もらい事故とは|請求できる慰謝料や示談交渉の方法【弁護士解説】
目次
もらい事故とはどんな事故?
もらい事故は、何か厳密な定義があるわけではありません。
もっとも、一般的には、もらい事故は、被害者に全く過失がない事故のことをいいます。
もらい事故の過失割合
もらい事故は、上記のとおり、被害者に全く過失がない事故のことをいいますので、基本的に過失割合は10対0となります。
車同士におけるもらい事故(過失割合が10対0)となる事故の例は、以下のとおりです。
- 交差点で赤信号を無視した車両との出会い頭事故
- 信号停止中の追突事故
- 対向車がセンターラインを越えて正面衝突した事故
過失割合が10対0となる事例について、詳しくはこちらをご覧ください。
他方、一見もらい事故のように見えるが、過失割合が10対0とはならない事故は、以下のようなものです。
- 2車線道路において、被害者車両が直進していたところ、前方にいた加害者車両が隣の車線から急に進路変更してきた衝突した事故
→ 基本過失割合は、3(直進車)対7(進路変更車) - 信号のある交差点において、被害者が直進車、加害者が右折車の衝突事故(どちらも青信号の場合)
→ 基本過失割合は、2(直進車)対8(右折車) - 被害者車両が直進していたところ、道路外から道路に進入するために右折してきた加害者車両と衝突した事故
→ 基本過失割合は、2(直進車)対8(道路外から道路への右折車)
過失割合について、詳しくはこちらをご覧ください。
もらい事故が解決するまで
事故発生時から解決までの流れ
もらい事故に限りませんが、事故発生から解決までは以下の流れになります。
交通事故発生から解決までの流れについて、詳しくはこちらをご覧ください。
車両修理の流れ
車両の修理の一般的な流れ、以下のとおりです。
①修理工場を探す
まずは、車両を修理してくれる修理工場やディーラーを探します。
被害者自身が探した修理工場でもいいですし、相手方任意保険会社が提携している修理工場でも構いません。
②相手方任意保険会社に決定した修理工場の情報、修理工場への搬入予定日を伝える
特に、被害者が自ら決めた修理工場で修理してもらう場合は、事前に相手方任意保険会社に修理工場の情報(名称、所在地、電話番号等)を伝える必要があります。
これは、後の協定作業のための準備に必要な行為です。
また、修理工場への搬入予定日も伝えておくと、その後がスムーズに進行していくと思います。
③修理工場へ事故車両を搬入
自走ができる場合は、修理工場へ自ら事故車両を搬入することになります。
自走ができない場合は、レッカー等を利用することになります。
④修理工場が見積りを算出し、アジャスターが協定作業を行う
車両が修理工場へ搬入された後は、自動車の修理工場の担当者が修理費用の見積りを出します。
その見積りの内容を踏まえて、相手方任意保険会社の技術者であるアジャスターが、車両の損傷状態などを確認して、修理工場の担当者と修理費用の交渉を行います(これを「協定作業」や「協定」といいます)。
協定作業により、賠償としての修理費用が確定します。
⑤修理着手
賠償としての修理費用が確定した後は、実際に修理工場が修理に着手して修理を行います。
⑥被害者が修理工場から修理後の車両を受け取る
修理が完了したら、修理工場から連絡を受けた被害者が車両を受け取ります。
相手の保険会社との交渉は自分ですることになる?
もらい事故で被害者の保険会社が介入できない理由
もらい事故の場合、被害者がご自身で加入されている任意保険会社は相手方と示談交渉をしてくれません。
もらい事故は、過失割合が10対0なので、被害者の任意保険会社が示談交渉をしてしまうと、弁護士法72条に抵触してしまうからです。
第七十二条 弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。
弁護士法72条は、内容を簡略化すると、弁護士以外の者は、他人の法律事務を扱ってはならないというものです。
この点につき、もらい事故以外の事故では、被害者の任意保険会社が交渉しても弁護士法72条違反とはならないと考えられています。
例えば、被害者が2割、加害者が8割の事故が起きたとします。
この場合、被害者が相手方の損害を2割分負担しなければなりません。
そして、相手方の2割分の損害を、被害者が加入している保険を使用して保険会社に賠償をしてもらおうとする場合、保険会社は賠償金を支払う関係で「他人の法律事務」でなく「自己の法律事務」になります。
したがって、双方に過失が生じる事故では、保険会社が示談交渉をしても他人の法律事務を扱うこと禁止した弁護士法72条の違反とはなりません。
弁護士に代理交渉を依頼
上記のとおり、もらい事故の場合、自身の保険会社が交渉してくれないため、基本的には被害者が個人で相手方任意保険会社と交渉しなければなりません。
もっとも、相手方任意保険会社は交渉のプロなので、知識、経験、交渉力等で圧倒されてしまうことがあると思います。
そこで、もらい事故の被害者の方は、弁護士に委任し、弁護士に交渉を任せることを検討すべきでしょう。
特に、弁護士費用特約に加入されている方は、弁護士費用を支出せずに弁護士に依頼できる可能性があります。
交通事故で弁護士に依頼するメリットについて、詳しくはこちらをご覧ください。
弁護士費用特約について、詳しくはこちらをご覧ください。
慰謝料などもらい事故で請求可能な賠償金とは?
