● 医療ミスによって重篤な後遺症が残存してしまった
● 家族が医療ミスによって、病状が悪化し、死亡した
● 医師の説明不足により、思わぬ損害を被った

ここでは、このような医療ミスに起因する人身障害事故について、解説します。

 

法的構成

患者が病院側の責任を追求する場合の法的構成しては、交通事故等の人身障害と同様に不法行為(民法709条)に基づく構成が考えられます。

ただ、医療事故の場合、患者と病院との間に、診療契約(医療契約)が締結されていることが前提となります。したがって、診療契約の債務不履行(民法415条)に基づく構成も考えられます。

現在では、この不法行為と債務不履行の選択的併合という形態で損害賠償請求をするケースが多くなっています。

不法行為の場合、患者が病院側の「故意・過失」を主張・立証することになり、債務不履行の場合、病院側の「善管注意義務違反」を主張・立証することになります。

もっとも、現在の裁判実務では、過失イコール注意義務違反と考えられているため、いずれの構成でも審理のあり方について、差異はありません。

すなわち、被害者側は、医師の注意義務を特定して主張し、その義務違反を証明することが求められています。

 

 

責任追及の相手方

診療契約の当事者は、個人開業医の場合、医師個人が責任を追求する相手方となります。

医療法人の場合は、医療法人が相手方となります。

 

 

医師の注意義務のレベル

病院側は、上記のとおり、善管注意義務を負いますが、問題はそのレベルがどの程度かです。

この点について、裁判例は、「医師の注意義務の基準となるべきものは、診療当時のいわゆる臨床医学の実践における医療水準である」と判示しています(医療水準論・最判昭57.3.30)。

そして、この「診療当時の臨床医学の実践における医療水準」の意味については、全国一律に決せられるというものではなく、当該医療機関の性格や担当医師の専門分野等を考慮して医療水準を決せられると考えられています。

わかりやすく言うと、医療水準は、問題となった医療行為をした医師と同じ立場の通常の医師のレベルということになります。

すなわち、新しい治療法等特定の治療についての医学的知見は、通常、①先進的研究機関を有する大学病院、②総合病院、③小規模病院、④一般開業医の診療所という順番で普及していきます。したがって、新しい医学的知見が加害者である医療機関と同じレベルの医療機関に普及している場合、医師の注意義務になるということです。

【参考判例(姫路日赤病院未熟児網膜症事件 最判平7.6.9)】

「当該疾病の専門的研究者の間でその有効性と安全性が是認された新規の治療法が普及するには一定の時間を要し、医療機関の性格、その所在する地域の医療環境の特性、医師の専門分野等によってその普及に要する時間に差異があり、その知見の普及に要する時間と実施のための技術・設備等の普及に要する時間との間にも差異があるのが通例であり、また、当事者もこのような事情を前提にして診療契約の締結に至るのである。

したがって、ある新規の治療法の存在を前提にして検査・診断・治療等に当たることが診療契約に基づき医療機関に要求される医療水準であるかどうかを決するについては、当該医療機関の性格、所在地域の医療環境の特性等の諸般の事情を考慮すべきであり、右の事情を捨象して、すべての医療機関について診療契約に基づき要求される医療水準を一律に解するのは相当でない。

そして、新規の治療法に関する知見が当該医療機関と類似の特性を備えた医療機関に相当程度普及しており、当該医療機関において右知見を有することを期待することが相当と認められる場合には、特段の事情が存しない限り、右知見は右医療機関にとっての医療水準であるというべきである。」

 

 

過失の一応の推定

医療事故は、病院側に情報・証拠が偏っており、患者側が病院がの注意義務違反を主張・立証するのは難しい状況です。

そこで、患者側の立証負担の軽減を図る手法として、「過失の一応の推定」があります。

裁判例として、心臓性脚気の治療のためのビタミン剤の皮下注射の跡が化膿した事例について、医師の診療行為における過失として、①注射液が不良であったか(甲事実)、②注射器の消毒が不完全であったか(乙事実)のいずれかによるという原審判決の認定を肯定したものがあります(心臓性脚気注射事件 最判昭32.5.10)。

本来、損害賠償を請求する者は、相手方の防御のために事実を特定して主張しなければなりません。

したがって、裁判所の事実認定において、選択的認定は一般的には許容されません。

しかし、過失の一応の推定は、これを例外的に許容してよいという考え方です。

医療事故の損害賠償のポイントについて

①損害賠償の内容

賠償請求の内容としては、大別して、積極損害と消極損害とに分けられます。

くわしくは、「賠償金の計算方法」をご覧ください。

 

②消滅時効の問題

損害賠償請求においては、時効に注意が必要です。

くわしくは、「損害賠償の消滅時効」をご覧ください。

 

過失相殺

医療事故の場合、被害者に過失があると、加害者から過失相殺の主張がなされることがあり、それが認められると、過失の割合に応じて損害額が減額されます。

くわしくは、「過失割合と過失相殺」をご覧ください。

上記のような医療ミス(医療事故)でお困りでしたら、福岡にあります当事務所にお気軽にご相談ください。