アスベスト裁判|企業への損害賠償請求について解説


アスベスト(石綿)被害者の救済方法はいくつかありますが、その中の一つに、企業に対して裁判を起こして損害賠償請求をするという方法があります。

現在、アスベストの被害に遭った方で、企業に対して損害賠償請求を考えられている方もいらっしゃるかと思います。

本記事では、アスベスト裁判(企業への損害賠償請求)について、弁護士が解説いたします。

この記事でわかること

  • アスベスト裁判について
  • 裁判手続の流れ
  • アスベスト問題を弁護士に依頼する場合のメリット・デメリット
  • アスベスト裁判のポイント

アスベスト裁判の概要

アスベスト(石綿)によって、石綿肺・肺がん・中皮腫などを患った場合、一定の企業に対して損害賠償請求をすることができる可能性があります。

アスベストで発症する病気について、詳しくはこちらをご覧ください。

アスベストの被害者は、国に対して裁判したり、労災による補償を受けることもできますが、それらとは別に企業から賠償金を求めることもできます。

 

原告について

原告とは、裁判を提起する側の当事者のことです。

アスベスト裁判の原告になり得るのは、主にアスベストに関連する場所で働いていた人達です。

具体的には、アスベストが飛散する可能性があった工場、建設現場、倉庫、電力会社、ホテルなどで働いていた人達です。

 

被告について

被告とは、裁判で訴えられる側の当事者のことです。

アスベスト裁判の被告になり得るのは、アスベストが飛散する可能性があった原告が勤めていた会社などです。

また、建材メーカーも被告となり得ます。

現在までに裁判で責任が認められた建材メーカーは、以下の11社です。

  • エム・エム・ケイ
  • エーアンドエーマテリアル
  • 神島化学工業
  • ケイミュー
  • 大建工業
  • 太平洋セメント
  • 日鉄ケミカル&マテリアル
  • 日東紡績
  • ニチアス
  • ノザワ
  • バルカー

請求の根拠

アスベスト裁判の請求根拠は、主に安全配慮義務違反と不法行為です。

安全配慮義務違反

安全配慮義務とは、会社が従業員の安全や健康に配慮する義務をいいます。

安全配慮義務の法令の根拠は、労働契約法5条です。

労働契約法第5条
第五条 使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。

参考:アスベスト裁判のポイント

企業がアスベスト対策を十分に講じていなかった場合は、安全配慮義務違反があったとして、債務不履行責任に基づいて損害賠償請求(民法415条1項)ができることになります。

民法415条1項
第四百十五条 債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。

参考:民法|e−Gov法令検索

安全配慮義務について、詳しくはこちらをご覧ください。

不法行為

不法行為責任とは、故意・過失によって他人の権利を侵害した場合に認められる賠償責任のことです。

単独の不法行為責任は民法709条、共同の不法行為は民法719条1項に定められています。

民法709条
第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
民法719条1項
第七百十九条 数人が共同の不法行為によって他人に損害を加えたときは、各自が連帯してその損害を賠償する責任を負う。共同行為者のうちいずれの者がその損害を加えたかを知ることができないときも、同様とする。

参考:民法|e−Gov法令検索

 

 

いくら請求できる?

企業に対していくら請求できるかは、アスベスト被害者にどのような損害が生じたかによって変わってくるので、一概には言えません。

死亡慰謝料については、2500〜3000万円が一応の目安になるかと思います。

 

 

