アスベスト調査|調査の流れ・費用・注意点を弁護士が解説

アスベスト調査とは、建築物などの解体工事を行う場合に、建材にアスベストが含まれていないか事前に調査することです。

アスベストは、かつては断熱目的で広く建築材料として用いられてきました。

しかし、その後、アスベストの人体への有害性が知られることによって、現在では、アスベストの健康被害を防止する対策が行われています。

アスベスト調査についても、健康被害防止の対策の一つです。

これから、アスベスト調査について解説いたします。

この記事でわかること
この記事では、アスベスト調査の目的や必要性について知ることができます。

また、アスベスト調査の流れや方法、費用の相場についてや、アスベストの調査するために必要な資格についても知ることができます。

 

アスベスト調査とは

アスベストによる健康被害が問題になって久しいですが現代日本においてもアスベストの使用や、解体するときに飛散するアスベストの問題は完全には解決していません。

アスベスト調査を行うことで、舞い散ったアスベストを吸い込むことによる健康被害を起こさせないことが求められています。

 

アスベスト調査の目的

アスベストは、天然繊維状鉱物で、極めて軽い繊維で、熱、摩擦、化学変化に強く変化しにくく、断熱性にも優れているという特性があります。

現代日本では、昭和中期から、アスベストは、断熱材として広く用いられてきました。

その後、アスベストの吸引が原因と考えられる肺の病気が多数発生するなどの健康被害が社会問題となり、昭和50年から徐々にアスベストの使用に関する規制がされるようになりました。

現在、アスベストの使用に関しては、極めて限定的な場面を除いて、使用が禁止されています。

また、すでに建築材料などとして用いられたアスベストについても、その建築物の解体のときにアスベストが飛び散ることによる人体への影響を最小限に抑えるために、大気汚染防止法やその施行規則などによって、アスベストの調査が義務付けられています。

 

アスベスト調査の必要性

アスベストを吸引すると、人体に様々な悪影響がでます。

アスベストは、その細さが0.04〜0.35マイクロメートルと非常に繊維が細かく、丈夫で(なお、人の髪の毛が50〜100マイクロメートルです)。

そのため、空中に舞い散ると空気中に浮遊しやすく、吸ってしまいやすい性質です。

また、アスベストは丈夫なので、肺の中でも化学変化せず、肺の中で長期間排出されずに、肺の中にとどまることもあります。

アスベストは、人体にとって異物であるため、原発性肺がん(げんぱつせいはいがん)、悪性中皮腫(あくせいちゅうひしゅ)、びまん性胸膜肥厚(びまんせいきょうまくひこう)、良性石綿胸(りょうせいせきわたきょうすい)などの病気になってしまう可能性があります。

もちろん、アスベストが原因となって発症する病気の中には、原発性肺がんのようにタバコなどの別原因で発症するものもありますので、アスベストの被害者数を正確に把握することは困難と思われます。

このような健康被害をこれ以上増やさないために、建設等の工事の際にアスベスト調査が必要となっています。

 

 

アスベスト調査が義務化されている場合

アスベスト調査は全ての工事に義務化されてはおらず、一定程度の規模の工事を行う場合には、あらかじめ調査の上、厚生労働省へ報告をする必要があります。

アスベストの調査が必要な工事

建築物などの解体工事を行う場合には、原則、アスベストの調査が必要になります。

もっとも、以下のどちらかに該当する場合には、例外的にアスベストの調査は不要とされています。

  1. ① アスベスト除去を行う材料が木材、金属、石、ガラス等のみで構成されているもの、畳、電球等、アスベストが含まれていないことが明らかなものであって、容易に取り外し可能であるなど、周囲の材料を損傷させない作業
  2. ② 釘による固定/釘を抜くなど、当該物質が飛散する可能性がほとんどない作業

 

アスベスト調査報告が義務化されている工事

以下のいずれかの工事に該当する場合には、事前に調査の上、施行工業者(元請事業者)は、調査結果を報告する必要があります(大気汚染防止法18条の15第1項)。

  1. ① 解体部分の床面積の合計が80平方メートル以上の建築物の解体工事の場合
  2. ② 請負金額が税込100万円以上の建築物の改修工事の場合
  3. ③ 請負金額が税込100万円以上の特定の工作物の解体または改修工事の場合
  4. ④ 総トン数が20トン以上の船舶(鋼製のものに限る)の解体又は改修工事

