財産分与の対象財産を調べる方法|調べ方のコツと注意点

弁護士法人デイライト法律事務所 代表弁護士保有資格 / 弁護士・税理士・MBA

財産分与は、離婚の諸条件の中で、夫婦の生活に与える影響がとても大きい制度です。

財産分与の対象となる財産としては、不動産、預貯金、株式などの有価証券、保険、自動車、退職金などがあげられます。

財産の種類ごとに、調べる方法は異なりますが、離婚の専門家でなければ適切な調査は難しい傾向です。

ここでは、離婚問題に注力する弁護士が財産分与の種類ごとに、調査方法やノウハウ、注意点について解説しています。

財産分与でお困りの方はぜひ参考になさってください。

 

財産分与の対象財産の一覧

財産分与の対象となり得る財産毎に、内容の確認資料をまとめると、下表のようになります。

財産の種類 確認資料
不動産 登記簿謄本(現在事項証明書)や権利証
預貯金 通帳や取引履歴
株式等 金融機関からの通知書
保険 保険証券や保険会社からの通知書
自動車 車検証
退職金 退職金規程

上記の確認資料は一例であり、絶対にこの資料が必要というわけではありません。

ご状況に応じて臨機応変に対応する必要があるため、くわしくは離婚専門の弁護士までご確認ください。

以下、それぞれの財産ごとの調査方法のポイントについて解説します。

 

 

不動産の調べ方

時価の算定

自宅などの不動産がある場合はその時価を算出します。

時価は、不動産業者などに頼み、査定書を作成してもらうことで算定が可能です。

なお、当事務所では、不動産業者と連携しておりますので、スピーディに時価の算定が可能です。

不動産の査定については、不動産鑑定士に依頼すると、より正確にかつ信用性のある査定が可能となります。

しかし、鑑定料が高額ですので、費用対効果を考えると通常は不動産業者の査定書で十分です。

高額な物件で、査定がポイントとなるような場合にのみ、不動産鑑定士に依頼するとよいでしょう。

なお、固定資産税の納税通知書を見れば、不動産の評価額が記載されています。

この評価額は、課税のための評価額であって、財産分与のための評価額ではありません。

また、固定資産評価額は、時価よりもかなり低い場合が多いので、財産分与の算定資料としては参考程度に留めるべきでしょう。

住宅ローンの確認

離婚事案では、当事者の年齢が若いことが多く、ほとんどのケースでは住宅ローンなどが残っています。

ローンが残っている場合、不動産の評価は、時価からローンを控除して算出するのが家庭裁判所の実務です。

そこで、ローンの残高を調べておくことも必要です。

具体的には、住宅ローンを組んだときの契約書や支払計画書、残高証明書などで確認できます。

 

 

預貯金の調べ方

預貯金については、基本的には通帳の残高を確認します。

このとき、通帳のコピーをとっておいた方が無難です。

コピーするときは、現在の残高だけではなく、表紙から記帳されているすべてのページをコピーすることがポイントとなります。

後に通帳の履歴を見て、資産隠し等が発覚する場合もあるからです。

相手方が通帳を開示してくれない場合、弁護士会や裁判所を通じて銀行に対して取引履歴を開示してもらう方法があります。

また、相手方が資産隠し目的で預貯金を移動している疑いがある場合も、同様の方法で過去の取引履歴の開示が可能です。

過去の取引履歴については金融機関によって異なりますが、ほとんどの金融機関では10年前までは遡ることが可能です。

ただし、この弁護士会や裁判所を通じての開示請求は、金融機関名と支店名がわからないとできません。

そのため金融機関名と支店名についてはできるだけ調べておかれてください。

 

隠し口座を調べる方法は?

財産分与が問題となるケースの中には、相手(財産分与の支払義務者側)が口座を隠している場合があります。

このようなケースでは、様々な方法を検討すべきですが、隠し口座をもっている可能性が高い銀行に対して、弁護士照会によって、相手の口座の有無を調査するという方法があげられます。

例えば、自宅に銀行から封書や葉書が届いていたのであれば、その銀行に口座を持っている可能性が高いと考えられます。

また、自宅や勤務先のそばの銀行なども利用している可能性があるでしょう。

さらに、既に開示されている口座の取引履歴の中に、隠し口座の銀行名が記載されている可能性もあります。

例えば、既に開示されているA銀行の口座の取引履歴の中に、B銀行口座への送金履歴が残っていれば、B銀行に口座がある可能性があります。

なお、金融機関によっては弁護士照会では口座情報を開示しない場合も考えられます。

このような場合は、裁判所を通じて調査嘱託を申し立てることを検討します。

 

 

