弁護士法人デイライト法律事務所 パートナー弁護士

インフォームドコンセントとは、簡単にいうと「医師から病状や治療について十分な説明を受け、患者が理解・納得した上で、自らの意思で同意(または拒否)すること」です。
治療は、患者の命や生活に深く関わる重要な選択です。
そのため、医師が一方的に決めるのではなく、患者・家族が病状や治療内容を十分に理解し、話し合いながら決めていく「プロセス」そのものを指します。
かつては、医師が治療方針を決め、患者がそれに従うのが当たり前でしたが、今は「自分の体のことは自分で決める」ことが、医療の基本になりつつあるのです。
本記事では、医療過誤にくわしい弁護士の視点から、インフォームドコンセントの意味や法律的な位置づけ、その必要性や問題点を解説します。
また、実際にインフォームドコンセントの有無が争点となった裁判例も紹介しながら、医療現場における注意点をわかりやすくお伝えします。
医療トラブルを未然に防ぎ、納得のいく治療を受けるために、ぜひ参考にしてください。
目次
インフォームドコンセントをもっと簡単にいうと?
インフォームド・コンセントの「三原則」
インフォームド・コンセントには、以下の三原則があります。

こうしたプロセスを経ることで、患者が自分の意思で治療方法などについて決定する自己決定権を保障し、尊重することができるのです。
【具体例】もしも「がん」が見つかった場合
がんが見つかった場合、以下のようなプロセスでインフォームド・コンセントが実施されることが理想であると考えられます。
がんの場合、少なくとも以下のような説明がなされるべきと考えます。
- がんの種類、部位、ステージの説明
- 選択できる治療方法(手術、放射線、化学療法、緩和ケアなど)の説明
- 各治療方法をとった場合の見通し(成功率、生存率、再発の可能性など)の説明
- 各治療方法のリスクと副作用の説明
- 治療に要する費用と期間の説明
がんの告知は、生命にかかわる衝撃的なものです。
患者に十分理解してもらうために、専門用語を噛み砕き、要所で質問がないか確認する、図解や資料を使用しての説明が求められます。
がんの治療方法の選択は人生における重大な選択です。
他の医師の見解を聞く権利があることを伝え、患者からの希望があれば紹介状を作成します。
その場ですぐに決断を迫らず、家族や友人と相談する時間を設けるべきです。
こうした時間の後、再度、説明の機会を設けることも検討します。
最終的に患者が決断した場合には、同意書を作成して、内容について十分説明し署名をすることになります。
インフォームドコンセントの定義と、法律上のルール
法律上、インフォームドコンセントの明確な定義があるわけではありません。
一般には、インフォームドコンセントは、医師が患者や家族に治療方針について、メリットとデメリットを十分に説明し、患者が説明を理解したうえで、自発的に治療方針を決定(同意)するプロセスと考えられています。
法律上の義務(医療法)
医療法1条の4第2項には、医師や看護師は「医療を提供するに当たり、適切な説明を行い、医療を受ける者の理解を得るよう努めなければならない。」と規定されています。
この条項は、インフォームド・コンセントの理念を条文化したものです。
また、民法上でも、医師と患者の間の診療契約から発生する報告義務(民法645条)から説明義務があると考えられます。
最も根本的な根拠としては、憲法13条に基づく自己決定権です。
どのような治療を受けるかは自分で決めるという自己決定権は憲法によって保障されているのです。
このようにインフォームドコンセントは、法律上、憲法上、保障されています。
歴史的な背景(ヘルシンキ宣言)
20世紀以降、医療技術が高まり、患者側の医師への期待が高まると同時に、欧米を中心の民主主義が発展し、「患者の権利」を求める声が強くなりました。
こうした中、1964年に開催された世界医師会で「ヘルシンキ宣言(ヒトを対象とする医学研究の倫理的原則)」が採択されました。
このヘルシンキ宣言により、インフォームドコンセントの概念が国際的に確立されました。
日本では、1997年に医療法の改正により、インフォームドコンセントについて努力義務として明記されたことを契機に、インフォームドコンセントの考え方が広がっていきました。
インフォームドコンセントが難しいケースとは?
インフォームドコンセントが難しいケースとしては、以下のケースが考えられます。
- 緊急に治療を施す必要がある場合
生命の危機があるような場合には、治療後に説明を行う場合があります。
- 意思疎通ができない場合
意識障害がある場合や、認知症や精神の病気により説明を理解できない場合には、家族などに説明を行うことになります。
- 患者が「未成年」の場合(インフォームド・アセント)
未成年者で説明を正確に理解できない年齢の場合には親権者などの保護者に説明することになります。
インフォームドアセントとは?
インフォームドアセントとは、小学生や中学生などに対して、発達段階や年齢に応じて治療方針などの説明を行い、本人の同意や納得を得るためのプロセスです。
動画や絵本、イラストなどを使用して、手術や検査について、分かりやすく説明します
法的義務として明記はされていませんが、子どもを一人の人間として扱い、その知る権利自己決定権を尊重するための重要な概念です。
インフォームドコンセントが抱える問題点・課題