※焼却設備や変電設備などが指定されています。

 

違反の場合の罰則

報告義務者となるのは、建築物などの解体・改修工事を受注した施工業者(元請事業者)です。

アスベストの調査報告を怠った場合には、30万円以下の罰金が課せられる可能性があります(大気汚染防止法35条4号)。

 

 

アスベスト調査の流れ

アスベスト調査は以下の流れで行われます。

アスベスト調査の流れ

調査依頼

建物所有者からアスベストの調査依頼をします。

アスベストの調査目的や調査の範囲などの打ち合わせの上、調査を開始します。

書面調査

書面調査は、建築の図面や書面などの資料を限り入手し、その上で、それらの資料や情報の中から、アスベストの有無に関する情報を抜き出します。

また建築物の発注者、施工管理者、工事事業者などの建築に関わった人からのヒアリングなどにより情報を入手することも重要です。

また、現地での目視による調査を効率的・効果的に実施できるよう準備を行う目的もあります。

このように、書面調査は、調査対象に関する情報を理解・把握することにより、現地調査を効率的に行い、アスベスト含有建材の把握漏れ防止につながるなど、アスベスト調査の質を高める重要な工程です。

現地調査(現地での目視調査)

書面調査を終えると、現地での目視調査が行われます。

設計図書や竣工図等の書面は石綿含有建材の使用状況に関する情報を網羅しているものではありません。

入手できた資料は必ずしも建築物の現状を現したものとは限りませんので、書面調査の結果を以て調査を終了せず、石綿の使用状況を網羅的に把握するため、原則として現地で目視調査を行うことが必要です。

また、書面調査はあくまで下調べに過ぎないため、書面調査と現地長蛇の相違があれば、当然、現地での目視調査の結果が優先することになります。

建材の試料を採取

書面調査、現地調査を経て、アスベストの使用の有無がわからなかった場合には、原則として、分析調査を行う必要があります。(事業者が、当該解体等対象建築物等についてアスベストが使用されているものとみなして労働安全衛生法及びこれに基づく命令に規定する措置を講じる場合には、分析調査は必要ありません)

分析調査を行うためには、建材の試料を採取する必要があります。

また適切な分析を行うために、建材にムラがあることを考慮して、採取を行う必要があります。

試料採取箇所の判断を適切に行うためには、石綿に関し一定の知識を有し、的確な判断ができる者が採取箇所の判断を行うことが重要です。

分析調査

先ほどご説明しました、建材の試料を採取を行うと、それを分析する必要があります。

これに基づくアスベストの分析の流れとしては、まず、建材中のアスベストの含有の有無を調べるための定性分析を行います。

定性分析とは、ある建材の中に、アスベストが含有しているかどうかを調べる分析です。

定性分析が行われたのち、定量分析が行われます。

定量分析とは、ある建材の中のアスベスと含有率を調べる分析で、建材中のアスベストの含有率が基準値以下か否かを判断します。

調査報告書の作成

大気汚染防止法上、アスベストの飛散を伴う作業の届出は工事の発注者に義務づけられており、届出が必要な作業に該当するかどうかについて、発注者が調査する必要があります。

工事の発注者は、事前調査に関する記録から、事前調査の結果報告書を作成します。

改修工事や今後も建築物等を使用する場合のアスベストの除去等については、事前調査の範囲が建築物の工事関連箇所のみとなり、事前調査の報告書も当該箇所のみの結果となります。

改修工事等の事前調査の結果が、将来解体等する場合に、調査結果が誤って流用されないよう、調査を実施した範囲、調査対象建材、石綿含有建材の有無と使用箇所について図面や概略図で具体的な場所がわかるように記録を報告書に添付することが必要です。

関係者間での情報共有のため、解体の場合であっても、報告書には事前調査の記録を添付することが望ましいです。

また、破壊しないと調査できない場所であって解体等が始まる前には調査できなかった場所があった場合については、発注者にあらかじめ報告するため報告書に明記する必要があります。

なお、事前調査の報告はオンラインで行うことが可能です。

参照:石綿事前調査結果報告システム

 

 

アスベスト調査の方法

アスベストの調査の方法は、各段階によって異なります。

アスベストの調査は、書面調査→現地調査(現地での目視調査)→分析調査(科学的な調査)という段階を踏みます。

それぞれの段階ごとにアスベスト調査の方法の詳細をご説明します。

 