有価証券の調べ方

株式などの有価証券がある場合、その時価に調べます。

上場会社の株式

上場会社の株式については、経済新聞やインターネットなどで時価を調べることが可能です。

相手方が株式を持っているのかわからないという方も多くいらっしゃいます。

そのような場合、相手方の通帳を見ると、取引履歴から株式を持っていることが判明することもあります。

非上場会社の株式等

問題となるのは、非上場会社の株式や医療法人等の出資です。

実際に多いのは、夫が会社経営者であり、その会社の株式のほとんどを所有しているという場合です。

また、夫が医療法人の理事であり、出資しているという場合も典型です。

基本的には、これらの株式等も財産分与の対象と考えられますが、その評価が難しくなります。

このような場合、会社の財務諸表等の資料を揃え、複雑な方法で算出しなければならないので、公認会計士等に依頼して時価を算出することとなります。

大変な作業ですが、非上場会社の株式は、莫大な財産となる場合があります。そのため諦めずに、離婚専門の弁護士に相談されることをお勧めします。

なお、当事務所では、税理士資格を持つ弁護士が在籍しており、このような株価の評価も得意としております。

相手方が会社経営者や意思・医者の場合、株式等の評価は難しくなる傾向にあります。

 

 

保険の調べ方

生命保険や学資保険には、契約内容によって解約した場合に解約返戻金が発生するものがあります。

その場合には保険に財産的価値があると評価できるので、財産分与の対象となります。

保険については、まず、保険証券を確認します。

保険の種類によっては、保険証券に、契約時からの年数に応じた解約返戻金の額が記載されているものもあります。

この場合、保険証券からおよその解約返戻金の見込額を算出することが可能です。

保険証券にそのような記載がない場合、解約返戻金の見込額の証明書を保険会社へ連絡して取り寄せることとなります。

保険会社の窓口に連絡して、解約返戻金の見込額の証明書を発行してほしいと伝えると、自宅まで郵送してくれるでしょう。

なお、学資保険については、子どものためのものという理由で、財産分与の対象とはならないと考えてられている方が多くいらっしゃいます。

しかし、将来の教育資金のための保険であり、仮に裁判等で争うと、財産分与の対象になると判断される可能性が高いです。

そのため、今後の見通しを立てるために、解約返戻金の見込額は調べておくべきです。

 

 

自動車の調べ方

時価の算定

自動車の場合も時価相当額が財産分与の対象となります。

自動車については、中古車業者やディーラー等に見積もりを出してもらう方法があります。

また、インターネットで同じ車種、同じ年式の自動車の販売価格を調べるという方法もあります。

もっとも、自動車の場合、自宅ほどの価値がない場合がほとんどです。

そのため、高級車ではない場合、あまり複雑化させないようにするため、時価を算定しないことの方が多い状況です。

ローン残高の確認

不動産と同様に、自動車については、ローンで購入されている方が多くいらっしゃいます。

そのため、自動車についても、財産分与の対象とする場合は、時価から残ローンを控除して、評価額を算出します。

 

 

退職金の調べ方

退職金は、あくまで将来支給を受ける金銭であり、現時点では存在しないものですから、財産分与の対象として認められるか否かは一概にいえません。

しかし、退職金は、給与の後払い的な性格を有するものです。

そこで、裁判例には、退職金であっても、数年後に退職し、その時点での退職給付金の額が判明している場合、財産分与の対象となると判示しているものもあります。

また、家庭裁判所の実務上も、退職金の算出が可能な場合は、退職までかなりの期間があっても、財産分与の対象とする傾向にあります。

そこで、当事者が勤める会社に退職金制度がある場合、その証明資料を取り寄せることが必要となります。

具体的には、会社の証明書や退職金規定等になります。

なお、相手方が退職金規定を開示しないような場合、裁判所を通じて会社に提出してもらうという手続も可能です。

 

 

負債の調べ方

共同生活に必要な借金

自分や相手方に住宅ローンなどの借金(消極財産)がある場合、基本的には財産(不動産の時価等の積極財産)から控除することになるので、その残額を調べておきます。

また、住宅ローン以外でも、例えば、不足している生活費を補うための借り入れや教育ローン、自動車ローンなどの場合でも、積極財産から控除することになります。

例えば、夫婦の財産が次の場合を例にとって考えてみましょう。

具体例

夫名義の財産:自宅(時価 1500万円)、預貯金( 100万円)、生命保険(解約返戻金の見込額 300万円)、住宅ローンの残高( 1000万円)、教育資金のための銀行からの借り入れ( 300万円)

妻名義の財産:預貯金( 100万円)


上記の例では、積極財産が 2000万円となります。

1500万円 + 100万円 + 300万円 + 100万円 = 2000万円

しかし、消極財産が 1300万円あります。
1000万円 + 200万円 = 1300万円

したがって、この分を差し引くと、財産分与の対象財産は 700万円となり、夫婦それぞれが取得できるのは、 350万円となります。  700万円 ÷2 = 350万円

 

共同生活とは関係ない借金

上記の住宅ローン等の消極財産を積極財産から控除できるのは、夫婦や子どもの共同生活に必要な借金は、夫婦それぞれが連帯して責任を負うことが公平であると考えられているからです。