①説明が形式的になる可能性があること
インフォームドコンセントでは、医師が、患者に理解できるように、治療等に関して説明する必要があります。
そのため、本来は、目の前にいるそれぞれの患者の状況、理解度、心情などに合わせて、患者が十分に理解できるよう、配慮して説明を行わなければなりません。
しかし、現状では、「これだけの説明をしていれば違法とはならないだろう」という内容を、どの患者にも一律に、同じように説明していることもあるのではないかと思われます。
これでは、本来必要とされている、「それぞれの患者が十分に理解した上での同意」が得られるか怪しくなってしまうという問題があります。
②緊急時にインフォームドコンセントを行うことの難しさ
緊急時にインフォームドコンセントを行うことの難しさも、インフォームドコンセントの問題点だといえます。
例えば、すぐに処置をしなければ命にかかわる上、本人の意識があいまいで、家族などとも連絡が取れていない、という状況では、インフォームドコンセントを行うことなく、処置をすることもやむを得ないでしょう。
上のように緊急性がはっきりしている例については、比較的ご納得いただきやすいと思うのですが、実際には、インフォームドコンセントを行う余裕があるか否かの判断が難しい場合もあります。
なるべく早く処置を行わないと命が危なくなる可能性も一定程度あるけれども、患者が意識を取り戻すまで待っても問題ない可能性もあり、見通しが難しい場合などには、インフォームドコンセントを行うために処置を先延ばしにすべきか、判断に迷うこともありえます。
このような場合の取扱いを明確化できないかどうかも、インフォームドコンセントの問題点の一つといえるでしょう。
③「知らないでいたい希望」も尊重する必要がある
患者の中には、「自分の余命が限られていることを知りたくない」などという人もいます。
患者がそのような希望を表明した場合、どのように対処すべきなのでしょうか?
このような場合、「知りたくない」というのもまた、患者の自己決定だともいえるので、この患者の意思を尊重し、インフォームドコンセントは行わないこととすることが考えられます。
厚生労働省による「診療情報の提供等に関する指針」でも、「医療従事者は、患者が「知らないでいたい希望」を表明した場合には、これを尊重しなければならない。」とされています。
とはいえ、医師には法的に説明義務が課されており、これに違反すると法的責任(賠償責任)を問われる可能性もある、という実情もあります。
この点を考えると、医師としては、「知りたくない」と言っている患者にも、念のため、後で訴訟を起こされないために、インフォームドコンセントを行っておきたくなるかもしれません。
また、手術などの治療の必要性がある場合に、「この手術・治療を行わないと命が危ない」ということを告げることができないとなると、どのように手術の必要性について説明をしたらよいかが難しくなることもあり得ます。
患者が「知りたくない」という希望を出している場合にどのように対応するかも、インフォームドコンセントの一つの課題といえるでしょう。
「言った言わない」のトラブルを防ぐ3つのポイント
①書面で説明してもらう
手術などをする場合では、多くのケースで書面での同意書をとることが一般的です。
書面に沿って説明してもらうことで、「聞いていない」ということを防ぐことができます。
書面に記載されたことが説明された場合には、最後に、署名をして手術等の医療行為を行うことに同意します。
②理解できるまで質問する
書面での説明を受けても、理解できていないまま、署名してしまうと、「聞いていない」というトラブルが発生する可能性があります。
1つ1つ分からないこと、引っかかることがある場合には、医師に質問して納得するまで確認することが大切です。
③録音をしておく
後で、聞き直すことができるように医師の説明を録音することも考えられます。
医師に、録音することを伝えた上で、録音しておきましょう。
録音しておくことで、医師が説明したこと、説明しんかったことを明確に証拠として残すことができます。
実際に「説明不足」が争点となった事例(裁判例)
以下では、実際に説明不足(説明義務違反)で損害賠償が認められた事例を紹介します(富山地裁平成29年12月27日判決)。
超低出生体重児として生まれたAさんは、生後約4年で肺炎を発症し、その後、MRSA感染症と診断されました。
治療として、抗菌薬アルベカシンが投与されました。しかし、アルベカシンが原因と考えられる腎不全を発症し、その後、急性腎不全となり呼吸不全で亡くなりました。
遺族は、病院側の過失を主張して損害賠償請求をした事案です。
遺族は、様々な過失を主張しましたが、裁判所は、アルベカシン投与中の血液検査などによる管理が不十分であったこと、アルベカシンの副作用として重篤な腎機能障害があることの説明を怠ったことの2点のみ過失を認めました。
しかし、いずれの過失もAさんが亡くなったこととの因果関係はないと判断し、死亡したことの損害賠償を認めませんでした。
ただし、アルベカシンの副作用に関する説明義務違反があったことについて、この説明義務違反による遺族の驚きや悲しみは大きかったと評価し、慰謝料として300万円を認定しています。
このケースでは、説明義務違反(説明不足)を認めているものの、「死亡したこと」に対する慰謝料は認めていません(認められたには「説明を受けることができなかった」ことへの慰謝料です)。
これは、アルベカシンの投与は医学的に誤りではなく、仮に説明を受けていたとしても、アルベカシンの投与は実施されていたと考えられるからです。
説明を受けていれば、説明を受けた両親がアルベカシンの投与に明確に反対し投与がされなかったであろうと認定できるのであれば、死亡したことを損害とすることはできますが、アルベカシンの投与自体は医学的に誤っておらず、両親にそこまでの医学的知識はないので、こうした認定はできないのです。
説明義務違反の場合、「説明してもらえなかったこと」自体への慰謝料は認められることは多いですが、それを超えて、「死亡」や「症状の発症・悪化」までもを損害として捉え慰謝料などの損害を認めさせることは難しいのです。
まとめ
この記事では、インフォームドコンセントについて、意味、法律上の根拠、必要性と問題点、各種裁判例について解説しました。
インフォームドコンセントは、患者の自己決定権を保障するための大切なものです。
インフォームドコンセントが十分に行われていなかった場合、患者は、医師に対し、説明義務違反による損害賠償(慰謝料)を請求することができます。
医師の説明が十分でなかった、とのご不満をお持ちの方は、一度当事務所までご相談ください。
当事務所では、交通事故、労働災害などの各種事件を取り扱う中で医療に関する知識も身に付けてきた人身障害部の弁護士が、インフォームドコンセントに関するご不満をはじめとした、病院に関連するトラブルのご相談に対応しています。
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