弁護士法人デイライト法律事務所

医療事故とは、医療が関わる場所で発生した人身事故全般を指します。
そのため、患者以外にも、医療従事者が被害者となった事故も医療事故に含まれることになります。
医療事故が発生したことについて病院に責任がある場合は、損害賠償の対象となったり、行政的なペナルティの対象となったりします。
これから、医療事故について詳しく解説していきます。
医療事故とは?厚生労働省の定義と範囲

医療事故とは、診察、治療、検査、看護など医療の全般において発生した人身事故の総称のことです。
患者側だけでなく、医療従事者が被害に遭った場合や、予期せぬ過失の有無にかかわらず発生したすべてのトラブルが含まれます。
具体的には、間違った投薬や誤診などの医療行為そのものによる損害だけでなく、廊下での転倒やベッドからの転落事故なども医療事故として扱われます。
医療事故の発生件数
医療事故の発生件数について、医療調査制度において、医療事故であると報告された件数は、375件(2025年)です。
ただし、すべての案件が医療調査制度により把握されているわけではありません。
したがって、実際の医療事故の発生件数は、もっと多いと考えられます。
なお、以下は、一般社団法人日本医療安全調査機構の支援センター・医療事故調査の報告による医療事故発生件数の推移です。

参考:一般社団法人日本医療安全調査機構 医療事故調査・支援センター事業
医療事故調査制度について
医療事故調査制度は、平成26年6月に改正、翌年10月に施行された、医療法に盛り込まれた制度です。
この制度は、医療事故が発生した医療機関において院内調査を行い、その調査報告を民間の第三者機関(医療事故調査・支援センター)が収集・分析することで再発防止につなげるための医療事故に係る調査の仕組みです。
この制度の目的は、医療の安全を確保するところにあります。
医療事故調査の流れは以下のようになります。

医療事故と医療過誤・医療ミスの違い
医療事故とは、医療の過程で発生した人身事故の総称です。
患者側の被害だけでなく、医療従事者のケガや死亡も含みます。
注意すべき点として、医療事故は「医療側の落ち度(過失)の有無を問わない」という点です。
正しく適切な医療行為を行っていたにもかかわらず発生した不可抗力の事故や副作用も、医療事故に含まれます。
一方で、医療過誤(いりょうかご)や医療ミスは、医療従事者に「過失(不注意やミス)」があったケースを指します。
医療ミスは日常的に使われる一般的な表現であり、法律上の専門用語としては「医療過誤」と呼ばれます。
つまり、医療過誤・医療ミスは、医療事故の中でも「事前に予測や回避ができたのに、注意を怠ったことで発生した事故」といえます。
両者の違いを整理すると、以下のようになります。
| 区分 | 過失の有無 | 例 |
|---|---|---|
| 医療事故 | 問わない | 予期せぬ副作用、正しく処置した後の急変、医療過誤など |
| 医療過誤 | あり | 薬の投与量の誤り、手術ミス、確認不足による取り違えなど |
医療事故の中でも、医療従事者に過失がある「医療過誤」に該当する場合には、病院側に対して損害賠償を請求できる可能性があります。
医療事故の事例をご紹介
医療事故は、医療が関わる場所で発生した人身事故全般を指しますので検査から延命治療まで幅広い段階で起こり得ます。
ここでは、代表的なものを3つ紹介いたします。
診察における医療事故
具体例 診察に当たった医師がその当時、当然に行うべき診察・検査を行わず、ガンが見過ごされた。その数年後、ガンが発見された時には、ステージ4となっていた場合。
この場合、医師として当然に行うべき診察・検査を行えば、初期のガンを発見できたと認められた場合には、医師や病院は責任を負うことになります。
投薬における医療事故
この場合、問診が十分に行われていれば、A薬ではなくB薬を処方すべきであったことが一般的な医師として当然と認められれば、医師や病院は責任を負うことになります。
手術における医療事故
この場合、医師に過失があるときは、医師や病院は責任を負うことになります。
院内生活における医療事故
嚥下機能が弱っており、食事に配慮が必要な患者の場合、病院は患者の誤嚥のリスクを予見することができます。
予見できたにも関わらず、食事を細かく刻むなど必要な措置を講じていない場合には、病院に責任追及できる可能性があります。
医療事故の事例について詳しくは以下をご覧ください。
医療事故のランキング
医療事故調査・支援センター 2025年 年報において報告された、事故の起因となった医療内容を見ると以下のとおりの順位となります。
- 1位 手術(分娩を含む):158件
- 2位 処置:39件
- 3位 医療機器の使用:28件
1位 手術(分娩を含む):158件(全体の42.1%)
人に対するダメージが大きく、刻一刻と目まぐるしく状況が動く手術が1位となっています。
さらに手術の中でも、経皮的血管内手術※(29件)、その他の内視鏡下手術(28件)、開腹手術(27件)が上位となっています。
※腕、脚の血管が途中で詰まって(詰まりかけて)いる際に、その詰まっている部分に風船のついたカテーテルを入れ、風船をふくらませて血管を広げる手術のことを言います。
2位 処置:39件(全体の10.4%)
参考サイトにおけるデータでの「処置」とは幅が広く、治療行為のうち、投薬注射・リハビリ、手術、麻酔、放射線治療、医療機器の使用を除くすべての医療行為を指していると思われます。
処置は、治療を行う際にほとんど常に行われていますので、その対象となる行為の多さから2位となっている印象です。
3位 医療機器の使用:28件(全体の7.5%)
医療事故調査・支援センターの年報には、「医療機器の使用」の内容について明確な定義付けはされていません。
一般的には、医療機器とは、人工呼吸器、電気メス、輸液ポンプなど、疾病の診断、治療、予防に使用されることを目的とした機械器具のことを指します。
したがって、こうした医療機器の使用方法の誤りやエラーによる医療事故の発生を指していると考えられます。
医療事故の責任とは?
