アスベストはいつから禁止?全面使用禁止の経緯・被害の歴史

監修者:弁護士 鈴木啓太
弁護士法人デイライト法律事務所 パートナー弁護士

日本では、2012年(平成24年)にアスベスト(石綿)を含むすべての製品の使用が全面的に禁止されました。

ただし、ここに至るまでには長い時間がかかっています。

最初にアスベスト規制が始まったのは、1975年(昭和50年)です。

そこからおよそ30年以上かけて段階的に規制が強化され、最終的に2012年に全面禁止となりました。

アスベストは、かつて「魔法の鉱物」と呼ばれるほど優れた耐熱性・断熱性を持ち、建物や製品のあらゆる場所で使われてきました。

しかし、アスベストによる深刻な健康被害が明らかになり、「なぜ禁止されたのか」「自分の家や建物は大丈夫なのか」と不安を抱く方も少なくありません。

そこで今回は、アスベストがいつから禁止されたのか、禁止の経緯と年代別の規制内容、健康被害の背景と救済制度について、アスベスト問題に詳しい弁護士がわかりやすく解説します。

アスベストはどこで使用されていた?

アスベスト(石綿)が使用されたもの

アスベストは、様々な製品に使用されていました。

例えば、自動車のブレーキパッドやクラッチプレート、ストーブ、温水機器、ガスコンロ、ファンヒーターなどです。

電気製品では、トースタードライヤー、エアコン、こたつ、電気ストーブ、冷蔵庫、洗濯機、照明など様々な製品に使用されていました。

 

建築物の中でアスベスト(石綿)が使用されている場所

アスベスト、建物の屋根材としてよく使われていたスレートや、外壁材として使われていたサイディングなどには、アスベストが含まれていることがあります。

また、天井材や床材、断熱材、配管の断熱材など、建物の内部のあらゆる部分で使用されていました。

 

アスベストが使用されていた理由

アスベストは、耐熱性、断熱性、耐薬品性などの優れた特性をもっています。

しかも、安価であったため、建物や様々な製品に利用されてきたのです。

 

 

アスベストはいつから使用禁止となったのか?

アスベスト全面禁止までの流れ

日本では、昭和50年(1975年)にアスベストに関する最初の規制が導入され、その後徐々に強化されていきました。

アスベストの規制は段階的に進められ、最終的に平成24年(2012年)に全面禁止となりました。

アスベストの一部規制が開始されてから、全面禁止まではおよそ30年近くかかったことになります。

 

 

アスベスト全面使用禁止までの年代別規制一覧

日本では、アスベストの規制は段階的に進められてきました。

年代 規制内容
昭和50年(1975年) 5%を超える石綿の吹き付け原則禁止
平成7年(1995年) 1%を超える石綿の吹き付け原則禁止
平成16年(2004年) 1%を超える石綿含有建材等の製造禁止
平成18年(2006年) 0.1%を超える石綿含有製品の使用禁止
平成24年(2012年) 石綿含有製品の完全使用禁止(猶予期間終了)

それぞれの年代と規制内容について、詳しく解説をしていきます。

 

昭和50年(1975年):5%を超える石綿の吹き付けを原則禁止

昭和50年(1975年)は、日本におけるアスベスト規制の重要な転換点となりました。

この年、「労働安全衛生法」の「特定化学物質等障害予防規則」が改正され、石綿含有量が5重量%を超える吹き付け作業が原則禁止となりました。

 

平成7年(1995年):1%を超える石綿の吹き付けを原則禁止

平成7年(1995年)には、再び「特定化学物質等障害予防規則」が改正され、石綿含有量が1重量%を超える吹き付け作業が原則禁止となりました。

また、この年には「労働安全衛生法施行令」も改正されており、アスベストのうち「アモサイト(茶石綿)」および「クロシドライト(青石綿)」の製造、輸入、使用等が原則禁止となりました。

 

平成16年(2004年):1%を超える石綿含有建材等の製造禁止

平成16年(2004年)には、「労働安全衛生法施行令」が改正され、1重量%を超える石綿含有建材等の製造が禁止されました。

また、以下10品目の製造、輸入等も禁止されました。

  • 石綿セメント円筒
  • 押出成形セメント板
  • 住宅屋根用化粧スレート
  • 繊維強化セメント板
  • 窯業系サイディング
  • クラッチフェーシング
  • クラッチライニング
  • ブレーキパッド
  • ブレーキライニング
  • 接着剤