書面調査

書面調査は、建築の図面や書面などの資料その他関係者からのヒアリングの中から、アスベストの有無に関する情報を抜き出します。

これらの資料・情報をもとに、調査対象の個々の建材を把握するとともに、アスベストの含有の有無の判定を行います。

 

現地調査(目視の調査)

先ほどご説明しましたとおり、書面やヒアリングの内容は、現状を表したものとは限りませんので、書面調査の結果調査を終了せず、石綿の使用状況を網羅的に把握するため、原則として現地で目視調査を行うことが必要です。

目視調査では、建物内部にある全ての居室や共用部分及び機械室等の床・壁・天井・設備系の建材使用確認、点検口からの天井内の状況を目視で確認します。

書面調査はあくまで下調べに過ぎないため、書面調査と現地調査との相違があれば、当然、現地での目視調査の結果が優先することになります。

 

分析調査(科学的な調査)


分析方法は、日本工業規格群をベースとし、その実施に当たっては、厚生労働省の「石綿則に基づく事前調査のアスベスト分析マニュアル」の記載内容を優先することになります。

参考:石綿則に基づく事前調査のアスベスト分析マニュアル

これに基づく石綿分析の流れとしては、まず、建材中の石綿の含有の有無を調べるための定性分析を行います。

定性分析とは、ある建材の中に、アスベストが含有しているかどうかを調べる分析です。

一般的に定性分析には、厚生労働省が定めた「偏光顕微鏡法」と「X線回折分析法と位相差分散顕微鏡法の併用」の2つの方法があります。

定性分析で石綿が含有していると判定された場合は、含有率を調査するための定量分析を行い、建材中の石綿の含有率(0.1%以下か否か)を判断します。

なお、吹付け材については、ばく露防止措置を講ずる際の参考とするための含有率を調査するための定量分析を行うことが望ましいとされています。

 

 

アスベストの調査資格について

アスベストの事前調査については、適切な資格を有する人が行う必要があります。

その資格には、石綿作業責任者、アスベスト診断士、建築物石綿含有建材調査者の3つがあります。

これから、それぞれの資格についてご説明いたします。

 

石綿作業責任者

石綿作業責任者は、アスベストに関する作業を行う労働者がアスベストを吸い込んでしまわないように解体作業の方法を決定し、局所排気措置、除じん装置などのアスベスト吸引の予防措置の点検や労働者への指揮監督を行う資格です。

2日間の講習を受け、修了試験に合格することによって取得することができます。

石綿作業責任者の受験資格は、18歳以上の年齢要件だけで、実務経験は必要ありません。

 

アスベスト診断士

アスベスト診断士は、どこにアスベストが使用されているかの診断や使用されているアスベストの処理要否判断、適正工事のチェック診断を行う資格です。

以下のどれかに該当することが受講資格です。

  • 石綿作業主任者の資格を保有
  • 第1種の作業環境測定士
  • 一級建築士及び二級建築士の免許登録者
  • 一級施工管理技士(建築施工管理)の資格を保有
  • 労働衛生コンサルタントの資格を保有
  • アスベストを含むものの除去に関し、3年以上の実務経験者
  • アスベスト有無の事前調査に関し、1年以上の実務経験者

3日間の講義を受け、修了試験に合格することによって取得することができます。

また、試験に合格しても「一般社団法人日本アスベスト調査診断協会」へ入会しなければアスベスト診断士を名乗れず、事前調査を適法に行いませんので注意が必要です。

 

建築物石綿含有建材調査者

建築物石綿含有建材調査者は、建材や建築物に含まれる石綿について調査するための資格で、建物にある石綿の含有量や、健康被害の実態などの調査が主な仕事です。

建築物石綿含有建材調査者には、一般、一戸建て、特定という3つの種類があります。

一戸建ての資格は、戸建て住宅及び共同住宅の住居箇所の事前調査が可能ですが住居箇所の調査のみにとどまり、廊下などの共用部分は事前調査ができる資格ではありません。

一般の資格と特定の資格は、全ての建築物、構造物を調査できます。

学歴ごとに受講資格が違いますが、代表的なものは以下の表のとおりです。

学歴など 実務経験
大学において、建築に関する正規の課程またはこれに相当する課程を修めて卒業した者 卒業後の建築に関する実務経験年数:2年以上
3年制の短期大学において、建築に関する正規の課程またはこれに相当する課程を修めて卒業した者 卒業後の建築に関する実務経験年数:3年以上
短期大学または高等専門学校において、建築に関する正規の課程又はこれに相当する課程を修めて卒業した者 卒業後の建築に関する実務経験年数:4年以上
高等学校または中等教育学校において、建築に関する正規の課程またはこれに相当する課程を修めて卒業した者 卒業後の建築に関する実務経験年数:7年以上
「1~4」に該当しない者(学歴不問) 建築に関する実務経験年数:11年以上