請求できる慰謝料には3つの種類がある
もらい事故に限らず、交通事故一般において、請求できる慰謝料には以下の3つの種類があります。
- ① 傷害慰謝料・・・入院や通院をすることで発生する精神的苦痛に対する賠償
- ② 後遺障害慰謝料・・・後遺障害等級が認定された場合等に発生する慰謝料
- ③ 死亡慰謝料・・・死亡した場合に発生する慰謝料
慰謝料の相場
慰謝料については、3つの異なる基準があり、その基準によって相場が異なってきます。
3つの基準とは、①自賠責基準、②任意保険基準、③裁判基準のことです。
慰謝料について、詳しくはこちらをご覧ください。
治療費
治療の必要性、相当性が認められる治療費については、損害賠償の対象になります。
加害者が対人賠償の任意保険に加入している場合、通常、保険会社が直接病院へ治療費の支払いをしてくれます(このことを、「一括対応」といいます)。
なお、治療費を加害者に請求できるのは、原則、症状固定時までです。
治療費について、詳しくはこちらをご覧ください。
症状固定について、詳しくはこちらをご覧ください。
なお、整骨院の施術費用については、施術の必要性や施術の有効性等が認められる場合に加害者に請求することができます。
整骨院の施術費用について、詳しくはこちらをご覧ください。
車の修理代
分損の場合は、適正価格の修理費用が損害として認められます。
ここで、分損とは、修理費用が、車両の時価額と買替諸費用の合計を下回る場合です。
他方、修理費用が、車両の時価額と買替諸費用の合計を上回る場合は、経済的全損となり、時価額と買替諸費用の合計の金額までしか加害者に請求できません。
修理費用 < 車両の時価額 + 買替諸費用
→ 賠償額は、修理費用相当額
(経済的全損)
修理費用 > 車両の時価額 + 買替諸費用
→ 賠償額は、車両の時価額 + 買替諸費用の範囲まで
経済的全損について、詳しくはこちらをご覧ください。
新車の場合は新車価格で請求できる?
新車の場合でも、分損の場合は修理費用相当額、経済的全損の場合は車両の時価額+買替諸費用の範囲までの賠償という原則は変わりません。
なお、分損の場合は、修理費用相当額に加え、評価損を請求できる可能性があります。
評価損について、詳しくはこちらをご覧ください。
経済的全損の場合は、新車の買い替えや、新車の価格と同等の金額を加害者に請求することはできません。
「もらい事故なのになぜ新車と同じだけの保障をしてもらえないのか?」と疑問に思われる方もいらっしゃると思います。
もっとも、過失割合がどうなるかという話(もらい事故かどうか)と、車両の賠償額はいくらが適正かという話は、理論上別物と考えられているため、このような結論になってしまいます。
新車でのもらい事故の賠償について、詳しくはこちらをご覧ください。
車が全損の場合でローンで支払いしていた時はどうなる?