裁判手続の流れ

裁判を提起する前は、通常、企業と事前の交渉が行われます。

交渉が決裂したら、裁判提起を検討することになります。

以下は、一般的な裁判の流れです。

一般的な裁判の流れ

  • 訴状及び証拠の提出(原告)
    原告側は、最初に訴状を作成し、証拠を添付した上で裁判所に提出することになります。

    訴状では、どのような請求をするのか、どういった理由でその請求をするか等を詳細に記載することになります。

  • 答弁書等を提出(被告)
    訴状が被告に届いたら、被告は訴状に対する回答や反論をする答弁書を裁判所に提出することになります。

    加えて、答弁書に記載されている事項の裏付けとなる証拠も必要に応じて提出されます。

  • 第1回期日
    裁判所で第1回期日が開かれます。

    第1回期日では、多くの場合、原告が訴状、被告が答弁書を陳述し、次回の期日の日程調整が行われます。

  • 第2回期日以降
    第2回期日以降では、争点について、原告及び被告において主張・立証が繰り広げられます。

    ほとんどのケースで、「準備書面」という書面と追加の証拠などを裁判所に提出して、裁判所が争点を整理していきます。

    どのくらい期日を重ねるかは、ケースバイケースとなっています。

    なお、書面の証拠が出揃った段階で(多くのケースで尋問前までの期日)、裁判所から和解の話(和解勧試)が出ることもあります。

  • 尋問
    書面の証拠で立証が足りない場合は、尋問が行われることがあります。

    尋問は、当事者や証人から裁判所で直接話を聞き取ることをいいます。

    尋問によって答えられた内容も証拠となり得ます。

  • 最終の弁論期日
    尋問が終わった後は、最終の弁論期日が開かれます。

    最終の弁論期日では、多くのケースでこれまでの裁判でのやりとりを踏まえて、原告・被告双方から「最終準備書面」が提出されます。

    最終準備書面は、裁判官を説得する最後の書面になります。

  • 判決
    一番最後に、裁判所から裁判の結果である判決が出されます。

    判決に不服がある当事者は、控訴することができます。

    両当事者から、控訴期間内に控訴がなければ、判決は確定することになります。

 

 

請求が認められるための条件とは?

請求が認められる条件は、事案によって異なりますが、基本的に請求根拠(安全配慮義務違反や不法行為)の法律要件を満たす事実があるかどうかです。

そして、法律要件を満たす事実があるかどうかは、事実の存在を裏付ける証拠があるかどうかで判断されます。

その事案で請求が認められるかどうかの見通しは、弁護士に相談されることをお勧めします。

 

 

弁護士に依頼するメリットとデメリット


アスベスト裁判を弁護士に依頼するメリットとデメリットは以下のとおりです。

メリット

・裁判の準備、裁判への出頭などを全て弁護士に任せることができる

・請求が認められやすくなる

・適切なアドバイスをいつでも受けられる

デメリット
・弁護士費用

メリット

裁判の準備、裁判への出頭などを全て弁護士に任せることができる

裁判は、様々な準備等が必要になります。

訴状の作成、証拠の精査、準備書面(主張書面)の作成など、多くの作業が必要となります。

これらの作業を、弁護士に全て任せることができるため、依頼者の精神的負担等を軽減することができます。

また、裁判には弁護士が出頭するため、尋問等の手続を除いて、原則依頼者の裁判所の出頭は不要になります。

請求が認められやすくなる

裁判で請求が認められることは簡単ではありません。

主張を証拠に基づいて丁寧に構成し、裁判官を納得させなければなりません。

主張を的確にまとめる作業は、司法試験に合格している弁護士が得意としているものですので、一般の方よりは請求が認められやすいといえます。

適切なアドバイスをいつでも受けられる

弁護士に依頼すれば、適切なアドバイスをいつでも受けられることができます。

例えば、裁判の途中で裁判官から和解案を提示された時に、判決の見通しを踏まえた上で、和解すべきかどうかのアドバイスを弁護士から受けられるなどです。

 

デメリット

弁護士費用

デメリットとして挙げられるのは、弁護士に依頼すれば弁護士費用がかかるということです。

もっとも、弁護士費用を差し引いても依頼者にとって特になるか損になるかは、通常、相談時に弁護士から説明があるはずです。

裁判での見通し等を踏まえて、弁護士費用との兼ね合いで弁護士に依頼されるかをご判断いただければと思います。

 

 