医療事故の責任には、民事上のもの、刑事上のもの、行政上のものがあります。

民事上の責任
医療事故があって、患者が死亡したり、障害を負ってしまった場合、その原因は医師や看護師などの医療従事者の過失によって引き起こされたと認められるときには、医療従事者や病院は被害者やその遺族に対して賠償責任を負います。
民事上の責任が認められるケース
医療従事者や病院が民事上の責任(賠償責任)が認められるためには、以下の要件を満たす必要があります。
- ① 医療事故があったこと
- ② 医療従事者に過失があること
- ③ 医療従事者の過失によって、患者が死亡したり、障害を負ったりしたこと
- 賠償請求が認められるには、②医療従事者の「過失」(その時にすべきであった医療行為をしなかったこと)が存在すること、医療従事者の過失と結果発生が「よっての関係にあると言えるか」(因果関係)が存在することが前提となります。
賠償の範囲
患者に発生した損害について賠償が認められることになります。
例としては、医療事故によって余計にかかった治療費、その期間の休業損害、死亡した場合の逸失利益(生存していれば得られたであろう収入)、慰謝料などです。
代表的なものを以下の表にお示しします。
- 医療事故が原因で必要となった治療費
- 医療事故が原因で必要となった通院交通費
- 医療事故が原因で必要となった治療期間の休業損害
- 医療事故が原因で必要となった治療期間に応じた慰謝料
- 後遺障害や死亡した場合の減収(逸失利益)
刑事上の責任
医療事故において、医療従事者に過失があって、それが原因で患者が死亡したり後遺障害を負ってしまったりした場合には、医療従事者は、刑事上の責任を負う可能性があります。
刑事上の責任とは、逮捕ではなく、裁判所が拘禁刑や罰金を課すことを言います。
刑事責任に関する捜査は警察が行い、刑事裁判の提起は検察官が行いますので、被害者が刑事裁判を起こすことはできません。
もっとも、被害者も警察官や検察官に被害届を出すなどをして、刑事責任を求めるという意思を表明することもできます。
医療事故の場合、医師に過失があるときには、業務上過失致死傷罪に該当して刑事責任を負う可能性があります。
業務上過失致死傷罪は、「5年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金」と規定されています(刑法211条)。
医療事故について、被害届の提出があった場合などには、警察による捜査が行われ、検察官によって刑事裁判を起訴するかどうかが判断されます。
その際には、犯罪が成立していると断言できないため検察官が起訴をしないという判断、略式起訴をして罰金刑を科すという判断、あるいは、今回限りは起訴をしないという判断があり得ます。
検察官の判断がおかしいと思った場合には、検察審査会に申立を行うことも可能です。
刑事事件の流れについて、詳しくはこちらをご覧ください。
行政上の責任
医療事故があった場合、その医療事故に関して、以下の表に記載されている事由がある場合、行政上の責任追及として、厚生労働大臣から、医師に対して処分をすることがあります(医師法7条1項)。
- ① 心身の障害により医師の業務を適正に行うことができない者として厚生労働省令で定めるもの
- ② 麻薬、大麻又はあへんの中毒者
- ③ 罰金以上の刑に処せられた者
- ④ 医事に関し犯罪又は不正の行為のあった者
- ⑤ 医師としての品位を損するような行為のあった者
この表の中で医療事故に関連するものは、③〜⑤になります。
医療事故について医師に過失がある場合には、業務上過失致死傷罪として5年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金に処される可能性があります。
その場合には、③罰金以上の刑に処された者や、④医事に関し犯罪のあった者に該当します。
また、医療事故の状況によっては、刑事裁判で有罪になったかどうかに関係なく、⑤医師としての品位を損するような行為のあった者に該当する可能性もあります。
また、厚生労働大臣は、医道審議会の意見を聴いた上で、以下の処分を行うことができます(医師法7条1項、3項)。
| 処分 | 内容 |
|---|---|
| 戒告 | 注意をし、反省を促すこと |
| 3年以内の医業の停止 | 医師としての仕事の停止 |
| 免許の取消し | いわゆる医師免許の剥奪 |
医療過誤の責任について詳しくは以下をご覧ください。
医療事故で病院に損害賠償請求する際の4つの注意点
被害にあった患者が医療機関側に対して、直接請求できるのは民事上の損害賠償請求になります。