参考労働安全衛生法施行令の一部を改正する政令案の概要|厚生労働省

 

平成18年(2006年):0.1%を超える石綿含有製品を使用禁止

平成18年(2006年)には、労働安全衛生法施行令が改正され、0.1重量%を超えるアスベスト含有製品の製造、輸入、譲渡、提供、使用が原則として禁止されました。

ただし、一部の製品(ガスケットやパッキン等)については、代替品の開発状況を考慮して、猶予措置が設けられました。

この規制強化の背景には、アスベストによる健康被害に対する社会的認識の高まりがあります。

特に、2005年に発生したクボタショックと呼ばれる事件が、アスベスト問題への関心を一気に高めたことが大きな要因となっています。

 

クボタショック事件とは?

機械メーカー「クボタ」の旧工場やその周辺で発生したアスベストによる健康被害のことです。

2005年6月29日、クボタは工場の従業員や周辺住民ら計84人にアスベストによる健康被害が発生したことを発表しました。

 

平成24年(2012年):石綿含有製品の完全使用禁止

平成24年(2012年)には、それまで猶予措置が設けられていた一部の製品についても使用が禁止されました。

これによって、0.1重量%を超えるアスベストを含有する全ての製品の製造、輸入、譲渡、提供、使用が禁止されたことになります。

 

 

なぜアスベストは使用禁止になったのか|健康被害のリスク

アスベストが使用禁止となった主な理由は、その深刻な健康被害にあります。

アスベストは、非常に細かい線維で構成されているため、空気中に舞い上がりやすいという特徴があります。

浮遊するアスベストの繊維を吸い込んだ場合、高確率で肺や胸膜に炎症や疾患が生じます。

具体的には、石綿肺、肺がん、悪性中皮腫などのアスベスト関連疾患がその代表です。

これらの病気は、アスベストを吸い込んでから発症するまでに長い潜伏期間があり、症状が現れる頃には病気が進行していることも少なくありません。

また、一度発症してしまうと、治療が難しく、多くの場合、予後が悪いという特徴があります。

アスベストは、このような深刻な健康被害を引き起こすため、今では日本を含め多くの国で使用が禁止されています。

 

 

アスベストの人体への影響

アスベストを吸い込むと、肺や胸膜に長い間残留し、下記のような深刻な健康被害を引き起こす可能性があります。

  • 石綿肺(せきめんはい)
  • 肺がん
  • 中皮腫(ちゅうひしゅ)
  • びまん性胸膜肥厚(びまんせいきょうまくひこう)
  • 良性石綿胸水(りょうせいいしわたきょうすい)

アスベストによる健康被害の特徴として、非常に長い潜伏期間があることが挙げられます。

潜伏期間が非常に長いため、アスベスト関連疾患を発症していることに気づきにくく、病気がわかった時点で、すでにかなり病気が悪化していることが多いのも厄介な特徴です。

 

 

自分の建物にアスベストが使われている可能性は?チェックポイント

自分の建物にアスベストが使われているかどうかを確認する方法は、次の3点です。

建築時期をチェック

建物の建築時期が、1975年以前の場合には、規制がされていない時期であり、アスベストが使用されている可能性が高いです。

1976年〜2006年については、アスベストの規制が進みましたが、全面禁止にはなっていないため、アスベストが使用されている可能性があります。

2006年9月1日より後では、アスベストは原則、全面禁止となっているため、建物にアスベストが使用されている可能性はないでしょう。

建築時期で分かることは、あくまで可能性の問題であり、断定することはできません。

設計図などのチェック

建物に関する資料を確認して、使用された建材名を確認します。

使用された建材の中にアスベストが含まれているものがあるかを確認することで、建物にアスベストが使用されているかを確認します。

建物の種類・構造によるチェック

鉄骨造や大規模な建物は、アスベストが使用されている可能性が高くなります。

また、耐火・断熱・吸音性能が求められる、ボイラー室、エレベーターホール、機械室などはアスベストを使用していることが比較的多いです。

 

