会社で転んだ場合に労災?仕事中の転倒事例の注意点

監修者:弁護士 鈴木啓太
弁護士法人デイライト法律事務所 パートナー弁護士

会社で転んだら労災?会社で転んで怪我をした場合、それが「仕事中の事故」であれば労災となります。

ただし、「会社内で転んだ = 労災」というわけではありません。

労災と認められるには、業務との関係性や転んだ状況が重要になります。

この記事では、仕事中の転倒が労災と認められるかどうかの判断基準、認定される・されないケース、申請方法、注意点などについて、わかりやすく解説します。

「会社で転んでしまったけれど、これって労災になるのかな?」と悩まれている方は、ぜひ最後までご覧ください。

会社で仕事中に転んだら労災?

仕事中に会社の中で転んでしまった場合、「これは労災になるのだろうか?」と不安に思う方も多いのではないでしょうか。

実際のところ、会社で転んだからといって必ず労災が認められるわけではありません。

労災として給付を受けるためには、法律上の一定の条件を満たす必要があります。

ここでは、労災と認められるための要件や、誤解されがちなポイントについてわかりやすく解説します。

 

労災と認められるための2つの条件とは?

労災(労働災害)とは、従業員が業務に起因して負傷・疾病・障害・死亡などの被害を受けた場合に、労災保険から補償を受けられる制度です。

つまり、たとえ会社の中で転んだとしても、それが業務に関連していない事故であれば、労災としては認められません。

労災と認定されるためには、以下の2つの条件を満たす必要があります。

労災と認められるための2つの条件とは

業務遂行性とは、従業員が会社の支配・管理下で働いていたかどうかという視点です。

具体的には、勤務時間中であったか、上司の指示のもとで行動していたか、業務に必要な行動だったかなどが判断のポイントになります。

例えば、上司に頼まれて会議室に資料を取りに行く途中で転んだ場合は、業務遂行性があると判断される可能性が高いでしょう。

次に求められるのが、業務起因性です。

これは、怪我と業務との間に因果関係があるかどうかという視点です。

つまり、「その怪我は、仕事に関係する行動の中で起きたものなのか?」という点が問われます。

例えば、会社の床が濡れていたことに気づかず滑って転んだ場合や、重い物を運ぶ途中で足を取られてしまったようなケースでは、業務起因性が認められやすいといえるでしょう。

 

会社の中で転んでも労災にならないケースがある?

「会社の建物の中で転んだんだから、当然労災になるはず」と思っている方も多いかもしれません。

しかし、実際には会社内で起きた事故であっても、全てが労災に該当するとは限りません。

労災かどうかを判断する際に重視されるのは、「どこで起きたか」ではなく、「どんな状況で起きたか」です。

たとえ会社の敷地内であっても、私的な行動中や業務と無関係な行為中に転んだ場合は、労災と認められないことがあります。

一方で、たとえ会社の外であっても、業務の一環で移動している最中であれば、労災と認められるケースもあります。

つまり、労災の対象になるかどうかは、「会社の敷地内かどうか」ではなく、「その行動が業務と関係していたかどうか」がポイントになります。

会社の中で起きたから労災、外で起きたから対象外、という単純な判断ではない点に注意が必要です。

 

 

会社での転倒で労災と認められるケース

会社での転倒事故が労災として認められるかどうかは、前述のとおり「業務遂行性」と「業務起因性」の2つの要件を満たしているかどうかで判断されます。

例えば、上司の指示で会議資料を取りに行く途中に転んだようなケースでは、明らかに業務中の行動といえるため、労災として認定される可能性が高いです。

また、床が濡れていたり、滑りやすい素材が使われていたことで転んだ場合など、職場環境そのものに原因があるケースも労災として認定されやすい傾向にあります。

このように、「会社の支配・管理下で」「業務に関連する行動中」に発生した事故については、原則として労災保険の対象となる可能性が高いといえるでしょう。

 

 

