病院を訴えようとする場合、医療過誤に強い弁護士を探して依頼し、医療裁判を起こすことがほとんどです。
医療過誤が疑われるようなことが起こったときには、病院を訴えることをお考えになると思います。
ただ、病院の責任を追及する方法は、医療裁判だけではありません。
他に、示談交渉、医療ADR・民事調停といった手段を活用して、解決を図っていくこともあります。
また、上にご紹介した方法は民事上の損害賠償責任を追及する方法ですが、そのほかにも、刑事責任、行政上の責任を追及することも考えられます。
今回の記事では、病院を訴える方法、医師が負っている各種の責任及びその追及方法、病院を訴えるためにかかる費用、病院を訴える際のポイントなどについて解説していきます。
病院を訴える方法とは?
「病院を訴えたい」という方は、医療ミスに関する病院の責任を追及することを望んでおられることと思います。
医療ミスがあった場合に発生する病院(医師)の法的責任には、以下の3種類があります。
- ① 民事上の責任(いわゆる損害賠償責任)
- ② 刑事責任
- ③ 行政上の責任(医師免許の取消し、医業停止等)
①民事上の責任を追及したい場合には、損害賠償を請求する訴訟を起こすのが一般的です。
病院側が責任を認めている場合などには、示談交渉、医療ADRや民事調停によって責任追及を行うこともあります。
②刑事責任を追及するには、捜査機関に告訴状を提出して、刑事告訴を行います。
③行政上の責任追及は、主として、医師が刑事裁判で有罪判決を受けた場合に、厚生労働大臣が主体となって行います。
ただ、近年では、有罪判決を受けていない場合でも行政処分が行われる可能性もないわけではありませんので、患者側から医者の不適切な行為を指摘して、厚生労働大臣あてに働きかけることも考えられます。
それぞれの責任追及の方法について、より詳しく説明していきます。
民事上の損害賠償請求
損害賠償請求をするべく病院を訴える場合の流れは、以下のようになります。
弁護士への相談・依頼
病院を訴える場合、まずは、医療過誤に強い弁護士を探し、相談・依頼することが重要です。
医療訴訟は、医療に関する知識と法律に関する知識の両方が必要になる特殊な分野です。
そのため、医療過誤に関する経験が浅い弁護士に依頼していては、適切かつ有利に訴訟を進めることが難しくなります。
訴状の作成を例に挙げてご説明しましょう。
訴えを提起する際には、弁護士に訴状を作成してもらって提出します。
医療訴訟の場合、この訴状に、「医師のどの行為を過失と主張するか」について、具体的かつ明確に記載する必要があります。
医師の過失について的確に記載するには、医師の行為が過失であると裁判所に認めさせるためにはどのような証拠(医学文献、ガイドライン等)が必要になるかに関する知識・経験などが必要になります。
こうした知識・経験は、医療過誤に注力している弁護士でないと、十分には身に付けていない可能性が高いです。
さらに、裁判が始まった後でも、患者側の弁護士には、病院側の主張や反論が出された際に、きちんと理解して適切な反論をし、必要な医学文献などの証拠も集めるといった対応が必要とされます。
こうした対応が十分にできない弁護士に依頼してしまうと、裁判が不利になる、長期化するといったことが起こってくるおそれがあります。
病院を訴える場合には、医療過誤に強い弁護士を探すようにしましょう。
証拠の収集・検討
弁護士に事件について依頼すると、弁護士が、証拠の収集、検討等の準備を行います。
医療事件の場合なら、
- カルテを入手する(開示請求又は証拠保全)
- カルテを翻訳してもらう
- 協力医の意見を聞く
- 医学文献を入手し、検討する
といったことを行って証拠の収集・検討をし、病院側の法的責任を問えるかどうかの見通しを立てます。
方針決定
上のような検討を経て、医師の法的責任を問えるかどうかの見通しが立てられる段階になったら、弁護士と依頼者で話し合い、その後の方針を決定します。
勝訴できる見込みの程度、病院側の対応などを踏まえ、弁護士と依頼者で相談し、訴訟をするか、別の手続きを行うか、病院との示談交渉は行うか、又は責任追及を諦めるか、といった方針を決定していきます。
医療過誤事件の場合、責任追及を行う場合には、まずは病院に示談交渉の申入れをすることが多いです。
