があります。

しかし、調査の結果、「業務によるもの」と判断できれば、アスベストによる健康被害についても労災保険の対象となります。

労災保険の給付を受けるには、その病気が仕事が原因で発病したものであると労働基準監督署長から認定を受ける必要があります。

 

給付内容

労災保険で受けられる保険給付には以下のものがあります。

  1. ① 療養(補償)給付
    その病気の治療にかかる治療費について支給を受けることができます。
  2. ② 休業(補償)給付
    アスベストによる病気により仕事ができない場合の収入補償です。
  3. ③ 傷病(補償)給付
    一定の期間治療が続いている場合に年金の形で支給を受ける給付金です。
  4. ④ 障害(補償)給付
    アスベストによる病気により後遺症が残った場合に支給されるもので、年金または一時金による支給となります。
  5. ⑤ 介護(補償)給付
    アスベストによる病気により、介護が必要な状態の場合、その介護に関する給付を受けることができます。
  6. ⑥ 遺族(補償)給付及び葬祭料(葬祭給付)
    アスベストによる病気が原因で死亡した場合に、そのご遺族に年金または一時金及び葬祭料の支給が支給されます。

詳しくはこちらのページもご確認ください。

 

 

アスベストの被害回復の3つのポイント


病院でしっかりと治療をする

アスベストによる健康被害は様々ですが、最悪の場合は命を落とすほど重大なものです。

したがって、少しでもご自身の体調に異変を感じたら、早めに病院を受診して肺のレントゲン検査など必要な検査を行い、医師の診断を受けましょう。

そして、少しでも体調がよくなるよう治療を受けるようにしましょう。

石綿健康被害救済制度や労災保険では、アスベストによる病気の治療費が給付の対象となっています。

認定を受けることができれば、認定前の治療費についても給付を受けられる可能性があります。

ですので、まずはしっかりと治療をすることが大切です。

 

請求できる期限に注意

その上で、建設アスベスト給付金をはじめとして、それぞれの給付金については、請求期限があります。

例えば、建設アスベスト給付金については、原則として、石綿関連の病気にかかった旨の医師の診断があった日と石綿肺についてのじん肺管理区分の決定(管理2~4のみ)があった日のいずれか遅い方の日から起算して20年、被害者が石綿関連の病気により亡くなった場合には、亡くなった日から20年となっています。

請求期限を過ぎると、たとえ給付要件を満たしていたとしても、給付を受けることができなくなります。

アスベスト被害の回復にとって、適切な給付金を受け取るということは被害者の方にとってとても大切なことです。

ですので、期限には注意しましょう。

 

弁護士に給付金等の申請を依頼する

アスベスト被害による給付金については、様々な制度があり、また実際に給付金を受け取るためには、それぞれ必要書類を集めて申請をしなければなりません。

具体的にどのような書類が必要かについて、被害者やご遺族の方だけでは判断が難しく、大変な作業となります。

ですので、弁護士に給付金などの申請を依頼しましょう。

弁護士に依頼すれば、ご本人やご遺族の方が集めなければならない書類についてアドバイスを受けることができ、スムーズに収集し、給付金の申請を行うことができます。

 

 

まとめ

ここまでアスベストによる健康被害にあわれた方が利用することができる給付金について解説してきました。

アスベストによる健康被害は全国各地で起こり、国もようやくその責任を認め、建設アスベスト給付金という給付金制度が設けられました。

このページをご覧いただいて、1日でも早い被害回復を実現されることをお祈りいたします。

デイライトでは、アスベストや労災など、人のけがに対する補償について、取り扱う人身障害部に所属し、注力している弁護士がチームで対応しております。まずはお気軽にご相談ください。

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