 

アスベストの被害者の5つの救済制度

アスベスト被害者を救済する制度として、以下の5つの制度が挙げられます。

  • 建築アスベスト給付金
  • アスベスト訴訟
  • 労災保険制度
  • 石綿健康被害救済制度
  • 会社に対する損害賠償請求

これらの制度は、いずれも請求できる要件などが異なりますので、請求を行う際には、自分がどの制度を利用できるのかを検討する必要があります。

 

国からの建設アスベスト給付金を請求する

アスベスト被害者の救済制度の一つとして、建設アスベスト給付金の制度があります。

建設アスベスト給付金は、アスベスト被害にあった建設労働者やその遺族を救済するための制度です。

この給付金を受け取るには、以下の要件を満たす必要があります。

  • 過去に一定期間、アスベストにさらされる建設業務に従事していたこと
  • アスベスト関連疾患にかかっていること
  • 労働者、一人親方、中小事業主(家事従事者等を含む)であること

給付金の額は疾患の種類等によって決定され、550万円〜1300万円の範囲で支給されます。

 

国とのアスベスト訴訟の和解手続を利用する

アスベスト被害者の救済制度の一つとして、国とのアスベスト訴訟の和解手続があります。

この手続は、特定の条件を満たすアスベスト被害者やその遺族が、国を相手に国家賠償請求の裁判を起こし、和解を通じて補償を受ける仕組みです。

この手続きで補償を受けるためには、以下の要件を満たす必要があります。

  • 過去に一定期間、工場等でアスベストにさらされる業務に従事していたこと
  • アスベスト関連疾患にかかっていること

給付金の額は疾患の種類等によって決定され、550万円〜1300万円の範囲で支給されます。

 

労災の申請をする

アスベスト被害者の救済制度の一つとして、労災保険制度があります。

労災保険制度は、職業上でアスベストにさらされたことが原因で健康被害を受けた労働者やその遺族に対して、医療費や休業補償、遺族補償などの給付を行う制度です。

この制度による補償を受けるためには、以下の要件を満たす必要があります。

  • 石綿ばく露労働者であること※
  • アスベスト関連疾患にかかっていること

受けることができる給付の内容については、疾患の種類等や治療にかかった期間等によって異なります。

※アスベストにさらされる作業に従事しているか、または従事したことのある労働者のことを指します。

 

石綿健康被害救済制度による給付を請求する

アスベスト被害者の救済制度の一つとして、石綿健康被害救済制度があります。

石綿健康被害救済制度は、労災保険の対象とならないアスベスト被害者を迅速に救済するために設けられた制度です。

この制度による補償を受けることができるのは、アスベストによって以下の指定疾病にかかった方もしくはそのご遺族です。

  • 中皮腫
  • 肺がん
  • 著しい呼吸機能障害を伴う石綿肺
  • 著しい呼吸機能障害を伴うびまん性胸膜肥厚

受けることができる給付の内容については、治療にかかった期間等によって異なります。

 

会社に対して損害賠償を請求する

アスベスト被害者の救済制度の一つとして、被害者やその遺族が、雇用主や製造業者に対して損害賠償を請求する方法があります。

この方法では、他の救済制度と比べてより高額の賠償金を得られる可能性がありますが、手続きが複雑で時間がかかる場合があります。

損害賠償請求の主な根拠としては、以下のものが考えられます。

安全配慮義務違反 雇用主が従業員の安全を確保する義務を怠った
不法行為責任 製造業者が危険性を知りながらアスベスト製品を製造・販売した
製造物責任 企業の行為が被害者の健康被害を引き起こした

受け取ることができる金額は、どのような被害が生じたか等によって異なります。

 

 

アスベスト健康被害の3つのポイント

アスベスト健康被害には、以下の3つのポイントがあります。

アスベスト健康被害の3つのポイント

これらは、いずれもアスベスト健康被害を防いだり、被害を最小限に抑えるために重要なポイントとなっています。

以下で詳しく解説をしていきます。

 

①定期的に健康診断を受診する

アスベストの健康被害の早期発見と予防のためには、定期的な健康診断の受診がとても大切です。

特に、定期的な健康診断の受診が大切なのは、以下の条件にあてはまる方です。

  • 建設業や解体業に従事していたことがある
  • 製造業でアスベストを取り扱っていたことがある
  • アスベストが飛散する可能性がある場所で居住していたことがある