病院との交渉が上手くいかない場合や病院との交渉を希望しない場合は、
- 訴えを提起する
- 医療ADR・民事調停を活用する
といった方法で、病院の損害賠償責任を追及していきます。
多くの場合は、訴えを提起して、裁判によって損害賠償を請求しています。
ただ、病院側が責任をおおむね認めているような場合などは、医療ADR・民事調停を活用し、より迅速・柔軟な解決を目指すこともあります。
訴状の作成・提出
病院を訴えるべく訴訟を提起する場合は、事件を管轄する裁判所に訴状を提出します。
医療訴訟を管轄する裁判所は、原告となる患者や遺族の住所地又は病院の所在地を管轄する地方裁判所(又は簡易裁判所)となります。
請求額が140万円未満の場合には、簡易裁判所が事件を管轄するため、訴状は簡易裁判所に提出します。
ただし、医療事件の審理は複雑困難なものになることが多いので、ほとんどの場合、簡易裁判所から地方裁判所に移送されます(民事訴訟法18条)。
訴状を提出した後の流れ
訴状が受け付けられると、裁判所は、第1回期日を指定し、被告に訴状を送達します。
第1回期日までには、被告が答弁書を提出してきます。
その後は、裁判所で互いの主張・立証を提出し合って争点を整理し、審理を進めていきます。
双方の主張が出そろうと、証人尋問・本人尋問を行い、担当の医師などの話と原告(患者)側の話を聞きます。
その後、必要であれば、鑑定を行います。
証人尋問等や鑑定が終わり、証拠が出そろったら、審理が終結され、判決が出されます。
裁判所での審理は上のようにして進みますが、判決が出されるまでに、和解のための話し合いが行われることが多くあります。
特に、医療訴訟では、半数以上のケースが和解によって決着していますので、一度は和解を勧められることが多くなります。
医療過誤訴訟の手続の流れについては、以下のページをご参照ください。
医療訴訟の和解率については、以下のページをご覧ください。
刑事責任の追求方法
医師の刑事責任を追及したい場合には、刑事告訴を行います。
刑事告訴を行うには、捜査機関に告訴状を提出します。
告訴状は、一般の方でも作成することはできますし、警察に行けば作成してくれることもあります。
ただ、医療過誤問題は、医療知識と法律知識の両方が必要になる難しい問題であり、捜査機関も慎重に対応します。
そのため、単に告訴状を出したからといって、必ずしも医師が起訴されるわけではありません。
医師を起訴してもらえる可能性を少しでも高めるためには、医療過誤に強い弁護士に依頼し、「医師の行為は犯罪である」ということを、法律的にも医学的にも説得力のある形で告訴状にまとめてもらう必要があります。
医師を刑事告訴することを考えている場合は、早めに医療過誤に強い弁護士に相談することをお勧めします。
行政上の責任追及
医師が負う責任としては、行政上の責任もあります。
行政上の責任を問われると、医師は、医師免許の取消し、3年以内の医業停止又は戒告の行政処分を受けます。
これらの行政処分は、厚生労働大臣が行います。
行政処分が行われる主なケースは、医師が刑事裁判で有罪判決を受けた場合です。
本来は、有罪判決がなければ絶対に行政処分を下されることはない、という決まりになっているわけではありません。
しかし、実際には、医療ミスについては、刑事裁判で有罪判決が出されているわけではないケースで行政処分が行われることはほぼありません。
どうしても医師に行政処分をしてほしい、という場合には、
- 刑事告訴をし、医師に有罪判決が出るようにする
- 厚生労働大臣あてに行政処分を求める
といった方法をとることになります。
病院を訴えるためにかかる費用
病院を訴えるためにかかる費用には、以下のようなものがあります。
弁護士費用
医療訴訟を起こす場合は、弁護士に依頼するのが一般的です。
医療訴訟を起こす場合に弁護士に支払う費用(弁護士費用)としては、以下のようなものがあります。
項目 | 内容 | 金額の目安 |
---|---|---|
法律相談料 | 弁護士に依頼する前に法律相談をする際の費用 | 30分5500円~(初回無料としている法律事務所もあります。) |
調査費用 | 病院側の責任の有無について調査するために必要となる費用 | 11~44万円程度 |