アスベスト裁判の3つのポイント

請求期限に注意する


アスベスト裁判には請求期限、つまり時効があります。

時効を過ぎてから裁判を提起しても、請求は基本的に認められません。

時効は請求の根拠ごとによって異なってきます。

安全配慮義務と不法行為の時効は、以下のとおりです。

安全配慮義務を根拠とした債務不履行責任

2020年3月31日以前【改正前の民法】

権利を行使できる時から10年

2020年4月1日以降【改正後の民法】

・債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間
・権利を行使できる時から20年

不法行為に基づく損害賠償請求

2020年3月31日以前【改正前の民法】

・損害および加害者を知った時から3年
・不法行為の時(基本的には、「最も重い症状が新たに判明した時点」と考えられています。)から20年

2020年4月1日以降【改正後の民法】

・損害および加害者を知った時から5年
・不法行為の時(基本的には、「最も重い症状が新たに判明した時点」と考えられています。)から20年

 

他の制度の活用も検討する

アスベスト被害者は、企業へ裁判を起こすだけでなく、その他の制度等を活用して金銭を受領できる可能性があります。

以下は、その他の制度等です。

労災申請

仕事中にアスベストを吸ってしまって病気になってしまった場合は、労災を申請して保険給付を受けることが可能です。

アスベストの労災について、詳しくはこちらをご覧ください。

石綿健康被害救済制度を利用する

主に労災の対象にならない方は、「石綿による健康被害の救済に関する法律」に基づいて、給付金を請求できる可能性があります。

参考:石綿による健康被害の救済に関する法律|e−Gov法令検索

石綿健康被害救済制度について、詳しくはこちらをご覧ください。

国を相手に裁判をして和解をする(工場型)

アスベスト工場で働いていた方々は、国を相手として裁判を起こし、和解をして金銭を受領することができます。

国を相手とするアスベスト裁判について、詳しくはこちらをご覧ください。

国から建設アスベスト給付金を受領する(建設型)

一定の要件の下、建設現場で働いていて、アスベスト吸って病気になった場合、建設アスベスト給付金法(正式名称は、「特定石綿被害建設業務労働者等に対する給付金等の支給に関する法律」)に基づいて、建設アスベスト給付金を受領することができます。

参考:特定石綿被害建設業務労働者等に対する給付金等の支給に関する法律|e−Gov法令検索

建設アスベスト給付金について、詳しくはこちらをご覧ください。

 

アスベストに詳しい弁護士へ相談する

アスベストの裁判は非常に専門的で難解です。

被害者個人で裁判をしようとしても、多大な負担ですし、法的構成がきちんとされていないと本来なら請求が認められるべきものも認められなくなってしまう可能性があります。

裁判を考えられている方は、アスベストに詳しい弁護士にできるだけ早く相談することをお勧めします。

 

 

まとめ

  • アスベスト(石綿)によって、石綿肺・肺がん・中皮腫などを患った場合、一定の企業に対して損害賠償請求をすることができる可能性がある。
  • アスベスト裁判の原告になり得るのは、アスベストが飛散する可能性があった工場、建設現場、倉庫、電力会社、ホテルなどで働いていた人達で、被告になり得るのは原告が勤めていた会社や建材メーカーなどである。
  • 請求の根拠としては、主に安全配慮義務違反と不法行為である。
  • いくら請求できるかはケースバイケースで、死亡慰謝料については2500〜3000万円が一応の目安になる。
  • 一般的な裁判の流れとしては、訴状及び証拠の提出(原告)→答弁書等を提出(被告)→第1回期日→第2回期日以降→尋問→最終の弁論期日→判決である。
  • アスベスト裁判を弁護士に依頼するメリットは、①裁判の準備、裁判への出頭などを全て弁護士に任せることができる、②請求が認められやすくなる、③適切なアドバイスをいつでも受けられる、デメリットは弁護士費用がかかることである。
  • アスベスト裁判の3つのポイントは、①請求期限に注意する、②他の制度の活用も検討する、③アスベストに詳しい弁護士へ相談することである。

デイライト法律事務所には、アスベストを含む人のケガや病気に関わる法律問題を中心に取り扱う人身障害部という専門チームがあります。

人身障害部は、日々研鑽を積み、より高品質のリーガルサービスを提供できるよう心掛けています。

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