労災保険と傷病手当はどっちがお得?違いや二重支給の可否も解説

執筆者:弁護士 西崎侃
弁護士法人デイライト法律事務所

結論から言うと、傷病手当金よりも「労災保険」の方がお得です。

仕事や通勤が原因の怪我・病気であれば、迷わず労災の申請を検討すべきです。両者には、手元に残る金額や保障内容にこれだけの差があるからです。

給付金額 労災は給料の約80%(非課税)に対し、傷病手当金は約67%
治療費 労災は0円に対し、傷病手当金(健康保険)は3割負担
見期間 労災は治るまで無期限に対し、傷病手当金は最大1年6ヶ月

ただし、「労災は認定に時間がかかる」「会社が嫌がる」といったハードルがあるのも事実です。また、制度上「好きな方を選ぶ」のではなく、「原因が仕事かどうか」で決まるのが原則です。

この記事では、具体的に金額がいくら変わるのかの計算例や、労災と傷病手当金の注意点などについてまで、弁護士が詳しく解説します。

労災と傷病手当はどっちがお得?3つの違い

傷病手当金とは、従業員が、仕事以外の出来事によってケガしたり、病気になり仕事を休んだ場合の補償のことをいいます。

労災保険の休業補償は、従業員が、仕事中または通勤・退勤中の出来事によってケガしたり、病気になって、仕事を休んだ場合に給付されるものです。

以下では、それぞれの違いについて説明します。

 

①支給金額の計算方法の違い

労災保険の休業補償

労災保険の休業補償給付は、休業(補償)給付と休業特別支給金が給付されます。

それぞれ以下のように計算します。

  • 休業(補償)給付:「給付基礎日額」の60% × 休業日数
  • 休業特別支給金:「給付基礎日額」の20% × 休業日数

「給付基礎日額」は、「労災にあった日の直前3ヶ月間の給料の総額」÷「労災にあった日の直前3ヶ月の暦日数」で計算します。

 

傷病手当

傷病手当は以下の計算式で計算します。

  • 1日あたりの金額 ×  休業日数

「1日あたりの金額」は、以下の計算式で計算します。

「傷病手当金の支給開始日の以前12ヶ月間の各標準報酬月額を平均した額」÷ 30日 ×(2/3)

「傷病手当金の支給開始日の以前12ヶ月間の各標準報酬月額を平均した額」は、おおよそ月給と近い金額になることが多いです。

 

②支給期間の違い

労災保険の場合

原則として支給の期限はありません。

ただし、症状固定(治癒)に至った場合や仕事に復帰して一定以上の給料を得るようになれば給付は終了します。

 

傷病手当の場合

最大で1年6ヶ月が期限になります。

その前に復職した場合にも終了します。

 

③補償の対象者の違い

労災保険の場合

雇用で働いている従業員で、会社の仕事中や通勤退勤中にケガや病気になって、仕事を休まざるを得なくなった人が対象です。

 

傷病手当の場合

健康保険に加入しており、労災保険の対象とならない理由で働けなくなった人が対象です。

以下は、労災保険と傷病手当の違いをまとめた表です。

労災保険 傷病手当金
休業補償の

計算方法

  • 休業(補償)給付
    「給付基礎日額」の60% × 休業日数
  • 休業特別支給金
    「給付基礎日額」の20% × 休業日数
  • 「1日あたりの金額」× 休業日数
  • 「1日あたりの金額」
    =「傷病手当金の支給開始日の以前12ヶ月間の各標準報酬月額を平均した額」÷30日×(2/3)
支払期間 期間制限なし

症状固定(治癒)になった場合は終了

支給開始日から最大1年6ヶ月
対象者 業務中または出退勤中に負傷・病気になり仕事を休み給料をもらってない人 労災以外の原因で仕事を休んて給料をもらってない人

 

 

いくら違う?労災保険、傷病手当金の具体例

以下の条件を前提に計算します。

具体例

  • 休む原因となった日:1月10日
  • 直近3ヶ月の暦日数:92日(10月、11月、12月)
  • 直近1年の標準報酬月額:30万円
  • 休んだ日数50日