会社での転倒で労災と認められないケース

一方で、会社の中で転んだとしても、必ずしも労災として認められるとは限りません。

事故が「私的な行動中」や「業務と無関係な状況」で発生した場合は、労災保険の対象外となる可能性があります。

例えば、休憩時間中に歩きスマホが原因でつまずいたり、自分の私物を整理している最中に転んだケースでは、業務との関連性が乏しく、労災と認められにくくなります。

また、職場のルールに反して立ち入り禁止エリアに入っていた場合や、業務と関係のないエリアで発生した事故も、「業務遂行性」が認められず、労災に該当しない可能性が高いでしょう。

さらに、ふざけていて転んだなど明らかに本人の不注意による事故の場合も、「業務起因性」が否定される可能性があります。

休憩時間中の転倒については微妙な判断になることが多いので、注意が必要です。

例えば、社員食堂へ向かう途中での転倒であれば労災と認められるケースもありますが、外食するために移動中の転倒であれば、基本的には労災の対象外と判断されます。

このように、似たような状況でも、労災の対象となるかどうかは「業務との関係性」によって判断が大きく分かれます。

自分のケースが労災に該当するのか迷ったときは、早めに労災に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。

 

 

仕事中の転倒で給付される労災の内容

会社で転んで怪我をした場合、労災と認定されると労災保険からさまざまな給付を受けることができます。

ここでは、転倒事故で特に関係することの多い代表的な3つの労災給付について解説します。

仕事中の転倒で給付される労災の内容

 

療養補償給付

転倒事故によって怪我をした際、まず対象となるのが「療養補償給付」です。

これは、転倒による怪我の治療にかかる費用を労災保険が全額負担してくれる制度です。

健康保険と異なり、従業員の自己負担はありません。

なお、補償の対象となるのは、医師の診断にもとづいて必要と認められた治療のみです。

通院・入院いずれも対象となり、湿布や包帯といった医師の処方による消耗品費もカバーされます。

ただし、ドラッグストアなどで自費購入した医薬品等については、原則として対象外となります。

あくまで、医師の診察に基づいて処方された範囲に限られる点に注意が必要です。

治療期間に上限は設けられておらず、必要があれば長期の療養も認められます。

「労災病院」や「労災指定病院」で治療をする場合は、労災保険が医療機関に直接費用を支払う形となるため、従業員の自己負担はありません(これを「療養の給付」といいます)。

一方、指定外の医療機関で受診した場合は、いったん自費で立て替えたうえで、あとから労災保険に請求する手続きが必要となります(これを「療養の費用の支給」といいます)。

この場合、申請書類や領収書の提出が求められるため、事前に確認しておくことが重要です。

 

休業補償給付

次に重要なのが業補償給付」です。

これは、怪我の治療のために仕事を休んだことで、収入が減少した場合に支払われる給付です。

この給付は、業務上の怪我による休業が3日間以上継続し、4日目以降も働けない場合に支給されます。

なお、最初の3日間は「待期期間」と呼ばれ、この期間は給付の対象外です。

給付額は、1日あたり給付基礎日額の60%に加えて、特別支給金として20%が加算されるため、合計で日給の80%相当額が受け取れます。

給付基礎日額とは、事故直前3ヶ月間の平均賃金日額のことです。

また、仕事に復帰しても通院のために時短勤務をしている場合など、部分的な休業でも対象になることがありますので、気になる方は弁護士に相談してください。

休業補償給付については、以下の記事で詳しく解説をしていますので、ぜひ以下のページもご覧ください。

 

障害補償給付

転倒事故によって体に後遺障害が残った場合は「障害補償給付」が支給されます。

後遺障害とは、骨折後に関節がうまく動かなくなる、脚を引きずるようになる、神経障害が残るなど、身体機能が完全に元に戻らない状態のことを指します。

後遺障害は、その重さによって1級から14級までに分けられており、等級に応じた給付を受けることができます。

後遺障害等級が1級〜7級の場合は、障害補償年金として、毎月一定額の年金が支給されます。

これに対し、8級〜14級の場合は、障害補償一時金として、まとまった金額が一括で支払われます。

後遺障害の等級は、医師の診断書やレントゲン画像などの医学的所見をもとに、労働基準監督署が総合的に判断します。

障害補償給付については、以下の記事で詳しく解説をしていますので、ぜひ以下のページもご覧ください。

 

 