このような方は、アスベストに長期間または高濃度でばく露された可能性があるため、アスベストによる健康被害は生じるおそれが高いといえます。

心当たりのある方は、定期的に健康診断を受診することをおすすめします。

 

②請求できる期限に注意

アスベスト被害者を救済する制度には色々なものがありますが、いずれの制度も請求期限が定められています。

この期限内に請求を行わなかった場合、補償を受けることができなくなってしまいます。

例えば、建設アスベスト給付金の場合には、「アスベスト関連疾病にかかった旨の医師の診断日またはアスベスト肺に係るじん肺管理区分の決定日(アスベスト関連疾病により死亡した時は死亡日)から20年以内」に請求する必要があります。

利用する制度によって請求期限が異なりますので、この点についてしっかりと確認した上で、請求期限を過ぎてしまわないように気を付けることが大切です。

 

③アスベストにくわしい弁護士へ相談する

アスベスト健康被害にあってしまったら、アスベストに詳しい弁護士に相談することをおすすめします。

なぜなら、アスベストによる健康被害は、法律問題が複雑に絡み合うケースが多く、専門的な知識と経験が重要となるからです。

アスベストに詳しい弁護士であれば、アスベストに関する法律、最新の判例等についての知識があるため、個々のケースに合わせた適切な対応を行うことができます。

また、請求や訴訟といった複雑な手続きを弁護士が代わりに行うことで、様々な負担が軽減されます。

アスベスト被害にあった場合は、ぜひアスベストに詳しい弁護士に相談しましょう。

 

 

アスベストの使用禁止についてのQ&A

アスベストの使用禁止についてのご質問にお答えしていきます。

アスベストは何年前まで使われていたのですか?

2006年に「0.1%を超える石綿含有製品」の使用が禁止されました。

そのため、建築物等に関しては、2006年以降はアスベストの使用はされていません。

一部、化学工業で使用されていたガスケットやグランドパッキンについても、2012年に使用が禁止されました。

2012年以降は、全ての石綿含有製品の使用が禁止されています。

 

アスベスト6種類が禁止になったのはいつから?

労働安全衛生法施行令が改正されたことにより、20069月1日からアスベスト6種類全てが禁止になりました。

 

エアコンの穴あけ工事でアスベスト調査は必要ですか?

エアコン用の配管を通すための穴あけや穴を拡張する場合もアスベストの事前調査が必要になる場合があります。

2006年9月からは、アスベストの使用が禁止されていますが、それ以前については、アスベストが使用されている可能性があるからです。

したがって、2006年8月31日以前に着工された建物、あるいは、着工日が確認できない場合には、アスベストの事前調査が必要となります。

また、2006年9月1日以降の着工である場合でも、設計図書や契約書、登記簿などでアスベストが含有していないことが証明できなかったときには、アスベストの事前調査が必要になります。

 

 

まとめ

日本では、1975年から2012年にかけてアスベストの規制が進められました。

現在は、アスベストの使用等は全面的に禁止されていますが、過去に建築された建物等には、依然としてアスベスト含有製品が使用されたままになっています。

2020年代以降は、これらの建物等の耐用年数が一挙に到来することもあり、アスベストによる健康被害もより一層深刻化することが懸念されます。

アスベストによる健康被害を未然に防いだり、被害を最小限に抑えるためには、適切な対処を行うことが必要です。

アスベストによる健康被害が発生してしまった場合には、少しでも精神的および金銭的な負担などを減らすためにも、救済制度の利用を検討することが大切です。

ただし、救済制度には請求期限がある上、請求手続きが煩雑なものも少なくありませんので、少しでもお悩みがある場合には、アスベストに詳しい弁護士に相談することをおすすめします。

弁護士法人デイライト法律事務所では、アスベストに注力する弁護士が在籍しています。

遠方等の理由で事務所にお越しいただくことが難しい方であっても、電話、メール、オンライン等を活用することで、ご相談していただくことができる環境を備えております。

アスベスト健康被害でお困りの方は、ぜひ1度当事務所までご相談ください。

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