※以下の計算はあくまで概算であり目安としてお考え下さい。

労災保険の場合

労災保険の休業補償では、以下のとおり39万1280円となります。

  • 給付基礎日額 = 90万円 ÷ 92日 = 9782円
  • 休業補償給付= 9782円 ✕ 60% ✕ 50日 = 29万3460円
  • 休業特別支給金= 9782円 ✕ 20% ✕ 50日 = 9万7820円

合計 39万1280円

傷病手当金の場合

傷病手当金の場合、以下のとおり33万3300円となります。

  • 1日あたりの支給額 = 30万円 ✕ 12ヶ月 ÷ 30日 ✕ 2/3 = 6666円

6666円 ✕ 50日 = 33万3300円

 

 

労災と傷病手当は併用できる?

労災保険からの補償と傷病手当金による補償を併用することはできません。

なぜなら、労災保険からの補償と傷病手当金による補償とでは、その補償対象が異なるからです。

労災保険による補償は、仕事中または通勤・退勤中の出来事によるケガや病気への補償であるのに対し、傷病手当金による補償は、仕事以外の出来事または出退勤中でないときの出来事によるケガや病気への補償となります。

例えば、従業員が、以前、労災保険から休業補償の給付を受けていたが、休業補償の給付と同じケガや病気が原因で再び労務不能になった場合には、傷病手当金による補償を受けることはできません。

また、労災保険から休業補償の給付を受けている期間中は、たとえ業務外の出来事や通勤中でないときの出来事によるケガや病気が原因で労務不能になったとしても、傷病手当金による補償を受けることはできません。

ただし、この場合、労災保険から休業補償として支給されている金額が、健康保険から傷病手当金として支給されている金額より少ないとき(「休業補償の金額」<「傷病手当金の金額」の場合)は、その差額分が支給されます。

 

労災と傷病手当金は同時に申請できる?

労災と傷病手当金は同時に申請することは可能です。

労災であるか判断が難しい場合には、こうした同時申請をすることも検討します。

こうしたケースでは、先に傷病手当金の支給が先にされます。

後に、労災に認定された場合には、受領した傷病手当金は健康保険組合に返還して、労災保険からの給付を受けることができます。

なお、明らかに労災の場合には、健康保険組合から申請自体も断られるでしょう。

 

 

どちらの補償も支給開始期間は4日目から

労災保険による休業補償も健康保険による傷病手当金も、ケガや病気が原因で仕事を休み始めた日から3日間は支給されません。

労災保険からの休業補償や健康保険からの傷病手当金が補償されない3日間のことを「待機期間」といいます。

補償されない3日間の「待機期間」のカウント方法は、休業補償と傷病手当金とで異なりますので注意が必要です。

 

労災の「待機期間」の数え方

休業補償の「待機期間」には、土日祝日などの休日や有給休暇を使用した日が含まれ、必ずしも3日間休業が連続している必要はありません。

例えば、火曜日に業務中の労災にあってしまい、水曜日は休業、木曜日は出勤したが、金曜日に休業した場合、火曜日・水曜日・金曜日が待機期間の3日間としてカウントされます。

労災の「待機期間」の数え方

 

傷病手当金の「待機期間」の数え方

傷病手当金の「待機期間」には、土日祝日などの休日や有給休暇を使用した日が含まれますが、連続して3日間休業している必要があります。

例えば、月曜日に業務外の出来事が原因でケガをしてしまい、火曜日は休業したが、水曜日は出勤し、木曜日と金曜日に休業した場合、月曜・火曜・木曜・金曜の合計4日間休業していますが、連続して3日間休業しているわけではないので、待機期間が完成したことにはなりません。