転倒による怪我の労災の申請方法

仕事中に会社で転んで怪我をしてしまった場合、労災保険の給付を受けるには「労災申請」の手続きが必要です。

ここでは、申請の流れや必要書類、提出時の注意点についてわかりやすく解説します。

 

労災申請の基本的な流れ

転倒による怪我が業務災害と認められるためには、労働基準監督署への申請が必要です。

労災申請のおおまかな流れは以下のとおりです。

労災申請の基本的な流れ

 

①医療機関を受診する

怪我の治療を受けることを最優先しましょう。

 

②会社に労災申請の意思を伝える

会社に労災が発生した旨を報告し、必要書類の準備を依頼します。
書類には、原則として会社の証明が必要です。

 

③書類を労働基準監督署に提出する

書類を整えて労働基準監督署に提出します。
内容に問題がなければ、審査を経て給付金が支給されます。

申請書には、「どのような状況で、どこで、なぜ転倒したか」など、業務との関連性を具体的に記載することが重要です。

労災申請の手続きの流れについては、以下の記事で詳しく解説をしていますので、ぜひ以下のページもご覧ください。

 

必要な書類と入手方法

労災の申請にあたっては、給付の種類に応じた書類を用意します。

転倒による怪我の場合、主に以下の書類が該当します。

  • 療養の給付請求書または療養の費用請求書
  • 様式第5号または様式第7号(1)
  • 休業補償給付支給請求書
  • 様式第8号
  • 障害補償給付支給請求書
  • 様式第10号

これらの請求書は、厚生労働省のホームページからダウンロードすることができます。

引用:労災保険給付関係請求書等ダウンロード|厚生労働省

 

提出先と提出時の注意点

原則として、労災の申請書は会社の所在地を管轄する労働基準監督署に提出します。

ただし、労災指定医療機関で治療を受けた場合は、療養補償給付の請求書は治療を受けた医療機関の窓口に提出します。

提出時の主な注意点は次のとおりです。

  • 書類の記載漏れや誤記があると、審査が遅れる可能性がある
  • 医師の診断書や領収書など、添付書類も忘れずに準備する
  • 私的な怪我と誤解されないように、業務中の出来事であることを明確に記載する

会社が全面的に対応してくれるとは限らないため、自身でも手続きの流れを理解しておくことが大切です。

 

 

仕事中の転倒事故の注意点

仕事中の転倒事故は、労災保険から補償を受けられる可能性があります。

ただし、初期対応を誤ると必要な補償を受け損なうおそれもあるため、注意が必要です。

転倒事故の場合、事故の直後は軽傷に見えても、数日後に痛みや障害が現れることも少なくありません。

そのため、早い段階で正しい知識に基づいて対応することが重要です。

ここでは、仕事中の転倒事故に関して知っておくべき注意点を、わかりやすく解説します。

仕事中の転倒事故の注意点

 

労災になる可能性がある場合は健康保険は使わない

仕事中に転んだ場合は、原則として労災保険が適用されます。

誤って健康保険証を使って受診してしまうと、後から労災への切り替えや医療費の返還手続きが必要になるなど、余計な手間がかかる可能性があります。

受診時には、医療機関に対して「仕事中に負った怪我である」と伝え、労災扱いでの診療を依頼しましょう。

誤って健康保険を使用してしまった場合の対処法については、以下の記事で詳しく解説をしていますので、以下のページもご覧ください。

 

転倒の原因が会社にあるときは慰謝料を請求できる

労災保険は、治療費や休業補償などの「補償」が中心であり、精神的苦痛に対する「慰謝料」は含まれていません。

また、労災保険だけでは全ての損害をまかなうことが難しい場合もあります。

例えば、後遺障害による生活の質の低下や、長期的な経済的不利益などは、保険給付だけでは十分に補填されないこともあります。

こうした場合、会社側に事故の原因となる落ち度があれば、従業員は「安全配慮義務違反」に基づいて、会社に対して損害賠償(慰謝料を含む)を請求できる可能性があります。

安全配慮義務とは、会社が従業員の生命や健康を守るように配慮すべき義務のことであり、職場の安全対策や設備管理、環境整備などが含まれます。

そのため、床が滑りやすい状態を放置していたり、照明が不十分で足元が見えづらかったといった環境が原因で転んだ場合には、会社側の安全配慮義務違反を問うことができます。

