家事従事者の後遺障害による逸失利益の算定方法は?

執筆者:弁護士 鈴木啓太 (弁護士法人デイライト法律事務所 パートナー弁護士)

弁護士の回答

一般的に、後遺障害の逸失利益は、以下のように算定します。

後遺症による逸失利益

基礎収入 × 労働能力喪失率 × 労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数

家事従事者の基礎収入は、女性労働者の平均賃金を使うことが多いです。

 

後遺障害による逸失利益とは

交通事故による後遺障害によって、得ることができた利益を得られなかった場合、その得られなかった利益を後遺障害による逸失利益といいます。

算定にあたっては、労働能力の低下の程度、収入の変化、将来の昇進・転職・失業等の不利益の可能性、日常生活上の不便等を考慮して行います。

 

 

家事従事者の基礎収入

主婦家事労働は金銭的に評価できます。よって損害の算定をすることができます。

基礎収入は、女性労働者の平均賃金(賃金センサス第1巻第1表の産業計、企業規模計、学歴計の全年齢平均賃金または年齢別平均賃金)を使います。

ただし男性の家事従事者であっても「女性」労働者の平均賃金となる場合がほとんどです。

なお、他の同居の家族と家事を分担している場合は、分担している割合に応じて基礎収入を算定されることが多いです。

家事従事者とは

性別・年齢を問わず、家庭のために主婦的労務に従事する人のことです。
例えば、料理、掃除、洗濯などを行っている人のことです。
もっとも、一人暮らしの無職の女性や男性は、家事を行っていたとしても、交通事故賠償の逸失利益の算定では考慮されません。
これは、家事労働が金銭的に評価されるのが、あくまで他人のために家事をしていることが前提となっているからです。

家事をしながらパートをしている場合

パートでの収入が平均賃金を超える場合

実収入額により算定します。

パートでの収入が平均賃金を下回る場合

平均賃金により算定します。

ただし、パート等の収入と家事労働に対応する賃金センサス平均賃金を合算しません。

 

 

労働能力喪失率

労働能力喪失率ですが、後遺障害で認定される等級により異なります。

基本的には、国が定めた下記の労働能力喪失率表に基づいて算定されます。

 

労働能力喪失率表

第1級 第2級 第3級 第4級 第5級 第6級 第7級
100% 100% 100% 92% 79% 67% 56%
第8級 第9級 第10級 第11級 第12級 第13級 第14級
45% 35% 27% 20% 14% 9% 5%



参照:別表Ⅰ 労働能力喪失率表|労働省労働基準局長通達(昭和32年7月2日基発第551号)

 

 

ライプニッツ係数

ライプニッツ係数を乗じるのは、中間利息を控除するためです。

労働能力喪失期間

【始期】症状固定日の年齢
【終期】原則として就労可能年数(67歳まで)

障害の内容、部位、年齢、職業、地位、健康状態などによって異なる期間で算定されることがあります。

ただしむち打ち損傷による後遺障害の場合は、以下の通り労働能力喪失期間は短くなります。
・12級の場合:労働能力喪失期間を5年から10年
・14級の場合:労働能力喪失期間は5年以下

 

 

専業主婦の逸失利益の計算例

具体例 42歳の専業主婦が交通事故で後遺障害が残り、第9級10号に認定された場合の計算例

【基礎収入】女子全年齢平均賃金382万6300円(賃金センサス平成30年度版)

【9級の労働能力喪失率】35%

【就業可能年数】67歳 – 42歳 = 25年

【25年に対応するライプニッツ係数(年金原価)】
令和2年3月31日までに発生した事故の場合:14.094
令和2年4月1日以降に発生した事故の場合:17.413


◼︎令和2年3月31日までに発生した事故の場合

382万6300円 × 0.35 × 14.094 ¬= 1887万4755円

◼︎令和2年4月1日以降に発生した事故の場合

382万6300円 × 0.35 × 17.413 ¬= 2331万9576円

以上が逸失利益となります。

ちなみに、令和2年3月31日までに発生した事故の場合と令和2年4月1日以降に発生した事故の場合で、400万以上の差があるのは、民法改正による影響です。

 

逸失利益


 
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