着手金 | 弁護士に手続きを依頼する際に最初に支払う費用 | 医療訴訟を提起する場合、55万円~ |
報酬金 | 事件終了後、回収した賠償額から支払う費用 | 賠償額の11%~33% |
日当 | 弁護士が出張する場合に支払う費用 | 1日当たり1万5000円~(距離によって異なる) |
上記の金額は、事案の内容、相手方の主張内容などによっても異なりますし、法律事務所ごとの違いもあります。
実費
医療訴訟では、カルテの入手、病院に責任があるかの調査なども必要になりますので、これらに要する実費の負担も発生してきます。
実費としては、例えば、以下のようなものがあります。
- カルテ等の開示費用(数千円~10万円程度)
- カルテの翻訳費用(数千円~数十万円)
- 訴訟を提起する際の印紙代(数万円~100万円程度)
- 面談してくれた協力医への謝礼金(3~5万円程度)
- 協力医に意見書を作成してもらう費用(数十万円~)
- 印刷代、郵便代、弁護士の交通費など
病院を訴える際に必要となる費用については、以下のページで詳しく解説しておりますので、ご関心のある方はご覧ください。
病院を訴えるポイント
病院を訴える際に押さえておくべきポイントとしては、次のようなものがあります。
どのような過失を主張するか検討する
病院を訴える場合、「医師等の行為のどの点が過失であると主張するか」が大変重要になります。
どの行為を過失とするかを検討する際には、
- 医師に、「問題とする行為を避けるべきであった」という注意義務があったことを立証できるか
(医学文献、ガイドライン、医師の意見書などの証拠を揃えることができるか) - 過失とする行為と結果の間に因果関係が認められるか
といったポイントを押さえる必要があります。
これらの点に注意していないと、「医師の行為は最善とはいえないけれども、過失であるとは認められない」「医師に過失はあったけれども、そのせいで結果が生じたとは認められない」などとして、請求を退けられてしまいかねません。
因果関係に注意する
上でもご説明したとおり、過失と結果の因果関係を主張・立証できるかについても注意しなければなりません。
少し極端な例になりますが、「脳梗塞の手術をする際に医師に過失があり、患者が後に死亡したけれども、死亡した原因は飛行機事故だった」というような場合は、医師の過失(手術ミス)と死亡の間に因果関係が認められず、医師の責任を問うことは難しくなります。
過失を設定する際には、結果との因果関係が説明・立証できるかにも注意することを忘れないようにしましょう。
和解・示談をすることも考える
病院に損害賠償金を支払わせる方法は、病院を訴えることだけではありません。
訴訟を起こす前に病院と示談交渉をすることにより、解決している事案も数多くあります。
特に、病院側が責任を認めている場合は、病院を訴えるまでもなく、示談で解決できることが多いです。
訴訟となると、病院側にとって、
- 評判に傷がつく
- 医師やスタッフの負担が重い
- 時間・労力・費用がかかる
などのデメリットがあるため、積極的に示談による解決を図る傾向があるのです。
訴訟になった後でも、裁判の途中で和解をすることが多くあります。
実際、医療裁判のうち約半数は、和解により決着しています。
和解や示談によって解決することには、患者側にとっても、以下のようなメリットがあります。
- 訴訟にかかる時間や費用、労力を省くことができる
- 判決で敗訴してしまうリスクを無くすことができる
- 謝罪や説明、再発防止策など、判決では実現できないことを盛り込むことができる
病院を訴えることを考えている場合は、和解や示談によって解決できる可能性もあることを、頭においておきましょう。
医療裁判では和解が多いこと、医療裁判の和解率、和解のメリットなどについては、以下のページをご覧ください。
医療ミスに強い弁護士に相談する
病院を訴えるときに最も重要になるのは、医療過誤に強い弁護士に依頼をするということです。
医療裁判は、医療と法律の両分野に関する知識・経験が必要な特殊な裁判です。
例えば、医療裁判では、
- 医師の行為のどの点を捉えて過失と主張するか
- 協力医を見つけることができるか
- 協力医の話を理解し、依頼者に分かりやすく伝えることができるか