車をローンで購入した場合、所有権留保特約というものが売主と買主の間に付けられていることが通常です。
所有権留保特約とは、買主が売買代金を完済するまでは、車の所有権は売主に帰属するという契約です。
所有権留保特約が付けられているかどうかは、車検証を見れば確認できます。
所有権留保特約が付けられている場合は、所有者の欄に販売会社等の名称が記載されているはずです。
では、所有権留保特約が付けられていて、ローン完済前にもらい事故に遭い車両が全損になった場合は、被害者は賠償金を請求できるでしょうか。
結論としては、原則、被害者は車両に関する賠償金を加害者に請求できません。
なぜなら、交通事故によって侵害されているのはあくまで車の所有権の侵害であり、ローン完済前は、売主(販売会社等)に所有権が帰属していることから、売主が賠償金取得の主体となるからです。
もっとも、事故後に買主がローンを完済した場合は、損害賠償請求権を取得すると考えられています(東京地裁平成2年3月13日判タ722号84頁、日本坂トンネル事故訴訟)。
判例 東京地裁平成2年3月13日判タ722号84頁(日本坂トンネル事故訴訟)
(判旨一部抜粋)
ところで、自動車が代金完済まで売主にその所有権を留保するとの約定で売買された場合において、その代金の完済前に、右自動車が第三者の不法行為により毀滅するに至ったとき、右の第三者に対して右自動車の交換価格相当の損害賠償請求権を取得するのは、不法行為当時において右自動車の所有権を有していた売主であって、買主ではないものと解すべきである(最高裁判所昭和四一年六月二四日第二小法廷判決・裁判集民事八三号三九頁は、この趣旨の判断を前提とするものと解される。)。しかしながら、右売買の買主は、第三者の不法行為により右自動車の所有権が滅失するに至っても売買残代金の支払債務を免れるわけではなく(民法五三四条一項)、また、売買代金を完済するときは右自動車を取得しうるとの期待権を有していたものというべきであるから、右買主は、第三者の不法行為後において売主に対して売買残代金の支払をし、代金を完済するに至ったときには、本来右期待権がその内容のとおり現実化し右自動車の所有権を取得しうる立場にあったものであるから、民法五三六条二項但し書及び三〇四条の類推適用により、売主が右自動車の所有権の変形物として取得した第三者に対する損害賠償請求権及びこれについての不法行為の日からの民法所定の遅延損害金を当然に取得するものと解するのが相当である。
(下線は、筆者による)
その他の物損について、詳しくはこちらをご覧ください。
もらい事故にあったら|被害者が行動すべきポイント
もらい事故にあった場合の、被害者が行動すべきポイントは、以下のとおりです。
①警察へ事故の報告
道路交通法上、交通事故が起きた場合、加害者のみならず、被害者の方も警察への報告義務を負っています(道路交通法72条1項)。
したがって、加害者の方が警察へ連絡する様子がない場合等は、もらい事故の被害者であっても、警察へ連絡してください。
②証拠の保全
怪我の状況にもよりますが、ある程度余裕がある場合は、以下の証拠を保全してください。
- 加害者の氏名、住所、電話番号を確認し、メモする
- ドライブレコーダーの映像の保存
- 車両の破損状況や怪我の状況を写真撮影する
- 目撃者の情報の確保
③警察の任意捜査(実況見分等)への協力
警察が事故現場に到着した後は、その当日や後日に実況見分などの任意捜査が行われます。
実況見分の内容を反映した実況見分調書が後々の証拠になる可能性があるので、特段の事情がない限り、任意捜査には協力し、事故状況等を正確に警察に伝える必要があります。
実況見分について、詳しくはこちらをご覧ください。
④車両の修理等の検討・負傷がある場合は病院への通院
車両に傷がある場合は、修理等を検討してください。
修理の流れは、上記の「車両修理の流れ」をご参照ください。
また、経済的全損の場合は、修理費用が全額保障されませんので(上記の解説参照)、そもそも修理するかは要検討です。
加えて、負傷がある場合は、早めに病院に通院してください。
事故から一定期間空いてからの通院は、事故との因果関係が否定されて、治療費等が支払われない可能性があります。
目安としては、事故当日から遅くとも3日以内に通院すべきであると考えています。
⑤ご自身の保険会社に連絡
もらい事故であっても、念の為、ご自身が加入されている保険会社に連絡されることをお勧めします。
理由としては、加入保険の内容によっては、加害者側の賠償以外で金銭を受領できる可能性がありますし、弁護士費用特約に加入していれば、弁護士に対応を依頼することができるからです。
⑥弁護士へ相談
交通事故は精神的な負担や保険会社への対応など、様々な被害者の苦労があるかと思います。
争点がある場合はもちろんですが、争点がない場合などでも、加害者や保険会社への対応を弁護士に一任できる可能性がありますので、弁護士にご相談されることをお勧めします。
まとめ
- もらい事故とは、過失割合が10対0の事故のことです。
- もらい事故の場合、基本的に被害者が加入している任意保険会社は交渉してくれないため、被害者自身が交渉するか、弁護士に依頼して弁護士が交渉することになります。
- もらい事故の場合は、治療費や慰謝料などの人損、修理費用などの物損が賠償の対象となります。
- もらい事故の場合、被害者が行動すべきポイントがいくつかあります。
もらい事故に遭った場合、相手方任意保険会社が提示してくる賠償案が適切なものかどうかが主に争点になってきます。
賠償案が適切かどうかは、交通事故を専門的に扱っている弁護士であれば判断が可能ですので、一度相談してみてください。
また、事故の初期でも、弁護士に依頼すれば、相手方任意保険会社とのやりとりを全て弁護士に任せることができますので、悩まずご相談ください。