そのため、この場合、連続して3日間休業するまでは、傷病手当金を受け取ることはできません。

傷病手当金の「待機期間」の数え方

他方、次のような場合には、連続した3日間の待機期間が完成しますので、休業4日目から傷病手当金を受け取ることができます。

ケース① 月曜日に業務外の出来事が原因でケガをしてしまい、火曜日以降についても休業した場合

月曜日に業務外の出来事が原因でケガをしてしまい、火曜日以降についても休業した場合

この場合、月曜・火曜・水曜の合計3日間の休業で、連続した3日間の休業(待機期間)が完成しているため、木曜日以降に欠勤した分の傷病手当金が支給されることになります。

ケース② 月曜日に業務外の出来事が原因でケガをしてしまい、月曜日、火曜日、水曜日と休業したが、木曜日に出勤した場合

月曜日に業務外の出来事が原因でケガをしてしまい、月曜日、火曜日、水曜日と休業したが、木曜日に出勤した場合
この場合、月曜・火曜・水曜の合計3日間休業しているため、連続して3日間の休業が完成しています。ただし、木曜日に出勤しているため、傷病手当金の支給は金曜日の分から受け取ることができます。

ケース③ 日曜日に業務外の出来事が原因でケガをしてしまったため、月曜日に休業し、火曜日は有給休暇を利用し休業した場合
日曜日に業務外の出来事が原因でケガをしてしまったため、月曜日に休業し、火曜日は有給休暇を利用し休業した場合
この場合、日曜、月曜、火曜の合計3日間で連続した3日間の待機期間が完成します。なぜなら、傷病手当金の待機期間には、土日祝日などの休日や有給休暇を使用した日も含んでカウントするからです。そのため、水曜日以降の欠勤した分を傷病手当金として受け取ることができます。

 

 

労災保険からの休業(補償)給付の期間

労災保険からの休業(補償)給付は、次の①〜③の条件を満たす限り、治療終了日(症状固定日)まで補償を受けることができます。

  1. ① 仕事中または通勤・退勤中の出来事が原因でケガ、病気、障害等になったこと
  2. ② ①の治療のために働くことができないこと
  3. ③ 会社から給与を受け取っていないこと

休業(補償)給付の期間

 

 

傷病手当金の支給期間

健康保険からの傷病手当金は、傷病手当金の支給開始日から通算1年6ヶ月間まで補償を受け取ることができます。

ただし、出勤等して傷病手当金が支給されなかった期間は繰り越されます。

例えば、30日間出勤して、その間、傷病手当金が支払われなかった場合には、30日間は繰り越され、1年6ヶ月+30日まで支給されます。

傷病手当金の期間

 

 

労災と傷病手当金の手続きに関するポイント・注意点

労災保険のポイント

健康保険は使用しない

労災の場合は、全て労災保険から治療費や休業補償の給付を受けます。

したがって、最初に病院で受診する場合にも労災であることを申告し、健康保険は使用しないようにします。

健康保険を使用した場合には、後に、返還手続きをする手間がかかります。

 

会社が労災申請を拒否した場合

労災申請にあたっては、基本的に「事業者証明」を会社にしてもらう必要があります。

しかし、会社が労災であることを認めなかったり、手続きが面倒で協力してくれないケースもあります。

こうした場合には、事業者証明をしてもらわずに申請を行います。

労基署に、事業者証明を会社に拒否されたことを説明すれば、労基署が調査を開始してくれます。

 

傷病手当金のポイント

途中で退職する場合は注意

傷病手当金の支給を受けている途中に退職する場合も、以下の条件を満たせば退職後も傷病手当金を受給できます。

  • 退職日までに健康保険の被保険者期間が継続して1年以上あること
  • 退職日に出勤していないこと
  • 退職後も引き続き労務不能であること

こうした条件を満たさない場合には、退職後に傷病手当を受給することができないので、十分に注意が必要です。

 

有給を使用している間は支給されない

傷病手当金は、給料の支払いを受けていないことが条件です。

したがって、有給を使用して休んでいる場合には、給料は受け取っていることになるので、傷病手当は使用できません。

有給を使用するのか、はじめから傷病手当を申請するのか状況に合わせて検討することが大切です。

 

 

労災と傷病手当についてのQ&A

労災申請中に傷病手当を申請できますか?

