社長が亡くなった場合、社長(経営者)が持っている株式はどうなる?

社長の妻や子供などの相続人の準共有状態となります。

 

具体例

例えば、経営者の株式が100株で、相続人が妻と長男と二男の場合、その100株すべてに対して妻が2分の1、長男と二男が4分の1の割合で共有する状態となります。

妻が50株、長男と二男が25株を分割して取得するわけではないので注意が必要です。

「共有」とは

所有権などある一定の権利が複数の主体によって支配・利用されている状態のことをいい、所有権以外の財産権の共有を準共有といいます。
共有の場合、変更行為(売買など)を行うには、他の共有者全員の同意を得なければならず、管理行為(賃貸など)を行うには、共有者の持分価額の過半数で決して行わなければなりません。
また、会社法上、株式の準共有については、基本的に持分の割合に従い、その過半数をもって、共有者の中から権利を行使する代表者を定めて会社に対して通知しない限り、その株式の権利を行使することができません(会社法106条)。

上記の例では、仮に、妻、長男、二男が対立すれば、代表者を決めることができず、権利を行使することができなくなり、迅速な経営ができなくなるという不都合が生じます。

このような事態を避けるためには、経営者が元気なうちに、あらかじめ後継者を定めておき、その後継者に対して、3分の2以上の株式を確保しておくことが必要です。

3分の2以上の株式を確保しておけば、会社の重大事項について後継者が決定できるからです。

したがって、上記の例では、例えば長男を後継者としたい場合、その長男に対して、生前贈与、遺言等の形で経営者が保有する株式を承継しておく必要性が高いといえます。

 

 

株式を後継者に承継させて、会社の事業引き継がせる方法は?

生前贈与や遺言があります。

 

生前贈与について

生前に株式を後継者に贈与する方法です。

この場合、次の点に注意する必要があります。

特別受益

特別受益とは、相続人の一部の者が生前贈与や遺贈により、他の相続人と比べて特別の利益を受けている場合、公平の観点から、その特別の利益を相続財産として扱うというものです。

したがって、生前に株式を長男に贈与しても、これが特別受益として扱われると、それ以外の財産を長男が取得できない可能性もあります。

遺留分減債請求

また、生前贈与や遺贈により受けた財産は、遺留分算定の基礎財産にも参入されることになります。

したがって、生前に株式を長男に贈与しても、遺留分算定の基礎財産として扱われてしまい、それ以外の財産を長男が取得できない可能性もあります。

贈与税

株式を生前贈与する場合、忘れてはいけないのは課税リスクです。

贈与税の課税方法には、通常の暦年課税と相続時清算課税制度の2種類があります。

暦年課税

暦年課税とは、1年間の贈与額に応じて贈与税を計算する方法であり、通常の課税方法です。
この暦年課税では、年間の基礎控除が110万円となっているので、1年ごとに時価で110万円分の株式を贈与するのであれば、課税はされません。

相続時清算課税制度

相続時清算課税制度とは、贈与を受ける者(長男)は、贈与により取得した財産の価額につき、累計で2500万円まで贈与税が加算されず、これを超える額について贈与税が加算される課税方式です。
この方式を選択すると、その贈与者からのその後の贈与はすべて相続時清算課税に取り込まれます。

このような贈与税の課税方式を考慮すると、経営者が比較的若いときに株式の承継を決めた場合、しばらくの間は暦年課税で年間110万円の基礎控除を受けながら一部の株式を贈与していき、その後相続時清算課税制度を選択して残りの株式を贈与すれば、節税のメリットを最大限活かせることとなります。

遺言

アンケート遺言状により株式を承継させる方法です。

この場合、遺留分減債請求に注意が必要です。

遺留分侵害額請求とは、遺留分を侵害された者が、贈与又は遺贈を受けた者に対し、遺留分侵害の限度で贈与又は遺贈された物件の返還を請求することです。

例えば、遺言により長男が株式を取得しても、妻や他の子が遺留分減債請求を行うことで、経営者の意思が反映されなくなる危険があります。

したがって、遺言を作成するにあたってはこの遺留分にも注意して作成する必要があります。

 

 

後継者へ株式や事業用資産を集中させる方法には、どのようなものがある?

生前贈与や遺言、会社や後継者による買取り、会社法の活用、信託の活用があります。

 

生前贈与・遺言について

老後経営者が所有している自社株式や事業用資産を後継者に集中させる方法としては、後継者への生前贈与や遺言の活用があります。

生前に何の対策もしないまま経営者が死亡すると、相続財産の大半が自社株式や事業用資産である場合、後継者がこれらを集中的に取得することについて他の相続人の同意を得ることが難しくなります。

したがって、経営者の生前に贈与をしたり、遺言を作成するなどして、予め対策を講じるのが有効です。

 