 

怪我の程度が軽くても労災申請を検討する

「少しの打撲だから」「すぐ治るだろう」と自己判断してしまうと、後に症状が悪化しても補償を受けられない可能性があります。

特に捻挫や打撲、頭部の軽い打ち身といった転倒に伴う怪我では、当初は痛みが軽くても、数日後に腫れやしびれ、神経症状が現れるケースもあります。

このような症状の変化に備えるためにも、できるだけ早い段階で労災申請を行っておくことが重要です。

初期段階で労災として申請しておくことで、後から症状が重くなった場合でも継続的に補償を受けることが可能になり、安心して治療に専念することができます。

 

労災に強い弁護士に相談する

労災の認定や慰謝料の請求では、法律の知識だけでなく、事故状況に応じた証拠の収集が重要になります。

とくに転倒事故の場合、「滑りやすい床だった」「段差があった」「視界が悪かった」といった事故の原因が明確になりにくく、労災が認められにくいケースもあります。

「自分の不注意だと思われるのでは」「証拠が足りないかも」と不安を感じる場合は、早めに労災に詳しい弁護士へ相談することで、適切な対応や証拠の残し方についてアドバイスが得られます。

労災を弁護士に相談するメリットについては、以下の記事で詳しく解説をしていますので、以下のページもご覧ください。

 

 

会社での転倒についてのQ&A

会社での転倒事故について、よくある疑問にお答えします。

 

休憩時間中に転倒したら労災保険は利用できますか?

休憩中の転倒事故であっても、状況によっては労災保険の対象となります。

例えば、会社の休憩室や食堂で滑って転んだり、床の段差につまずいて怪我をした場合などは、会社の管理下にある施設で起きた事故として、労災として認定される可能性が高くなります。

また、トイレに行くといった生理的な行為中の転倒も、業務と密接に関連していると評価され、労災として扱われることがあります。

ただし、休憩中に敷地外へ出て私的な行動中だった場合や、業務と無関係な行動(ランニングなど)による転倒事故は、労災と認められにくい点に注意しましょう。

事故の状況や場所によって判断が分かれるため、迷った場合は弁護士に相談することをおすすめします。

 

通勤途中に転倒したら労災保険は利用できますか?

通勤中の転倒事故も、「通勤災害」として労災保険の対象になります。

例えば、会社へ向かう途中に駅の階段で足を滑らせた場合や、自転車通勤中に転倒して怪我をした場合などは、労災に該当する可能性が高いといえます。

ただし、「通勤」とみなされるには、合理的な経路・方法による移動中であることが条件です。

カフェに寄ったり、買い物などで通勤経路を外れた後の事故は「逸脱・中断」とされ、労災の対象外となる可能性があります。

 

治療費については、どのようにして支払われますか?

労災が認定された場合、治療費は原則全て労災保険から支給されます。

労災指定の病院で診療を受ける場合は、申請手続きをすることで窓口での自己負担なく、そのまま治療を受けられます。

ただし、指定外の病院を利用したり、申請前に通院した場合には、一度自分で費用を立て替え、「療養の費用の支給」という形であとから払い戻しを受けることとなります。

 

 

まとめ

会社で転倒してケガをした場合、それが労災として認められるかどうかは、「業務遂行性」や「業務起因性」といった要素で判断されます。

つまり、「会社の中で起きた」というだけでは不十分で、その転倒が業務と関係していたかどうかが重要なポイントになります。

また、労災保険によって治療費や休業補償は受けられるものの、慰謝料や逸失利益など、全ての損害がカバーされるわけではありません。

そのため、場合によっては会社に対する損害賠償請求を検討すべき場合もあります。

こうした判断には、法的知識と経験が欠かせません。

できるだけ早い段階で弁護士に相談し、最適な選択肢を見極めることが大切です。

弁護士法人デイライト法律事務所では、労災問題を専門的に扱う人身障害部の弁護士が、相談から事件対応まで一貫してサポートを行っています。

LINE、ZOOM、Meetなどを用いたオンライン対応にも力を入れており、全国どこからでもご相談可能です。

労災事故にお困りの方、社内対応に不安を感じている方は、ぜひ一度ご相談ください。

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