労災申請中に傷病手当金の申請を行うこと自体は可能です。

なぜなら、労災申請と傷病手当金の申請を同時に行うことは、申請を同時に行っているだけで補償を二重に受け取っているわけではないからです。

ただし、労災申請と傷病手当金の申請を同時に行った後、労働基準監督署から労災であるという認定がされた場合には、労災に切り替えられることになります。

このとき、健康保険から傷病手当金をすでに受け取っている場合には、受け取った傷病手当金を返還する必要があります。

なぜなら、傷病手当金を受け取ったままにすると、労災保険からの補償と合わせて二重に補償を受け取ることになるからです。

労災保険からの給付と健康保険からの傷病手当金とを二重で受給することはできないので注意しましょう。

なお、傷病手当金の申請を先行して行うことがあります。

傷病手当金を申請した場合に、労災の申請を同時に行っていることを説明すると、通常、労災保険給付の請求が認定された場合の傷病手当金返還の誓約書を提出する必要があります。

労災保険給付の請求が認定された場合の傷病手当金返還の誓約書を提出することで、傷病手当金の支給が仮決定されます。

 

労災認定されなかった場合に傷病手当をもらえる?

従業員がケガや病気になった原因の事故について、労働基準監督署から労災認定されなかった場合、傷病手当金を受け取ることができます。

前述のとおり、労災保険からの補償とは、業務中の出来事が原因でケガや病気等になった場合の補償のことをいいます。

他方、健康保険からの傷病手当金とは、業務外の出来事が原因でケガや病気等になった場合の手当金のことをいいます。

このように、労災保険からの補償と健康保険からの傷病手当金は、択一的な関係にあるため、それぞれの条件を満たすのであればどちらかの補償を受け取ることができます。

 

 

まとめ

以上、労災保険による補償と健康保険の傷病手当金について、両者の違いや支給金額、支給期間などについて詳しく解説いたしましたが、いかがだったでしょうか。

労災とは、「労働災害」を省略した言葉で、従業員が、業務中の出来事(出勤・退勤中の出来事も含みます。)によってケガ、病気、障害・死亡したりすることをいいます。

傷病手当金とは、従業員が、業務外の出来事によってケガ、病気、障害・死亡したりした場合の補償のことをいいます。

労災保険からの補償と傷病手当金との違いは、業務中の出来事かどうかで区別するため、どちらかの補償は受け取ることができます。

金額については、労災保険からの休業補償は、休業(補償)給付として「給付基礎日額」の60%、休業特別支給金として「給付基礎日額」の20%、合計80%が支給されますが、健康保険からの傷病手当金は、過去12ヶ月分の給与を平均した金額の約67%しか支給されないため、労災保険からの休業補償の方がお得といえます。

支給の期間についても、労災保険からの休業補償は、支給条件を満たす限り、症状固定日(治療終了日)まで支給されますが、健康保険からの傷病手当金は、通算1年6ヶ月という期間の制限があるため、労災保険からの休業補償の方がお得といえます。

補償を二重に受け取ることはできないため、労災保険からの補償と健康保険からの傷病手当金を同時に受け取ることはできません。

ただし、申請自体を同時にすることは可能なので、労災申請と傷病手当金の申請を同時に行うことは可能です。

当法律事務所の人身障害部には、様々なケースに応じた労災事故を取り扱う弁護士が多数在籍しているため、労災事故に精通した弁護士が、ご相談から事件解決までサポートさせていただくことができます。

労災事故では専門家によるサポートが不可欠なので、当法律事務所では、初回1時間無料で対面相談、オンライン相談など様々の方法で全国対応させて頂いております。

労災事故で少しでもお困りの方はお気軽にご相談ください。

あわせて読みたい
ご相談の流れ

 

 

労働者の方へのサポート
企業の方へのサポート
なぜ労災は弁護士に依頼すべき?
弁護士に依頼するメリット

続きを読む

まずはご相談ください
初回相談無料