では、例えば上記の銀行からの借り入れの 300万円が、教育資金ではなく、夫がギャンブルのための借り入れたものである場合はどうでしょうか。

具体例 夫がギャンブルのための借り入れたものである場合

夫名義の財産:自宅(時価 1500万円)、預貯金( 100万円)、生命保険(解約返戻金の見込額 300万円)、住宅ローンの残高( 1000万円)、教育資金のための銀行からギャンブルのための借り入れ( 300万円)

妻名義の財産:預貯金( 100万円)


このような場合、共同生活に必要な借金ではなく、そのことで妻が連帯して責任を負うのは不当と言えます。

そのため、このような共同生活とは関係のない借金については、財産分与において、考慮されません。

したがって、積極財産から控除することなく、夫固有の借金として処理されます。

この例では、妻は 350万円ではなく、 500万円を取得できることになります。

2000万円 – 1000万円 = 1000万円
1000万円 ÷ 2 = 500万円

このような実務上の扱いから、借金がある場合、それが共同生活のために必要なものか否かを検討することがポイントとなります。

 

 

法的な手続きによって財産を調査する方法

財産調査においては、まずは相手に任意の開示を求めることがほとんどです。

弁護士が相手に対して財産開示の必要性を説明することで、任意に開示に応じてくれるケースが大部分を占めます。

しかし、中には開示してくれない、一応は開示に応じてもすべてを開示してくれない、といったケースもあります。

このような場合、以下のような法的措置を検討することとなります。

法的な手続きによって財産を調査する方法

弁護士会照会

弁護士が所属する弁護士会を通じて、金融機関などの第三者に対して、相手名義の財産の開示を求める方法です(弁護士法23条の2)。

参考:e-GOV法令検索|弁護士法

弁護士照会のメリットは、裁判手続外でも利用できることです。

他方で、金融機関など財産情報を保有している機関の中には開示に応じないことがあるため、この点がデメリットといえるでしょう。

 

調査嘱託

これは、裁判所を通じて金融機関に照会を行い、口座の取引履歴や残高を開示してもらうという強力な証拠収集手段になります。

相手が拒んでいたとしても開示が認められるという点で、強制力は高いといえます。

もっとも、全く手がかりがない場合には、裁判所も調査嘱託を採用してくれません。

裁判所に調査嘱託を促すためにも、前述のヒントを参考に手がかりを入手したいところです。

 

財産開示手続

財産開示手続は、執行力のある債務名義の正本※がある場等に、裁判所(相手の住所地)を通じて、財産に関する情報を取得するための手続です。

※財産分与の支払い義務が記載された公正証書、調停調書、判決書など

開示義務者(財産分与の支払義務者)は財産開示期日に裁判所に出頭し、財産状況を陳述することとなります。

相手が裁判所に出頭しなかったり、嘘をついたりした場合、「陳述等拒絶の罪」となります。

法定刑は、「6月以下の懲役または50万円以下の罰金」となっているため、強制力が期待できます(民事執行法213条)。

参考:e-GOV法令検索|民事執行法

他方で、この手続きは、「執行力のある債務名義の正本」等が必要であるため、協議離婚の段階では活用できないというデメリットがあります。

 

第三者からの情報取得手続

第三者からの情報取得手続は、執行力のある金銭債権の債務名義の正本※がある場合等に、裁判所(相手の住所地)を通じて、財産に関する下記の情報を第三者から取得するための手続です。

※財産分与の支払い義務が記載された公正証書、調停調書、判決書など

取得できる情報
  1. 不動産:不動産(土地・建物)の所在地や家屋番号
  2. 給与:相手対する給与の支給者
  3. 預貯金:相手の預貯金口座の支店名、口座番号、金額
  4. 上場株式、国債等:相手の上場株式や国債等の銘柄や数等

上記の①と②については3年以内に財産開示手続を先行していることが必要となります。

この方法も強制力が期待できますが、協議離婚の段階では活用できないというデメリットがあります。

 

 

財産分与と調査についてのQ&A

財産隠しがバレない方法はありますか?

夫婦が離婚をするとき、財産分与が必要となり、お互い財産を開示すべきです。

また、財産隠しをすると、紛争が長期化するなどしてデメリットの方が懸念されます。

したがって、財産隠しはお勧めできません。

 

財産分与前に通帳を解約できますか?

自分名義の口座の解約は可能です。

もっとも、基準時(通常は別居時)に存在する預貯金は、解約しても基本的には財産分与の対象となります。

 

 

まとめ

以上、財産分与の対象財産を調べる方法について、くわしく解説しましたがいかがだったでしょうか。

財産分与の対象となる財産には不動産、預貯金など様々な種類があり、財産毎に調査資料は異なります。

多くのケースでは、弁護士が相手に開示を求めることで、任意に開示してくれます。

しかし、相手が開示に応じない場合、弁護士照会、調査嘱託などの法的措置を行うこととなります。

財産調査を適切に行うために専門知識や豊富な経験が必要となります。

当事務所には離婚事件に注力する弁護士で構成される専門チームがあり、財産分与でお困りの方を強力にサポートしています。

財産分与については当事務所までお気軽にご相談ください。

 

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