以下では、4つの注意点について説明します。
①医療過誤であることを立証する「証拠収集」が必要不可欠
医療過誤の訴訟では、医療機関側の過失と損害、因果関係を証明しなければなりません。
こうした証明は、医学的根拠をもって主張立証する必要があります。
したがって、患者のカルテ、検査結果、看護記録、医療文献、医師の意見書など、医学的な資料を証拠として収集することが重要です。
医療記録は、相手の医療機関が保有していますので、開示の手続きが必要になります。
②損害賠償請求権には「消滅時効」がある
消滅時効とは、事故から一定の期間が経過すると、損害賠償請求権が消滅してしまう制度です。
医療過誤の法的な請求根拠としては、不法行為に基づく請求と債務不履行に基づく請求の2つがあります。
不法行為に基づく請求の場合、損害及び加害者を知ったときから5年、または医療事故が発生した時から20年で時効が完成します。
債務不履行責任については、権利行使できることを知った時から5年、または、権利を行使できるときから20年です。
ただし、債務不履行に基づく請求の場合、2020年4月1日よりも前の事故の場合は権利を行使することができるときから10年が消滅時効となります。
医療過誤の請求には医療記録の収集と検討で時間がかかることが多いため、早めの対応が重要です。
③民事上の賠償責任と刑事責任は別物
民事上の賠償責任は、金銭的な請求です。
他方で、刑事責任は国が医師に対して刑罰を科すものであって、全くの別物です。
刑事責任が無い場合でも、民事上の責任は認められることもあります。
④解決までに数年を要することもある
医療過誤の損害賠償請求をするにあたっては、まず医療調査を行うことが多いです。
医療調査は、医療機関の過失や損害との因果関係などを調査します。
この調査に6ヶ月以上を要することもあります。
その後、示談交渉、裁判ということになれば、最終的な解決までに数年を要することもあります。
医療事故の相談先
医療事故があった場合には、弁護士に相談をしたほうが良いのは間違いありませんが、そのほかにも公的機関や専門の相談窓口があります。
- 医療安全支援センター
- 医療ADR
- 医療事故情報センター
- 日本医療安全調査機構
各自治体の医療安全支援センター
医療安全支援センターは、医療法に基づいて、公共団体によって設置され、医療機関、患者に対して、医療安全に関する助言および情報提供等を行っています。
医療安全支援センターは、日本全国で380カ所以上設置されています。
医療事故があったかもしれない場合には、医療安全支援センターにまずは相談してみても良いでしょう。
もっとも、医療安全支援センターは、医療事故に関する賠償金請求を行うことはできないので、まずは医療安全支援センターに相談して、その後に医療事故について責任追及したいと思った場合には、医療事故に詳しい弁護士に相談をすべきです。
参考:医療安全支援センター総合支援事業HP 全国の医療安全支援センター
医療ADR
医療ADRでは、医療従事者や病院の過失の有無という責任の有無の判断だけではなく、被害者側、医療従事者・病院側双方の話し合いの中で、適切妥当に解決することを目指しています。
医療事故に関する争いは、被害者にとっては、精神的、肉体的、経済的な負担が大変大きいです。
他方、医療事件の責任があると指摘される医療従事者にとっても、解決をするまで心の重荷を背負うことになります。
医療ADRでは、日本弁護士連合会が主催して、医療事故に関する争いの特質を踏まえて、医療紛争を解決する専門の裁判外の解決手続の確立、普及を目的として、活動しています。
裁判による手続きよりも早く判断が出ること、医療事故に詳しい弁護士が介入することがこの機関での手続きの特徴と言えるでしょう。
全国11都道府県に設置されており、東京、大阪、福岡などの大都市が主な設置地域になっています。
引用元:日本弁護士連合会HP 医療ADR
医療事故情報センター
医療事故情報センターとは、医療事故被害者の代理人として活動する全国各地の弁護士が正会員となって構成される任意団体です。
このセンターは、医療制度の改善、医療事故の再発の防止、医療被害者の救済などのために設置されました。
医療事故に関する情報を集め、特に医療過誤裁判を患者側で担当する弁護士のための便宜を図り、医療事故に関する弁護士相互の連絡を密にして、各地の協力医を含むネットワークづくりを通して、困難と言われている医療事故の裁判に立ち向かうために設置されました。
医療事故情報センターのホームページでは、医療問題について取り組んでいる弁護士の団体の窓口が掲載されています。
