結婚前の貯金で購入したマンションは共有財産と評価されてしまう?

弁護士法人デイライト法律事務所 弁護士  保有資格 / 弁護士・入国管理局申請取次者・3級ファイナンシャルプランナー

財産分与についての質問です。

私(夫)が購入したマンションは、2000万円でしたが、そのうち、800万円は私の結婚前からの預金で購入したものです。

しかし、このたび、離婚となって、このマンションが問題となっています。

妻は、このマンションは共有財産だと主張しており、このままでは、裁判所を使うことになりそうです。

私は、事実に基づいて2000分の800については、特有財産だと主張したいのですが、この主張を裁判所は認めてくれますよね?

 

弁護士の回答

立証次第では、認められず、マンションの全部が共有財産と評価されてしまうことはありえます。

 

結婚前からの預金で購入したという事実がある場合

まず、今回の質問者のように、夫が、マンションの購入資金2000万円のうち、800万円を、結婚前からの預金で購入したという事実がある場合、800/2000については、特有財産で、共有財産部分は、1200/2000ということになります。

仮にこのマンションの現在の時価を1500万円と仮定しましょう。

不動産の価値は、現在時価をベースに算出されます。

そうすると、このマンションについて、夫婦共有財産とされるのは、以下の部分となります。

  • 不動産の購入価格:2000万円
  • このうちの、夫の特有部分:800万円

として、不動産の現在時価1500万円に引き直すと、1500万円 ×(800/2000)= 600万円 が夫の特有部分になります。

そうなると、この不動産については、

  • 1500万円のうち、600万円分が夫の特有部分
  • 残りの900万円(1500万 − 600万)が夫婦共有財産

となります。

そのため、仮に夫がこの不動産を取得して、妻に対して代償金を支払う場合、夫婦共有財産分の900万円の半分に当たる、450万円を支払って清算することになります。

具体例 マンションの購入資金のうち、一部を結婚前の預金で購入した場合

【夫】特有財産部分+共有財産部分(2分の1ルール)

1500万円 ×(800/2000)+ 1500万円 ×(1200/2000)× 1/2
= 600万円 + 450万円

【妻】共有財産部分(2分の1ルール)

1500万円 ×(1200/2000)× 1/2
= 450万円

となります。

そのため、仮に夫がこの不動産を取得して、妻に対して代償金を支払う場合、夫婦共有財産分の900万円の半分に当たる、450万円を支払って清算することになります。

ただし、それは、上記の特有財産から支出した「事実」が認定された場合です。

 

 

不動産の購入資金に特有財産が含まれている場合の立証について

では、今回の質問のように、妻が、その「事実」を争ってきた場合、どのような立証があれば、特有財産と認められるのでしょうか。

この分析が、今回の回答のテーマになります。

立証できる場合

この点、夫名義の預金口座から、直接、800万円が不動産会社(売主)に送金されている場合、立証は簡単です。

預金口座の取引履歴にその旨が顕れますから、その取引履歴を証拠として取り寄せればすみます。

 

立証できない場合

問題は、それができない場合です。

裁判例では、以下のような場合に、立証不十分としてマンションの全部を共有財産と認定した例があります。

証拠①

  • 結婚前のある時点で、夫が、預金としてA銀行に1000万円を持っていたこと
  • それが、10年間で少しずつ引き出されて、マンション購入時には残高が200万円程度になっていたこと

証拠②

  • マンション購入時の夫作成のメモに「夫が800万円を負担する」旨の記載があること

裁判所は、これらの証拠だけでは、購入時の800万円を夫が支出したとまでは認められない、と認定しました。

したがって、立証次第では、認められず、マンションの全部が共有財産と評価されてしまうことはありえます。

不動産購入時に、当事者が作成したメモだけでは、当時の資金の流れを推認する手がかりにはなるものの、立証としては十分とはいえません。

このあたりの立証方法は、特有財産性を主張する場合のハードルになりますので、丁寧に資金の流れを説明できるようにしておきましょう。

財産分与については、こちらもご参照ください。

 

まとめ

離婚条件を協議していく中で、財産分与は特に重要な点です。

とりわけ、本件のように、財産分与の特有部分と非特有部分(夫婦共有部分)について疑義が生じ得るケースでは、財産の整理やその後の交渉は複雑になる傾向があります。

そのため、離婚に伴う財産分与についてお悩みの方は、専門の弁護士にご相談ください。

 

 

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