会社や後継者による買取り

経営者の死亡によって相続人間に自社株式や事業用資産が分散してしまう場合などには、会社や後継者が、これらを相続人などから買い取るという方法もあります。

買取資金調達の支援措置

自社株式の買取資金については、日本政策金融公庫、沖縄振興開発金融公庫株式会社、商工組合中央金庫から低利で融資を受けることが可能となっています。

ただし、後継者による買取りについては、平成20年10月1日に施行された経営承継円滑化法の金融支援措置として、経済産業大臣の認定を受けることが必要です。

 

会社法の活用

他にも、相続の際に自社株式(議決権)を後継者に集中又は分散を防止する方法として、①株式の譲渡制限、②相続人に対する売渡請求制度、③種類株式(議決権制限株式など)といった会社法の制度を活用する方法もあります。

①株式の譲渡制限

定款で、株式を譲渡する場合に会社の承認を必要とすることにより、自社株式の分散を防ぐことができます。

中小企業の多くは、定款に譲渡制限を定めていると考えられていましたが、中小企業庁が平成17年に行った調査では56.7%の会社しか譲渡制限を導入していなかったとの結果が出ています。

新たにこの制度を導入する定款変更を行うには、株主総会の特殊決議(総株主の人数の半数以上で、かつ、 総株主の議決権の3分の2以上の賛成)が必要になります。

②売渡請求制度

これは株式を相続した株主に対して、会社がその売渡しを請求できるようにするという方法です。

この制度を導入するには、定款変更が必要となり、定款変更のためには株主総会の特別決議(議決権の3分の2以上を有する株主の賛成)が必要です。

また、売渡請求を行う場合にも、その都度、特別決議が必要です。

売渡請求ができる期間は、相続等のあった日から1年以内に限られています。

③種類株式(議決権制限株式など)

株式会社は、普通株式のほかに、種類株式(剰余金の配当、議決権などの権利内容の異なる株式)を発行する ことができますが、自社株式(議決権)の集中や分散防止に活用できるのは、A議決権制限株式、B全部取得条項付株式、C拒否権付株式(黄金株)などです。

A:議決権制限株式

議決権制限株式とは、株主総会での議決権の全部又は一部が制限されている株式をいいます。
これを活用することにより、後継者には議決権のある株式を、それ以外の相続人には議決権のない株式を、それぞれ取得させて、後継者に議決権を集中させることが考えられます。
議決権のない株式の株主は、基本的に会社からの配当を期待するしかありませんので、非後継者に納得してもらうには、優先的に配当を実施するなどの配慮が必要となるでしょう。

B:全部取得条項付株式

全部取得条項付株式とは、会社が株主総会の特別決議によって、当該種類の株式の全部を取得できるという株式をいいます。
事業承継の場面では、例えば、会社代表者がオーナー会社の場合に、保有する株式を全部取得条項付株式に設定する株主総会の特別決議等を経るとともに、当該全部取得条項付株式をいったん取得した上で、事業承継者についてのみ新株を発行する等の方法で、少数株主を排除することが可能となります。
※このように、全部取得条項付株式は既存株主にとって影響が大きいため、反対株主の株式買い取り請求権や取得対価の規制が設けられています。

C:拒否権付株式(黄金株)

拒否権付株式とは、一定の事項について、株主総会決議のために、必ず、拒否権付株式の株主総会決議が必要、という株式をいいます。
例えば、重要な事項(役員の選任や剰余金の処分等)の決議について、多数の株主による株主総会で可決されても、少数の株主による拒否権付種類株主総会で否決すれば、その議案は最終的に否決されることになります。
このように強い効力を有するため「黄金株」とも言われています。
経営者が、自社株式の大部分を後継者に譲るけれども不安が残る、という場合には、経営者が拒否権付株式 を保有し、後継者の経営に助言を与えられる余地を残しておく、といった活用方法があります。
※拒否権付株式での注意点は、経営者と後継者の間で意見の対立が生ずると、どちらの議案も可決できない状態に陥る危険性があるということです。また、拒否権付株式は強い効力を有するので、万が一にも他の人の手に渡ることのないよう、できれば前経営者の生前に消却するようにしましょう。

 

信託の活用

信託とは、委託者が受託者に対して、一定の目的にしたがって、信託財産を移転し、財産の管理等に必要な行為をすべきことを委託することです。

事業承継にもこの信託を活用することができます。

例えば、委託者(現経営者)が受託者(信託銀行等)と信託契約を締結し、後継者を配当金の受益者とします。

その後、委託者が受託者に対して議決権行使の指示を出し、受託者は委託者の指図のもと議決権を行使します。

信託契約が終了したときに、委託者から受益者へ株券が交付されます。

この方法は、委託者が配当を受け取らないので相続財産上昇を抑えることが可能というメリットがあります。

しかし、受託者となる信託銀行等に対し、報酬を支払う必要があるので注意が必要です。

詳しくは事業承継に詳しい弁護士にご相談ください。

 

 



事業承継についてもっとお知りになりたい方はこちら

●事業承継とは
●事業承継の方法
●経営や資産を引き継ぐ方法
●社長(経営者)が所有する株式について
●遺留分による紛争を防止する方法について
●事業承継において相続税はどのように計算するのですか?









顧問弁護士へのリンク