掲載されている都道府県は、30以上にも及びますので、お住まいの地域の相談先にお問い合わせいただくこともお勧めします。
参考:医療事故情報センターHP
日本医療安全調査機構(医療事故調査・支援センター)
医療事故調査・支援センターは、病院からの報告により収集した情報を整理、分析したり、その情報を公開したり、医療事故の調査への支援を行う機関です。
先ほどご紹介しました、医療事故に関する統計資料なども公表しており、医療事故の再発防止により医療の安全を確保する目的での活動を行っています。
また、医療事故調査・支援センターは、個人の責任を追及するために調査を行うわけではありませんので、民事上の責任追及である賠償金の請求は、別の手段を検討する必要があります。
参考:日本医療安全調査機構(医療事故調査・支援センター) HP
最終的には弁護士に相談するべき

公的機関に対する相談や公的機関による調査は、責任追及を目的としていないので、賠償金の獲得のために動いたり、そのためのアドバイスをもらえたりはしません。
また、法的な争いについては、弁護士だけが代理人となることができますので、代理人として、交渉や裁判など、相手方に対する責任追及を行うには、弁護士に依頼する必要があります。
最終的には、今後どうしたら良いのか、今後どのように責任を追及していけば良いのかを知りたい、協力してほしいという方は、医療事故を得意とする弁護士に相談をすることをお勧めします。
医療事故において弁護士に相談・依頼をするメリットをご紹介します。
法律のプロのアドバイスや協力が得られる
医療事故において弁護士に相談・依頼をするメリットは、弁護士は法律のプロであり、そのアドバイスや協力が得られることにあります。
医療事故における民事上の責任追及は、交渉によって合意ができない場合には、最終的に民事裁判で決着をつけることになります。
民事裁判においては、民法などの法律を今回の事故に適用して、どのようになるかを判断することになります。
そのため、法律のプロのアドバイスや協力が得られることが第一のメリットです。
依頼者のために戦ってくれる
相談の窓口として、先ほどは公的な機関も紹介しました。
もっとも、公的な機関は、医療事故の原因究明・再発防止を主な目的としており、被害者のために戦うというものではありません。
弁護士に依頼をすると、依頼者の代理人として、依頼者のために戦うことになります。
また、何か不安なことがあれば、質問に回答してもらって不安を解消することもできるでしょう。
心理的な面においても、実際の賠償金の獲得のためにも弁護士に依頼をするメリットは大きいと思います。
責任追及に必要な資料を集めてもらえる
医療従事者や病院に対し、民事責任の追及として賠償請求をするには、カルテや診断書などの医療記録を集めることが必要不可欠です。
弁護士に依頼をすると、弁護士が代理で病院に対して医療記録の開示を要請することになります。
また、病院が医療記録の開示に応じない場合には、裁判所を通じた証拠保全の手続きによって医療記録を入手することも期待できます。
そのため、責任追及をする土台を作るためにも弁護士に依頼をすることは有用です。
具体的な流れや対策がわかる
弁護士は、法律のプロで、裁判を行うことにも長けています。
そのため、今後の流れや裁判の見通しなども依頼者に伝えることができるでしょう。
個人の場合では、医療従事者や病院からの案を示されても、いいように言いくるめられようとしているのか、本当に、責任を認めて反省からの案なのかはっきりとわかりません。
その時に弁護士に相談・依頼をしていれば、この案で合意しても良いか、そうでないかを確認することもできます。
最終的に、できる限り適切な賠償金を獲得することにも繋がっていきます。
そのように最終的にできる限り、適切な賠償金を獲得するために弁護士に相談・依頼をするメリットがあります。
まとめ
これまで医療事故について解説しました。
医療事故の被害に遭ってしまった場合、当事者や病院に対して、賠償金を請求できる可能性があります。
しかし、医療事故があった場合の、後遺症と事故との関係性、医療従事者の責任の有無について証明することには、さまざまな点で困難なことがあります。
そのため、医療事故の被害に遭った場合には、どこかのタイミング、できればお早めに医療事故について詳しい弁護士に相談をすべきです。
デイライト法律事務所では、人身障害部を設け、医療事故をはじめとする人身障害に特化したチームを編成しています。
また、ZoomやLINEでの相談についても初回無料で対応しており、ご相談の予約は24時間受け付けております。
医療事故の被害に遭った方は、お気軽にご相談いただければと思います。