その他も受講資格がありますので、受講できるかどうかが気になった方は、下記の参考サイトでご確認ください。

参考:一般財団法人 日本環境衛生センター 建築物石綿含有建材調査者講習

建築物石綿含有建材調査者には区分があり、一般資格の場合には、合計11時間の講座を受講した後に筆記試験に合格する必要があります。

一戸建て資格の場合には、合計7時間の口座を受講した後に筆記試験に合格する必要があります。

 

 

アスベストの事前調査との違い

アスベストの調査と事前調査の違いについてですが、アスベスト調査の中に事前調査が包摂されている、つまり、アスベスト調査の方が広い概念ということです。

これまでアスベストの調査の流れについて解説しました。

この一連の調査のうち、書面調査、現地調査を事前調査と呼びます。

現地調査まで行った結果、アスベストの使用の有無が不明な場合に、分析調査が行われます。

つまり、アスベスト調査の流れとして、大きくは、事前調査が行われ、一定の場合には、分析調査が行われるというイメージになります。

アスベストの事前調査について、詳しくは、こちらのページをご覧ください。

 

 

アスベストの調査費用

アスベストの調査は民間企業が行っているため、費用についてはバラバラです。

また、どこまで調査するかによっても費用が変わります。

もっとも、事前調査の段階であれば、4〜8万円程度、分析調査まで行う場合には、10万円前後が調査費用の枠内が相と言えるでしょう。

 

 

アスベスト調査を行う場合の注意点


調査業者の選び方

まず、アスベストの調査については、適切な資格を有する人が行う必要がありますので、そのような資格を有しているかをしっかり確認する必要があります。

また、アスベストの調査の目的は、工事の前にアスベストの有無を確認し、適切な処置をとるためのものです。

適切な措置を取れるかどうか、正確判断するためにも、ノウハウがしっかりした業者を選ばれるべきでしょう。

 

補助金制度を活用する

アスベスト調査費用補助制度

アスベスト調査等に関して国は補助制度を設けています。

補助対象とするアスベストは、吹付けアスベスト、アスベスト含有吹付けロックウールです。

補助金制度がない地方公共団体もありますので、詳細はお住まいの地方公共団体にお問い合わせください。

アスベスト除去費用補助制度

アスベスト除去、囲い込み、封じ込めに関して国は補助制度を設けています。

補助対象のアスベストは、吹付けアスベスト、アスベスト含有吹付けロックウールです。

補助金制度がない地方公共団体もありますので、詳細はお住まいの地方公共団体にお問い合わせください。

 

アスベスト問題にくわしい弁護士へ相談

アスベストの関係でトラブルになった場合には、アスベストに詳しい弁護士に相談するべきでしょう。

今回解説しましたアスベスト検査が法律上の義務とされているほど、アスベストの健康被害は深刻なものになります。

アスベストの健康被害については、国の制度により、給付金を受け取れる可能性があります。

もし、アスベストによる健康被害があると思われた方は、アスベストに詳しい弁護士に相談するべきでしょう。

 

 

まとめ

ここまでアスベストの調査について解説いたしました。

現代では、アスベストは、その危険性から、これ以上の健康被害者を増やさないように種々の規制が行われています。

アスベスト調査は、そもそも危険かどうかの判断のために行われ、罰則も予定されています。

アスベスト調査を怠ることなく適切に実施すべきです。

また、アスベストによる健康被害を被ってしまった場合には、給付金の対象となる可能性がありますので、治療と合わせてアスベストに詳しい弁護士に相談するべきでしょう。

デイライトでは、人身障害チームを設け、アスベストを含む労災事故を取り扱っております。

アスベスト被害に関するご相談は、初回無料でご相談いただけます。

当事務所は、ZOOMやスカイプを活用して、全国に対応を行っておりますので、まずは一度ぜひご相談ください。

 

 

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