- 必要な医学文献などを探し出し、その内容を裁判官に適切に説明できるか
- カルテ、検査結果などについて、自分の主張に沿うように説明できるか
- 病院側の主張に対して的確に反論できるか
- 医療裁判の見通しについて依頼者が納得できるように説明できるか
- 損害賠償額について見通しを立てることができるか
といったことが大変重要になります。
これらの点に十分に対応し、訴訟を有利に進めるためには、医療過誤に強い弁護士に依頼することが大切になってきます。
医療過誤に強い弁護士に依頼することのメリット、医療過誤に強い弁護士を探す際のポイントなどについては、以下のページで詳しく解説しています。
弁護士や協力医のアドバイスを受け止める
弁護士に依頼をしたり、協力医にアドバイスを求めたりすると、様々な助言が得られます。
しかし、その中には、依頼者の方にとって喜ばしくないものもあります。
「病院を訴えてもそれほど多額の賠償金は得られない」などと言われることもありますし、「裁判をしても勝てる見込みがない」と言われてしまうこともあります。
裁判を始めた後でも、判決で白黒はっきりさせたいと思っているのに、「このまま進めても勝てそうにないから、このあたりで和解した方がいい」などと言われてしまうこともあります。
そのようなことを言われると、どうしても感情的になってしまうこともあるかもしれません。
特に、病院を訴えようとまで考えている方は、病院のせいで健康を損なった、ご家族など大切な方が亡くなったのは病院の責任だ、などとの思いを持っておられますので、上のようなことを言われてもすぐには受け入れられないのは当然でしょう。
しかし、ほとんどの場合、弁護士や協力医は、専門家の立場から、依頼者の方の利益のために助言をしています。
裁判を起こしたけれども負けてしまった、となると、依頼者の方は、費用、労力、時間などを空費してしまうことになりますし、精神的な負担も大きくなってしまいます。
そのため、弁護士や協力医は、勝訴できる見込みが薄い場合には、予めそのことを依頼者の方に伝えているのです。
もちろん、弁護士や協力医のアドバイスが絶対に正しいわけではありませんし、他の専門家のアドバイスを求めるのも良いかもしれません。
でも、弁護士などから意に沿わないアドバイスを受けた場合も、できれば一度、冷静に受け止めてよく考えてみていただけますようお願いします。
病院を訴える方法についてのQ&A
医療訴訟の勝訴率は?
これは、医療関係訴訟以外の裁判(通常訴訟)の認容率(勝訴率)が85%程度であることと比べると、非常に低い数字です。
このように、医療裁判で勝訴することは、簡単でないことは確かです。
ただ、医療訴訟には、通常訴訟に比べて和解で決着がつくことも多いという特徴があります。
和解により終局する割合は、裁判全体でみると35%程度ですが、医療関係訴訟では50%以上となっています。
和解をすると、多くの場合和解金を受け取ることができますので、和解により、実質的に勝訴又は一部勝訴の結果を得ているケースも多いのです。
医療裁判での勝訴率、和解率、和解が多くなっている理由などについては、以下のページで詳しく解説しておりますので、どうぞご参照ください。
病院のクレームはどこに言えばいい?
訴訟を起こす前に、まずは病院にクレームを入れたい、という方も多いでしょう。
ただ、医師の責任を追及したい場合、病院側が話し合いに応じてこない場合などには、上に挙げた窓口では十分な対応を行うことは難しいでしょう。
そのような場合には、一度、医療過誤に強い弁護士に相談してみてください。
まとめ
今回の記事では、医師の民事上の責任、刑事責任、行政上の責任、病院を訴える際の流れ、必要となる費用、病院を訴える際のポイントなどについて解説しました。
病院を訴える医療訴訟は、法律に関する知識と医療に関する知識の両方が必要になる難しいものになります。
患者側が医療訴訟を有利に進めるためには、医療過誤に強い弁護士を探し、相談・依頼することが大変重要になります。
当事務所でも、人身交通事故の対応に関連して医療に関する知識を積み上げてきた弁護士が、医療過誤に関するご相談をお受けしております。
オンライン、電話による全国からのご相談にも対応しております。
お困りの方はぜひ一度、当事務所までご連絡ください。